経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議(第7回)議事要旨及び資料
議事要旨
1.日時:
令和2年1月20日(月)16時00分~18時00分
2.場所:
中央合同庁舎第7号館 12階 共用第2特別会議室
3.議事内容:
冒頭、森本メンバーによるプレゼンテーション(資料①)が行われ、以下のような議論が行われた。
- ○ MOCEの必要性には異存なく、全額かどうかは別として、資本に対する報酬として配当される原資になり得るという点も理解できる。一方で、常に配当されるとの仮定を置くことが、MOCEを負債計上したうえで所要資本にも含める理由として本当に妥当かとの点は意見が分かれると思う。配当可能利益がない場合は、任意積立金などを取り崩して配当可能原資を捻出することになるが、保険契約者保護を主とする健全性規制の中で、そこまで強い仮定まで求めることが果たして必要かとの点には、もう少し強固な理由付けが必要ではないか。
- ○ 資料①p.1記載の「市場整合的に考える場合、MOCEは保険負債の必須項目である」というのはその通りだと思う。また、PCRが想定するようなリスクの発生時、つまりは危機的状況において、保険契約の債務を履行するために最良推計だけではなくMOCEまで要求することは、契約を移転するための出口価値の視点からは必要であり、ICSがこうした設計思想に基づくものであることは理解する。一方で、資本規制として考えた場合、保険会社の立場からは、そうした危機的状況にも関わらず、保険負債の債務の履行の部分にまでMOCEを要求することは、規制として厳しすぎるのではないかと感じる。保険会社としては、所要資本が対象にしている部分とMOCEが対応している部分は異なると考え、MOCE部分にまで資本規制上要求することは不要ではないかと主張しているところである。
- ○ 資本コスト法について、ソルベンシーⅡでは、資本からMOCEを引くとの計算が入ると循環計算が必要になるとの技術的な議論もあったと思う。小さい論点ではあるが、簡便性を考慮するとの観点からは、そうした依存関係がない方が簡単だと思う。
- ○ 過去の日本の生保危機においては、保険負債(契約)を移転する際にバッファーがなかったために実務上移転が困難だったと聞いている。本会議では資本規制について検討しているため、保険負債という不確実なものを移転するときに、バッファーとしてMOCEを考えないのはおかしいと思う。IAISでもMOCEに関する様々な議論があったが、結論としてMOCEはバッファーとしてパーセンタイル法で計算し、負債に含めることとなった。MOCEの理論的な解釈は国際的にも様々な意見があるため、本会議で意見が一致するとも思えないが、重要なのは、国際的な場でMOCEは負債に含めるということで整理がついたということ。規制の実務からもこの結論は支持されるべきである。
- ○ 前回も申し上げたが、PCRのような一種の継続基準の形で資本規制を考えた場合、やはりMOCEを残した状態で翌期を迎えるのが本来の姿であろう。仮にMOCEをリスク(所要資本)から調整する場合、1期分は損失補填で考慮される可能性があるが、わざわざ1期分だけリスクから調整するような難しい計算をするのか。また、損失補填で1期分調整した場合を考えた際、損失経験からリスク評価の発射台が下がっているため、MOCEを再評価した場合は単純な1期分調整よりもMOCEが大きくなる可能性がある。特に多期間で複数年の契約を考えた場合、リスクと調整せずにフルにMOCEがある状態がPCRでは必要とされる要件であり、MOCEを残さなくてよいとの清算基準のような話はどちらかというとMCRでやるべき議論だと思う。
- ○ 経営状況の苦しい保険会社を想定してみると、仮にその会社が別の会社から保険契約を移転される場合に、MOCE分は要らないということにはならず、むしろ経営が苦しいときにこそMOCEはあった方が良いのではないか。現実的には、破綻処理をする際に、MOCEなしで保険契約を移転することは難しい面もあるので、MOCEを考慮しないのであれば、何か違う対応を考えなければならなくなる。現実的に何か便宜を図るような場合であってもそれはMOCEの代替に過ぎないので、少なくとも規制を考える土台としては、MOCEは負債に含めるべきだと思う。
- ○ MCRとの関係については、清算基準に近づき破綻処理のことを考えた場合に、MOCEをカウントしないことが余計な追加的負担を生じさせないかというのは気になる。答えが出きってはいないが、MCRを考える場合にも必要なのではないかという気もしている。
続いて、事務局による資料説明(資料②)、宮崎オブザーバーによるプレゼンテーション(資料③)が行われ、以下のような議論が行われた。
- ○ これまでの議論で、本会議の方向性は大体決まってきたと思う。ICSとの関係性は引き続き論点となっている。ただ、ICSに関する事項はIAISで議論すべきである。
- ○ 経済価値ベース規制の導入に当たっては、保険負債の十分性を検証する体制を強化することが重要である。保険負債の計算に関する指針は作成できるかもしれないが、その指針の運用については、アクチュアリーの判断による部分が大きく、アクチュアリーのプロフェッショナリズムや独立性、それを保証するガバナンス等が一層重要になるため、そのための体制整備が必要である。
- ○ ICSの終局金利は、日本の現状をみると非常に高すぎると思う。これまで本会議では、(終局金利について)第1の柱ではなく第2の柱で見ていくとの議論を行ってきたが、第2の柱で各社が独自に判断できるというよりも、しっかりとした基準を当局が確立し、第1の柱に準じるような第2の柱を作り、保険負債が十分に積まれるような体制とすることが肝要である。
- ○ 本会議で議論すべきは、内部モデルを規制に導入するかどうかの方向性をはっきりさせることであり、個人的には導入すべきだと思う。次に導入方法を考えた場合、当局と保険業界が対話をしながら徐々に導入するとの方法が適切であり、事務局資料にある通り、まずは自然災害リスクから導入し、保険リスクや資産運用リスクに段階的に範囲を広げていくのは妥当な提案だと思う。また、その時に重要なのが、当局が内部モデルをモニタリングできる体制を整備し、そのためのリソースを確保することであり、先行事例である欧州等のやり方は参考になると思う。更に、内部モデルを検証する体制、ガバナンスも整備する必要があるが、難しいのは、アクチュアリーや会計監査人は会社からの報酬で働いているため、完全に独立性を保った判断ができるかは疑問。そのため、内部モデルの検証は、当局が最後の砦として重要な役割を果たすべきだと思う。なお、内部モデルを認める場合には、フロア(標準モデルの所要資本と比較した際の最低限の値)を設けるかの議論も行うべきであり、標準モデルと比べ50%、60%も所要資本が低いモデルまで認めるかは考える必要がある。
- ○ 内部モデルを段階的に認めていくとの方向性には賛成である。内部モデルを使用する場合は、中身の説明が非常に重要になる。保険会社から当局への説明に加えて、開示の中でも、どの部分に内部モデルを使用しどの点が標準モデルと異なるかなど、ある程度金融のプロが分かる形で示すべきだと思う。
- ○ 資料②のタイムラインにおける2022年の「仕様を暫定的に決定」との記載については、前回までの議論内容が反映されている一方、仕様などの技術的な側面に留まらない可能性があるものと理解している。例えば、2025年の姿として、米国のアグリゲーションアプローチや欧州のソルベンシーⅡなどがICSと緩やかに繋がる場合は、日本市場により即した形での規制を考える必要があるかもしれないため、「改めて検討を行う」という意味合いに近いのではないかと理解している。
- ○ 内部モデルについて、段階的かつ慎重にスコープを拡大するとの方向性は非常に現実的である。将来的には全部内部モデルを適用できるようになることが望ましいと思うが、内部モデルのスコープを段階的に広げるとの考えがICSで採用されるかというと現実的でないと思う。欧州の保険会社は既に全部内部モデルを導入し、相応の人的・システム的なリソースを投下しているため、仮にICSで内部モデルが認められれば、このアドバンテージを生かすべく、全部内部モデルを主張すると思う。一方で、日本の保険会社においては、短期間で多額のコストをかけて対抗することは簡単ではなく、こうした欧州の状況も踏まえ、ICSにおける内部モデルの議論は慎重に行うべきだと思う。
- ○ 資料②p.11のベンダーモデルや自社開発モデルについても一定の審査が必要という点には賛成である。会計監査の世界でも、有価証券の時価情報などをベンダーから入手する場合は、一定の手続きが求められるため、ソルベンシー規制においても、ベンダーモデルに関して一定の手続きは行った方が良いと思う。
- ○ 妥当性検証を行う場合、モデルガバナンスも重要だが、そのベースとなるデータガバナンスも重要である。実際にモデルを作る場合、データが正しくなければ正しいモデルとならないため、データガバナンスの観点も含めた方が良いと思う。
- ○ ガバナンスには大きく分けて内部ガバナンスと外部ガバナンスの2つがある。内部ガバナンスについては、内部の誰と誰の対立なのか、経営者やアクチュアリーの社内における独立性はどうかなど、内部ガバナンスがどのようなものか整理しなければ、ガバナンス体制が整っていると言うだけでは絵に描いた餅になってしまう。また、外部ガバナンスについては、マーケットからのガバナンスが必要不可欠である。開示には市場関係者だけでなく顧客への開示があり、保険料水準の適切性や保険会社の健全性など、市場関係者でさえ見るのが大変な内容をいかに顧客に対して伝えていくかは今後の論点だと思う。
- ○ 内部モデルについて、どのような小さなレベルからでもやっていくことには賛成だが、保険会社が部分モデルをどのようなレベルで使っているのか明らかにする必要があり、市場関係者・顧客・当局の皆が一目で分かる形が望ましいと思う。また、(保険会社各社は)長期的に目指すべき水準と、そこに到達するまでのタイムリミットを示すべきだと思う。
- ○ 資料②p.13の内部モデルの統計的品質テストについて、当局が(各社の計算手法や計算前提を)横比較するとあるが、各社ごとに置かれている状況が違うから内部モデルを使用するのであり、何の意味があるのか疑問。また、英国の事例でもある通り、各社も全体像が分からない中で、自社と他社の違いを適切に当局に説明できるのかも疑問。そのため、当局がすべきは内部モデルの横比較ではなく、各社がどのような時間軸でどこに向かおうとしているのか、現状どのような位置づけにあるのかを、はっきり認識し明らかにすることだと思う。
- ○ 日本が全部内部モデルの方向に進んでいく場合、内部モデルのチェック機能として最後は当局がカギになると思う。保険会社では内部チェック機能のほか、監査法人のような外部チェック機能も活用し内部モデルの確認を行っているが、欧州のように最後は当局が必要に応じて細かな点まで検証するとの制度であれば規律性を持ち機能すると思う。日本の保険会社でも海外子会社の買収等が進んでいるため、グループ全体についてチェック機能をどのように働かせるかという点まで考えなければ、全部内部モデルを導入したときに片手落ちとなってしまう。
- ○ 経済価値ベースの指標は、マーケットのフェアバリューとの考え方もあるが、保険会社の経営実態を適切に表すというのも大事な視点と考える。そのように考えた場合、内部モデルは各社の経営で使っている目利き力をどれだけ表現できるかとの意味で有用であり、保険会社及び当局双方のリソースの観点は踏まえる必要はあるが、内部モデルの使用を希望する会社にできる限り対応するというのが大事な視点だと思う。
- ○ 妥当性検証には難しい面があり、保険負債の計算前提を変えることで値が大きく変わるような場合は各社悩むことになると思う。こうした点は外部検証で見つからない場合が多いと思うため、PDCAサイクルを活用し内部検証をどのように行うかが重要だと思う。
- ○ 経済価値には計算的な限界があるため、PCRやMCRにおける抵触時や抵触前からの当局対話のやり方も含めて議論していかなければ、ワークする規制とはならないと思う。
- ○ 経済価値ベース規制の導入に向けて、現行の規制が逆を向いていたり、制約になるようなものがないか、あるのであればどのようにすればよいかということも検討材料の一つだと思う。
- ○ ESRを計算することもそうだが、ESRを制御する能力を身につけることも非常に難しい。基礎利益や実質資産負債差額規制について、経済価値ベース規制との整合を取ることを制度的かつ段階的に進めることがESR制御の実地トレーニングにも繋がるため、これからの準備期間の中で計画すべきだと思う。
- ○ 資料①p.6に、割引率の計算において、「株式は負債のキャッシュフローに合わせて流動化可能」という前回会議で出た意見の紹介があるが、個別株を大きなロットで取引するのは大変なことであり、売却による市場インパクトも大きいほか、証券会社に売却を委ねても相当な時間がかかるため、保険会社が保有するような個別株に関しては、負債に合わせて流動化可能とは簡単に考えない方が良いと思う。また、株式の保有が割引率に影響を与えると、規制のアービトラージを引き起こすことにもなる。
- ○ 内部モデルを検討する上では、第3の柱の市場規律が働くような比較可能性を担保するという点を念頭に置くべきである。特に共通性の高いリスクファクターの内部モデルに関しては慎重な対応が必要であり、その意味では、資料①p.11で(内部モデルの導入が)資産運用リスクが最後となっている点は妥当だと考える。
- ○ 終局金利を適用することはイールドカーブの自然なダイナミクスを損ねるため、いかに立派なベンダーのESG(経済シナリオジェネレータ)を使用したとしても、それを組み合わせた場合は合成の誤謬が生じる可能性がある。逆に終局金利を使用しないことが市場リスクに関する内部モデル承認の一つのベンチマークになる可能性はあり、経済価値ベースのリスク管理の進化の方向性とも整合的である。そうした場合、どのように内部管理を進化させるインセンティブを与えていくかが問題だが、そもそも内部管理は規制とは独立に各社が進化させていくべきものと考える。規制資本に内部モデルを活用することで、リスク量の減少や開発コストの節約に繋がるとの考え方ではリスク管理の本質的な進化は期待できないと思う。終局金利を使用しない内部モデルは、標準モデルが想定する資本重視型の管理から、技術的難易度の高いヘッジ重視型の管理に移行して、資本効率性とESRの制御能力を高める方向性と整合的であり、こうした進化のインセンティブは、専ら第2の柱や第3の柱に期待するしかないが、第1の柱での市場リスクの内部モデル使用が一種のステータスシンボルであるという評価が定着すればインセンティブになり得るのではないかと思う。
- ○ 内部モデルを導入してリスク管理の高度化を図ることは良いことだが、開示方法次第では、消費者から「外部から分からないモデルを使用している」などと逆読みをされる可能性もあるため、内部モデルを導入するにあたり、どのような点が高度化され、どのような管理・チェック体制になっているかも合わせて開示されることが望ましいと思う。
- ○ 他の方の発言にもあったように、内部モデルの使用を通じて(リスク量の減少により)規制基準を下げられるとのインセンティブではなく、リスク管理の高度化のために内部モデルを使うのであり、それが本当に会社のためになるということを、まずは経営陣がしっかり認識し、当局がそれをサポート・検証する体制があるべき姿だと思う。本会議では、こうした内部モデル導入の意味や役割も含め、方向性を確認することが大切である。また、他のメンバーからも指摘があったように、どのようなタイムスケジュールで行うかも重要であり、本当に日本として導入すべきものであれば、2025年までにどこまでやるかも決めるべきだと思う。なお、その際に重要なのが、体制整備であり、行政は極力早めに手当てをすべきである。
- ○ 各社の(リスクに対する)考え方を理解するとの観点から内部モデルを承認することは一定程度できると思うが、その中で技術的な整合性等の横串を刺すのは非常に難しいと思う。その意味では、内部モデルは第2の柱とし、第1の柱で用いる標準モデルと両輪で管理する方法もあると思う。標準モデルは、まずは最大公約数であろうが、各社の(実績データに基づく)カリブレーションを反映のうえ作成し、足りない部分は内部モデルを第2の柱で保険会社との対話を通じて利用する。また、対話から得られたベストプラクティス等をフィードバックし、標準モデルに定期的に反映するとの仕組みもあると思う。
- ○ 例えば生保会社における動的解約のモデルなどは各社で考え方が異なっており、内部モデル以外の部分についても(各社間で考え方が)必ずしも整合している訳ではないと思う。
以上
配付資料等
資料① 森本メンバー資料「MOCEに関する理論的整理」(PDF:441KB)
資料② 第7回事務局資料(PDF:689KB)
資料③ 宮崎オブザーバー資料「経済価値ベース規制と損害保険会社におけるERM経営・内部モデル」(PDF:1,156KB)
- お問い合わせ先
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金融庁監督局保険課保険モニタリング室
Tel 03-3506-6000(代表)(内線3405、3496)