企業会計審議会第49回監査部会議事録
1.日時:令和3年2月4日(木曜日)14時00分~16時00分
2.場所:中央合同庁舎第7号館 9階 金融庁共用会議室3
○西山開示業務室長
定刻になりましたので、これより、企業会計審議会第49回監査部会を開催いたします。私は、事務局の企業開示課開示業務室長の西山でございます。皆様には御多忙の中御参加いただき、誠にありがとうございます。本日の開催でございますが、新型コロナウイルス感染症対策の観点から、企業会計審議会議事規則1条2項にのっとり、オンライン開催とさせていただきます。議事録はこれまでどおり作成し、金融庁ホームページで公開させていただく予定ですので、よろしくお願いします。
オンライン開催について、2点注意事項がございます。まず、御発言をされない間は、恐縮ですがマイクをミュートの設定にしていただきますようお願いいたします。御発言されるときには、マイクをオンにしてミュート解除で御発言していただき、御発言が終わられましたら、またミュートにしていただくということでお願いします。また、支障のない範囲で構いませんが、会議中はお顔が見られるように、カメラの設定をオンにしていただきますようお願いいたします。
2点目として、発言を御希望されるときですが、チャット機能を使って全員宛てに、発言希望である旨とお名前を入れてお送りください。お名前については、協会名などの組織名でも結構ですので、ご入力ください。それをこちらで確認させていただいた上で、部会長から指名させていただきたいと思います。なお、御発言に際しては、念のため、御自身のお名前を名乗っていただいた上で、御発言いただければと思います。それでは、八田部会長、よろしくお願いします。
○八田部会長
西山室長、ありがとうございます。それではまず、会議公開についてお諮りいたします。企業会計審議会議事規則第4条第1項にのっとり、監査部会の審議について公開することとしたいと思いますが、よろしいでしょうか。
(異議なし)
○八田部会長
御了解いただきましたので、本日の会議の模様はウェブ上でライブ中継をさせていただきます。
次に新たな臨時委員の就任及び、本日の会議の参考人について、事務局から御紹介させていただきます。
○西山開示業務室長
事務局でございます。本日付で、新たに堀江正之臨時委員が御就任されております。
○堀江委員
堀江でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○西山開示業務室長
ありがとうございます。また、本日は公認会計士協会の小倉加奈子副会長、小暮和敏副会長、甲斐幸子研究員に御出席いただいております。
○八田部会長
参考人の皆様、よろしくお願いいたします。それでは、審議に入りたいと思います。御案内のとおり、昨年11月6日に開催されました、企業会計審議会の総会におきまして、「最近の国際監査基準の策定動向」についての審議が行われました。その中で、最近の国際的な監査基準の改訂等を踏まえ、監査に関する品質管理については、この監査部会において審議を行うこととされました。こうした経緯の下、今後この部会で、監査に関する品質管理についての御議論を行っていただければと思っております。
まず、「監査の品質管理をめぐる動向」について、事務局から説明いただきたいと思います。続けて、公認会計士・監査審査会事務局の野村審査検査室長と、日本公認会計士協会の小倉副会長、小暮副会長、甲斐研究員から、それぞれ資料を御説明いただいた後、最後にまとめて御質問、御意見をお伺いしたいと思います。
それでは、事務局から説明をお願いいたします。
○西山開示業務室長
スライドを表示しながら、説明させていただきます。御覧になれますでしょうか。
では「監査の品質管理を巡る動向」について、説明させていただきます。まず、1枚目のスライドでございますが、日本における監査の品質管理をめぐるこの20年の動向を、年表形式でお示ししております。アメリカのエンロン事件をきっかけに、米国では公開企業会計監視委員会(PCAOB)が設立されて、同様に世界各国においても、監査を独立した立場で監督する当局が設立されることとなりました。
日本においては、公認会計士・監査審査会が設立され、審査会による検査と公認会計士協会による品質管理レビューの2本立てで、監査事務所の品質管理をチェックしていく体制が確立されました。
また、2005年には「監査に関する品質管理基準」が策定されました。しかし一方で、大企業による不正会計事案について、大手監査法人が、それを見つけられなかったという事案が度々起き、その都度対応を図るべく、不正リスク対応基準でありますとか、2016年には会計監査の在り方に関する懇談会が開かれ、その後、監査法人のガバナンス・コードの策定や、監査上の主要な検討事項(KAM)の導入といった対応が取られてきたというのが、日本のこれまでの経緯となります。
スライド2に移ります。続いて、今般、監査部会開催のきっかけでもあります、国際基準改訂について御説明します。スライド中、赤枠で囲んでおりますISQM1、ISQM2、ISA220が改訂され、2020年12月に確定版が公表されました。今般の部会で主に御議論いただくのは、これらの改訂を踏まえた国内基準についてになります。
これらの改訂に際しての経緯・問題意識は、次のスライド3のとおりでございます。3枚目のスライド中ほど、灰色の囲みでございますが、IAASBが基準改訂を行うに当たり、品質管理について識別した課題を書いてございます。監査の品質向上のためには、現場の監査チームによる取組だけではなくて、事務所全体としての品質管理も不可欠であるという認識の下、さらに品質管理システムを強化するため、4つの矢羽根にありますとおり、まず監査事務所のリーダーによる、積極的な品質管理への関与、透明性の向上でありますとか、基準が中小規模事務所にも柔軟に適用できるものであること、審査の役割の重要性、審査会や協会の検査・レビューに該当しますような外部検査、内部モニタリングでの指摘事項を次の改善につなげること、パートナーの役割について、監査のチームメンバーに対する指示・監督などの重要性の強調が挙げられております。
続きまして、スライドの4枚目に移ります。こちらでは、ISQM1の主な改訂内容を、左に現行基準、右に改訂後の基準として対比しております。
右側の①を御覧ください。監査基準の構成要素について、「a.監査事務所のリスク評価プロセス」と、「g.情報とコミュニケーション」が新設されております。aのリスク評価プロセスの要素追加により、監査事務所は、それぞれの事務所の特徴も踏まえつつ、その品質目標とリスクを、先を見越しつつプロアクティブに識別・評価することになります。また、bからhのそれぞれの構成要素についても、より具体化された目標が設定されております。
また、②を御覧ください。こちらは、現行基準では構成要素ごとに運用状況を確認すれば良いとなっていたのを、改訂後基準では、監査事務所が品質目標を設定し、その目標達成を阻害するものを品質リスクとして識別し、当該リスクへの対応方針を定め、実際に運用し、不備があれば根本原因を分析して改善する。いわゆる、PDCAサイクルのような全体の流れを行うことになり、これを品質マネジメントシステムの導入と呼んでおります。
続きまして、スライド5でございます。こちらは、各構成要素の主な品質目標を一覧にしたものです。左上のaでございます。「監査事務所のリスク評価プロセス」については、先ほど、御説明しました品質目標の設定などが掲載されております。また、新出となる「g.情報とコミュニケーション」については、品質マネジメントシステムに必要な情報を内外から識別・収集・維持できる情報システムを保有することでありますとか、監査事務所としての考えを現場チームまで浸透させ、また双方向に情報交換するカルチャーの強化、外部の者とのコミュニケーションなどを規定しております。
また、フットノートの下2つ目の白丸にありますように、品質マネジメントシステム品質マネジメントシステムの説明責任を付与された者は、少なくとも年1回、品質マネジメントシステム品質マネジメントシステムを評価しなければならないとされており、例えば、品質マネジメントシステムの目標が達成されている、あるいは識別された不備に関する事項を除き達成されているでありますとか、もしくは、品質マネジメントシステムの目的が達成されていないといったような評価を行います。そのほか詳細の項目については、後ほどの公認会計士協会のプレゼンとも重複するので、割愛させていただきます。
スライド6に移ります。こちらは、ISQM2とISA220について、現行基準と改訂後基準を左右に対照しており、改訂後のISQM2では、右上の黒丸にありますとおり、審査を担当する者は、業務執行責任者として関与していた業務の審査担当者になるには、2年以上のクーリングオフ期間が設けられます。
また、ISA220において、監査チームの定義につきまして、従来、同一の監査事務所またはネットワークに所属する者としていたところを、それ以外の者も含めて、監査業務に関する監査手続を実施した者で構成されると改訂しております。
続いて、スライド8に移ります。現在、イギリスやアメリカなどにおいても、国際基準の改訂を受けまして、各国基準への反映作業を行っている最中でありまして、こちらに表示されております8枚目のスライドは、イギリスが2021年3月まで意見募集に付している公開草案について、事務局において、国際基準と比べて独自の追加要素について調べて、対照表として赤文字で示しております。
全体、3列になっておりますが、左列が現行基準の構成要素を示しておりまして、一番右の列に改訂基準草案に含まれている、イギリス独自の要素の例を赤文字で示しています。例えば、右上の点線の四角にございます、独立性に関する部分について、組織的な対応を強調しておりますし、また、監査契約の締結更新の項目、次の四角の部分につきましては、監査法人のローテーションの際の引継ぎ、前任監査人が後任監査人に対し、被監査会社に関する情報を提供することが記載されています。
また、業務の実施に関して、チームへの適切な指示・監督に加えて、グループ監査に係る構成単位の監査人の管理方針の設定などを定めており、次の一番下の人員、リソースの項目においては、適切な教育や、適切な人材配置をすることに加えて、適切な報酬方針の設定を加えています。
続きまして、次のスライドでございますが、アメリカについても同様に、PCAOBから出されている協議文書を参考に、独自の要求事項の例を右列に、同じような構成で赤字で示しております。アメリカにつきましては、ガバナンスの項目に関連しまして、事務所の品質管理に対する独立した監視機構の設置が書かれており、また上から2つ目の赤文字のところ、職業倫理に関して、米国証券取引委員会(SEC)やPCAOB基準に準拠することが書かれております。
そのほか、業務の実施に関連しまして、外部者の能力や独立性・客観性の評価が重要であると強調しており、また、専門要員の教育につきましては、特に業務の実施と品質管理に関する研修が、重要であると強調しています。強調と申しますのは、現行基準、米国基準でも読めるものではあるんですけれども、PCAOBが現下の状況を反映してか、殊更注目しているものとして書いていると捉えられるものでございます。
また、アメリカの案では、品質管理システムの有効性評価を、年次報告書の形で作成し、当局へ提出し、公表するとされています。
続きまして、次のスライドに移ります。以降のスライドは、日本における現行の品質管理基準の資料になりまして、表示されているものは、品質管理基準策定の経緯を示したものでございます。繰り返しになってしまいますが、非違事例などの発生を受けて、監査法人における内部統制強化や品質管理の向上に向けて、企業会計審議会監査部会で審議が行われて、2005年に品質管理基準が策定されました。品質管理基準は、我が国における監査の品質管理に関する状況を考慮するとともに、国際的な基準の動向も踏まえて検討を行い、監査基準とは独立の基準として設定されております。また、公認会計士による監査業務の質を合理的に確保するためのものであり、監査基準とともに一般に公正だと認められる監査の基準を構成し、一体となって適用されるものでございます。
次のスライドを御覧ください。こちらでは、日本における現行の基準のポイント、流れになります。監査事務所は、契約の新規締結から、個人の適格性の判断や業務の実施審査などのそれぞれのステップにおきまして、個々の監査業務を管理する体制を整備し、こうした体制を適切に運用することが必要と考えられておりまして、そのため現行基準では、こちらスライドの上の大きな枠の記載のとおり、監査事務所に対して、監査業務の各段階における品質管理システムを整備・運用するとともに、こちらのスライドの下の枠外の灰色の記載にありますとおり、品質管理システムの監視を求めることとしております。
スライドの12枚目では、ISQC1と日本品質管理基準との違いについて説明しております。こちら、今回のISQM1、2の改訂前の基準である、ISQC1と現行の日本の基準の構成要素を比較すると、ISQC1の構成要素は、全て日本の基準の構成要素でも規定されておりまして、日本独自の部分が、青い色の部分でございます。
まず、真ん中の列では、監査事務所の引継ぎと共同監査が独自の規定となっております。また、右を御覧ください。日本独自の規定として、不正リスク対応基準の中で監査実施の各段階における不正リスクに対応した監査手続を実施するための、事務所としての品質管理を規定しております。
このような不正リスク対応基準のうち、品質管理に係る規定は、各監査事務所で行っている品質管理のシステムに加えて、新たなシステムの導入を求めているものではなく、監査事務所が整備すべき品質管理システムにおいて、不正リスクに対応する観点から、特に留意すべき点を明記したものとなっております。
最後の下の部分の注の部分で、品質管理に関する規定は、このほか監査基準でも規定されておりまして、また個別業務の品質管理に係る規定として、日本公認会計士協会の監査基準委員会報告書もございます。以上が、事務局の説明です。
○八田部会長
どうもありがとうございました。
では次に、公認会計士・監査審査会事務局の野村室長から、御説明をお願いしたいと思います。お願いします。
○野村審査検査室長
公認会計士・監査審査会事務局の野村でございます。資料2に基づきまして、監査の品質管理をめぐる状況について、御説明をさせていただきます。
1ページ目を御覧いただきたいと思います。本日の御説明は、我が国の監査における品質管理についてと、監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)において、現在、議論されております各国における品質管理を確保するための取組についての2項目について、御説明をさせていただきたいと考えております。
2ページ目を御覧いただきたいと思います。品質管理体制と個別監査業務の関係を整理させていただいております。監査事務所が、品質管理のシステムの整備と運用をいかに行うかが、当該事務所の実施する個別監査業務の品質に大きな影響を与えることになりますので、各監査事務所が、事務所の規模や特性に応じて品質管理体制を、総合的かつ実効的に機能させる必要があるというふうにしております。
この品質管理体制につきましては、次の3ページの図を御覧いただきたいと思いますが、こちらにありますように、契約の締結から監査報告書発行に至るまでの間の、監査補助者に対する指示・監督ですとか、審査などの個別監査業務の過程に関するものと、その下にございます職業倫理や独立性、教育・訓練、品質管理のシステムの監視といった、個別監査業務の過程以外に関するものがございます。
続きまして、スライドの4ページ目でございますけれども、金融庁に設置されております公認会計士・監査審査会は、各監査事務所、監査法人が整備・運用しております、品質管理体制を中心にモニタリングをしているところでございます。
実施方法といたしましては、報告徴収、ヒアリング、意見交換といったオフサイトのモニタリングと、その下にございます、オンサイトのモニタリング、検査により実施しているところでございます。なお、検査につきましては、そちらにございますとおり、事務所としての業務管理体制、品質管理体制のほか、監査をしております個別監査業務を数社選定させていただきまして、当該業務における監査の状況を検証しているところでございます。
続きまして、5ページ目でございますが、審査会のモニタリングの目的と視点を記載させていただいております。すなわち、監査事務所の品質管理を含む業務の適正な運営の確保を目的といたしまして、運営主体であります監査事務所自らの行動を促すようなモニタリングの実施に努めておりまして、近時の検査では、括弧で記載しておりますように、問題点・不備を指摘するだけではなく、不備の発生した根本原因を究明し、検査先に伝えるとともに、監査事務所自らも根本原因を究明することを促しております。また近時は、以下に記載のような項目に着目して、検証をさせていただいているところでございます。
続きまして、6ページ目でございますけれども、モニタリング制度の概要でございます。審査会は、①にございます日本公認会計士協会が自主規制として実施しております、監査事務所に対する品質管理レビューの報告を受けまして、その結果等も踏まえまして、③にありますように、監査事務所に対して検査等を行うというのが、基本的な流れになっております。その結果、④にございますけれども、当該事務所の運営が著しく不当であるなど、必要と認めた場合には、金融庁長官に対しまして、行政処分、その他の措置を取ることを求める勧告を行うという形になっているところでございます。
続いて、7ページを御覧いただきたいと思います。日本公認会計士協会の品質管理レビューと、審査会検査の実施状況を並べたものでございます。実施頻度のところを見ていただきますと、協会レビューは、全ての対象事務所に対して、原則3年に1回、定期的にレビューを実施しております。
審査会検査のほうは、大手と準大手に対しましては、定期的に実施しておりますけれども、中小規模監査事務所に対しては、必要に応じて実施しておりまして、特徴といたしましては一番下に書いてございますとおり、協会レビューは広く浅く、審査会検査は狭く深くといったことが、特徴として言えるのではないかと考えているところでございます。
続きまして8ページ目でございますけれども、直近5年間の検査の実施状況、行政処分の勧告の件数となっております。審査会では、検査の指摘事例などを、検査結果事例集という形でまとめさせていただいておりまして、次の9ページでは、品質管理体制に係る不備の特徴を記載させていただいておりまして、その次の10ページで、品質管理体制の具体的な不備事例を、監査法人の規模ごとに記載しております。
9ページに戻っていただきまして、大手監査法人の特徴でございますけれども、大手監査法人では、法人本部のほうで監査品質向上のための様々な施策を行っているところでございますが、一部の監査チームに対する現状把握ですとか、サポート、施策の浸透などで不備が見られておりまして、本部と監査現場である事業部との連携が課題となっているところでございます。
1つ飛ばしまして、3つ目の中小規模監査事務所につきましては、そちらにございますとおり、業容拡大に対応した品質管理体制が構築できていなかったり、リスクの高い監査業務を適切に実施する体制が十分でないといったものが見られているところでございまして、次の10ページになりますけれども、一番上に書いてございますが、監査事務所トップが、監査品質にコミットしておらず、リーダーシップを発揮していないですとか、次にございますように、人的資源を十分に確保していないなど、監査リスクに見合った組織的監査を実施する体制を構築できていない。
1つ飛ばしまして、指摘事項について、根本原因分析の必要性や、分析方法を十分に理解しておらず、同一同様の不備が発生しているといった、不備事例が見られているところでございます。
続きまして11ページが、直近3年間の検査で指摘いたしました、個別監査業務における不備の状況となっております。
御覧いただきまして、お分かりいただけますとおり、少々見づらくて恐縮なのでございますが、監査事務所の規模にかかわらず、立会いですとか確認といった実証手続といわれております不備が最も多くなっておりますが、図には現れておりませんけれども、その比率は減少傾向にございまして、他方で白でございます会計上の見積りは、引き続き大きな割合を占めております。また、監査計画、企業環境の理解や、不正リスクへの対応に係る不備の割合が、近年、増加傾向にあるところでございます。
続きまして12ページ目でございますが、近時の検査等を通じて認識しております、品質管理上の課題の例ということで、挙げさせていただいております。
1つ目でございますけれども、近年、不適切な会計処理に関する開示を行った上場会社が増加の傾向にある中、いかに職業的懐疑心を発揮し、適切なリスク評価を行っていくかのための態勢に向けて、継続的な見直しが必要なのではないか。
2つ目でございますが、先ほども御説明申し上げたとおり、本部と地区事務所も含みます監査現場との連携の強化。
3つ目でございますが、監査事務所のガバナンスの実効性を定着させるための一層の取組。
4番目でございますけれども、被監査会社のIT化ですとか、大手監査法人を中心としました監査事務所自体のIT化の進展に対応した態勢の整備が必要ではないか。
それからその次でございますが、すみません、1つ飛ばさせていただきまして、特に中小規模監査事務所についてでございますが、現行の監査の基準の趣旨に対する理解ですとか、基準が求めている品質管理や監査手続の数字に対する理解などについての教育・研修体制の充実が必要ではないか。
それから一番最後でございますが、業務執行社員の関与を高めるなど、オーナーシップのより一層の発揮が必要なのではないかといったような課題を、例として挙げさせていただいているところでございます。
続きまして13ページからは、IFIARにおいて議論されております、各国における品質管理を確保するための取組を御説明させていただきたいと思います。
まず、IFIARの概要を御紹介させていただきます。IFIARは、そちらにございますとおり、2006年9月に設立されまして、現在、55の国と地域の監査監督当局がメンバーになっております。日本では、金融庁と審査会がメンバーになっておりまして、本部の事務局は、東京に置かれているところでございます。
一番下の主な活動としましては、監査監督活動の実務的な経験を共有したりですとか、監督活動における協力、整合性の促進などを行っているところでございます。
続きまして、14ページを御覧いただきたいと思います。IFIARとして、品質管理に関する主な取組を2項目紹介しております。
1点目は、6大監査ネットワーク、GPPCというふうに言っておりますけれども、こちらと定期的に対話を行っておりまして、具体的な内容としましては、メンバー当局の検査指摘率による評価を通じまして、監査品質の向上に向けた対話ですとか、2点目にございますけれども、指摘率以外の監査品質の評価の指標、AQIの検討に係る対話ですとか、ISQM1などに対する準備・対応状況を含む品質管理体制の整備に向けた取組について、聴取をしたりといった活動をしているところでございます。
2点目は、検査指摘事項サーベイの実施でございます。日本を含みますメンバー当局による6大ネットワークへの品質管理体制及び個別監査業務に対する検査結果を集計いたしまして、報告書として公表しております。これは、全般的な傾向を明らかにする一手段として、不備がどのような分野から多く発生しているかなど、量的な情報を提供しております。ただし、括弧にも記載せていただいておりますとおり、監査品質の評価のためには、指摘率だけではなく、他の定性的・定量的な指標も必要であるというふうに、レポートでは言っているところでございます。また、サーベイの公表を通じまして、監査事務所への改善が必要な分野への対応を促しているところでございます。
続きまして、15ページでございますけれども、IFIARで議論されておりました、品質管理を確保するための取組の例として、5項目紹介しております。
1つ目の監査法人のガバナンス・コードは、監査法人の組織的な運営によりまして、監査品質の向上を図るというものでございまして、イギリス、オランダ、日本で採用されております。イギリスについては、次ページ以降で別途、紹介いたします。オランダにつきましては、そちらにございますとおり、関連する規制・法への統合がなされました関係で、コード自体は廃止されております。
2つ目の監査品質の指標、AQIにつきましても、次ページ以降で御説明させていただきたいと思います。
3つ目の共同監査につきましては、競争の促進の観点から、フランスでは義務づけられておりまして、オランダ等で導入が検討されております。日本は、競争の観点からではないというふうに承知しておりますけれども、以前より共同監査が実施可能というふうになっていると承知しております。
4つ目の監査人の選任と契約期間ということで、独立性の強化によりまして、監査品質の向上を目指すというものでございまして、1つ目の矢じりが、いわゆるファームローテーションと呼ばれているものでございまして、EU諸国等におきまして、最長継続期間を10年としつつ、各国により様々な対応が取られているところでございます。こちらについては、我が国では導入されておりません。2つ目の矢じりのパートナーローテーションについては、既に我が国でも、2004年から実施されているところでございます。
最後、5つ目でございますが、非監査業務の制限につきましては、独立性確保の観点からのものでございまして、多くの国で非監査業務の制限が行われているところでございます。監査を行っている会社への被監査業務の提供を認めない、いわゆる同時提供の禁止ですとか、監査事務所に監査関連の被監査業務のみを認めている例などが見られているところでございます。
続きまして、16ページを御覧いただきたいと思います。16ページは、イギリスにおけます監査法人のガバナンス・コードの概要でございます。こちらにつきましては、2016年に改訂版が出されておりまして、20を超える上場企業の監査をしている法人を対象に、コンプライ・オア・エクスプレインのアプローチが採用されているところでございます。2017年3月に公表されております、我が国の監査法人のガバナンス・コードにつきましても、コンプライ・オア・エクスプレインのアプローチを採用して、現在、17の監査法人がガバナンス・コードを採用しているところでございます。
監査法人の組織的な運営を図ることによって、監査品質の向上を図ることなどを目指す、このコードの特徴的な原則の1つとしまして、2の内容の2つ目の丸に記載しておりますように、監査法人の監督機関に、独立非業務執行役員、INEを任命することを求めているところでございます。これは、我が国の監査法人のガバナンス・コードにも、同様の規定がございます。
近時、3のその他にも記載しておりますけれども、英国財務報告協議会(FRC)が監査業務部門、運営上の分離の原則を定めまして、その中で法人全体ではなく、監査業務部門のガバナンスに関しても新たな要件を追加しているところでございます。
17ページを御覧ください。この分離の原則は、ガバナンス・コードとは別にガイダンスとして出されたものでございまして、英国のBig4に対して、監査業務部門の運営上の分離を求めることで、監査品質の向上と、監査市場の強靭性の向上を図るものでございます。この原則は、監査業務部門にAudit Boardを設置して、そのAudit Boardの議長を監査法人外部の監査部門非業務執行役員、ANEが務めることなどを求めておりまして、監査業務部門を独立した立場で監視することを求めております。
また、財務面でもそちらにございますとおり、監査業務部門が他の部門と監査全体の間接費を公平に分担して、個別の損益計算書を作成することなどによって、他部門からの監査部門への影響を排除することを求めているところでございます。
続きまして18ページ目でございますが、監査品質の指標、AQIによる監査品質の評価について記載しております。
我が国では、日本公認会計士協会から、2018年にAQIに関する研究報告が出されております。その中で、監査品質は直接的に測定することは困難であるが、間接的ではあるものの、監査品質に関連する定量情報をAQIとして示すことにより、監査品質の向上に向けた取組状況に関する説明に具体性が付与されることが、想定されていると記載されているところでございまして、また、同研究報告の中では、下にございますとおり、AQIを監査事務所レベル、監査業務レベルに分類したり、監査への投入量であるインプット、それから監査のプロセス、及び監査の結果であるアウトプットの3つに分類することですとか、当局の検査結果などを含みます主なAQIの例が、説明されているところでございます。我が国でも、この研究報告に基づきまして、大手監査法人の出しております透明性報告書等におきまして、様々なAQIを公表する取組が行われているというふうに承知しております。
最後に19ページでございますけれども、我が国以外の主要国におけるAQIの検討状況を紹介しております。米国では2008年に米国財務省監査プロフェッションに関する諮問委員会(ACAP)が、PCAOBに対しまして、監査事務所等々と協議の上、監査品質とその有効性を測定する主要な指標を開発することなどを検討することを提言しておりまして、その後、民間団体であります監査品質センター(CAQ)が、AQIに対するCAQのアプローチを公表したほか、PCAOBがコンセプトリリースを公表するなどの取組が行われております。
英国におきましても、2008年にFRCが、監査品質の枠組みを公表して以降、2016年改訂の「監査事務所のガバナンス・コード」によりまして、監査事務所に対し、ガバナンスシステムの業績評価のためのKPIを導入し、透明性報告書において、KPIの達成状況を報告すべきことを規定しておりまして、2020年には、英国と他国でのAQIの利用状況を調査して、AQIのテーマ別のレビュー報告書として、公表しております。
シンガポールでは、会計企業規制庁(ACRA)が2020年1月より、ACRAのウェブサイトにおきまして、Big4と、その他の監査事務所に分けて、AQIの各項目の平均値を公表しているところでございます。
カナダでは、公共会計責任委員会(CPAB)がAQIの利用に関するパイロット・プロジェクトを実施しまして、監査委員会等からのフィードバックを受けておりまして、2018年にパイロット・プロジェクトを基に、監査委員会向けのAQIのガイダンスを策定しているところでございます。
最後に政府機関ではございませんけれども、国際監査保証基準審議会(IAASB)が2014年2月に監査品質のフレームワークを公表して、監査品質に影響を及ぼす様々な要因を、監査プロセスへのインプット、プロセス、アウトプットに分類することなどを、記載しているところでございます。私からの説明は、以上でございます。
○八田部会長
ありがとうございました。では次に、日本公認会計士協会の小倉副会長、小暮副会長、甲斐研究員から、御説明をお願いします。
○甲斐参考人
公認会計士協会研究員の甲斐と申します。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。それでは私から、まずIAASBが、去年12月に公表しました、ISQM1、ISQM2、それから、ISA220の概要について、御説明させていただきます。
資料の3ページを御覧ください。まず、IAASBが基準の改訂を行った背景を御説明します。スライドの上の部分を御覧ください。IAASBの品質管理関係の基準は、もともとISQC1、ISA220という、2つの基準からなります。ISQC1は、監査事務所レベルでの品質管理を扱う基準で、ISA220は、監査業務レベルでの品質管理を扱う基準です。これらの基準に対して、先ほどの御説明にもありましたとおり、改訂を行うべきという指摘がありました。例えば、品質管理システムの一部の側面、例えば、審査ですとか、システムの監視といった部分は、基準をもっと強化すべきという指摘がありました。
それから、特に小規模の事務所から、ISQC1は、定めなければならない方針等手続が、列挙されているような形になっていて、自分たちに合わせてどう適用すればいいかが不明瞭なので、もう少し状況に応じて柔軟に適用できるような基準にしてほしいというような指摘もありました。
そこで今回、IAASBは、品質マネジメントという新しいアプローチを導入することにしました。真ん中の箱で記載させていただいたとおり、このアプローチの最大の目的は、監査事務所のリーダーシップによる積極的な品質マネジメントを強調することです。また、事務所の規模等にかかわらず、適切な形で適用できるように、基準の適用の柔軟性が図られています。この趣旨を受けまして、基準の中では、今まで英語でクオリティー・コントロールという表現を使っていたのですが、それが全部、クオリティー・マネジメントという表現に変更されています。それを受けて基準のタイトルも、ISQC1からISQM1に変更されました。
スライドの下に、今回公表された基準の構成を記載させていただいています。今回、ISQM1、ISA220に加えて、新しくISQM2という審査の基準が新設されております。
資料の4ページを御覧ください。以降のスライドで、ISQM1、事務所レベルの品質マネジメントに関する基準の内容について、品質マネジメント・アプローチの部分を中心に、御説明いたします。スライドの真ん中のボールの形の図は、品質マネジメントシステムの構成要素の全体像を示しています。ISQM1では事務所に対して、高品質の業務の一貫した実施を確保するため、この8個の構成要素で構成される、品質マネジメントシステムをデザイン・適用して運用することが求められます。具体的には、事務所に対してリスク評価プロセスを通じて品質目標を設定、品質リスクを識別・評価して、対応をデザイン・適用することを求めています。それから、監視・改善プロセスによって、不備の評価とシステム改善を求めています。各監査事務所が、PDCAサイクルを回して、環境変化や状況に応じて、システムの積極的かつ継続的な改善を行うことを促すものになっています。また、今回のISQM1は、これらの品質マネジメントシステムの構成要素に関する規定が中心になっていますが、それ以外に、例えば、ネットワーク、品質マネジメントシステムの評価の規定定められております。
資料の5ページを御覧ください。以降のスライドで、品質マネジメントシステムの各構成要素について、説明させていただきます。まず、監査事務所のリスク評価プロセスです。ISQM1では、監視・改善を除いた6個の構成要素に関して、この品質リスク評価プロセスを通じて品質目標を設定、品質リスクを識別・評価して、対応をデザイン・適用することが求められます。品質目標については、基準の中で、全ての事務所に設定が求められる品質目標が、構成要素別に記載されております。これらは包括的なので、基本的にはそれらを設定することで足りるとされています。ただし、もしISQM1の目的を達成するのに追加の品質目標が必要な場合には、追加設定が求められます。
品質リスクについては、品質目標と違って、事務所に必ず識別・評価が求められる品質リスクが基準上で記載されているわけではなく、識別・評価する際の枠組みを示して、各事務所に識別・評価を求めています。
対応については、全ての事務所にデザイン・適用が求められる対応が、基準の中で設けられております。ただし、ISQM1に記載されている対応は、基準に記載された品質目標の記載だけだと必要なことが分かりづらいものを記載しているに過ぎないので、必ずそれ以外にも、システムの目的を達成するために必要な対応を、各事務所で設定することが求められます。
このような形にした理由は、先ほど、お話したとおり、今回の改訂の1つの理由に、事務所の状況に応じて基準の柔軟な適用を可能にすることがあるためです。IAASBは、よくこれをスケーラビリティーと呼んでいるのですが、このスケーラビリティーを確保しつつ、全事務所において、高品質の業務の一貫した実施のために適切なシステム構築がなされるということを確保するため、品質目標は事務所の規模等にかかわらず一定とした上で、それに対処するための具体的な対応は、自分たちの状況に応じて適切な形で設計するということを求めております。
資料の6ページを御覧ください。次に、品質マネジメントシステムのその他の構成要素について、説明いたします。まず、ガバナンスとリーダーシップです。今回のISQM1では、トップが品質を重視する姿勢や、事務所のあらゆる側面での品質の重視というものが強調されております。また、リソースに関しては、ISQC1では、人的資源の部分しか扱っていなかったのですが、現在の環境に合わせた基準の現代化の一環として、今回、テクノロジー資源や、知的資源を新たに扱っています。また、外部とのコミュニケーションについては、これまでは特にISQC1で明示的に扱われていなかったのですが、今回、構成要素として、情報とコミュニケーションという形で扱われております。
資料の7ページを御覧ください。次に監視・改善について、御説明させていただきます。システム全体の監視について取り扱う形で、大幅に強化されています。監査事務所は発見事項を評価して、不備が存在するか決定すること、また、根本原因分析を実施することが求められます。また、不備を識別した場合には、不備に対処する是正措置をデザインして、それを適用することが求められます。
スライドに記載していないのですが、一点追加で御紹介させていただきます。冒頭にも御説明したとおり、今回、品質マネジメントシステムを導入した趣旨は、事務所自身が、プロアクティブに品質をマネジメントすることが狙いです。この趣旨が生きるためには、この監視と改善が意味のある形で機能することが非常に重要です。そこで、ISQM1の中で、少し工夫がされていますのが、この監視活動に関する説明において、不備が識別されることは珍しいことじゃなく、むしろ、品質マネジメントシステムの重要な側面だということを説明しています。不備の識別が、過度にネガティブに受け取られて、なるべく不備は識別しないという方向になると、この品質マネジメントシステムの趣旨が、骨抜きになってしまいます。そこで不備の発見は、別に悪いことではないので、長期的な改善のために、積極的に識別してくださいというメッセージを出しております。
資料の8ページを御覧ください。こちらのスライドでは、品質マネジメントシステムの構成要素以外の主な内容を御紹介しています。まず、品質マネジメントシステムの評価です。先ほどの御説明にもありましたとおり、ISQM1では、監査事務所の品質マネジメントシステムの責任者に対して、品質マネジメントシステムの評価を、少なくとも年に1回行うことを求めています。また今回、ISQM1では、ネットワークに関連した要求事項が設けられまして、監査事務所に対して、ネットワークからの要求事項等を理解すること、それらをどう適用する必要があるのか評価するといったことが、求められております。
資料の9ページを御覧ください。次に、審査に関する規定を定めているISQM2を御紹介します。冒頭で申し上げたとおり、今回、審査に関する基準を別にすることで、審査の重要性を強調して、内容の強化を図っています。ただ、審査対象とすべき業務の範囲の決定についての規定は、ISQM1に残っています。ISQM2は、それ以外の審査担当者の適格性、審査の実施といった部分を扱っております。こちらのスライドの下の部分で、ISQM1で要求されている審査対象の業務の範囲について、説明しています。記載した3つについて審査を求める方針手続を、事務所として定めるということを要求しています。
資料の10ページを御覧ください。以降のスライドで、ISQM2に含まれる審査に関する規定を紹介しています。まず、審査担当者の適格性として、先ほども御説明があったとおり、業務執行責任者が関与していた業務の審査担当者になることの制限が設けられております。これは、クーリングオフ期間と呼ばれています。言わば、審査担当者の監査チームに対する客観性という観点から入った規定です。具体的には、最低限2年としています。また、審査の実施については、例えば審査担当者は、業務期間中の適切な時期に審査を実施するといったことが強調されております。
資料の11ページを御覧ください。次に監査業務レベルでの品質マネジメント基準である、ISA220の改訂について、御説明いたします。まず、監査責任者の品質に対する責任の強化のための改訂が行われまして、監査責任者が、監査の過程を通じて十分かつ適切な関与を行うということが求められ、これを確保するための各種改訂が行われております。
資料の12ページを御覧ください。今回、監査チームの定義が改訂されています。現行の監査チームの定義は、監査チームメンバーは、当該監査業務に従事する監査事務所またはネットワーク・ファームに所属する者とされています。ただこれでは、現在、監査チームの在り方が様々になっているということを捉え切れていないという指摘を受け、これを変更して、当該監査業務の監査手続を実施する者と定義しています。結果、例えば、ネットワーク・ファーム外の構成単位の監査人も、当該監査業務の監査手続を実施する場合には、監査チームメンバーに該当することになります。
資料の13ページを御覧ください。最後に適用日を説明いたします。適用日は、2022年12月15日です。具体的には、ISQM1に従った品質マネジメントシステムは、2022年12月15日までにデザイン・適用しなければならないとしています。デザイン・適用と、いわゆるインプリメントまで触れていて、運用、いわゆるオペレーションというところに触れておりません。これは今回、先ほど御説明したとおり、ISQM1では、毎年、品質マネジメントシステムの評価が求められます。よって、運用まで入れてしまうと、適用日の時点で1年間、言わば既に回していないといけないというようなことになってしまいます。そこで、適用日の時点では、システムをデザインして、スタートできる段階になっていればいいということを示しております。これらの基準は、去年12月に公表されましたので、結果、適用までに2年間の適用準備期間が設けられております。これは、IAASBとしても、この改訂はシステム全体に影響するためインパクトが非常に大きくて、特に導入初年度は大変ということで、それを考慮した十分な適用期間を設けようとしていること、それから、特にISQM1の適用日の書きぶりにも注意したということが、いえるかと思います。私からの説明は以上です。
○小倉参考人
続いて、公認会計士協会副会長の小倉でございます。現行の協会実務指針と、ISQMとの主要な相違点に関しては、15ページを御覧ください。最も大きな相違は、冒頭に記載の品質マネジメント・アプローチの新たな導入ですが、詳細として記載の点があります。先ほど、甲斐さんからも御説明がありました。
16ページは、審査に関する相違点をまとめています。
18ページは、監査契約の新規の締結及び更新を例に取り、基準の記載を比較したものです。下の段の囲みにあるように、現行は品質管理の構成要素に関わる方針と手続を定め、その遵守を確かめることを求めていますが、ISQMでは品質目標を設定し、品質リスクの識別と評価、リスクへの対応は、各監査事務所の状況を考慮して設定することを求めています。
続いて、ISQM適用上の検討課題を御説明します。20ページを御覧ください。監査事務所は、監査の基準に準拠して、適切な監査報告書を発行することが求められており、ガバナンス・コードを採用してきた監査法人においては、これまでも監査品質の確保のため、実効的な組織運営に取り組んできています。しかし、コードを採用している監査法人は17事務所と、いまだ一部にとどまっています。協会としては、ISQMの適用と合わせ、上場会社監査事務所として必要な組織運営の在り方に関しても、検討を行っていきたいと考えています。
ISQMでは、品質目標を設定し、品質リスクを評価し、リスク対応を行うという手続になります。その後、監視活動を通じて不備を把握します。概念としては、多くの事務所が取り入れていますが、品質マネジメントシステムに関する文書化の要求事項を充足するためには、多くの工数及び時間を要すると考えます。特に中小規模の監査事務所については、適用の実効性確保のために、実務上の課題を検討する必要があり、そのための十分なアウトリーチを実施していただきたいと考えています。
基準の適用時期に関しては、大手監査法人の場合、海外のネットワーク・ファームの適用時期に合わせて導入することが想定されるため、早期適用ということが考えられます。他方、中小規模監査事務所においては、先述のとおり、導入に時間を要することが想定されるため、強制適用時期の配慮を検討いただきたいと考えております。段階的な適用も考えられると思います。協会では、中小規模監査事務所に対する導入の支援が課題であるという認識をしております。
審査の基準に関しては、国際基準では、ISQM2として独立した審査の基準が設けられていますが、我が国においても審査の重要性に鑑み、品質管理基準とは別に審査の基準を設けるか否かが、一つの論点になると考えています。協会の実務指針は、ISQM1と2を独立して設けることを考えています。
21ページを御覧ください。審査に関しては、対象範囲の見直しを行うことも考えられます。先ほどの甲斐さんの御説明にもございました。現行では原則として全ての監査に審査が要求されていますが、国際基準の定めと相違しています。品質リスクに対する対応として、複雑ではない企業に対する監査や、大会社等以外に対する監査について、今後も審査を要求するのか、今一度検討することも考えられます。なお、過去において審査の対象範囲の緩和に関して議論した結果、幼稚園等、一定の任意監査を免除することになっていると理解をしております。私からの御説明は、以上でございます。
続いて、小暮副会長から、御説明をさせていただきます。
○八田部会長
よろしくお願いします。
○小暮参考人
日本公認会計士協会副会長の小暮でございます。引き続きまして、私のほうから、自主規制部門を担当しております関係で、品質管理レビューについて御報告させていただきます。
スライド3ページになります。まず、品質管理レビュー制度の内容でございますけれども、公認会計士法の趣旨を踏まえまして、自主規制として運用しております。こちらは、1999年度から実施されておりまして、2003年に法定化されております。
品質管理レビューの性格でございますが、指導及び監督ということでございまして、摘発もしくは懲戒を目的とするものではないということで、協会としては、監査事務所が表明した監査意見の形成に介入することを目的とするものではないということでございます。この後、指導及び監督という視点で、御説明のほうをさせていただきたいと思います。
スライド4ページになります。こちらで、先ほど、審査会からも御説明いただきました似たような図でございますけれども、レビューの関係図を示させていただいております。こちらでは、監査事務所に対する品質管理レビューを実施しているわけなのですが、その点については、右下の青い四角のところにあります、公認会計士・監査審査会のモニタリングを受けているというところでございます。
審査会に対しましては、品質管理レビューの状況の報告につきまして、月次及び年次で報告のほうをさせていただいておりまして、加えてこの定期報告のほかに、実務者レベルでの意見交換を通じましてモニタリングをいただいているということで、そこでいただきましたフィードバック等も踏まえまして、我々の改善に努めているところでございます。
スライド5ページになります。品質管理レビューの性格及び種類でございます。こちらは、通常レビューと特別レビューということで、種類を右の表の中に書かせていただいております。通常レビューは定期的に実施しておりますけれども、特別レビューのほうは、臨時的に実施するということで、こちらは2020年度の改正で内容が大きく変わってございまして、今の進行年度から、適用のほうを新制度で進めているところでございます。こちら、従来は社会的信頼を損なうおそれがある事態に陥った場合ということで、極めて限定的に使われていたものでございますけれども、これを弾力的に幅広く使える形で、今年度から適用しているところでございます。
スライド6ページになります。こちらでは、通常レビュー対象監査事務所は、どれぐらいの数をやっているかというところだけ御参考に見ていただければと思います。監査法人として144、うち括弧内でございますけれども、上場会社監査事務所名簿の登録事務所で128という形で、トータルは下の合計欄に書いてあるような数字のところで、レビューのほうの対象とさせていただいております。
ちょっと飛ばさせていただきまして、8ページのほうにお進みいただけますでしょうか。こちらでは、改善勧告書と改善計画書ということで、不備が発見された場合には、改善勧告書というのを出させていただいているわけなんですけれども、改善勧告事項がある場合には、監査事務所に改善勧告書を交付し、この後、一定の場合には、改善計画書を作成していただくということにしております。その内容については、実効性を高めるためにレビューアーのほうで指導を行っていくということで、不備の指摘をした後に、改善を計画していただき、その実行状況を、また見ていくという形でのサイクルを回させていただいているところでございます。
スライド9ページになります。こちらで今申し上げました、改善状況の確認の制度につきまして、ここも若干、今回の制度改正があったところでございますので、触れさせていただきます。通常レビューを実施した結果、不備事項しか認められない場合ということで、まず、不備については、一番軽いものが不備事項で、その上で重要な不備事項、極めて重要な不備事項という3つの類型で分類しておりますけれども、その中の一番軽い不備事項しか認められない場合には、自主的な改善を尊重するという運用に、今回からさせていただいております。しかしながら、改善不十分の懸念があるときには、通常レビューまたは改善状況の確認を実施していくという運用になっております。
また一方で、極めて重要な不備事項、または重要な不備事項が認められた場合には、原則として翌年度に通常レビューまたは改善状況の確認ということを行っていくことにしております。
なお、従前の制度といたしましてフォローアップ・レビューというのを実施しておりましたけれども、こちらを置き替える形で、今の御説明した運用に変えております。したがいまして、フォローアップ・レビューというのは、2019年度をもちまして廃止しております。
続いて、スライド10ページのほうに移っていただけますでしょうか。先ほど、個別の取組をお示しさせていただきましたけれども、10ページのほうでは、協会全体としての取組をまとめさせていただいております。レビューで把握した問題事項につきましては、監査法人の品質管理責任者との意見交換会を定期的に実施しているわけなんですけれども、こちらとか、あるいは協会主催の全国研修会におきまして、会員への周知を図っておるところでございます。また適宜、協会内のそれぞれの施策を行っている委員会とも連携して、改善につながっていっております。
それからすみません。ちょっと飛ばさせていただきまして、続いて、13ページになります。13ページで、上場会社監査事務所登録制度について、御説明させていただいております。こちらは、2007年4月から、上場会社監査事務所登録制度というのを導入しておりまして、こちらでは、名簿を備えておきまして、この名簿については一般に公開しているという状況でございます。この名簿の登録の可否等、この登録に関する措置は、品質管理レビューの制度に組み込んだ制度として運用しているということを、ここではお伝えさせていただきたいと思います。
以上が大まかな制度でございまして、また飛ばさせていただきまして恐縮でございますけれども、17ページでは、品質管理レビューの実施状況及び実施結果ということで、通常レビューの結果に基づく措置というのを御説明させていただいております。こちらは、2019年度までの従前の制度で、まず実績の出ているところを御説明させていただいている資料でございまして、レビューの結論等、ここに書かれている類型に沿いまして、このような数の結論を表明させていただいているということでございます。これにつきましては、2020年度、今年度から制度改正しておりまして、結論の表明の仕方が変わっておりますけれども、おおむねこの類型に近いところでの運用をしているということで、御理解いただければと思います。なお、この表の中の括弧書きの中は、上場会社監査事務所登録事務所に関するものでございます。
続きまして、18ページにになります。今まで御説明した品質管理レビューの実施状況を踏まえまして、総合的な見方ということでの評価を、18ページにまとめております。まず、今の限定事項つき結論という、ちょっと分かりづらい言葉で恐縮でございますけれども、何らかの問題があるという意見が表明された事務所に共通することとして、監査品質を重視する風土が醸成されていないですとか、組織的な監査を実施する体制が整備されていないといった根本原因が見て取れるということで、その結果として、監査責任者による指示・監督、監査調書の査閲並びに審査が有効に機能していない、定期的な検証をしていないなどとして、監査事務所としての品質管理に不備があるという結果から、個別業務においても、こちらにあるような不備が散見されているというところでございます。これは先ほど、審査会のほうでも根本原因ということでお話がありましたけれども、下のほうから遡っていくと、根本原因というところで、一番上のところにたどり着くというような評価になっております。
それから19ページでは、通常レビューの実施結果の中で、大体こんなような領域で不備が出ていますと。これは先ほど審査会のほうでも御説明されていたような内容と同じという感じでございます。
最後に21ページで、御説明させていただきたいと思います。21ページは、今までのレビューを振り返りまして、これは毎年やっているわけなのでございますけれども、今年でいいますと2019年度の振り返りとして2020年度のレビューでは、こんな点を中心に見ていきますということで、これは会員にもあらかじめ公表いたしまして、ここを中心に見ていきますよということでレビューに入らせていただいているということでございます。赤い字で書いてあるところが、今年のトピック的なところでございますが、先ほど、ローテーションの関係で出てきますが、来年度から導入されるところのチームメンバーローテーションに先立って、整備状況の確認をしていくですとか、こういった前広に整備状況を確認していくということも含めて、いろんな視点で重点施策に入れております。また下のほうでは、内部統制のところとか、この辺は不適切な会計事案が出ているところで、会社の内部統制も、しっかりこの辺を確認していく必要があるだろうという会長声明等を受けまして、このような施策を入れているところでございます。
このような形で、いろいろ協会内の施策、あるいは従前に出てきた不備事項等を踏まえて、レビューのサイクルを回している御説明をさせていただきましたが、ちょっと資料が幾つか割愛させていただく形での説明になりましたけれども、申し訳ありませんが、適宜、その他については参考にしていただければと思います。私からは以上でございます。どうもありがとうございました。
○八田部会長
どうもありがとうございました。それでは、これまでの御説明も踏まえまして、我が国における監査の品質管理に関する課題や、今後、議論すべき論点について、幅広い観点から御質問、御意見をお願いいたします。なお本日、急遽御欠席の岡田委員、そして途中退席された中西委員からは、メモの提出がございました。委員の皆様には、事前に事務局から配付させていただいておりますので、読み上げは省略させていただきます。若干、時間が押してまいりましたので、御質問、御意見等は手短に要領良くお願いしたいと思います。
水口委員、どうぞ。
○水口委員
ありがとうございます。水口です。3つのポイントで、お話しさせていただきます。
第1点目は、監査法人・監査事務所のリスク評価プロセスについての意見です。グローバルな動向に目を向けても、不適正会計への事例が散見される中で、事務局から御説明いただいたような様々な検討がなされ、報告書が出されてきたということを再度確認させていただき、ありがとうございました。こうした流れの中で、監査法人のガバナンス・コードの策定をはじめとした、様々な施策が取られてきているわけでありまして、監査品質に関する資本市場関係者の意識は、確実に高まっているということを評価しております。ここで歩みを止めることなく、監査品質に焦点を当てて、継続的に資本市場の信頼性の確保に向けた諸施策を取ることが肝要であると考えます。コロナウイルス感染症の影響も含めて、企業を取り巻く事業環境の不確実性が高まっており、経済取引の国際化や、財務諸表作成において基礎となる会計基準の複雑化などを背景に、会計上の見積りに関わる不確実性の高まりなど、看過できないと考えております。
こうした環境下で監査人は、自らの監査品質目標の達成を阻害する品質リスクを識別・評価して、不備の根本原因の特定や対応方針、手続を定めて運用していくといった、振り返りを伴う改善を繰り返すPDCAサイクルを介して、的確な監査リスクの評価、監査リスクに見合った実効性のある品質管理体制を構築して、継続的に施策を講じることが重要であると思います。
こうした旨を踏まえた品質管理基準などの改訂も視野に入れて、さらに資本市場関係者の意識づけを強化することには、大いに意義があると考えます。監査法人が、環境変化を踏まえた品質管理の維持・向上に資する力量を有する人材の確保した上で、組織内での力量を有する人材の知見を共有化することで、品質管理システムの安定化を図り、グローバルネットワークの知見の有効活用や、ITの駆使などを伴う総合的な目利き力を磨いて、監査人がしっかりと職業的懐疑心を発揮し得る体制を継続的に維持していくのか、大いに注目しております。
2点目は、監査法人・監査事務所の規模や特性に応じた品質管理体制についての意見です。各法人・事務所の規模や特性に応じて、品質管理体制を総合的に、かつ実効的に機能させていくことが非常に重要であると思っております。不備の内容は、監査法人・監査事務所間で違っているので、各法人・事務所で改善に資する施策も異なると考えております。
例えば先ほど、野村室長からも御説明があったところではありますが、公認会計士・監査審査会の監査事務所検査計画事例集でも、大手監査法人については不備の根本原因として、品質管理体制は整備されているけれども、その運用の実効性に課題があるケースが指摘されていたりしますが、その一方で、ある中小規模監査事務所については、最高経営責任者が、法人トップとして組織的に監査の品質を確保するという意識が欠けているとか、監査事務所の監査業務の現状を踏まえた、実行的な品質管理システムを構築するためにリーダーシップを発揮していないといったような指摘があるといった具合で、数ある監査法人・事務所間で、品質管理体制の在り方に差異があることは明白だと思います。資本市場は、上場企業を監査するには、監査事務所は相応の水準の品質管理体制を有しているという前提であると受け止めているのですけれども、その実態について検証したいと思う資本市場関係者は少なくないと考えております。
最後3点目ですが、監査品質などに関連する情報開示についてです。高い監査品質に裏づけられた財務諸表は投資判断に不可欠でありまして、財務諸表利用者にとって監査品質に関する情報発信を歓迎するところです。任意であっても、監査法人が透明性報告書の内容を財務諸表利用者に説明する機会を設けていただけることを大いに歓迎しております。また、監査品質に関するPDCAサイクルを踏まえた透明性報告の内容は、少なくとも被監査会社の監査役に説明している状況であると認識はしておりますが、こうしたプロセスの実効性を高めていくことも、考察に値するのではないかと考えております。
また、分析対象となる財務諸表の情報品質の確保の観点から、事業上のリスクについての知見を有しており、高い監査品質を実現できる監査法人を選定した上で、自らの監査リスクに見合った監査報酬を支払う企業の姿勢を大いに歓迎するところでございます。こうした視点から、監査人の選任・解任の理由や、リスクに見合った適切な監査報酬の支払いの実態なども、確認したいと思っておるところであります。また、KAMを有効活用することなどで、監査品質について推し量ることにもつながる開示というものも、視野に入り得るとは思います。以上です。
○八田部会長
どうもありがとうございます。大変幅広の御意見をいただきました。
では、続きまして、林田委員、お願いいたします。
○林田委員
ありがとうございます。品質管理レビューですとか、審査会検査について新しい知識を得られまして、大変有意義でした。
御説明にもあったように、品質管理については様々な観点があると思うのですが、私はメディアの人間なので、どうしてもニュースになるような不正な事例が出て、それによって会計監査に対する信頼が低下しないかという懸念が、やっぱり最大の関心事になっています。皆さん御承知のように、カネボウ、オリンパス、東芝と、いろいろな不正があり、その間、不正リスク対応基準の策定などでいろいろな努力をしてきたと。業界の方々も、いろいろと検査などを充実させてきたということなのですが、昨年8月に、ある新聞に掲載された新聞記事で知ったのですが、2020年3月期の会計不正は101件、前期より7割増えていると。5年前の3倍になっていたということです。
これには、内部通報制度が浸透して、不正が表面化しやすくなったといったプラス面もあるという説明もありましたけれども、私のようなインナーではない人間からすると、また不正なのかと、増えているのかと、会計監査は何をやっているのかと、財務諸表は信用できるのかといったような、受け止め方をどうしてもしてしまいます。無論、大半の監査人は、様々な情報を精査した上で、最大限の努力をしていると思いますし、企業が意図的に情報を隠蔽した場合には、なかなか見つけるのが難しいということは理解しているつもりです。ただ、件数が右肩上がりになっている以上、不正防止の制度上の創意工夫というのが、求められると思っています。
監査品質を上げる観点としては、いろいろあると思います。私には、網羅的に申し上げる能力はございませんが、3つに絞って申し上げたいと思います。
1つ目は、十分な情報の確保をするということが欠かせないということです。その観点で、一つ心残りに思っていることがありまして、2013年の不正リスク対応基準策定の際に、監査法人間の引継ぎについて事務局の当初案では、跡を継ぐ後任の監査法人に伝達すべき事項として、不正の疑いのあった項目、企業と争点になった項目などと、かなり具体的に例示されていました。ところがまとまった基準では、企業との間の重要な意見の相違等の監査上の重要な事項ということになりまして、私も当時はこんなところかなと思っていたのですが、その後「重要な」というのに2つフィルターがかかっていました結果、前任監査人が、これは重要ではないと判断したということにしてしまえば、伝達されない余地がかなり広がったと。この背景には、何か監査のノウハウみたいなものを、他社に知られたくないというようなこともあるというようなことも耳にしておりまして、これですと、本当に重要な情報が行っているのかなと。この辺を、もう少し何かできないのかなということを感じています。品質管理基準の要求事項の中に、監査事務所間の引継ぎも規定されておりますけれども、これも割と曖昧な表現になっていますので、その辺りをもう少し何か具体的に書けないのかなという問題意識を持っています。
2つ目の観点として、中小監査法人を含めた全体としての監査能力のアップという方策がないかということです。公認会計士協会なども、いろいろと取り組まれているように、今、お聞きしましたけれども、さらに実情などを詳しくお聞きしながら、方策を私としても考えていきたいと思っています。とりわけ、事務局からの御説明にもありましたが、デジタル化などが進んでいる中で企業活動を調べる際には、ITなどの知識も必要になってくると思いますし、そうした人材をどう確保し、理系の人間を監査業務というものになじませていくにはどうしたらいいかといった課題もあろうかと思っています。
最後に3点目ですが、企業と監査法人との間に暗黙の信頼関係みたいなものができて、悪い言い方をすると、慣れ合いみたいな関係になり、ついもう一歩踏み込んだ監査ができなくなると、行われないというリスクがあるように思っています。これを防ぐ強制ローテーションの議論というのが、これまでも浮かんでは消えてきたわけですが、海外でも対応が取られているということでありますので、その効果なども検証しながら、そろそろ本格的に検討してみてはどうかというのが、私の意見です。以上です。
○八田部会長
どうもありがとうございます。
それでは、今給黎委員、お願いします。
○今給黎委員
日立製作所の今給黎でございます。御説明ありがとうございます。近年、監査の透明性や、監査品質の向上に関連して、監査法人の監査品質報告書でありますとか、品質管理レビューの企業への御説明など、私どもも監査品質に触れる機会が増えてまいりましたが、こうしたことは、企業のガバナンスと共通するところもあるように思います。
ISQMの議論で、少しコメントさせていただきたいと思います。実際の国内監査現場への影響について、新たに監査法人に、どの程度の負荷がかかることが想定されるのか、その波及も含めてという観点でございます。御説明にございましたけれども、特にリソースが限られている中小監査法人の対応の在り方、上場企業の監査にも相当数の国内監査法人が関与されておられると伺っておりますけれども、監査の高品質とリソース不足の両立といいますか、そのレベル感については、少し方向性の整理が必要なのではないかと思われます。
それと、リスク評価プロセス、あるいは品質マネジメントと、言葉だけを見ますと、内部統制の実務を想起してしまうところがあるわけですけれども、15年ほど前にSOXが導入されたときには、膨大な文書化と大量のチェックということで、監査人の工数も含めまして業務工数が大幅に増加して、その対応に忙殺された記憶がございます。また、その後も、とかく内部統制プロセスの形骸化のリスクが常に懸念されているわけでございます。
一方で、内部統制導入のメリットという点では、プロセスの標準化や可視化あるいは共有化が進んで、現在のデジタル・トランスフォーメーションに至る業務プロセス高度化・効率化につながってきたという面もございます。今回の議論を通じて、監査の品質レベルの向上と効率化は、引き続きお願いしたいところでありますけれども、先般、KAMも導入されて、企業と監査人がコミュニケーションの強化も新たな枠組みで取り組んでいるところでございますので、会計監査人が、監査法人の内部管理に忙殺されて、会計監査の現場が混乱することのないよう、杞憂かもしれませんけれども、慎重な議論と対応を、ぜひよろしくお願いしたいと思います。以上でございます。
○八田部会長
どうもありがとうございます。
それでは、続きまして、紙谷委員、お願いいたします。
○紙谷委員
紙谷でございます。ありがとうございます。私からは、ISQM1について、今日は申し上げたいと思います。
私は、所属する監査法人におきまして、経営陣の一員としまして、品質管理を3年半、リスク管理を1年半担当しております。私のような監査法人の経営陣は、常に監査品質をどのように向上させるか。ある意味、1年中ずっと考えているというところです。監査品質の向上に向けては、いろいろなことをやっておりまして、例えば、個別の監査手続の実施方法とか、監査調書の在り方みたいな、そういった技術的なことも検証を行っているのですが、そのようなことは、ある程度は効果があるのですが、一定以上になると、そういった技術的なことをやっても、改善がなかなか難しいという壁にぶつかります。そういった壁を越えるためには、ISQM1で挙げられているような契約の更新とかリソースといった項目に、マネジメントの観点から対応することが重要と考えておりまして、そちらのほうに今は力を入れて、対応を行っているところでございます。
今回、国際基準がISQC1からISQM1になったところでして、ISQM1では、より実質的なリスクに対応するように、品質改善のサイクルを動的に回していくということが求められていると理解しておりまして、それはまさに監査法人として取り組んでいることでございます。その意味では、今回の国際基準の変更は、監査法人の経営陣の一員として、大変納得感があるものでございます。
このISQM1の実務面なんですけれども、ちょうど2年前、私が所属するグローバルネットワークで、どのようにこのISQM1をグローバルベースで対応するかと、検討する会議がありまして、私自身、そこに参加しておりました。そこでは、グローバル展開プランというのをそこで策定しまして、その後、今は準備を進めているという段階です。日本としての対応を始めているという段階でございます。スケーラビリティーがあるというところで、取組方法はいろいろあると思いますけれども、私が所属するネットワーク・ファームでは、しっかり対応するというところでして、正直申し上げて、作業量というのは結構たくさんありまして、そこは結構大変なものになっております。ただ、ISQM1で求められている評価作業をこなすのが目的ではなくて、先ほど申し上げたような、より実質的なリスクに対応するように、品質改善のサイクルを動的に回していくと、ここが重要だと思っておりますので、単なるコンプライアンスとして捉えるようなことではなく、監査品質の向上という実をしっかり取っていくと。そのように向き合っていくのが適切と考えております。以上です。
○八田部会長
どうもありがとうございました。
それでは続きまして、大瀧委員、お願いいたします。
○大瀧委員
ありがとうございます。SMBC日興証券の大瀧です。利用者の立場からコメントいたします。
今期末からの監査上の主要な検討事項、KAMの適用が始まり、既に早期適用をしている会社もあって、財務諸表利用者の会計監査に対する関心は高まるとともに、会計監査への理解も深まっていくと考えております。我が国の監査の品質管理につきましては、不正リスク対応基準や、監査法人のガバナンス・コードなど、これまでも先進的に取り組んでいると理解しております。国際的な監査基準の改訂を踏まえ、よりよいものを取り入れていくということに賛同しておりますし、今後の議論に期待したいと考えております。
私からは、監査事務所の品質管理強化の実効性に関して、2点、国際的な監査に関する基準への対応について、1点コメントいたします。
まず、監査法人の品質管理強化の実効性についてです。現在、日本公認会計士協会さんは、品質管理レビュー等の実施とともに、資料3-2の13ページに記載されていますように、上場会社監査事務所登録制度を設けられており、現在120弱の監査事務所が登録されていると思います。財務諸表利用者としては、上場会社の監査を担当する監査事務所は、今後も基準に準拠した一定レベルの品質管理を、整備・運用していただきたいと考えております。資料3-1の20ページに、基準適用上の検討事項を示していただいておりますけれども、事務所の規模を勘案しながら、実効性が十分に担保されるよう検討していただきたく存じます。
また、実効性について、もう一点ございます。これまでも期末監査の集中化における監査手続の実効性の確保が、課題として取り上げられてきたと思います。また、昨今のコロナ禍により、これまでの決算実務や監査実務は、大きな変革を求められています。これまでの対面型の監査手続では想定されなかったリスクが顕在化し、追加的な監査手続が必要になるかもしれません。資料2-5ページにも記載されておりますが、形式的に基準に準拠するだけでなく、実効性を具備することが大切だと考えております。特に現場の監査チームの目線として、形式的に監査手続を終わらせる、またはレビューや検査で指摘されないことが目的となることがないよう、すなわち、職業的懐疑心が発揮され、実態に即して十分な監査手続がなされるよう配慮していただきたいと考えております。
最後にもう一点ですが、資料1にもありますように、各国で監査の信頼性確保に向けた動きがあり、ISQM1、ISAなどの監査に関する基準改訂がなされております。そこで、将来的に御検討していただきたいこととして、こうした監査に関する国際的な基準の公開草案が公表された際には、日本公認会計士協会さんが適切かどうか分かりませんが、概要でも良いので日本語訳を公表していただけないかということです。広く日本の利害関係者が関心を持ち、国際的な監査に関する基準改訂にも、開発の段階より様々な立場から積極的に意見発信することも重要ではないかと考えております。私からは以上です。ありがとうございました。
○八田部会長
どうもありがとうございました。
それでは、井口委員、お願いいたします。
○井口委員
ありがとうございます。御説明ありがとうございました。私も大瀧委員と一緒で、利用者の観点から本日のテーマの1つであります品質管理へのコメントと、あとは部会長からも幅広にというお言葉もありましたので、この機会に利用者から見ました、監査や組織的な管理のクオリティーの識別についてコメントさせていただければと思っております。
最初に品質管理、組織的な監査というと、2017年に監査法人のガバナンス・コードが定められまして、これ以降、監査法人での組織的な体制の整備のほか、私のような利用者にとっても、活動をよく理解させていただける透明性報告書などを出していただきまして、そういう意味では、すごく大きな進化があったと思っております。
利用者は、上場企業のガバナンス、とりわけ社外取の活動はいつも見ておりますので、監査法人のガバナンス・コードの原則3の監査法人内における社外の知見に資したモニタリングはいつも話題となるところです。そのほか事務局から御説明があった、AQIなど、様々な進展もありますので、上場企業のガバナンス・コード同様、必要に応じ、プリンシプル・ベースの監査法人のガバナンス・コードの変更の有無も検討してもいいのではないかと思っております。
もう一つですが、利用者にとっての監査や組織的な管理のクオリティーの識別というところになります。ここは御案内のように、利用者は企業不正とかが起こって事後的に見るというよりも、事前に見分けるというのが大事ですが、外部者ですので、これは非常に難しい状況となります。ただ、今回の早期開示のKAMを見て、KAMというのは、やはり、監査の質を見る大きな手がかりになるということと、監査法人さんによって取組に差がある、KAMに差があるとすると、監査法人さんの組織的な品質管理の差を見分ける手がかりになるのではないかというふうには感じました。
例えばのれんのKAMというケースを取り上げますと、財務諸表本表の計上額ののれんの額をそのまま掲載して妥当性を検証する、その検証方法もボイラープレート的になっている場合と、財務諸表の本表に掲載しております、のれん計上額の中身のプロジェクトまで掘り下げて、それについて妥当性を検証するといった、これは利用者にとっても非常に有用な開示となりますが、同じKAMの開示においても、クオリティーに大きな差があるという状況を確認しております。もちろん、このようなクオリティーの差というのは、前提となる企業さん自身の開示に大きく左右されているということも理解しますが、良い開示が可能になったという背景には、監査人から企業に、必要な開示なので開示してくださいという依頼ができて、それを企業に受け入れられるといった健全な関係があるのではないかと見ています。
そして、このような関係があれば、健全な監査業務の遂行が可能ということも想定できますし、良いKAMを比較的、多く出されている監査法人さんは透明性報告書に書かれている組織的な取組も実際に成果を上げているという判断も利用者としてできるのではないかとも思っています。ですので、利用者が監査法人の施策の成果を確認できるという点でも、KAMの開示というのは、非常に意味のある施策であったと思っておりますし、ルール設定においても、このような点も配慮いただければと思っております。以上でございます。
○八田部会長
ありがとうございます。
それでは、荻原委員、お願いいたします。
○荻原委員
豆蔵ホールディングスの荻原でございます。私は企業経営者、そして会計士という立場からお話をさせていただきます。16年にわたりやらせていただきましたので、その集大成という意味もあるんですけれども、私は非常にこれは難しいと思っていまして、自分が会社経営者という立場で、例えば今、2,200人いるのですが、その700人がパートナーであった場合、どうやってガバナンスや内部統制をつくるんだろうと思うと、ちょっと想像が及ばないですね。
これはもともと、監査法人の合名会社としての在り方から含めまして、非常に難しいテーマなんだと思っています。これは現場の先生方は、本当に大変だと思うんですけれども、例えば一つの方法として、パートナーの方々の、難しいグローバル企業とかリスクが高い企業、あるいは新興のIT企業のように、また別の意味でリスクの高いところ。そういうところを担当するパートナーに関しましては、利益責任を外してあげるとか、何かそういうことも必要なのではないのかなと。パートナー制度というのは、基本的に利益責任を皆さんは負っていらっしゃるので、そういうところで、相反することをやっていくことによって、この制度の難しさが出てくるのではないかというふうに、前から実は思っております。
また、もう一つ申し上げますと、このDX時代というのは、データの共有化と共通化が一番重要だと。そうするとデータが共有化・共通化されますと、基本的にこれからの世界というのは、権威や権力というのは崩れていくんですね。私は、企業側にも申し上げたいんですけれども、やはり経営者として、もう少しいろんな形で平等に意見を取り入れるという必要があると思っておりまして、会計士の先生方と経営者というのは、例え会計士の新人であっても社長がちゃんと接しなきゃいけない、会わなきゃいけないと。そういうことによって、データや意見、あるいは共有する土台をしっかりつくらなきゃいけないと。これは会計士の先生の難しさ、そして経営者の責任と、これの両方について私は述べたいと思っています。以上でございます。
○八田部会長
どうもありがとうございます。
それでは、弥永委員。お願いいたします。
○弥永委員
ありがとうございます。私は1点だけ申し上げたいと思います。監査の品質管理との関係で、スケーラビリティーという問題提起がなされております。公認会計士・監査審査会の検査結果などを見ますと、中小規模監査事務所には中小規模事務所なりの、大規模法人とは、異なるリスクがあります。そのような中で、スケーラビリティーをどのように具体化するのか。これは、かなり難しい問題であるように思います。負担が過重にならないようにするために、どのようにすれば、効率的・効果的に中小規模事務所による監査の品質を確保していけるのかを、今後、深く検討していく必要があるのではないかと感じました。以上です。
○八田部会長
ありがとうございます。
それでは、吉見委員、お願いいたします。
○吉見委員
ありがとうございます。北海道大学の吉見でございます。今日はちょっと別の会議がございまして、遅れて参加することになりまして、誠に申し訳ございません。
今回、この品質管理基準の改訂と言いましょうか、検討を始めるということでありますが、1つの視点として、なぜ今この品質管理基準なのか、その検討を始めるのかということがあろうかと思います。それにつきましては、もちろん国際基準の変更などがあり、その国際基準に本邦の基準も適合させていく必然性がある、必要性があるという視点が、一つあるということは承知しているところでございます。
一方でこの間、日本におきましてもやはり様々な不正の問題、大きなものでは東芝などの事例などが発生してきたということもございます。国際基準もさることながら、我が国に、やはり独特の、独自の問題、監査の品質管理に関わる問題というのも、やはり存在しているのではないかと思います。
その一つは、先般、不正リスク対応基準の中でも、監査人の監査契約の引継ぎに関連しては、品質管理の問題が織り込まれたところではございますけれども、その後、あるいは日本全体の状況をここまで見渡してみますと、品質管理全般について、国際基準によらない部分でも見直さねばならないポイントがあるのではないか、そういったことも、積極的に検討をしていただきまして、ある意味では、不正リスク対応基準がそうでありましたように、日本独自に基準として織り込まなきゃいけないことも、あるのではないかということでございます。
私が少し気になっているところを2点ほど申し上げますと、1つは、監査法人あるいは会計士が得る監査報酬の問題でございまして、この監査報酬がどうやって決まっていくのかということについて、やはり日本はなかなかこの部分が、果たして監査法人、監査人がその監査をするに十分な報酬を得ることができているのか。あるいは、監査報酬を決定するというプロセスの中で、本来、社会インフラとして極めて重要な財務諸表監査が、市場原理に任されるような形で監査報酬が決定されてはいないか。そこは、品質に関わる問題として考えておかなきゃならないことかなと、問題認識を持っております。
もう一つは、特に若い公認会計士の育成という問題であります。この間、若い公認会計士の方々が、監査法人から比較的早い段階で民間に移る。まだ十分な監査などのスキルを得ていないのではないかと思われる段階で、どんどん民間企業等に移っていくという現象が顕著になってきているかなという認識をしております。民間企業などで公認会計士が仕事を得るということで、これ自体は日本全体を考えたときに、決して悪いことではないと思うわけでありますけれども、一方で、やはり一定の監査に関するスキルや知識、そういったものを得た上で、社会に貢献していく会計士になってほしいというものがあります。
果たして今、そういう形になっているのかどうか。今後の監査法人、監査事務所の今後の監査品質が保てるのかという問題もございますし、あるいは日本全体の公認会計士、会計専門職が果たしていく役割という点で、その品質が保てるのかという問題もございます。特に若い会計士の方々が、監査の現場で十分なスキルを積み、そして社会に貢献できるような、そういう意味での監査品質を獲得していけるようなインフラをつくれるように、基準の面でも配慮する必要があるのかなと考えているところでございます。私からは、以上でございます。
○八田部会長
ありがとうございます。
それでは、住田委員、お願いいたします。
○住田委員
ありがとうございます。住田でございます。監査に対する期待というのは、適正意見が付された財務諸表を、常に安心して利用できる状態をつくり出すということだと思います。この監査に対する期待は、変わることがなく、ずっと監査制度創設以来、続いてきているわけですが、ただ、不正に対応する能力の向上などに顕著に表れているように、監査に対する期待水準自体は、上がってきていると思います。また、経済社会の発展に伴って、その監査に期待されている役割を果たすために必要な監査人のスキルセットや知識も大きく変わってきているというのが、現状だと思います。
監査というのは、最終的には監査人一人一人の力量とか、あるいは最終的にはセンスのようなものに依存するところが大きいわけですが、そういう属人的な部分をできるだけ少なくして、均質的に監査基準にのっとった監査を提供できる仕組みをつくるというのが、監査事務所に期待されている役割だと思います。そういう意味で、もう何十年も前から日本においても、監査事務所の品質管理システムの整備・運用が求められていて、監査事務所は、それにのっとってずっと努力はしてきていると思いますが、残念なことに、会計不正が出て、結果的に監査意見が間違っていたという状況が、先ほど数が増えているという話がありましたけれども、そういう状況が続いてしまっているということだと思います。
今回の国際基準の改正、ISQC1からISQMへの転換には、ISQC1というのが、どちらかというとルール・ベースっぽくつくられているようなところがありまして、小さな事務所にとっては、重装備的な感覚で受け止められている。一方、監査以外の様々な非監査業務をやっている大手監査事務所にとってみれば、基準はどうしても監査の品質管理に重点を置いて書かれていますので、それだけやっていれば、少なくともセーフなんだという、ミニマム思考的な発想がどうしても生まれてしまうというところが、多分、根幹にあるのかなと思います。
先ほど、J-SOXの話もありましたけれども、内部統制とかそういうものは、つくればいいというものではなくて、いかに魂を入れて、我がごとの問題として、品質向上につなげていくかというところが大事な点でありまして、今回のISQM1への転換というのは、そういうルール・ベースから、よりプリンシプル・ベースへの転換、コンプライアンス・マインドから我がことの問題として、品質管理をそれぞれの現場で定着させる、そういう意味のある改訂だというふうに受け止めております。
IAASBの説明文などを見ますと、QMへの転換は、個々の監査事務所は、業務内容も規模も様々ですので、それぞれが品質目標を決めて、それを脅かすリスクを状況に応じて識別して、対応するというところでありまして、テーラー・メード型の品質管理システムを、事務所に設置することを求めているということだと思います。ですので、ISQM1に込められている監査品質を重視する組織文化をつくるとか、トーン・アット・ザ・トップの重要性を強調しているという点は、我が国の監査法人のガバナンス・コードをつくったときと共通している問題意識でですが、コンプライアンス・マインドからの変革というのは、今、世の中が非常に大きく動いている状況ですので、重要性が増しているものと思います。企業側も非常に大きく動いておりますので、その流れに監査法人が置いていかれることなく、プロアクティブに前向きな品質管理をできるようにするというメッセージを、今、出すことが、非常に重要なのではないかと思います。
そういう意味で、いろいろな監査事務所が、「守りの品質管理から攻めの品質管理へ」など、さまざまなキャッチ・フレーズを用いて変革を標榜しておりますけれども、そういう流れを末端までといいますか、監査法人業界全体に広げるためにも、この改訂は非常に意味のあるものだと考えております。以上です。
○八田部会長
どうもありがとうございます。
それでは、熊谷委員、よろしくお願いします。
○熊谷委員
ありがとうございます。私からは品質管理に関してと、利用者の立場で、大瀧さんや井口さんから、KAMのお話とか出ておりましたけれども、KAMについてちょっとお話しできたらなと思っております。
この品質管理基準は、今の住田先生のお話からすると、ISQC1からISQM1に変わることによって、むしろ中小監査法人などでも、その監査法人の事情に応じた形で品質管理をやっているということかなというふうに理解致しました。ほかの委員の先生方からも、スケーラビリティーということが問題になっているわけでありますけれども、大手あるいは準大手のネットワーク・ファームと言われるような監査法人と違って、中小監査法人というのは、やはりリソースにも限りがあると思います。このISQM1の精神からいえば、事務所内のリーダーシップとか、ガバナンスということが非常に重視されているのだと思います。そういう品質を重視するという監査法人内の文化を築いていくということに関して、リーダーシップが求められることは当然だろうとは思います。しかし、リソースに限界がある中で、どういう形で実効性が担保されるのかということは、よく議論しておかなければいけないんじゃないかなと思います。大手のようなしっかりした品質管理体制というのを、そもそも中小監査法人に求めること自体に、どう実効性を持たせるかという問題があると思います。そういった意味で、このISQM1の精神とちょっと矛盾するのかもしれないんですけれども。
また、監査法人の品質管理というのは、あくまでもやっぱり内部にあるということが前提となるということは、よく理解をしておりますが、例えば、中小監査法人が集まって、共同で品質管理の法人を別法人として設立するといったことが考えられるのではないか。当然、別法人になりますので、守秘義務など別の難しい問題を検討する必要はあろうかと思いますが、そういうような形で品質管理を外出しにする。そういう外出しにしたプラットフォームを、共同で利用していくというようなことを考えられないかなと感じております。非常に難しいと思うんですけれども、制度的な制約とか監査制度の、あるいはこのISQM1などからの権利的な問題があるのかどうかということも含めて、素人考えでけれども、そういうことも検討していっていいんじゃないかなと思います。
そうした場合に、やはり品質管理にかかるコストというのが外出しにされることで、ある意味すごく見えてくる。先ほどから監査報酬の問題もありますけれども、そういうふうにコストが見える化されることによって、中小監査法人さんも、そういったものを自らの監査報酬に上乗せできるような、そういう仕組みにできないだろうかと。やはり、何人かの委員の先生方からも御指摘がありましたけれども、今、監査報酬が競争的な環境で決まって、非常にかつかつのところでやっている中で、品質を追求していただくというのは、かなり大変は大変なんじゃないかなと思っております。素人考えで申しましたけれども、以上がこの品質管理について思っているところであります。
もう一つのKAMについてですが、早期適用分を私も読ませていただきましたけれども、KAMの制度というのは、その認知度を上げて、利用者が使わないと意味がない制度だと思っております。認知度を上げるために、例えばKAMの表彰制度とか、あるいは財務情報に関しまして、金融庁のほうで好事例集等をお作りになれて発行されておりますけれども、そういう制度をつくって、あるべきKAMの姿、こういうものが、財務諸表利用者にとって優れたKAMであるということを示していってあげるということも、必要なんじゃないかなと思います。
これもまた、大手の監査法人は、すごくしっかりしたKAMを書けるだけの体制というのは築かれつつあると思いますけれども、中小監査法人の方々ですね。KAMのテンプレート化を避けるためにも、どういう内容のKAMが求められるのかということを、法人規模の大小を問わず、監査人の方々全体にも、知っていっていただくということが必要なんじゃないかなというふうに思っております。
私も、林田委員、荻原委員と同様、不正リスク対応基準から監査部会臨時委員として関わらせて参りましたが、今日で最後になります。この間、いろいろ勉強、意見を述べさせていただきまして、大変ありがとうございました。以上です。
○八田部会長
初川委員、お願いします。
○初川委員
初川です。ありがとうございます。今回は国際基準、ISQM1、ISQM2、それからISA220の改訂を受けて、日本の品質管理基準を見直すということが中核だと思いますが、やはり議論をする場合は、どういった観点、どういう危機感を持って品質管理基準を議論するのかということが、非常に重要なのではないかなと思います。少し前までは、監査法人のガバナンス・コードについての議論もしました。同じ議論とは言いませんが、今回のテーマはかなり似通ったところもあると。どういう観点で、どういう必要性があってこれをやるのかということを、しっかりと頭に置いておくことが必要なのではないかと思います。
欧米では、資料の中にもありましたけれども、英国のカリリオンでありますとか、ドイツのワイヤーカードなど、最近、またしても監査上の問題が出てきているということで、かなり危機感のレベルというのは違うのかなと。もちろん、日本も2015年に大きな監査上の問題が発生して以降、6年間、特に大きなニュースになるような案件は出てきていないとはいうものの、監査上の問題というのは、依然として発生しているのだろうと思います。
ただ、少し欧米と危機感のレベルが違うのかなという気もしますけれども、いずれにしても、先ほどから、他の委員の方の御意見それから問題意識、期待というものを今伺っていまして、非常に幅広い御意見なので、しっかりと、どういう問題意識があるのか一度まとめていただいて、そういった皆さんの問題意識をしっかりと理解した上で、品質管理基準の議論をしていきたいと思っています。
その上で、私はやはり監査部会での議論が、監査の現場で実際に監査をしておられる監査法人のパートナー、職員、こういった方たちの議論につながっていく。そういう実際に監査に携わっている方たちの足元から、品質管理・向上のための議論が湧き上がってくるような、そういった議論になれば良いのではないかと思います。もうルールなり基準なりを、もちろん見直しは大切ですけれども、新しくつくっていくということよりも、やはり現場で監査をしている方たちの議論が、前に進むようなきっかけになれば良いのではないかと思います。
監査の現場というものを考えてみますと、非常に地道な話で恐縮ですが、監査に十分な時間が取れない、それから監査作業が期末に集中している状況があります。品質管理でありますとか、検査対応、審査対応、そういったことへのペーパーワークが非常に多くなっている。こういった現状があると思いますし、そういうものも含めてマニュアルワークが非常に多い、労働集約的な仕事になっているということも、以前から言われています。それに、私が何よりも重要だと思いますのは、そういう時間がないということの延長で、上司のレビュー、監査における意思疎通が十分に行われないことです。監査におけるコミュニケーションというのは、あくまでも監査調書を通して、または、非常に詰めた具体的議論を通して行われるわけですので、この監査調書なり監査業務のレビュー、それから監督、ここが、非常に心配な状況になっているのではないかなと危惧しています。
それから、以前から議論になっているように、監査対象会社の環境の理解、ビジネスの理解、それからリスク分析、こういったことが時間的な面、トレーニングそのものの内容、それからいろいろなビジネスを知る機会、そういったことが著しく欠けてきているんじゃないかなと思います。そういう意味で、時間の確保それから先ほど来、お話が出ています、デジタル・トランスフォーメーション、DX Auditの推進というのは、もうマストな状況になっていると思います。そういう体制を整えるためには、当然スタッフのデジタル・トランスフォーメーションに関する知識でありますとか、それから情報武装、こういったことも含めて、監査現場の議論につながるような検討をしていけたらいいのかなと思っています。以上です。
○八田部会長
どうもありがとうございます。
手塚委員、お願いします。
○手塚委員
ありがとうございます。いろいろ御示唆をいただいたので、まずは、来週と再来週に準大手と中小監査法人の経営者と話す機会があるので、そこで皆さまからのご意見を伝えます。今日、監査役協会会長と、現在進行している年度の監査についての共同声明を出しました。品質向上のために我々監査人独自の努力もしていきますが、監査役等の皆さんとの協働関係を深めていきたいと思います。
監査の品質は、現場の接点の監査人の人材の質が決め手なので、いかに能力を向上させて、それを発揮させて監査をするかが重要です。人がチームになり、組織になって、今回のような監査法人のマネジメント・システムの問題になるので、まずは人の力を向上させ、発揮させるマネジメント・システムが一番大きい課題です。現場の監査人のポテンシャルは、私が公認会計士となった30数年前と変わっていないけれども、企業の理解は十分ではないように思います。対象となる企業が、明らかに30数年前より複雑になり、大きくなり、理解しがたいものになっているのに、理解をする時間が不足している。
この観点から、総会の分散化の必要性についても考えていただきたい。上場会社をこれまでどおり増やしていって、4,000社以上にしていくのか。時価総額が100億円を切る上場会社が、1,000数百社ある状態をそのままにするのか。今後いかにAIなどが進化したとしても、人口が減少する中で、監査を支える人的リソースがたとえば10年もつのかというのは、非常に心配です。
品質管理基準の問題は次回以降にお話しすることとして、私からの意見を申し上げました。以上です。ありがとうございました。
○八田部会長
どうもありがとうございました。監査部会のほうでは、これからも引き続き、御意見を承る時間がありますので、そちらのほうでお願いしたいと思います。
進行不手際がありましたが、実は私も意見を持っていたんですけれども、今日はそれは割愛しまして、本日の審議は、時間が参りましたのでこれで終了させていただきたいと思います。本日は様々な御意見をいただきました。大変ありがとうございます。
それでは最後に、次回の日程等について、事務局から説明をお願いいたします。
○西山開示業務室長
幅広い観点から御意見をいただきました。これらについては、品質管理基準や協会実務指針において検討を行うもののほか、実務上の対応を検討するものなどなど、事務局のほうで整理させていただいて、次回以降、御議論いただきたいと考えております。
今後の日程につきましては、改めて事務局から御連絡させていただきます。
これにて、本日の監査部会を終了いたします。
○八田部会長
どうもありがとうございました。
- お問い合わせ先
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企画市場局企業開示課
金融庁Tel 03-3506-6000(代表)(内線3655、3844)