金融審議会「市場構造専門グループ」(第4回) 議事録
1.日時:令和元年10月23日(水)16時00分~18時00分
2.場所:中央合同庁舎第7号館13階 金融庁共用第一特別会議室
【神田座長】
それでは、定刻になりましたので、金融審議会「市場構造専門グループ」第4回目の会合を開催させていただきます。皆様方にはいつも大変お忙しいところお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。
まず、事務局から、本日、参考人としてご参加いただく方々のご紹介をお願いいたします。
【池田監理官】
それでは、ご紹介させていただきます。
まず、京都大学より、川北教授でございます。
それから、早稲田大学より、黒沼教授でございます。
最後に、西村あさひ法律事務所より、武井パートナーでございます。
以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。お忙しいところ、本日はありがとうございます。よろしくお願いいたします。
それでは、早速ですが、議事に入ります。
本日は、今ご紹介いただきました3名の方々から、市場構造のあり方に関してご意見をいただくことを予定しております。
順番ですけれども、まず、京都大学の川北先生、早稲田大学の黒沼先生、そして西村あさひ法律事務所の武井弁護士からお話をいただき、その後、質疑応答の時間とさせていただきます。
質疑応答が終わりましたら、その後、オブザーバーとしてご参加の経済産業省の呉村産業資金課長から、経産省作成の資料についてご説明をいただく予定です。
本日の議事は、以上のように進めさせていただきます。
それでは、早速ですが、まず、京都大学の川北先生からよろしくお願いいたします。
【川北参考人】
改めまして、京都大学の川北です。本日は、お手元に配付させていただいている資料に基づきましてお話をする予定です。
今、物書きをやっている関係で、そこから寄せ集めた資料ですので、余計なことも入っていると思いますから、適当に端折って話をさせていただきます。
今日の主なテーマはPBRということで、その観点からマーケットを見てみたいと思います。2ページ目にアジェンダがありますけれども、最初に、本日の説明の前提を多少申し上げます。次の2番目がPBRのことなので、ここを主にお話させていただいて、3番目、これは去年の7月ですけれども、実は東証と一緒に長期投資のためのインデックスをつくるということをやっていまして、その状況について簡単に触れたいと思います。
資料の4ページ目ですけれども、ここは長期投資の優位性を書いています。短期に比べてプラスサムになるのではないか。その背景としては、経済成長ということを前提にしているということです。
次の5ページをあけていただくと、企業の利益、これは営業利益ですけれども、それと株価の状況に関して、長期的な図表を載せています。
これによると、バブルのころ、80年代の後半は相当乖離しているのですけれども、長期的、全体的に見れば、利益に伴って、株価が、ここではTOPIXですけれども、上昇してきているという状況が読み取れる。
投資家はある程度、長期的には合理的に行動しているんじゃないかというふうに考えています。
6ページ目のグラフですけれども、これは低成長に伴って、企業間に格差が生じているということを示しています。
成長率、これは青い線なんですけれども、これが低くなって下に来ると、赤い線、これは営業利益ベースでのROAの各年度における上場企業のばらつき具合で、これは変動率で見ていますけれども、これが拡大するということです。変動率は逆メモリをとっているので、下にいくと拡大するという状況が見てとれるということで、今後とも日本の経済がそんなに急速に成長するという状況になければ、企業間の格差というのは拡大するのではないかという意味で掲載した図です。
次の7ページは、その次の8ページとあわせて見ていただきたいのですけれども、長期投資という観点で見ると、日本の株価が、特にリーマンショック以降、欧米に比べて劣後しているということです。
更に、TOPIXと日経225、これをどう評価するのかいろいろあると思うんですけれども、日経225に比べるとTOPIXが多少劣後しているという状況が読み取れますということで、これらの株価の状況を多少なりとも埋めるような手立てが必要ではないかと考えている次第です。
以上が前提になりまして、PBRのことを説明したいと思います。10ページ目です。
これは有名なEVAモデルというか、その元祖である残余利益モデルというものに基づいた企業価値、V0の評価式になっています。
「p-r」について、pが上に書いていますように投下資本当たりの利益率、rが資本コストとなっています。ですから、企業が資本コストをいくら上回って利益を上げているのかを示しています。
これを用い、PBR=1+(p-r)/(r-g)と表されますので、pのほうが大きければ、すなわち企業が資本コストを上回って儲けていれば、PBRは1より大きくなるし、逆に資本コストのほうが大きければ、PBRは1よりも小さくなると、そういう状況を理論的に示した式だということです。
ちなみに「r-g」なんですけれども、成長率、つまりgが大きくなれば分母が小さくなるわけなので、もしPBRが1よりも小さい状況において、企業が利益を高めようということで成長を目指せば、逆にPBRがますます1よりも小さくなってしまうと、そういう状況を示しています。
これは前提として負債とか税がない状況を書いていますけれども、負債とか税があっても、基本的には同様の式が成り立つということです。
11ページ目ですけれども、PBRから見た企業の評価ということで、これは2つのコードが資本コストに注目しているということです。正しい資本コストを計算するというのはなかなか大変なことなので、その代替手段としてPBRが1よりも大きいか小さいかを見ることで、企業が資本コスト割れの経営をしているのか、もしくはそうじゃないのか、そしてそれを投資家がどのように評価しているのかに関して、企業として1つの基準として用いることができるんじゃないかということを、ここに書いています。
もちろん一番下にありますように、PBRが1倍割れというのはいろいろな要因がありまして、一概に資本コストとの関係だけではないのですけれども、ただ、1つの注意信号として企業としては捉える必要性があるんじゃないのかなと考えています。
12ページ目は現実のPBRです。データベース会社の資料によりますと、日本のPBRは1.25倍ということになっています。かつ、これは9月末ですけれども、東証一部上場会社に関して1倍割れの企業の割合を調べてみますと50.1%。ですから、半分強が1倍を割れている。日本の市場の状況がよくわかると思います。
これをドイツとアメリカと比較すればどうなのか、次の13ページに表を掲載しています。ドイツとの比較で言いますと、PERはほとんど日本と変わらないんですけれども、配当利回り、PBRは日本のほうが低い、つまり投資家からの評価が低いという状況になっていることがわかります。配当性向が低くて、内部留保をたくさんしている、これがPBRに影響しているんじゃないかなと推測できます。
アメリカについては、配当利回りは高くないんですけれども、PER、PBRの水準というのは高いということで、これはアメリカの利益の成長率とか投下資本当たりの利益率の高さが良い影響を及ぼしているんじゃないかなと考えられます。
次の14ページでは、日本のマーケットにおいて、PBR1倍割れの企業の割合が、時価総額別に見てどういうふうな割合になっているのかをグラフ化しています。
横軸左が時価総額の一番大きい企業、右側が一番小さい企業、全体2,000社ぐらいあったのを100個に等分割して、それぞれの分位に入れています。ですから、20社ずつぐらい入っているということです。
これを見ていただくと、大企業ほどPBRが高いということがわかります。PBR1倍割れの企業が少ないということで、ガバナンスなり利益のコントロールなり、それが効いているんだということが読み取れるわけです。
ですが、大企業でもPBR1倍割れ企業はゼロではない。時価総額が小さくなれば、このPBR1倍割れの状況にある企業が増えていく。図の横にちょっと書いていますけれども、時価総額900億円以下の区分では1倍割れが半数前後になって、300億円未満では6割が1倍を割れると、そういう状況になっているということです。
15ページ以降は、リーマンショック以降11年間の日本企業の状況について見ているんですけれども、PBRの関係で特に見ていただきたいのは18ページです。
これはリーマンショック以降の11年間において、投資収益率の高かった企業を抜粋しています。08年8月末、リーマンショック直前の時価総額が1兆円以上の企業で、かつ、この11年間、年平均の配当込み投資収益率が10%を超えている企業です。
これを見ていただくと13社ありますが、1つ言えることは、当時の時価総額としては20位以下の企業達だということです。中堅どころだと言っていいと思います。もう1点は、当時のPBRが1倍を超えている。そして、現在のPBRも1倍を超えているということで、いわゆる「バリュー株投資」としてはPBRの高い企業への投資というのは望ましくないと言われているんですけれども、必ずしもそういう事実はここでは見られないということです。
次の19ページですけれども、これは2000年3月末から各年度末における東証1部上場企業のPBRを集計し、その後、1年後、2年後、5年後までのこの上場企業の年度末PBRの相関係数を計算したものです。これによると、リーマンショック前後から相関の状況が変わってきまして、それ以降現時点に至るまで、相関係数が高くなってきていることが見てとれます。1年後だけじゃなくて、4年後、5年後も相関係数が高い。
ということは、PBRの観点から良い企業は引き続き良い、未来においても良い。悪い企業は、未来においても悪い、そういう傾向が強く出ているということです。この背景としては、日本の経済の構造が変わって、リーマンショック以降、アベノミクスもありまして、そんなに水準は高くないけれども経済が成長しているということと、それから、リーマンショックの前後で企業の淘汰が終わり、事業の改善に邁進する企業は邁進してきている、そういうことを反映しているんじゃないかなと思います。
次の20ページは、そういうPBRの高い企業、低い企業にそれぞれ投資をしたとして、5年間の投資収益率を見たものです。
やはり前の19ページと同じで、PBRの高い企業に投資をすることが、投資収益率を高める。逆にPBRの低い企業に投資をすると、投資収益率がそんなに上がらない。これが足元の状況だということが見てとれると思います。
以上がPBRの件でして、最後に、長期投資向けの株価指数の考え方に関して、多少お話を申し上げて終わりたいと思います。
株価指数に関しては、私は2つの役割があると思っています。22ページにありますように、上場企業全体の株価動向を表現するということで、これがそもそものTOPIXの出発点だったということ。1969年、TOPIXの公表が開始されたわけですけれども、当時は、株価指数に投資をするということや、インデックス運用をするといった意識はありませんでした。私が大学に入った頃ですけれども、卒業するまでに株式の投資理論を学ぼうと思ったのですけれども、そういう本というのはほとんど無かった。訳本に近いものがどこかの書店に並んでいるという状況だったと思います。当然デリバティブもなかったわけで、株価の動向を表現し、それを景気動向指数、先行系列ですけれども、それとして採用しようということで、TOPIXの役割が当時あったと思います。
ところが現在、デリバティブができ、投資理論も活用されるようになり、株式投資のベンチマークとして用いられ、インデックス運用されているという状況です。ということで、投資の対象として株価指数を見れば、現状、上場廃止へのハードルが高いということ、それから、先ほど申し上げましたように、企業の半数がPBRの1倍割れということで、そういう企業が組み込まれている指数に投資をするということが良いのか悪いのか。景気判断の材料としてはともかくとして、投資の対象としては、特に長期の投資としてはどうなのかなというふうに考えている次第です。
ということで、次のページにありますように、去年の7月、東証さんの協力も得て、新しい長期投資のための株価指数を研究開発しようと、現在プロジェクトを進めている状況です。最終的には、100社とか200社とかそういう企業数になって、TOPIXの2,000社よりもはるかに小さな規模の指数になると思っています。
次の最終ページには、どういう観点で企業を選んでいるのかを若干書いていますけれども、定量的には流動性の観点も入れながら、売上高が成長するのかどうか、利益率がきちんとしているのかどうか、それから、財務の構造がしっかりしているかどうか。その他の要因も入れつつ定量分析を行い、それに多少、味つけ程度と書かせていただきましたけれども、定性的な要素を入れて、指数を作ろうとしているということです。
それから、長期投資ですので、年に1回、当然見直さないと行けわけですけれども、売買に伴うコストを抑える意味もあり、入れかえの企業数は抑制しようというふうに考えている次第です。
以上で、私の報告を終わらせていただきます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、続きまして、早稲田大学の黒沼先生、よろしくお願いいたします。
【黒沼参考人】
早稲田大学の黒沼です。
私の資料としては、1枚紙のレジュメを配付していただいていますけれども、これは1週間前に提出したもので、まだ当時は自分の考えが固まっていなかったものですから、今日の報告は、大体項目はこれに沿ってお話ししますけれども、全体として聞いていただければと思います。
現行の市場区分については、各市場区分のコンセプトが曖昧であり、多くの当事者にとって利便性が低いということが、市場関係者の多数意見のようであります。しかし、コンセプトが曖昧だから改革せよというだけでは、改革のために不利益を被る可能性がある者は納得しないでしょう。また、当事者にとって利便性が低いといっても、東証一部全体をパッシブ投資の運用対象として選択しているのも、投資者であります。
市場区分は、流動性、時価総額、事業年数、その他の質的基準等の上場基準、上場廃止基準、コーポレートガバナンス・コードを含む企業行動規範の適用の有無といった、上場基準と上場管理のあり方によって定まります。明確なコンセプトというのは、今言ったような上場基準等の内容にほかなりません。ある市場に上場している企業は、その市場の上場基準等を充足することで、投資家から一定の評判を得ることができます。流通市場を得るということ以外の上場の意義も、そこに見出されます。市場のコンセプトがブレると、上場企業はそのような評判を獲得することができません。このように、明確なコンセプトに基づいた市場設計の必要性は、投資者というよりも上場企業の需要から正当化されるように思われます。
東証による論点整理では、現在の市場第一部へのステップアップ基準は、上場企業の持続的な企業価値の向上の動機づけの点で、期待される役割を十分に果たせていないと分析されています。しかし、第1に上場基準は市場のコンセプトを示す重要な要素なのですから、明確なコンセプトに基づいた制度設計が必要であるということが示せれば、他市場からの移行基準、新規上場基準、退出基準を共通化するということは正当化できると考えられます。
第2に、ほんとうに持続的な企業価値向上を動機づけるには、エントリー市場において上場基準よりも退出基準を引き上げて、企業価値が向上しない企業を上場廃止に追い込むくらいのことが必要ですが、それは現実的ではありません。
第3に、移行基準を満たしても、ステップアップ先の市場に移行するかどうかは当該企業の自由です。市場のコンセプトを明確にすれば、例えば、機関投資家との対話が企業価値向上のために重要だと思わない企業は、ステップアップ先に移行しないということが起きても不思議ではありません。このように、上場基準の設定で、上場後の持続的な企業価値の向上を動機づけることはできないし、またすべきでもないと考えます。
それでは、市場を区分するとして、そのコンセプトはどうあるべきか。これについては、全くの白紙から絵を描くことは難しいので、既存の市場区分を参考に考えてみたいと思います。東証の論点整理では、上場会社の成長段階、投資家の層という2つの軸で市場区分を設けることが適当であるとしています。しかし、新興企業向けのエントリー市場を成長段階にある企業とすることは良いですが、そこから成長した企業は、ステップアップ先の市場に移行するという想定で、市場を区分することは適当でないと考えます。既に述べましたように、成長した企業に移行する義務はありませんし、成長した企業が全て移行すると、ステップアップ先の企業数は増加し続け、現在と同じ状況を再び引き起こしてしまうからです。
他方、現在のマザーズの上場基準は、必ずしも将来の成長が見込まれるとは言えないような企業も上場できる水準のものであると思いますが、上場前のベンチャー企業への投資層が薄い我が国において、成長見込みのある企業に資金を供給する場としての一定の役割を果たしているという評価が一般的だと思います。だから、上場後に成長しない企業も多いわけであり、現実問題として、この2つの面は切り離せないと思います。
そうだとすると、いわゆるB市場は、高い成長可能性を有する企業というよりは、事業モデルの確定していない、業績変動の大きい企業が上場する市場という位置づけがふさわしいのではないかと考えます。
そのような企業には新興企業が多いでしょうが、業績や企業規模が拡大しても、ベンチャー企業としての事業の性質が変わらない企業は、B市場にとどまって成長することができます。
また、B市場はリスクをとる投資家の投資対象としてふさわしいと考えられますから、B市場への機関投資家参入促進のための方策の検討が重要であり、特にIPO時に機関投資家が応募しやすい環境を整備すべきだと考えます。
他方で、マザーズの上場要件を維持する以上、B市場にはさまざまな企業が上場しているということになり、現実問題として、機関投資家の投資を望めないかもしれません。
この点は、後述のように市場区分から離れ、投資対象としての機能性の観点から指数を組成すれば、当該指数にはB市場銘柄も含まれるでしょうから、B市場上場企業の一部を機関投資家の投資対象とすることができるのではないかと思います。
B市場と対置されるのがA市場であるとすれば、そのコンセプトは事業モデルが確定しており、ある程度の業績を出せる安定経営企業が上場する市場ということになるでしょう。
業績変動が少ないということに着目すれば、例えば、四半期報告を要求しなくてもよいかもしれません。もっとも業績の変動が少ないことを上場要件に書き込むことは難しいので、四半期報告の適用除外の仕方を工夫する必要があるのではないかと思います。
ガバナンス体制については、コーポレートガバナンス・コードを適用しないということも考えられます。そうすれば、ガバナンス・コードの適用を受けたくない企業は、B市場に移ってくることができます。ガバナンス・コードや機関投資家の議決権行使基準の要求水準が高まりつつあるということ、英語開示が進展しているということを考慮すると、国際的な投資を行う機関投資家の投資対象となる企業が上場する市場というC市場のコンセプトは十分に理解できるものです。
この点からしますと、C市場の上場要件としては、ガバナンス・コードの遵守や英語開示というだけでなく、例えば独立社外取締役3分の1以上とか、買収防衛策の不採用等、機関投資家の多くが議決権行使基準において要求する事項を取り入れるということも考えられます。
指数の組成についてですが、東証の整理によると、投資対象としての機能性と市場代表性を備えた指数が存在しないことが課題とされています。
この点は、上で述べたように、各市場のコンセプトを明確にすれば、各市場の指数が当該市場の市場代表性を獲得することになります。市場区分を重視して投資を行う者にとって、そのような指数は有用なものになるはずです。
しかし、市場区分はあくまでも上場基準等で区分けされたものなので、投資対象としての機能性を同時に備えることは難しいと考えられます。この点については、多くの論者と同様に、私も投資対象としての機能性を備えた指数は、市場区分と切り離して検討すべきであると思います。
その際、投資者のニーズを踏まえることは当然ですが、私自身、あるべき指数についての定見を持ち合わせているわけではありません。
いずれにせよ、投資対象としての機能性を有する市場は、市場区分を超えて、一定の基準で選び出されたものになるはずであり、指数の組成を証券取引所が行う必然性もないと考えられます。
以上、まとめますと、市場区分のコンセプトを明確にすることは重要ですが、市場区分をエントリー市場とステップアップ先の市場に分けることは、その必要がなく、また分けてもうまくいかないのではないかと考えます。
ステップアップという考え方をやめることにより、エントリー市場は緩和された上場基準、ステップアップ先市場は、厳格な上場基準といった硬直的な発想を避けることができ、各市場にふさわしい合目的的な上場基準等を設定することが可能になるでしょう。
また、投資対象としての機能性を有する市場は、市場区分と切り離して定めるべきだと考えます。
簡単ですけれども、私からは以上です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、続きまして、弁護士の武井先生、よろしくお願いします。
【武井参考人】
弁護士の武井でございます。よろしくお願いいたします。
私のほうからは、お手元に「資料3」というペーパーがあるかと思いますが、そちらに沿ってお話をさせていただきます。
まず「一 C市場について」で、ある意味一番関心が今集まっているC市場についてです。
既にいろいろな方がこれまでにもご指摘されているとおり、日本では上場という概念が、単に資本市場へのアクセスということを超えて、社会的機能・社会的意義が強くリンクしている状況にあります。
その上で、今回、C市場に関して、現在の案としては「国際的に投資を行う機関投資家をはじめ、広範な投資者の投資対象となる要件を備えた企業」というのが市場のコンセプトになっているわけで、これはこれで私はいいと思っています。ただ、他方でいろいろなヒアリングに私も同席させていただいた中で、機関投資家の方について、投資のタイプ・手法というのがかなり様々であり、そして機関投資家のかたの意見もかなり様々だということを実感しております。従って、「これが機関投資家の意見である」という一致したものはなかなか簡単には見いだせません。だからこそ投資スタイル・投資戦略が様々な機関投資家の方が市場の中にはいらっしゃるのだと思いますが。中には、市場区分を変更すること自体による安定性・予見可能性等への悪影響を懸念するといった、脚注1のように述べている方もいらっしゃるわけです。
いずれにしても、一部の機関投資家の方が持っているイメージからの「こうあるべきだ」という強い意見だけに依拠して、市場構造、そしてそれと現在リンクしておりますTOPIXについて制度設計ができるような、簡単な話ではないのではないかと思います。そういう意味では、投資家、上場企業・企業社会、国民社会の全体から幅広くコンセンサスが得られる部分をどうやって切り取るか。見直しに関する社会的意義が示せることが重要ではないかと思っています。
その観点から、前々回の会合で投資顧問業協会の大場さんもおっしゃっていましたけれども、上場企業の中長期的かつ持続的な成長を促して、日本国民の健全な資産形成・厚生増大に資するという、一番大きなマクロの要請に沿った見直しなのかどうかが重要になるのだと思います。
そこで、C市場の在り方ということですけれども、C市場を新たに創るのか、それとも新TOPIXというインデックスで対応するかというアイデアとかも出ているかと思いますが、C市場を創設しようと新TOPIXで分けようと、そのどちらも含めて以下では「C市場」と言及させていただきます。
そこでまず「二 C市場の定量的基準について」でございます。この点は、池尾先生も何度かおっしゃっていますとおり、時価総額の話がこれまでいろいろ報じられましたが、時価総額だけの議論ではないということです。時価総額は大変重要な基準であることは間違いないけれども、それだけではない。流動性基準なんかについても、市場特性を踏まえた上で見直していくことについては相応の意義があるのだと思います。
その中で、一連の議論でも出ていますけれども、上場企業が上場していることの意義をちゃんと踏まえた成長をすべきだという議論、それはそのとおりですし、他方で、前回の会合などでも言われていますけれども、上場企業側がどこかいわれもなく不利益を受けたというふうに感じるというのも社会的によくありません。そういった中でどういった形でバランスをとって、この定量的基準を考えていくかということが論点になっていくのだと思います。
続きまして、資料3の2ページ目にまいりまして、「三 C市場におけるガバナンス要素等の定性的基準について」でございます。
定性的基準、例えばガバナンス要素などですけれども、この点につきましては、私は、「その要素がないとおよそその企業はC市場に入ってはいけない」という形での要素・基準の導入に関して、極めて慎重に考えるべきではないかと思っております。そもそも、「その要素がないとおよそその企業はC市場に入ってはいけない」という要素として使うかどうかということ自体が論点かと思いますけれども、多様な投資家だけでなく、上場企業、国民社会の全てから見てきちんとコンセンサスが得られるかどうかを慎重に考えるべきではないかと思っています。
この点に関して何点か敷衍いたします。第一に、定量的要素以外の定性的要素について、C市場という投資対象を限定する、絞り込む要素として活用することに対しては、機関投資家の方の中でもさまざまな意見をお持ちの方がいらっしゃるということです。1つめが、定性的要素で投資対象がいろいろ変わるのは困るという意見。あと(2)にありますとおり、グルーピングからの出入りが定性的な要素・理由で生じると、結局、安いところで売らされて高いところで買うという、投資行動的にはマイナスになってしまうという意見を述べる方もいらっしゃいます。あと(3)にありますとおり、これは結構よくある意見だと思いますけれども、やはり市場全体を幅広くグルーピングしてほしいという意見です。数百銘柄とかそういったのでは狭いというご意見です。機関投資家としての説明責任に照らしても、幅広く投資できるグルーピングがありがたいということをおっしゃる方もいらっしゃるということです。このように、投資家の中にもいろいろな意見があるのだということが1番目でございます。
第二に、ガバナンス・コードについて、強制complyに至る事態を避けるべきだと私は思っております。もともとガバナンス・コード自体は「comply or explain」でして、そうしたガバナンス要素をC市場に入るかどうかという基準としてしまうことによって、事実上の強制complyとなってしまうのは、こうしたガバナンス・コードの趣旨からしていかがなものかと思います。
次の(2)に書いてございますが、現在、東証一部の2,600社超に、現在78原則がフル適用されているわけですが、欧州では、ガバナンス・コードのフル適用の対象は500社ぐらいです。今回、C市場で現在の2,600社からある程度数が減ったとしても、その減った数においてですら「comply or explain」というのが欧米の基準でして、それを日本で強制complyとするのは行き過ぎだと思います。
あと(3)に書いてございますが、強制complyの議論をするのであれば、それはあくまで会社法という法改正の場での議論で行うべきであって、今回の市場構造の変更という場で議論するのはよくないのではないかということです。
(4)として具体例を書いてございます。最初に、「社外取締役が3分の1以上いないと、およそC市場に入ってはいけない」という定性的基準にはすべきでないと考えます。これにはいろいろな理由がありますけれども、現実問題として、監査役会設置会社という会社形態は、現在上場会社の約7割が利用しているわけですけれども、監査役会設置会社で社外取締役3分の1ということになりますと、これはある意味、法定必置の社外監査役や非業務執行役員を加えますと、取締役会の過半数が社外役員・非業務執行役員が占めることを強制することになります。しかし、監査役会設置会社の取締役会なるものは、会社法上、マネジメントボード、すなわち業務執行の意思決定機関という性格も兼ねているわけでして、そのマネジメントボードのところに非業務執行役員とか社外役員が過半数ということは合理的な経営機構ではないということになります。こうしたことから、現在上場企業の7割を占めている監査役会設置会社が、およそC市場に入りにくくなるといったことは行うべきではないと考えます。
次の具体例として、「支配株主がいたり、買収防衛策があったりする企業は、およそC市場に入ってはいけない」ということもやるべきでないと考えます。ちなみに買収防衛策としては最も強力なものとして複数議決権株式があります。複数議決権株式は日本ではまだほとんどありませんが、欧米では、特にいわゆるGAFA的な上場企業等が採用しております。こういった複数議決権株式といったものが、今後、およそC市場に入ってはいけないと断じてよいのか。支配株主とか買収防衛策を否定するということは、複数議決権株についてもC市場には入れない全面否定になると思いますが、およそC市場に入っちゃいけないということで、特に国民の広い投資対象としてのC市場、特にインデックスの投資が多い中での投資対象からおよそ排除することになることが、果たして国民の資産形成に資すると言えるのかという疑問があります。投資家のかたの中には、こういった複数議決権株式でも収益が良ければ、逆にインデックスに入ってくれていたほうがいろいろな投資の説明責任を果たしやすいとおっしゃる方さえもいらっしゃいます。人為的に、およそC市場に入ってはいけないということをやるべきではないと思います。
以上いろいろと申し上げましたが、今回の見直しにおいて重要なこととして、今回の新たなC市場の大きな特色は、機関投資家の方との建設的な対話の真の対象になるという性格がより明確に出ることだと思っています。社外取締役や支配株主・買収防衛策などといったイシューについては、現在、CGコードのほか、いろいろな箇所で施策が現に行われております。そして、今回、C市場がより建設的な対話の真の対象という性格づけになることで、そういったガバナンスをめぐる個別イシューにも対処できるわけで、「およそC市場から外す」ということで行うべきではないと私は考えます。これが3ページ目の箇所の意見でございます。
関連して3ページから4ページにかけてですが、投資家側の多様な諸要請については、投資家さんの側でいろいろなインデックスを自主的につくればよいし使えばよいのではないか、そうした色々な民間努力が可能だということです。今回の市場構造改革とか、またTOPIXといったマクロのレベルで一刀両断にやることには、いろいろな限界や難点があります。投資家さん側のいろいろな諸要請、ミクロ的ないろいろな要請は、独自のインデックス開発など、投資家側で対応していける面があるのだと思います。
次に4ページ目の4番目です。定性的基準についてです。ガバナンス要素を、他のいろいろな定量要素との組み合わせの中で、一種の加点要素として用いることはあり得るのだと思っています。たとえば機関投資家との建設的対話に真摯に取り組んでいるとか。どういうふうに加点要素の制度設計をするかは重要になるかと思いますが、およそC市場が入っちゃいけないという形での要素としては使うべきでないと思っております。
続きまして、4ページ目の真ん中の「四 その他の各論的事項」でございます。論点はここに書きました点以外にもいろいろありますが、例えば、C市場に入るか否か、新TOPIXで対応する場合も含めて、上場企業側の意思を経由するということについての論点です。上場企業側の意思を経由するという意見が多いかと思いますけれども、それは新TOPIXであってもそうするということについての論点が1つ目でございます。
2つ目に、その他の各種是正です。これにはいろんな各論がございますが、たとえば上場ルートの違いによって時価総額40億で市場一部に入れるなど、これはどうかなという不整合の修正です。あるいは参加と退出の非対称性、これは一定の基準が出るときには、その半分まで落ちないと退出しないとか、そういった基準の整合性なども見直しの論点だと思っております。
3番目、これも大きな論点でございまして、退出後の受け皿市場のあり方。これについては、後の「五」の方で申し上げます。
4番目、市場二部とJASDAQの市場コンセプトの位置づけの曖昧さ・重複の解消。これを行うことも大変意義があると思っています。
最後に4ページの「五 イノベーションを促進し国際競争力を強化する市場構造」についてです。今回の市場構造の見直しで一つ大きな柱になるのは、イノベーションを促進する、国際競争力を強化する市場構造を改めて提示するということ。これが一つの大きなメッセージになると思っております。皆さんよくおっしゃっていますけれども、アメリカや新興国に負けないイノベーション促進・産業促進のため、「赤字だと上場困難」という現状から、「質のよい赤字は上場を認める」という世界をどうつくるのか。このことに関して正面から切り込むことです。昨今の経済成長戦略の中でもイノベーションの促進ということがきわめて重要であるだけに、前面に出してやっていくべき事項ではないかと思っています。
以下に各論を幾つか書いております。1つめが、上場時の配分ルールの見直し。あと、親引けルールの見直し。こういった点は、ある程度手をつけざるを得ないのだと思います。
2番目が、機関投資家、プロ投資家、またコーポレートベンチャーキャピタル、それらに準じる方々による目利きとどうやってリンクづけるかという論点です。たとえば「質のよい赤字」と機関投資家との目利きとをどうやってリンクさせるか。上場時にある程度の事前審査がありますが、上場したあとの事後審査をどうつくるかということです。本来は、そういった質はプロの投資家の方がある程度見ているという世界があればより安心できるのですが、今現在の日本の場合、アンカー機関投資家の非連続問題が結構深刻になっています。そうした中で、質のいい赤字上場を認めるに当たって、ほんとうにその企業が上場にふさわしい企業なのかどうか、どういった形で上場を認めれば良いかという論点です。
赤字でも、売上基準等がある程度信頼がおける類型のものもあれば、それ以外のなかなか売上さえも立たないというものもいろいろありますので、そういった類型に対応できるようどういった基準をつくるか。いろいろ多様な基準をつくっていかなきゃいけないのだろうと思います。
なお、4ページの注のところです。日本の現行のマザーズへの上場基準自体は基本的に維持してほしいという意見が強くて、私も維持なのだろうなと思いますけれども、そうした小規模IPOで、日本では上場後に成長が止まることが多くなりがちである、従って伝統的機関投資家の投資対象にならないという悪循環をどう解くかという論点があります。これは日本における10年、20年来の論点・課題なのだと思いますけれども、他方でアメリカでは、「上場廃止=流通市場の喪失」という崖にはなっていない。そこで日本でもさらにもう一歩マクロ的に見て、見直せる点がないかを議論することも重要かと思います。
従ってこの論点は、上場制度の設計だけで完結する話ではなく、その周辺の仕組みについてもリンクして論点が出てくるわけです。脚注7では例として、非上場株式のセカンダリーマーケットの活性化を挙げています。例えば、店頭有価証券規則とか私募規制等、証券会社の非上場株式との関係の話です。あとこれはまだ一部に残っている「上場できるのに上場しない場合は、経営者が買い取らなきゃいけない」などといった、なるべく早い段階で上場させる動機付けの現行実務・取り決め等です。経営者保証に対しては債権法改正等々でいろいろ厳しくなっていますが、エクイティの世界ではまだ残っているわけです。別にこうした実務を禁止すべきという話ではないと思いますが、早く上場させるという世界だけでなく、ある程度育ててから上場していくという世界の面で日本にはまだ欠けているインフラがあるように思います。上場の外側の世界に関しては上場制度の話だけだとなかなか受けとめきれないので、こうした点も議論しておいたほうがよいと思います。
次に(3)ですが、質の良い赤字が、質が悪くなったらどうなるかという話についてですが、企業側にどういった開示を求めるべきか。開示が重要な選択肢だと思いますが、企業の将来性、成長可能性に着目した開示、より充実したリスク情報の開示であったり、中長期の将来計画等の継続的な開示であったり、幾つか選択肢はあるかと思います。
次に5ページの「2」です。今のお話と若干繰り返しになりますけれども、事業が成長可能性を喪失した場合等における適切な退出という論点です。市場評価を加味した基準をどうやって設計するかという話と、あと退出後の受け皿市場の実効的整備ということです。受け皿市場に関しては、脚注8に少し書いていますけれども、いかんせんアメリカではOTC市場がかなり活性化しており、その中には上場廃止した銘柄も入って取引されている。少なくとも「上場廃止=流通市場の喪失」という崖にはなっていません。他方で、そこが崖になっている世界だと、いろいろな意味で設計に限界が出てくるので、そうした崖をどうやってなだらかにするかです。日本には、グリーンシートであったり、株主コミュニティー制度であったりとかいろいろあるわけですけれども、まだ崖にはなっています。
その観点で、受け皿市場における制度設計において、不公正取引規制をどうかけるのかという点もひとつのキーになるかと思います。どういうことかと言いますと、不公正取引規制について、インサイダー規制を含む166条をフルにかけて、企業側が適正開示をしなきゃいけないという世界だけが果たして唯一の解なのか。それとも、現行の金商法の158条の、若干アメリカの10b-5に近いというか、一般的な不公正取引規制をかけることで、何か改善する点がないか。ちなみに158条違反は課徴金の対象になっています。非公開の少数株式に関する流通環境について改善すべき点がないか、不公正取引規制のかけ方などでも、1つ工夫の余地がないかということです。
こうした点を含めて、退出後の受け皿市場の実効的整備の論点も一緒に対処できれば良いなと思います。ただ質のいい赤字の上場は急いだ方が良いかと思うので、こうした論点の議論がすべて整うまで待つべきだという趣旨でもないのですが、こうした論点も幅広く見て整理できればよいと思うところです。
次に5ページの「3」です。もし機関投資家による目利きとうまくリンクづけられるのであれば、この赤字上場の話はB市場に限った話ではなく、ある程度機関投資家にふさわしい市場というC市場でも、質のよい赤字上場を認めてもよいということになるのではないかということでございます。
最後に5ページの「4」です。B市場が中心かと思いますけれども、創業者の求心力が企業価値向上の中心的なドライバーであるベンチャー企業等の場合、議決権種類株式上場についてどういうふうに考えるかという論点です。こういった点なんかも、論点として出てくるかと思います。
私からのお話は以上でございます、ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
また、本日、皆様方のお手元には「資料4」として、「時価総額VS企業価値の考察」という資料が配付されておりますけれども、これは本日ご欠席ですが、小林委員からご提出いただいたものです。
それでは、ここで質疑応答の時間とさせていただきます。ただいまの3名の方々からのご意見を踏まえ、ご質問、ご意見等をお出しいただければありがたく存じます。どなたからでも、どの点についてでも結構です。いかがでしょうか。
井口委員、どうぞ。
【井口委員】
プレゼンどうもありがとうございました。
川北先生のおっしゃった、PBRの観点から見た企業の評価、市場の構造というのは、まさに私もそう思っています。現在、ESGに基づいて、持続的成長をする、いわゆるグッドカンパニーを探しておりまして、その中で様々な議論もあったのですが、結論から言えば、良い会社というのはパフォーマンスも凄く良いということが言えます。ですので、こういう市場構造の議論を通じて、そうした良い企業が少しでも育っていただきたいと思っています。
武井先生へ質問をさせていただきたいと思っております。黒沼先生もおっしゃっていましたが、私も、企業側がC市場、B市場、A市場を選べるようなことになれば良いと思っていまして、そういう意味で、C市場というのは、まさに機関投資家と本当に勝負をするような企業に上場していただきたいなと思っています。
また、まさに武井先生がおっしゃったように、市場には様々な投資家がいるということですが、一方で、企業側に対してはコーポレートガバナンス・コード、これももちろんComply or Explainではありますが、このように行動してくださいと言っている。更に、それと両輪のようにスチュワードシップ・コードというのがあって、機関投資家がそれを可能な限り遵守しようとしている。
そういう状況の中、コーポレートガバナンス・コードを遵守している企業側と、投資家との間で、うまく対話やエンゲージメントをしていくためには、もちろん様々な投資家を排除すべきではないと思うのですが、ある程度、C市場における投資家像というものを絞る必要があると思っているのですが、そのあたりはいかがでしょうか。
【武井参考人】
ありがとうございます。少なくともC市場、もしくは新市場をインデックスで対応する場合を含めてですけれども、そこでは、建設的な対話をしようとする投資家の方が少なくとも含まれてくるのは間違いないと思いますが、それ以外の方もたくさん利用されると思います。パッシブ投資家とか、いろいろな方が入ってくるんじゃないかなと。C市場に投資するのは自由ですので、果たして属性で絞りきれるのかなという気もします。
【井口委員】
先程、武井先生が、C市場の上場基準等を設計するにあたっては、スチュワードシップ・コードを遵守している投資家がどういうことを望んでいるか、ということも含めて考える必要があると仰っていたように思うのですが、いかがでしょうか。
【武井参考人】
そうですね、機関投資家の方のご意見も結構ばらばらではないかと感じています。「私はこういう意見だ」と結構強くおっしゃる方もいますし、場合によっては、「定量的な基準だけでいい」という方もいらっしゃる。どれが機関投資家の意見かといっても、結構分かれていますので、「投資家はこうだ、だからこうしましょう」というふうに、なかなか簡単にはいかないなと感じるということです。
【神田座長】
今のご質問の関連ですね、池尾先生どうぞ。
【池尾委員】
今の点ですけれども、端的に言えば、個人投資家の参画をどう考えるかという問題だと思います。
具体的なデータを持っているわけではありませんが、国際的に見れば、日本の株式市場は個人投資家がダイレクトに参加する割合が非常に高いと思っています。裏返して言うと、市場型間接金融が進んでいないという現実がある。
その中で、C市場について国際的な投資家に投資してもらうようなマーケットというコンセプトを設定しても、そこへ、率直に言えばあまり洗練されていないような個人投資家が大量に参入してくるという事態は十分想定されます。そういう場合に、市場のコンセプトを守るためにも、国際的に投資を行う機関投資家──それを始めとした広範な投資家だから個人投資家も含まれるのかもしれませんけれども、そうした投資家をメインのプレーヤーとして考えるような市場設計上の配慮というのはあり得るか、という論点ではないかと思います。
【神田座長】
だんだん難しくなっていますけれども、井口さん、続きがあれば。
【井口委員】
ありがとうございます。少し長くなりますので、また後でお話いたします。
【神田座長】
わかりました。それでは、高田委員、どうぞ。
【高田委員】
ご説明いただきまして、どうもありがとうございました。
1つ川北先生にお伺いしたい点と、それから、武井先生の方に若干の意見をさせていただければと思います。
まず、川北先生に対してですけれども、ご指摘されるように、PBRの重要性というのは私も実感として非常にわかりますし、ご説明いただく内容も非常に理解できるのですけれども、この市場構造の議論の中で、PBRを上場区分にどういうふうに組み込もうとするご意見なのか。それから、インデックスについては、今もいろいろご研究や実際の試行もされていらっしゃると思いますが、その辺に関するいろんなご議論というのでしょうか、私論みたいなものがございましたら、少しお聞かせいただければなと思いました。
それからもう一つ、武井先生のほうでございますけれども、こちらのペーパーにも書いておられますように、機関投資家の意見もかなりさまざまであるというのは全くそのとおりかなと思います。それから、上場区分については社会的意義が示せる見直しをというのも、これから今後考えていかなきゃいけない論点だろうと思いますし、中長期的な持続性のある成長や、国民の健全な資産形成、厚生を増大するといったようなところは、まさに現在の成長戦略の中でも非常に重要なところだろうと思います。また、最後のところで、イノベーションを促進して国際競争力を強化するための市場構造であるということも、非常に重要と思います。
そういう中で、私自身今回の議論の中でも非常に重要と思ったのは、武井先生がご指摘なさった「崖にならない工夫」というところです。これまでもいろいろなヒアリングをさせていただいたわけでありますけれども、市場区分がちょっと変わるだけで天と地の差だみたいな話もございましたし、まさに崖というような状況の中での議論だったと思います。ですが、そういうような状況ではなくて、先生の言葉で言えば上場の外側というのがありましたけれども、やっぱり様々なフレキシビリティーというんでしょうか、場合によっては上場から外れた場合のさまざまな対応というか、こうしたものもやっぱり今後、一連の議論の中で検討していくべきところではないかなと改めて感じました。それに加えて機関投資家の目利きというんでしょうか、先ほどの議論の重複でもあると思いますけれども、こうしたものも非常に重要なところになってくるわけでありまして、こうした上場区分なりインデックスの議論を通じながらも、そういう担い手とインフラを、どのように日本の中で確立していくかというところがやっぱり重要なのかなと、改めて感じた次第でございます。その辺のところに関しても、今後いろいろメッセージをいただければと思う次第でございます。以上です。
【神田座長】
ありがとうございます。
それでは、川北先生、お願いします。
【川北参考人】
上場区分とPBRの関係ですけれども、今のところ、直接的な関係はとりにくいと思っています。説明のペーパーに書きましたように、PBRが1倍割れといっても、理論的には資本コストとの関係だと思いますが、それ以外の要素というのも多々ありますので、一概にPBRだけで上場区分を決めてしまうとか、上場廃止基準を決めてしまうとか、そういう議論をしているつもりはありません。
ただ、ここで言いたいことは、PBRという1つの視点で見ると、かつ、それが悪い企業は引き続き悪いという傾向からしますと、上場企業としてふさわしくないというか、むしろ投資対象としてふさわしくないと言ったほうがいいと思うんですけれども、そういう企業が一部上場にもたくさん含まれているということですね。
ですから、ここから先は上場区分の見直しともつながるわけですけれども、東証のほうでいろいろなステージをつくるという方法もあるでしょうし、逆に今の区分をそんなに大きく変えずに、投資家の自主的な判断に任せるという方法もある。TOPIXがあるから、TOPIXに投資しているんだという、そういう責任放棄にならないような投資行動をすすめていくという、そういう方法も1つあるのかなと思っています。
それに関連して、研究開発中のインデックスなんですけれども、PBRを今のところ明示的に使っているわけではなくて、流動性を時価総額で区切っているんですけれども、その上で利益の観点、成長性の観点、そういう要素で企業を区分けしつつインデックスをつくろうと思っています。
そういうロジックで展開をしていきますと、結局、日本の場合、そんなに多くの企業が長期投資の対象にはなってこないというのが現実だろうと思っています。そういう意味で、S&P500のような、500社がいいのか、もしくはもうちょっと少ない企業数がいいのか。議論の過程においては、もうちょっと少ないほうがちゃんとした企業が入るという、そういう結論を踏まえて100、もしくは200というふうに書かせていただいている次第です。以上です。
【神田座長】
ありがとうございます。武井さん、感想があればどうぞ。
【武井参考人】
ありがとうございます、おっしゃるとおりだと思います。特に、国民の健全な資産形成や、イノベーションの促進という中で、マザーズとかが象徴的に語られるわけですけれども、必ずしも上場するだけでなく、上場制度の外側の世界にも目を向ける。20年、30年ぐらいずっとそのまま残っている仕組みが幾つかあって、その時はその時で安定均衡で回っていたわけですが、いま、市場構造を見直すに当たって、上場制度の外側についてもいくつか考える要素があります。証券業協会のほうの世界もあると思います。
今が良い悪いという話より、もう1回いろいろ考え直して、何かできないのかなということを考えることは、まさに制度のイノベーションじゃないですけれども、重要かと思います。特にイノベーションの世界でこれだけアメリカ等と差がついているところ、崖をなくす「制度のイノベーション」も重要だと思います。先ほどの成長性の話とかも色々とアジェンダになっていく以上、こういう場でないと上場制度以外のことまで議論できないと思いますので、幾つか論点とした方が良いのではないかと思います。もちろん議論をゆっくりしていくという趣旨ではなく、そういう論点もあるということを申し上げたかった次第です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。それでは、三瓶委員、どうぞ。
【三瓶委員】
ご説明ありがとうございました。
黒沼先生のおっしゃった、エントリーとステップアップという市場の分け方というのは違うと、無理矢理ステップアップさせるのは適当じゃないということは、そうかなと思います。
その際に、緩和的な市場と、より厳格な市場があった場合、緩和的な市場の方では、先ほどおっしゃっていた中でコーポレートガバナンス・コードの適用をしなくていいというご意見がありましたが、その場合、例えば投資家保護という観点からも、Explainすらしなくていいということになり、ガバナンス規制の後退にならないかという点が1つあります。これはいかがでしょうか。
【黒沼参考人】
投資家全体から見ると後退になる可能性はありますけれども、私自身は、コーポレートガバナンス・コードはもっと厳しくしていいと思っています。これについてこられない企業もあるだろうから、その企業は自由にその市場区分から抜ければいいと、そういう考えでございます。
【三瓶委員】
もう1点、これは武井先生への質問ですが、先ほどのインデックスに関して、インデックスというのは民間でいろいろ考えて、様々なものを開発すればいいというお話がありました。ただし、TOPIXについてはマクロレベルでの話だと。TOPIXは、民間レベルで開発するインデックスと何が違うのかというのが、1つの質問です。
もう一つは、少し後のところで、C市場ないし新TOPIXに入るか否かは上場企業側の意思を経由するというお話について。私が知る限りでは、インデックスに関して、上場企業が入りたいとか、入れないでくれとか要望していることは、世界中どこにもないと思うんですね。ここについて、C市場と新TOPIXはほぼ同じ話ですというふうにおっしゃったんだけれども、ここだけは違うんじゃないかなと思いまして、あえて質問させてください。
【武井参考人】
ありがとうございます。まず、前者の点に関しまして、TOPIXにもいろいろな属性・側面がありますが、ここでいっているTOPIXとは、市場一部の範囲と一緒になっているTOPIXのことで、いろいろなベンチマークに現に使用されている特別な機能を果たしているという意味で、マクロだと述べた次第です。そういう意味で、他の民間インデックスとは違った機能を現に果たしているということで申し上げました。
あと後者ですが、これはそういう論点があろうかと思い、四の1に書いた次第でございます。C市場と新インデックスの範囲を一緒にするかどうか議論するうえで論点提示させていただいたということでございます。
【三瓶委員】
ありがとうございます。
あと3点ぐらいよろしいでしょうか。
【神田座長】
どうぞ。
【三瓶委員】
もう一つ、これは武井先生のご意見だったと思いますが、これは私の感想です。投資家の多様性について、かなりばらけているということ。確かにそのとおりです。今、この議論をいろんな投資家に聞けば、さまざまな反応が返ってくるのは、それはそうだと思います。
ただ、そこで注意すべきは、ちょっと言い方は悪いですけれども、ポジショントークです。
例えば、TOPIXの範囲が狭められたとき、方向性としては明らかに時価総額が比較的小さな企業が外れると連想する、そのときに、それは売却されるというふうに連想するのが普通です。そうすると、パフォーマンス上はコストとして跳ね返ってくるというふうに考えるのが通常です。そのときに、TOPIX組入れの小型株に注力している投資家は、何で自分たちがそういうコスト負担をする必要があるんだということにもなるので、明らかにそういう意見はあると思います。一旦それが、先ほどの「崖」となるかもしれない。ただ、その崖が過ぎ去った後、1つの規律となったときには、今度はそれが新たな基準となって、その新たな基準を目標に、それを乗り越えようとするインセンティブになると思うんですね。だから、「崖」の先を考えた場合に、ほんとうにそんなに投資家の意見が様々になるのか。崖の前には、多分さまざまな意見があるんですけれども、崖を越えると違うものが見えてくるのではないかなというのが1つです。
あと、インデックスと市場の区分の違いというのは、先ほど高田委員もご質問されていましたが、例えば、PBR1割れというのは、市場区分とか上場基準にはなり得ないと思うんですね。ただ、インデックスの採用基準にはなってくると思います。これは何が違うかというと、質を見ているということです。上場基準等は質を見ていくというのが非常に難しいと思います。また、そうした基準で市場区分から落ちるときに、頻繁に落ちて、また入るというのが非常に煩雑なのと、違和感があります。特に市場区分から落ちた受け皿がないとなったらどうするんだというのがあります。でも、インデックスの場合には、市場へ上場していることを前提としてインデックスに入るわけですから、インデックスから外されても、受け皿というか市場には残っている。その意味で、インデックスと市場の範囲を切り離せば、両者の位置付けが随分変わってくるため、インデックスにはクオリティー、質を考慮する部分が随分出てくると思うんです。
これが今、川北先生の議論に関わってくると思うのは、時価総額だけではないということ。時価総額よりも、もっと質を見るということではないのかなと思います。そういう意味では、その質を見るための1つの提起としてPBRが出てきましたけれども、これは時価総額じゃないもので企業の質を見ようとしたときの代替の1つの考え方ではないかと思います。
川北先生の資料の13ページに、4つの期間について、日独米の数値が3種類ずつ載っています。この3種類の数値というのをうまく組み合わせると、インプライドベースの株主資本コストというのを算出できます。DDMのコンスタントモデルというのを使って逆算すると算出できますけれども、それで見ると、アメリカが一番資本コストが低くなっていて、日本が一番高いというのが、どの期間をとっても一緒です。
それともう一つ算出できるのは、株主資本配当率、DOEです。この2つを比べたときに、毎年、資本コストのどのぐらいを配当で返しているのかということを計算したときに、アメリカは2019年、18年、17、16とこの4期間について言うと、100%、93%、99%、94%というふうに資本コストをカバーしています。一方で、日本は同じ時期で言うと、40、34、35、32%です。これは単純に配当性向が低いとかいうことではないです。配当性向は、アメリカと日本とあんまり変わらないです。
なので、1つの指標だけではなくて、それらの組み合わせで企業の質を測ることができれば、さらに、その質を上げるためには単純な分母・分子の数字ではなくて、もっとさまざまなもののバランスをとらないと最終的に質を達成できないというものを、何らかうまく導入することができれば、インデックスと市場というのを切り離した時に、インデックスはよりクオリティーを重視したということになっていくのかなと思います。
1個だけ最後にいいですか。この結果、アメリカでどういうことが起こったかということなんですが、1965年から直近まで、ニューヨーク・ストック・エクスチェンジ(NYSE)の指標と、S&P500の指標を比べたとき、ニューヨーク・ストック・エクスチェンジのトータルの時価総額は37.5倍になっていますが、その一方で、S&P500は160倍になっています。これは、インデックスのクオリティーを高くリードするような形で設けることがいかに重要かということを物語っているのではないかと思います。以上です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、松山委員、池尾委員、翁委員の順でお願いします。松山委員、どうぞ。
【松山委員】
武井先生のお考えをお伺いしたいと思います。資料の2ページ目、最後の段落のところでございますけれども、東証一部、二部、約2,600社にコーポレートガバナンス・コード78原則が適用されている。一方で、欧州ではフル適用対象が500社前後だということで、日本ではかなり数が多いというようなご意見が書いてあります。
この件は、昨年末の経団連の座談会でも武井先生がお話しになられ、そのときご出席されていたブラックロック・ジャパンの井澤会長がこのお話を受けて、例えば、500社ぐらいに絞られるなら、各社との対話もかなり深められるというようなお話をされていたと記憶しております。武井先生のお考えとしましては、この市場区分の見直しに合わせて、コーポレートガバナンス・コードのフル適用範囲についても何らかの見直しをしたほうがいいと、それに合わせて市場区分も検討したほうがいいとお考えでしょうか。お願いいたします。
【武井参考人】
ありがとうございます。まず、このメモを書いている中で、数が500社がいいといったインプリケーションは何もございません。それが1点目でございます。もともと東証一部は全てコーポレートガバナンス・コードの適用があるので、建設的な対話の重点先になるというところまでは言えますが、あんまり数字的に、何社が良いというのはなかなか簡単には出てこないかなと。建設的な対話の対象になるという性格がより明確になる、そういうことでございます。
【神田座長】
松山さん、どうぞ。
【松山委員】
そうしますと、例えば2,600社全てに78原則がフル適用されているというのは、ちょっと過度なのかなというところはあるんでしょうか。先ほど黒沼先生からも、今後、コーポレートガバナンス・コードがだんだん厳しくなっていくことに対応できない企業が出てくるんじゃないかというお話がございましたけれども、その辺を踏まえて、いかがでしょうか。
【神田座長】
黒沼先生にもお伺いしてよろしいでしょうか。
【黒沼参考人】
先ほどの繰り返しですけれども、コーポレートガバナンス・コードについてこられないというのはマイナスイメージで言っているのではなくて、ついてこられない企業が出てきても、当然であるということです。ただ、国際的な投資対象となるような企業は、やはり国際的なガバナンスの水準に合わせてもらう必要があると思いますので、現在よりも高い基準がいいのではないかと個人的には考えております。
【松山委員】
ありがとうございました。
【神田座長】
よろしゅうございますか。どうもありがとうございました。
それでは、池尾先生。
【池尾委員】
インデックスの話についてですが、株価指数が現在果たしている役割を考えると、現行のTOPIXは不適切だと言うと、これは言い過ぎでしょうか。
現在、株式指数が果たすべきと期待されている役割、例えば投資対象とされているという観点からすると、現行のTOPIXには限界があるという点。これについては、川北先生のご報告をいただいて、改めて強くそういう認識を持ちました。ですから、TOPIXに替わるような指標の開発を、ぜひ進めていただきたいと思います。その際に、どういうことを考えるべきかについては、先ほど三瓶委員が熱弁されておりましたので、そういうことを踏まえて開発に取り組んでいただきたいと思います。
ただし、以前から申し上げているように、新しい指標を作ったうえで、それがある程度普及するためには、現行のTOPIXを廃止しないと難しいと思っております。とりあえずは、現行のTOPIXからの継続性を一定程度確保しつつ、徐々に今のTOPIXから、新しい、現在の株式指数に求められている役割を果たせるようなインデックスに脱皮していくような、そういう経過措置をとった形での指数の再検討を、市場区分とは別の、しかしながら非常に重要な、優先度の高い課題として、取引所には取り組んでいただければと思います。
それから、市場区分に関して、少なくとも3つの基準があり得ると思います。1つは時価総額ですが、もう一つは、市場なのだから流動性の基準があり得る。3つ目に、定性的な基準が考えられます。
私は、本日ご報告いただいた武井さんの意見と基本的には同じで、これは前回も申し上げたとおり、上場区分の基準としてガバナンスの要素を考慮すべきではありますが、これをどう適用するかについては極めて悩ましいと思います。武井さんの表現を借りると、強制complyのようなことを考えるのは正しくないということを、前回も申し上げたと思います。
そして、その点に関して、黒沼先生は、先ほど、C市場は機関投資家の対象となる企業が上場するというコンセプトがあるのだから、多くの機関投資家が要求していること、例えば取締役会のメンバーのうち、社外取締役3分の1以上といったことを基準として入れるべきだと発言されたと思いますが、それはどこまで強い意見としておっしゃっているのでしょうか。国際的な水準を満たしている必要があるという程度の話としておっしゃっていたのか、そこを確認させていただきたいなと思います。
【黒沼参考人】
国際的な水準を勘案しながら、その基準を決めるべきであるという一般論が私の主たる意見でして、その一例として挙げたものですが、ちょっと表現がまずかったなと思うのは、社外取締役3分の1は、現在はまだ機関投資家の大部分がそういう要求をしているというわけではないと思います。
それから、上場基準についての非常に悩ましい問題は、上場基準を引き上げようとすると、既に上場している企業に当然影響があるので、コンセンサスをとってやっていかなければいけない。他の市場に移れば良いと、少しドラスティックなことを申し上げましたけれども、それによって評判が落ちるということをできるだけ避けるように、余計なショックを与えるようなことがないようにしなければならないとは考えております。
【神田座長】
ありがとうございます。よろしゅうございますか。
それでは、翁委員、どうぞ。
【翁委員】
ご説明ありがとうございました。
まず、川北委員のご説明につきましては、PBRが低い状況が非常に深刻なものであるということを改めて感じましたし、それを踏まえて新しい指数を考えていくということについても、私もそのとおりだなと思いました。
その点に関連して、23、4ページのところでお考えになっていることを、もう少し具体的にお伺いしたいと思います。
指数構成企業数については、どういう観点でこのぐらいの社数を選ぼうとされているのか。それから、ESGの要素というのは、小林委員からもレジュメが出ていますけれども、今、どういうようなことをお考えになっておられるのか。それから、銘柄の入れかえについて、10%以下ということでお考えだということですが、このあたりのバックグラウンドについて、少しお伺いできればと思っています。
その後、武井先生にちょっとお伺いしたいと思います。
【川北参考人】
これは言い忘れましたけれども、全上場企業を対象に、流動性基準などで足切り的なことをやります。かつ、これは長期投資なので、長期的なデータがないといけないので、その制約もありますが、そうすると600銘柄とかそのぐらいしか残らないんですね。そして、その半分はちょっと多いという感じがするので、その3分の1ぐらいが適切だろうということで、200銘柄ぐらいがアッパーかなという感じで今のところ思っています。ただ、精査しているわけじゃないので、多少変わり得るんですけれども、そういうことですね。
それから、ESGに関しましては、これは別途研究しているんですけれども、1つは、投資パフォーマンスに与える影響というのは、必ずしも大きくないという分析の結果が出ています。特にGに関しては、あまりきちっと影響が出てこないんですね。Sに関しては、足元はそれなりに出ているんですけれども、他方、Eはかつては出たいたけれども、今はかなりプラス効果というのが薄れてきているということです。ですから、これも長期的に分析してそういう結果なんですけれども、結局、売上の伸びとか、それから、利益率とか、そういう観点でESG的な視点でもってきちっとやっている企業は、業績に対してもプラス効果があるんじゃないか。むしろそちらのほうで相当程度吸収されてしまっています。あとは定性的な観点という意味でESG的な要素を使って、多少の精査というか、銘柄の入れかえというか、そういうことをやるのかなと現在考えているところです。
それから、10%の入れかえなんですけれども、必ずしも10%にこだわっているわけじゃなくて、10%でも100社の場合10社入れかえるわけなので、これ以上入れかえると長期投資という観点からするとかなり影響があるだろうと考えています。実際、長期的にデータを扱う状況において、自然にというか、放っておいたらどれぐらい入れかわるのか、そこを見て最終的には割合を決めていきたいというふうに考えております。以上です。
【翁委員】
ありがとうございました。
武井参考人にもご質問させていただきたいのですが、池尾先生もおっしゃったように、コーポレートガバナンス・コードの強制complyに至るような事態は避けるべきだと私も思います。
ご質問としては、資料の4ページに、例えば建設的対話に真摯にかつ積極的に取り組む体制を整備している企業や、それから、コードの趣旨を踏まえて企業価値向上を真摯に目指す企業といったところを加点要素とすると書いていらっしゃいますが、具体的にはそれをどのように判断するのが良いとお考えになっておられますかというのが、まず1つ目です。
それから、もう一つは、五でご指摘になっている、イノベーションを促進し、国際競争力を強化する市場構造を作っていくという点については、私も特に早く考えていかなければならない課題だと思っておりまして、できることからやっていくということが必要だと思っております。
この点、特に触れておられませんでしたが、上場時の配分ルールや親引けルールにつきまして、公平性の観点からこういったものがあるのだと思いますが、例えば香港市場は、バイオベンチャーだとかそういった企業に対して、違うやり方で機関投資家も入れるような基準をつくっているということを読んだことがあるのですが、こういったところについて、見直しの方向などの具体的なイメージやお考えがおありでしたら、教えていただければと思います。以上でございます。
【武井参考人】
ありがとうございます。前者のほうはいろんな選択肢があるのだと思います。定量基準のほうをどうつくるかという議論が煮詰まった後で、次に加点項目をどうするかという話になるかと思いますが、いろいろ選択肢があるかと思います。
後者の方ですが、おっしゃるとおりでして、機関投資家の目利きとリンクさせることと、目利きをあまり前提としていない現行の各種仕組みのところで、いろいろな不整合が起きています。
バイオベンチャーの話が国際比較でよく出されますが、バイオベンチャーとなるとまさに機関投資家の目利きがひとつ重要になります。何が質のいい赤字なのかについてなかなか画一的な基準をつくることも難しい、売上高からでは見えない部分もありますし。そんな状況の中で、機関投資家の目利きが行いにくい1つの環境的要因があるのであれば、見直すべき点がないか。すべてを見直すというわけではないのですが、どのように見直すべきかについて柔軟に議論してもらったほうがよい事項が幾つかあるではないかと思います。
各論では、配分ルールもそうですし、親引けルールもそうですけれども、一つの方向で画一的にこう直すべきというよりは、議論を経た上で、じゃあこの部分はこういうふうに柔軟にしたほうがいいのではないかという議論が出てくるのかなと思いますが、そこは上場制度の外の世界なので、併せて何らかの形で議論が深まるといいなと思う次第です。
【神田座長】
よろしいでしょうか。ありがとうございました。
では、井口さん、どうぞ。
【井口委員】
ありがとうございます。
ここはガバナンス・コードを議論する場ではないと理解していますが、さきほど議論がありましたので少し触れさせていただきます。
コーポレートガバナンス・コードの対象企業を絞るということは、規律のない上場会社が増えるということになります。そのことは、海外からも含め、日本企業のガバナンスの後退と捉えられかねない、あるいはそのように捉えられると確信していますので、そのようなことはやらない方がいいと思います。
それから、武井先生の資料の2ページに、ガバナンス・コード等について書かれていますが、私はガバナンス・コードが基準設定において重要であるということを主張しておりましたので、そのあたりをもう一度整理させていただきます。この委員会が始まるまでに、東証の方で市場関係者にヒアリングを行ない、そこでのご意見を概要としてまとめられているのですが、武井先生がおっしゃったように、新市場に求めるものについて、流動性というのがまず一番ではあるのですが、その次にはガバナンスの要素が多かったと認識しています。ヒアリング対象先については機関投資家が中心だったということが要因だとは思うのですが、そういう意見が強いというのは事実であると思います。
ただ、武井先生の資料にも書いてありますが、コンセンサス──コンセンサスはちょっと言葉が弱く聞こえますが、妥当性をどう得るかというところが難しいところかと思います。ガバナンスの項目としては、社外取締役の数とか、あるいは委員会の独立性などが注目されているとは思いますが、それをどう定めるのかというのが問題になっています。 武井先生の資料3ページの具体例1で、社外取締役3分の1以上という基準だと、こんなに適用できない会社がいらっしゃるという例を挙げていただいていますが、私が言いたかったのもまさにここです。結局、今、ガバナンス・コードで定めているのは、複数以上の社外取締役というのが基準ですので、これが一種の投資家と企業さんのコンセンサスになっていると思っています。ですので、ガバナンス・コード全体のComply率とか、そういうことを全然言うつもりはありませんが、ただ、重要な項目について、ガバナンス・コードに定めのある水準は、ある程度これが1つのコンセンサスなり妥当性になりうるのではないかと思っています。
もう一つ、冒頭にご質問したことに関連してですが、C市場のコンセプトは国際的な投資を行う機関投資家向けということですが、今、ガバナンス・コードで企業側にこうやってほしいと思っていますよと海外に向けて言っている、その一方では、C市場に、ガバナンス・コード全部とは言いませんが、重要な社外取締役基準などを全く満たしてない会社が上場しているというのは、海外から見たらかなりダブルスタンダードに見えるんじゃないかということをすごく危惧しています。そういう意味で、ガバナンス・コード全てにComplyしているかどうか、そこまでは言うつもりは全然ありませんが、C市場の上場基準を定める際にコードを準用するというか、あるいは平仄をそろえるというのは、非常に重要なことではないかと思っています。
もう一つ、3ページの例2のところで、複数議決権銘柄は、インデックスに入れてくれたほうが逆に投資しやすいという方がいらっしゃるということで、そういう方もいらっしゃるかもしれませんが、私の知っている限り、これには多くの機関投資家から猛烈な反発があると思っています。私の知り合いも含め、海外のアセットオーナーや機関投資家は、インデックスプロバイダーに、このような会社の株については組み入れ比率を低くするようにという活動をかなりしていまして、実際に、一部ではそうなったという話も聞きます。ですから、海外で、例えばシンガポールとか香港でも、複数議決権銘柄を上場しやすくするために導入するとか、そういう動きもあるとは認識していますが、日本の資本市場の改善という方向とはまったく反対の方向の議論になってしまうのではないかと思っております。以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
まだご議論もあるかとは思いますけれども、時間の関係もございますので、次へ進ませていただければと思います。
本日は、参考人の皆様方からのプレゼンとは別に、オブザーバーである経済産業省からもご説明をいただくこととなっております。
呉村課長、よろしくお願いいたします。
【呉村オブザーバー】
経済産業省の呉村でございます。本日は、このような説明の機会をいただき、まことにありがとうございます。
お配りしております資料5に基づいて、ご説明をさせていただきます。もう1枚お手元にワードというか、縦書きで書いた市場構造のあり方という紙を2月に出させていただいてございますが、この資料を2月にまとめた後に、その後の検討を踏まえて参考情報に追加して、今日はご説明させていただくという位置づけでございます。
横書きのもの、10月23日のものをおめくりいただいて、1ページ目でございます。市場構造のあり方全体の基本的な考え方へいく思想として、今日も幾つかご議論ありましたが、2つ箱を設けています。インベストメント・チェーンを通じて、まさに企業と市場を通じた投資家の対話によって、持続的な価値向上を強めていくということと、例えば、リスクマネーを通じたベンチャー企業をどう成長させていくのか。また、新たな産業をどう牽引していくのかという観点で、市場設定の基本的な考え方を提示してございます。
1つ目が、世界で最もベンチャー企業が調達しやすい市場として成長していく必要があるのではないかということで、特にリスクマネー供給を受けたベンチャーが成長し、産業の牽引役となっていますので、そういった国際競争の中でベンチャー企業の実態を踏まえて、成長投資のための資金調達をしやすい市場を整えていく必要があるんじゃないかなと思っております。
2番目に、上場後の成長を支える資金供給と動機づけが機能する市場ということで、まさに申し上げたインベストメント・チェーン全体を強化していくには、上場後の成長を支えるような資金供給と、動機づけが機能するということが大事だと思います。機関投資家が投資を十分に受けて、まさにプロの視点で投資家からエンゲージメントを受けながら、企業が持続的に成長していくような関係の構築が必要かなと思っています。新規上場についても、ある意味個人投資家が支える小規模な上場機会の提供も、ベンチャーエコシステム全体の醸成という意味では非常に重要だと思いますが、一方で、やっぱりある一定の機関投資家が投資し得るような水準に成長するような、ベンチャーに対してもインセンティブを増やすような資本構造の実現が重要ではないかと思っています。
3番目に、機関投資家による長期投資を促す市場として、企業の持続的な成長に向け、投資家との関係が非常に重要ということだと思います。上場前はプロの投資家を受けまして、ハンズオンなどで当然支援を受けているわけですが、上場した後に株主の多くが個人投資家にとってかわって、伸び悩むケースも非常に多いというふうに思います。そういう意味で、まさに機関投資家が長期投資を促すような市場になっていくということで、そういった機関投資家の参入促進をしていくことが重要かなと思ってございます。
4点目は、スケジュール感ということでございますが、まさに根本的に、また段階的に市場改革のスケジュールを進めるということと、あとは経過措置ですね。根本的な改革をしていくことと、経過措置をあわせて設定していくことが必要なのではないかなと思ってございます。
右側のインデックスのあり方についても、新たな市場区分を創設する際には、当然その変更による影響を多面的に評価して、市場参加者の皆様にとって納得感のある基準を設定しながら、適切な移行措置を設けていく必要があるのではないかと思ってございます。
青い箱でございますが、こうした考え方に基づいて、一応3つの市場区分のコンセプトという形でお示しをしています。「(仮称)」とつけてございまして、あくまでもコンセプトというものでございまして、実際どの市場をどういう形で区分するか、切り分けるかというのは、当然柔軟に考えていくものと思ってございます。
①と書いていますのが、「新興市場(仮称)」ということでございまして、これは新興市場に対して、まさに間口の広い資金調達を提供する市場として位置づけております。個人投資家が一定の役割を担って、比較的小規模な企業に対しても資金調達が可能な市場というコンセプトを想定してございます。
2番目が、「スタンダード/グロース市場(仮称)」としてございますが、まさに持続的な成長を目指して、主として国内機関投資家からの投資や、一定の規模以上の公募増資を期待する企業が属する市場というコンセプトを想定してございます。また、当然機関投資家からの一定の投資規模以上の投資を受ける水準に達しているベンチャー企業であれば、この市場に直接新規上場するということも想定されるのではないかなと思います。
3つ目は、「グローバル/プレミアム市場(仮称)」としてございます。グローバルな視点で事業成長を目指して、世界中の機関投資家から投資を期待する企業が属する市場というコンセプトを想定してございます。世界の機関投資家の投資水準を意識した企業に対して、高い水準でのガバナンスも求めていくということになってございます。
左側、「(2)留意すべき点」で4つ挙げてございます。1つ目が、市場コンセプトを否定形で定義しないということで、これはコンセプトに書いてございますが、例えばスタンダード/グロースについても、グローバル/プレミアムでもなく、新興市場でもないということですね。ある意味、「●●以外の市場」という形での市場コンセプトでは定義をしないということが非常に大事ではないかなと思います。
2番目は、階層構造には固執しないということで、全ての市場を全体として階層構造を所与として考えないということかなと思います。一方で、新興市場、グロース市場との連携とか、そういったステップアップも含めて有効であるべき局面もあるのではないかなと思います。
3つ目は、効率性・コストを評価軸とすることということで、当然市場の評価軸として、時価総額、流動性といった話もありますが、まさに企業の面から見て、上場維持や資金調達に関するコスト、効率性の観点も、評価軸としては重要じゃないかなと思います。
4番目に、自由度・選択肢ということで、まさに各市場のコンセプトに応じた、企業や投資家がとり得る自由度や選択肢も評価軸として加えてはどうかなということで4つ挙げてございます。
右側、インデックスのあり方として、特にTOPIXのあり方も見直すべきと考えています。ただ、TOPIXについては、この市場区分とは独立してそのあり方を検討すべきと思いますし、また、投資家や参加する企業のさまざまな市場参加者へのインパクトなどの影響も加味して、検討が行われるべきではないかと思います。
おめくりいただいて、それぞれの各論ということでございます。世界で最もベンチャー企業が調達しやすい市場ということで、1番目に、新興市場としての間口の広さを維持すべきではないかと書いてございます。これまで東証の市場は、非常に間口の広い資金調達機会を提供しておりますので、それがある意味、日本のベンチャーエコシステムの拡大を支えてきているということでございます。レーターステージ含めて、未上場への資金供給やM&Aの機会が、これはベンチャーエコシステム全体の政策議論でもありますが、まだ限定的である我が国においては、この間口の広い資金調達を確保することが、引き続き重要ではないかと思ってございます。
(2)として、4つ丸を掲げておりますが、先行投資企業が上場しやすい環境の整備としてございます。先行型投資企業、特に赤字企業が、成長曲線、Jカーブを深く掘っていく場合について、なかなか資金調達の難しさということが指摘されておりますし、まさに取引所による上場審査、成長性を示す場合にハードルが高いといったご指摘もございます。
おめくりいただいて、3ページ目に参考1-1と書いてございますが、これは先行投資型企業の上場審査の実例ということで、香港、上海の事例を挙げてございます。香港や上海では、バイオテック企業向けに第三者の有識者による評価、右側に第三者評価と書いていますが、あとは適格投資家からの一定の投資や、主幹事証券会社による一定期間の株式保有などを、ある意味事業性の評価を確認することの1つのプロセスとして認めるような形で導入をしているというケースもございます。
またおめくりいただいて2ページに戻りますが、そういった形、ある意味第三者に評価をして、その評価を使ってうまく先行投資企業の評価をするという形もあるのではないかなと思ってございます。また、バイオベンチャー等、先行型、投資型の個別セクターに関する上場審査ポイントというのも現行行われておりますが、これもある意味、形式的なQ&Aという形ではなくて、企業の実態に応じた形で見直しができないかと思ってございます。
3番目の丸でございますが、先行投資型企業の扱いについても、新規上場の扱いということだけではなくて、その後の市場区分の移行についても、その性質に応じて一定規模の流動性や市場での評価を受けて、売上・利益の要件を不要とする見直しも必要ではないかと思ってございます。入り口だけの基準ではなくて、出口、上場廃止基準に関する見直しも必要ではないかと思ってございます。
4ページ目、参考に挙げてございますが、日米の上場廃止基準の比較を示してございます。
詳細は割愛しますが、下側、米国では複数の指標から選択肢を選ぶということになってございます。日本ではマザーズの場合、5年後に売上や利益の基準が評価対象に入ってくるという違いがございます。
おめくりいただいて、参考1-3、5ページ目でございますが、このグラフ自体は日米の上場廃止基準によって、上場可能企業がどういう違いが出ているかということを示すために、米国のNASDAQバイオのインデックスに、日本の上場廃止基準を当てはめたものということになっております。一応該当する米国企業のうち、日本の上場廃止基準を当てはめると、全体の35%が上場廃止基準に該当するということで、ある米国では、この上場廃止基準が、業績以外の指標との選択制となっていることが、企業の赤字での上場維持に寄与しているということでございます。
2ページ目にお戻りいただいて、そういう意味で、この上場廃止基準についても、現行の売上・利益基準だけではなく、一定規模の時価総額基準を適用すべきではないかということを書いてございます。
3番目として、当然アジアを中心とした世界の成長を日本に取り込んでいくという観点も非常に重要ではないかと思っています。特に東南アジアを中心に、さまざまなテック企業がスタートアップとして生まれていますが、そういったスタートアップ企業が日本で上場しやすいような環境を進めることが必要かなと思ってございます。
おめくりいただいて、大分飛ばして6ページでございます。上場後の企業の成長を支える資金供給と動機づけが機能する市場ということでございます。
ここで機関投資家が入っていただくことによって、ある意味動機づけもあわせて機能するような市場がワークするのではないかということで、当然機関投資家から投資を十分受けるためには、十分な流動性が確保されているということが前提になろうかと思います。
これも参考ですが、おめくりいただいて7ページ、2-1でございますが、このグラフは2014年から18年の新規上場案件のうち、横軸に発行済み株式、全体に対する公募・売り出しの割合と、縦軸に公募・売り出しの規模、総額をとってございます。左に位置する企業ほど、当然公開性が低くなるということで、市場における公開性と株式のパイが非常に小さくなっているということでございます。株式のパイが小さい場合、当然企業のファンダメンタルズに比べて需給バランスが崩れる可能性がありますので、価格に与える影響も大きくなるということです。そうした企業、公開性も低い上場のあり方については、改めて議論すべきではないかと思います。
おめくりいただいて、これも8ページ、2-2でございますが、この表は、東証の3年間のデータをもとに、上場株式の所有者別に売買代金回転率をお示ししたものでございます。
ご覧のとおり、所有者にとって売買代金回転率は大きく異なっていまして、実質的に流動性の度合いが、持つ人によって異なってくるということがわかろうかと思います。
おめくりいただいて9ページ目、これは定義でございます。2-3、各国取引所における流通株式の定義というものは、少し各国の市場において異なるということになってございますし、10ページ、2-4も、流動性基準というものがこうなっているということで、詳細は割愛いたします。
6ページ目にお戻りいただいて、そういう意味で、2の(1)のところになりますが、まさにこういった流通株式自体が各市場の定義とされていますが、これを実態に即したものに見直してはどうかというふうに思います。加えて、機関投資家から投資を期待する市場区分への新規上場時の流動性に係る要件として、公募・売り出し総額を基準の1つとするような方法も追加してはどうかとしてございます。
(2)としては、企業の成長段階や事業の性質に応じて、当然投資家と企業の対話や開示のあり方は異なるということで、ある意味それはその市場に応じて資金調達の効率性や自由度を高める仕組みが必要ではないかということで、これは具体的に、市場区分に応じて求める開示について、効率化・選択肢の拡大をすべきではないかということで、これは参考2のほうに、割愛しますが、イギリスの例なんかを設けてございます。
3番目でございます。これは社外取締役の話でございますが、あくまでも機関投資家が投資を行うためには、企業のガバナンスの視点が重要でございますので、独立性の基準については見直しが必要ということと、また、グローバルな視点で事業成長を目指して、世界の投資家から資金供給を期待する企業についても、グローバルな機関投資家が重視するようなガバナンス要請・開示の充実が必要ではないかと思ってございます。
(4)でございます。これも先ほど少し申し上げましたが、TOPIXについては対象銘柄の選定を市場区分とは切り離して、全ての上場企業という、現行の絶対評価の選定方法から、ある意味、銘柄数を制限したような相対評価の選定方法に変更した上で、効果や投資家のニーズを踏まえた市場代表性を備えた指標にすべきではないかとしてございます。
飛んでいただいて、13ページでございます。そういう意味では、機関投資家による長期投資を促す市場が重要だということで、14ページの参考は、そういう意味では、東証の新規上場に際して、非常に個人の割合が多いということで、こうした個人投資家の割合の偏重を是正できないかという提言でございます。例えば、一定規模以上の公募・売り出しを行う上場については、ロックアップを受け入れる機関投資家に対して、配分プロセスを導入すべきではないかということで、15ページは、香港ではコーナーストーン投資家プロセスということで、一定の機関投資家に優先配分するような制度があるということのご紹介でございます。
(2)は、クロスオーバー投資家が参加しやすい環境整備ということで、上場前から投資・エンゲージメントを促す観点から、機関投資家が支援しているということがありますので、ある意味連続性を担保して、機関投資家の方が、ある意味長期投資をしてくれるような規制の解釈等々課題があれば、そういったものを明確化していくべきではないかと思ってございます。
16ページ、最後でございます。そういう意味では、スケジュール感のところでございますが、これは新たな市場区分については、まさに多方面の影響を評価しながら、市場参加者にとって納得感のある基準を創設し、適切な移行期間・措置を設けることが必要ではないかなと思ってございます。
あと、各市場の他市場からの移行も含めて、差異がいろいろありますが、そういった差異は見直し、合理化すべきではないかというふうにして考えてございます。
そうやって根本的に大きく考える部分と、早急に対応すべきことというのはしっかり分けて、早急に対応すべき事項というのはしっかり早急に対応すべきと思ってございます。
以下、掲げている部分は、市場区分の議論とは独立した対応が可能な事項として、先ほどご紹介したような株式配分の事項、先行投資型の上場審査、廃止基準、社外の観点を入れてございます。
最後の項目として、全体として形式要件についての差異を合理化するという観点から、上場水準の水準、移行や、上場廃止基準との差異での見直しをどのように形式的な要件を合理化していくべきではないかと考えてございます。
例えば、有価証券報告書の財務諸表の適正性に関する対象期間についても、一部上場や一部指定化によって期間に差異がある場合も見直すべきではないかと考えてございます。
少し駆け足になりましたが、説明を終わらせていただきます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
今のご説明につきまして、ご質問、ご意見ございましたらお願いいたします。池尾先生、どうぞ。
【池尾委員】
新興市場についてですけれども、私も先行投資型の赤字企業が上場しやすい環境整備については基本的に賛成で、別に異議があるわけじゃないのですが、新興市場全般についての一般論として申し上げると、1990年代以降、日本政府は国を挙げてベンチャー支援をしてきたと言えると思いますが、その結果、表現は不適切かもしれませんが、一部のベンチャー企業をやっぱりスポイルしてしまったような面が無いことは無いと思います。例えば、マザーズに上場することが基本的にゴールのようになってしまって、IPO時に応募した投資家に、その後、損失を被らせているような企業というのは少なくはないわけですよね。
だから、新興市場のあり方を考える際に、資金調達しやすいという条件を維持すると同時に、やっぱり何らかの規律を、どういう形で働かせるのかということも含めて、もう一つの柱として考えておかないといけないと思います。
赤字企業については駄目だった場合はこうするという、ある程度の規律を働かせるような話も資料には書かれているので、それはそれで結構ですけれども、一般論としては、現行のマザーズのように、小さな時価総額でも上場できるような制度を維持してほしいという意見が強いものの、それを維持するならば、それに見合う何らかの規律の導入というのも検討すべきだと思いました。
【神田座長】
ありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。三瓶さん、どうぞ。
【三瓶委員】
ご説明ありがとうございました。ベンチャー企業が「スポイルされてきた」という点は私も池尾先生と似たようなことを感じていました。
市場区分のコンセプトというのは、結局は非常にわかりやすい、シンプルであるという必要があると思います。そうしないと、せっかく市場区分の見直しをしたのに、結局よくわからなくなってしまうからです。
これは半分質問であり、半分意見ですけれども、そういう意味で、コンセプトをシンプルにするときにどうしたらいいのか。今議論されている区分については、投資家側で見ると、グローバルに訴求できるかということと、国内機関投資家という言葉が何回も出てきます。では、個人投資家はどこに入るんだろうか。投資家層として考えているのが、3つなのか2つなのかなということと、今、池尾先生がおっしゃった、簡単に言うと規律が緩いのと規律が厳しいのという2つに分かれると、マトリックスにしたときに2掛ける2なのか、3掛ける2になるのか。それがすんなりとどこかに丸バツつけてでき上がっているかというと、非常に混ざっていてわかりにくいような気がしています。
例えば、個人投資家が対象だということであれば、個人投資家は守ってあげなきゃいけない。かなり投資家保護の観点が強く効かなきゃいけないので、規律づけは大事だと思います。ただ、ここでIPOを考えたときに、少額のIPOは小口だから個人投資家じゃないと買えないというのは、本当は単純にそういう話にはならなくて、単にこれは株主数の制限があるからそういうふうになると思います。つまり、株主数の制限ということを見直してしまえば、この制約はなくなります。
なので、簡単に整理したときに、ほんとうにパッと見てわかるようなものになるのかどうか。ちょっと今、私の中では整理できないので、簡単に言ったらこういうことだよということがご説明いただけるのであればありがたいですし、それをお答えいただくかどうかはお任せします。
【神田座長】
ありがとうございます。呉村さん、もし何かあれば。
【呉村オブザーバー】
そういう意味では、明確に投資家サイドで個人投資家が投資する市場であったりとか、機関投資家が投資する市場ということで、このコンセプトを切り分けているということではないと思います。
ただ、我々はあくまでもどうやって持続的に投資家と企業の対話を通じて、企業価値を向上できていくという点においては、まさにグローバル市場であったりとか、スタンダード/グロース市場という、より機関投資家が入る動きが強くなるのではないかということと、あとベンチャーという観点から、より裾野の広いベンチャー企業がたくさん入るという観点から、先ほど申し上げた新興市場というのは、個人投資家がより多くいるような市場なのではないかというふうに想定をしております。
【池尾委員】
多少補足になりますが、C市場に個人投資家が参入してくるという可能性は、今の日本の状況だと十二分に想定されるわけですよね。
その際には、三瓶さんがおっしゃったように、個人投資家保護を考えざるを得ない。それがグローバルな機関投資家が参入する市場においてどのような形になるのかは、非常に錯綜した問題だと思います。
【神田座長】
ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
事務局より太田原市場課長、どうぞ。
【太田原課長】
事務局として少々、インタービーンさせていただきます。
これまで様々なご意見をいただきまして、本当に感謝申し上げます。
事務局としては、これまで実施したヒアリングや、委員の皆様方からのご意見等を踏まえて、今後、取りまとめの作業をしていきたいと思っております。
その中で、例えばガバナンスが重要だというご意見を本日の議論でもいただいていまして、事務局としてもそうしたご意見を踏まえるべきと考えておりますが、抽象的にガバナンスが大事だといっても、具体論に落とし込むとなると、本日の議論のように多数の案や難しい論点も多々ある中、これから取りまとめる事務局としては身が引き締まる思いでおります。
そうした中で、本日の経済産業省の資料の最後に、早急に対応すべき事項として幾つかの論点が記載されています。
例えば、バイオベンチャー等先行投資型の上場審査ポイントについて。ベンチャーなので、これはマザーズのことと理解しましたが、マザーズの上場審査ポイントの見直しについてですとか、これは私も未来投資会議で関与していましたけれども、上場子会社における独立社外取締役の独立性基準の見直しですとか、あるいは、有価証券報告書の財務諸表の適正性に関する対象期間について、5期間と2期間を2期間へ共通化するといった、現在の市場構造を前提にしたうえで、早急に対応できることも幾つかあると考えております。
先程も述べましたように、全体像を取りまとめることはなかなか難しい作業だと考えておりますが、一方で、本日、翁委員からも、できるものは早目にやるべきというようなご指摘もいただいたところ、まさにそういう観点から言えば、来年の株主総会シーズンを踏まえ、今のうちから動いた方がいい事項も多々あるのではないかと考えております。
そこで、東証として、できる事からやるということについて、どうお考えか、もしご意見あればよろしくお願いします。
【青オブザーバー】
意見があればとのことですので、答えさせていただきます。
やはり今回の市場構造の見直しは、多面的に考えていく必要があり、その中で、しっかり長い目線で見て、やるべきことをやっていくということが非常に重要だということが、まず基本的なところであります。
ただ、先ほどのところで、経産省さん、あるいは金融庁さんからのご指摘がありましたように、早急に対応すべき事項につきまして、いたずらに検討を長引かせるということも本意ではございませんので、市場構造の見直しに絡む事項ですと、なかなか難しい面もあるかと思いますが、ご指摘いただきましたバイオベンチャー等の取り扱いや、あるいは上場子会社の社外取締役の独立性基準、あるいは、財務諸表の適正性の評価に関する対象期間を2期間に共通化するというようなことを含めまして、現在の市場構造の枠の中で、それを前提とした上で、なおかつ関係者の方から早期実現の要請が高いものに関しましては、規則改正を初めとしまして、できるものからスピード感をもって始めるということが、私どもとして求められていることかと存じますので、そうした方向で進めていければというふうに考える次第でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。あっと言う間に時間になってしまいました。
議論は着実に前へと進んでいると思いますが、今後、議論の収れんを目指すにあたり、事務局としては身を引き締めていただけるとのことですので、私どもも身を引き締めて、今後の収れんに向けた議論を進めていきたいと思います。
本日も、参考人の方々、また経済産業省から、大変貴重なご意見をいただきました。これらのご意見等を踏まえ、次回以降、議論の取りまとめや収れんを意識してのご審議をいただければと思います。
それでは、最後に事務局からご連絡をお願いいたします。
【池田監理官】
次回の日程についてでけれども、皆様のご都合を踏まえた上で、追って事務局よりご連絡させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、以上をもちまして、本日の会議は終了とさせていただきます。
―― 了 ――