「会計監査の在り方に関する懇談会(令和3事務年度)」
(第1回)議事要旨
1.日時:
令和3年9月15日(水)15時00分~17時00分
2.場所:
オンライン会議(中央合同庁舎第7号館9階 共用第3会議室)
3.議題:
今後の会計監査の在り方について
4.議事内容:
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○事務局によるメンバー紹介が行われた。
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○「会計監査の在り方に関する懇談会(令和3事務年度)」の運営要領について、原案のとおり懇談会申し合わせとされた。
事務局による資料説明の後に行われた議論の要旨は、以下のとおり。
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○会計監査をめぐる議論がされてきた過去の状況を見ると、多くは深刻な不正会計が 国内外で起こり、その結果として、監査をめぐる制度の改訂を議論してきたが、今回は特にそういったことが起こったということではなく、環境変化に応じ、どのように公認会計士や監査を取り巻く制度を改善していくかという前向きな議論ができると思う。
今、最も重要だと考えるのは、公認会計士が、社会からの期待に対して応え続けられるのかということである。言い換えれば、公認会計士や監査法人に対する需要と供給のミスマッチを起こさないということである。
ミスマッチには3つの属性があると考えており、1つ目は、公認会計士や監査法人の数である。社会からの需要を生み出す総数を供給できるかどうかということである。上場会社は毎年増え続けており、今の状況で推移していくと、あと2、3年で日本の上場会社は4,000社を超えることになる。一方、監査現場においては公認会計士が繁忙であるという声が聞こえており、現時点でも総数が不足しているかもしれないという状況にある。ただし、ITやAIなどの技術革新は、大手監査法人では既に相当程度整っている状況であり、技術の適用に際しての障害が除かれれば、総数はどうなるかという議論はあるかと思う。
2つ目は質である。質には、知識やスキルという実務能力面と、誠実性といった倫理的な側面の2つの要素がある。公認会計士の業務領域はこの20年で大きく広がっており、財務諸表監査だけを見ても、株式会社だけではなく、非営利法人や公的機関、農協などに広がっており、今後も当面増え続けることが予想される。また、保証業務の対象も財務諸表、財務情報だけではなく、非財務情報に広がっており、将来的には、更に広がることが予想される。ITや分析技術に関する知見も必要になっており、知識面、能力面においては非常に大きな変革期にある。したがって、この変化に対して能力を適応させるために、公認会計士試験、試験合格者に対する実務補習、それから公認会計士登録後の継続的専門研修(以下、「CPE」という。)について、その内容や実施方法が適切かどうか検討する時期にあると考える。また、公認会計士の登録者は概ね33,000人となっているが、そのうち過半数は、監査法人ではなく事業会社やその他の組織で働いたり、税理士業務に従事していたり、様々な業務を行っている。監査業務に従事していない者は、監査業務に従事している者とは倫理的な観点から考え方が変わってくる可能性があり、求められる能力も異なる。監査業務に従事していない者に対し、どのように指導・監督・支援を行き渡らせていくかという問題も大きくクローズアップされている。
3つ目のミスマッチは、アロケーションである。公認会計士業界や監査法人内で必要な領域、部署に人材配置ができるのかという問題である。例えば、株式新規上場(IPO)監査の引き受け手が不足しているという報道が行われている。また、大手監査法人から中小監査法人への上場会社の監査人変更は、おそらく向こう数年は確実に続くと思う。したがって、中小監査法人において、人手が不足するという問題が出てくる可能性があると考える。また、非営利法人や公的機関を担う人材や地方のニーズに応える人材が十分かというようなアロケーションの問題もある。
これら3つは複雑に絡み合っており、一つ一つ切り取っての議論は難しいが、総合的に、中長期的な視点で考えて、リソースを確保・育成していく必要があると思う。
規制に関しては、イギリスやドイツにおいて規制強化が実行されつつあるという説明があったが、海外の動向について、その効果とデメリットを慎重に見極める必要があると思う。海外も我が国と一緒で、不正会計が発覚するたびに自主規制の領域が狭められ、官の力によって独立性や監査に関する基準を詳細かつ厳格にし、そして監査人を基本的には監査業務に専念させるという方向になっている。これが本当に質の高い監査というものの実現につながるのか、疑問を持っている。監査の不備や自主規制が機能していなかったというのは、我が国においても過去指摘され、厳しい批判もあったと認識しているが、現在の欧州の潮流や監査に係る国際基準設定をめぐる動向は、かえって監査の質を水面下で徐々にむしばんでいくのではないかと懸念している。また、規制強化をする場合には、監査に対する規制と発行体である企業側の規制のバランスを取って実施すべきである。
公認会計士や監査法人の業務領域が拡大する中で、現行の公認会計士法で業務を規定している公認会計士法第2条第1項と第2項のどちらに位置づけて考えるべきか悩むケースがある。中長期的な観点から、実際に行われる、あるいは今後行われていくと思われる公認会計士及び監査法人の業務と法律との関係について整理をしてみる必要があるのではないか。
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○過去に発生した不正会計事例を見て、なぜ監査で発見できなかったのだろうかと思うことがあった。会計監査制度等を改めたり、内部統制を見直したりといった仕組みができても、依然として、不正会計事例が起きてくることに非常に疑問を感じている。後から報道等で知る限りにおいては、発見できてしかるべきだったのではないのか。不正会計によって監査、あるいは監査法人のレピュテーションが大きく傷つく、そういうことを繰り返してきているというのが現実であろうと考えている。
そういった事例は、ほとんどのケースが、経営者あるいはそれぞれの部門の長といった立場の人間による意図的な不正会計だったのではないのか。一概に虚偽表示といっても、単純な事務ミスも虚偽表示だが、やはり最大の問題は、意図的な不正会計をなぜ防げないのかということであり、それが監査法人あるいは監査に対する社会の期待そのものだと考えている。不正会計を防げる監査こそ高品質の監査と呼ばれるべきであって、いくら仕組みを整えて手続を踏んでいたとしても、そういうことを見逃すようであれば、それは高品質の監査と言えないのではないのかと従来から考えている。
なぜ不正会計が見抜けないのかということについて、1つは、人材育成の問題があるのではないか。意図的な不正会計を防ぐためには、監査や会計基準の知識だけにとどまることなく、事業会社に働く様々なインセンティブや、事業経営の中でどういうバイアスがかかり得るのか、それらをどのようにすれば発見できるのかといったことが非常に重要である。それらに対する感度を高めるためには、やはり監査業務だけをやっていたのでは駄目なのではないのかと常々考えている。事業会社での経験や幅広い社会経験、あるいは極端に言えば心理学的なことまで必要かもしれない。技術的な側面だけではなくて、本質的に働く意図・不正会計に向けた意図に対する洞察力・感度が必要なのではないのかと考えている。そういうことを身につけるための育成を改めてよく考えるべきではないか。
もう一点は、監査法人のマネジメントである。監査上のリスクがあるケースについては、本当に監査上イエスなのかノーなのか、トップも含めた監査法人の経営の中で判断されるべきである。また、できれば第三者が入り、独立した「第三者の眼」も含めて、そういう判断を行うべきではないか。極めて重要な監査リスクのあるケースについては、監査法人の全体のマネジメントとしてしっかりと確認する必要があるのではないのか。この2点が、やはり一番重要なポイントなのではないのかと推測している。
監査法人側から見ると、不正会計が見抜けないのは、やはり監査の問題ではなくて事業会社側の問題であるという認識もあると思う。それでも社会の期待は不正会計を見抜くことにあるということを改めて出発点として、なぜ不正会計を見抜けなかったのかということをきちんとレビューした上で、特に人材の育成であるとか、マネジメントの在り方について、議論していきたい。
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○監査品質の向上に向けて課題と感じる点は、やはり担い手の規模や体制、リソース、あるいは規律づけである。まず、監査法人の規模という点については、上場会社の監査をするためには、ある程度の規模が必要ではないかと思う。ただし、今後、監査法人の合併が進むという報道もされているが、それでは実際には監査品質の問題に対する解決策にはならないのではないか。公認会計士・監査審査会(以下、「審査会」という。)の指摘によると、合併を繰り返してきたある中小監査法人の検査結果においては、合併前のそれぞれの監査法人の監査の品質管理で問題は無いとトップが思い込んだ結果、不正を見過ごしたという事例がある。個人事業主の集まりのような、中小監査法人が合併しても監査品質は向上せず、不正が繰り返されるだけではないのかと感じた。そういう意味では、前回の会計監査の在り方に関する懇談会で議論された監査法人へのガバナンス・コードの導入について、大手監査法人あるいは準大手監査法人では定着してきているが、中小監査法人に対しても導入を検討すべきではないか。ガバナンス・コード全体を適用すべきかについては議論の余地があるが、コンプライ・オア・エクスプレイン、あるいはコンプライ・オア・エクスキューズベースで導入してみてはどうかと思う。中小監査法人の内部規律のPDCAの基礎になることが期待できるという意味でもそういうところから手をつけてはいかがかと思う。
次に、リソース不足という点については、報酬依存度15%ルールが導入されると、淘汰される監査法人も出てきて合併も進むと思うが、先ほど申し上げたように、合併では監査品質の問題は解決しないのではないかと思う。そのため、監査法人の成立要件として、公認会計士が5人集まれば設立できてしまうという公認会計士法そのものの検討も必要ではないかと考える。
次に、不正を見抜く力の向上という点で、企業での研修は非常に重要だと思う。会計事務所からの派遣者と企業の会計部門の者の双方にとっても、議論を重ねると大変勉強になると思う。また、研修の一環として、審査会の検査の補助を担当させてはどうか。つまり、自分が検査される立場になったときに、どのような視点で検査をされるのかを理解することも重要ではないか。また、公認会計士の数の問題であるが、人数をただ増やすというのは、質が低下して元も子もない結果になることが考えられる。一方、企業もある程度のレベルの会計知識の保有者を求めている。そういう意味で、企業での研修というのは、公認会計士側にも企業側にもメリットがある。様々な経験をする中で、企業の仕事のほうが楽しいと感じたり、報酬に魅力を感じたりして転職してしまう人もいるだろう。一方向に企業に人材が流れると、日本公認会計士協会の側でも困ると思うが。
また、公認会計士試験改革も俎上にのせてはいかがかと思う。昨今の企業の状況を鑑みると、上場企業の監査を担うには、国際財務報告基準(IFRS)や国際税務等に精通する公認会計士像が求められるが、公認会計士全員にその知識が必要というわけではないので、一律に公認会計士試験の試験科目にする必要もない。しかしニーズに応えるには、レベルの非常に高い公認会計士を選抜するための試験と、それから企業の経理担当の部長クラスを担えるぐらいの知識あるいは見識を持つ人材の試験というような、試験の二本立てを考えてみてはどうかと思う。今の公認会計士試験は、試験に合格してからの教育に頼っているところが多い。少なくとも、ある程度最初から高レベルを求める試験と、企業の会計担当や部長を担う人材の試験と、分けてみてはいかがか。
次に「第三の眼」というチェック機能について、先日、企業が大手監査法人から準大手監査法人、中小監査法人へ監査法人を変更しているという報道があった。邪推かもしれないが、企業側が内部統制を軽く見ている証拠ではないか。不正や不祥事の防止の為に払うコストが安過ぎるのではないかと思う。チェック機能を向上させる前に、内部統制や不正防止に対するコストをもっと高くすべきではないかと思う。いくらペナルティーを重くしても逆効果ではないかという話があったが、私の理解では、米国ではSOX法を導入してから大きな不祥事が減ったという話を聞いた。米国の監査法人のパートナーに、なぜ米国の会社は日本と比較してそんなに監査報酬を支払うのか尋ねたところ、監査報酬を節約しても不正会計を監査で見逃して、後で発覚するよりは、それぐらいのコストはかけておいたほうが安全というような話をしていた。ペナルティーを米国のように重くするかどうかは別として、検討してはどうかと思う。
また、審査会の情報の開示の充実も必要なのではないか。審査会の指摘を具体的に公表して一般の企業も確認できるようにする、あるいは監査法人間での情報共有をして、人のふり見て我がふりを直すというようなこともできれば良いと考える。
それから、監査品質の向上に向けた取組みが市場において自律的に行われるような情報提供とあるが、AIの活用というのはコスト削減と品質の向上が期待できる点で大変重要なことだと思う。大手監査法人が取り組んで、大手監査法人のメリットになり、ひいては業界全体で恩恵に浴するようにして、業界全体がAIの活用で品質向上されるようにすべきではないかと思う。
最後に、コーポレート・ガバナンス改革に向けた取組みと歩調を合わせる形で、監査機能の更なる向上のため、監査人と監査役等と、それから内部監査部門のコミュニケーションが非常に重要である。おそらく多くの企業では、監査役等とのコミュニケーションを一般的に行っていると思うが、監査人と内部監査部門とのコミュニケーション、これも大いにやるべきではないかと思う。先般、監査の品質管理に関する基準の改訂の公開草案が示され、各監査法人がリスク評価をするという内容があるが、事業会社の監査役等と内部監査部門の独立性や倫理観について、監査人側から見てどのように感じたかもリスク評価の一部としてはどうかと考えている。
監査人と連携のためには、監査役等が監査に関するガバナンスの責任を持つべきであり、それを何らかの形で表して権限も持たせるべきではないかと思う。金融商品取引法の有価証券報告書の財務諸表へも監査役等の監査報告書を求めるべきではないか。先般導入された監査上の主要な検討事項(KAM)について、会社法上の監査報告の中にはまだそれを反映できていない。監査役等と監査人が十分打ち合わせた結果のKAMは、最終的には有価証券報告書の監査報告で監査人が表明するが、それに対する監査役等の意見表明は何もない現状だ。監査役等が責任を持った監査をする意味で、有価証券報告書における監査役等の監査報告書は重要な点ではないかと思う。
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○監査現場における監査時間は、かなり増加している。日本公認会計士協会の調査では、2016年と2020年の比較で8%程度の増加となっている。これは、過去の不正会計事案を受けた監査手続の自主的な見直しや、審査会や日本公認会計士協会のレビュー等の第三者による品質のモニタリングによる指導、指摘を受けて監査手続を見直している影響であると考える。また、デジタル化への対応は、新型コロナウイルスの影響とも相まって、一気に加速している。各監査法人とも投資・研究を行い、実装する監査ツールも年々増加していると聞いており、特に不正取引を発見するための仕訳のスクリーニングなどで利用するケースがかなり見られている。IT化による監査の効率化は、新基準への対応や品質モニタリングへの対応による監査工数の増加と打ち消され合って、なかなかその効率化の部分を企業側に享受いただけない状況であると認識している。
監査を取り巻く制度に関しては、2021年3月期の監査報告書におけるKAMの導入に向けて、全ての上場会社を監査する法人で、各監査法人とも法人を挙げて取り組んできたと思う。これにより、監査報告書の利用者が監査プロセスを理解できる情報が適切に開示されることとなった。このほか、大手監査法人では、2021年3月期に会計上の見積りの監査に関する監査基準の改正を実質的に早期適用しており、従来と比較して深度ある監査手続が実施されるようになっている。今年度は、その他の記載内容に関する監査基準の改正が適用されるため、監査法人では対応が進められている。財務諸表の信頼性の確保をするための手続の一環として、その他の記載内容についても監査人が通読・検討を行うことになるので、財務諸表及び監査報告書の利用者にとって、企業情報全体の信頼性確保につながるものと考えている。さらに、監査基準については、リスク・アプローチの徹底に関する基準改正が行われ、来年度から適用される見込みであり、監査事務所の品質管理の基準も現在議論されている。国際監査・保証基準審議会(IAASB)では、不正リスク、継続企業の前提、グループ監査の基準についての改訂の審議を行っており、今後も改訂が目白押しになっている。これは海外における財務報告の不正事案を受けて改善が検討されていると理解しており、これらの監査基準の改訂によって、監査の計画時間が増加していくことが見込まれるが、適正な監査の確保に向けて、企業関係者の理解を得ることが必要である。
高品質な監査の実行に向けて、重要なことはPDCAサイクルをきちっと回していくことだと考えている。監査事務所において品質を自主的に点検しており、各監査法人とも、透明性報告書等で不備率を公表している。大体2、3年に1回は各パートナーの監査業務が対象になるような形で品質を自主点検している。審査会や日本公認会計士協会のレビューを含めて、不備と考えられる点について改善していくことが、高品質な監査につながっていくと考えている。手続の改善においては、企業に提出を求める監査証拠を増やしたりする必要があるので、企業側の理解が必要ではないかと考える。
高品質な監査というのは、それ自体が目的なのではなく、目的はやはり適正な財務報告の確保であると考えている。適正な財務報告の確保という観点では、コロナ禍の2020年3月期の有価証券報告書の提出時における重点レビューとして、コロナの影響に関する開示が点検項目に含まれた効果が非常に大きかった。規制当局からコロナ禍での見積りは利用者にとって非常に重要なので詳細に書いてくださいという考え方が示され、企業も適正な財務報告に取り組み、監査人もその点をよく理解して監査するということで、非常に望ましい取組みであったと考えている。このような取組みを引き続きお願いしていきたい。
また、高品質な財務報告の観点から、我が国の開示の制度については改めて見直しを検討することが考えられるのではないかと思う。例えば、中間財務諸表と中間監査は、我が国特有の制度になっており、監査基準が改訂されて国際基準ベースで対応を見直すが、この我が国特有の制度への対応に非常に工数がかかっている。中間財務諸表というのは、非上場の金融商品取引法の適用会社と早期是正措置の適用になる銀行等が適用になっているが、2021年3月期で年間500社から提出されている。こういったところについては、ぜひ見直しを議論していただけるとよいと考える。
監査だけをやっていては駄目なのではないかというご意見について、企業に出向して研修することも非常に有効だと思うが、監査業務を通じて監査先の同業の他の会社の状況も知れるということが、企業の監査をするに当たって非常に強みになると思う。同じ会社をずっと見るのではなくて、ローテーションを行い、同業でもいろいろな会社を見る、あるいは違う業種を見るということで、監査人としての視点を高めていくことが非常に重要ではないかと考えている。
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○監査法人のマネジメントあるいはガバナンスのあり方を検討する際、大手監査法人と準大手監査法人、中小監査法人で、かなりアプローチが違うのではないかと考える。審査会の検査結果によると、大手監査法人と準大手監査法人は大方妥当という評価であるのに対し、中小監査法人は大半が妥当ではないとの結果であり、早急に改善する必要がある、あるいは著しく不当なものがあるとの評価がなされている。この結果は審査会の対象となった法人に限られているため、当然、健全な監査法人はたくさんあると考えられるが、中小監査法人の中には、自分の力以上にリスクのある企業を監査しているところが多いのではないか。その背景には、監査法人の規模を合併などで大きくし、監査先を増やすという経営志向があり、一方で監査の品質は高まっていない、という現状がある。平たく言えば無理をしている印象を持った。そのようななか、報道もなされていたが、中小監査法人が監査をする割合が増えている。東京証券取引所の市場区分も変わるが、プライム市場に上場する企業は、大手監査法人が監査すると考えられるし、企業側も財務諸表を作る力や、人的、経済的資源がもともと大きい。他方、それ以外の企業で、プライム市場を目指す、あるいはスタンダード市場やグロース市場で独自性を発揮しようとする企業は、準大手監査法人や中小監査法人が監査することになるのではないか。そのような上場企業に向かい合う監査法人のマネジメントやガバナンスをしっかりさせるには、サポートのみならず、モニタリングも大事ではないかと考える。
大手監査法人の課題のひとつに、監査法人が被監査会社のビジネスモデルの変化が理解されておらず、加えて、その背景にある経済環境の変化が理解されていない、ということを最も強く感じている。監査法人がビジネスモデルの変化や経済環境の変化についての把握ができていれば、たとえ被監査会社から少し強く主張されても対抗できるはず。しかしビジネスの「現場」を理解していないと、説得力のある指摘は難しい。また、規模が大きい監査法人では、すべての監査人が守るべきことが全体に行き渡っていないという例もある。行き渡っているはずと考えていたのに十分でなかった例も一部みられるので、大手監査法人といえども、やはりマネジメントやガバナンスには課題があり、それを乗り越えていくような努力は必要だと感じている。
不正を見抜く力の向上に向けた公認会計士の能力向上・能力発揮に関して、人材育成により視野を広く持つべきという点は全く同意見である。加えて、公認会計士の目指す姿や、それをウオッチしていくためのKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)などを考えてみてもよいのではないか。例えば企業のIR(Investor Relations)活動では、経営層が長期視点でどういう姿を目指しているかをはっきりと示し、それに向けてのロードマップを描き、KPIを活用して外部からも進捗が測れることを意識している。しかしながら、公認会計士が何を目指し、どう達成していくのかが、社会の期待に比べて少しみえにくいと感じている。企業不正を見抜く力も含めてどういったスキルを持って、どのような成果を上げていればそのスキルが十分なのかというのがわかりにくい。公認会計士の目指す姿や、外部からウオッチしていくためのポイント、各監査法人での人材評価やそれに対するインセンティブなどをある程度共有することが必要ではないか。企業では、ビジョンと各事業のKPIを紐付けし、それを幹部や人事の評価基準にも繋げることで、目標の実行性が担保されるという例も実際に出てきている。そういった仕組みが公認会計士でも進めば、外部からの公認会計士への関心もきっと高まるだろうし、積極的に公認会計士を目指す人も増えてくるのではないか。 -
○上場会社を監査する監査法人の数は115法人あり、非常に多いと少し驚いた。なおかつ、その中で中小監査法人の数が非常に多い。おそらく日本の監査業界で監査の問題が起きないようにしていくためには、このような中小監査法人がいかに品質の高い監査を実施することができる方向に持っていけるかというのがポイントである。
監査法人のマネジメント・ガバナンスという観点については、「監査法人のガバナンス・コード」が取りまとめられ、大手監査法人だけではなく準大手監査法人と8つの中小監査法人が受け入れており、非常によい対応結果だと評価している。8つの中小監査法人が受け入れているということは、「監査法人のガバナンス・コード」は中小監査法人でも受け入れることができる内容になっていることを意味していると考える。ソフトローなので強制することはできないが、上場会社を監査している監査法人であれば、全てに「監査法人のガバナンス・コード」を受け入れていただくようにする努力をしていく必要があるのではないか。現在の「監査法人のガバナンス・コード」は、大手監査法人における組織的な運営の姿を念頭に作成されていると書かれており、広く受け入れてもらうためには、必要な見直しも念頭に置いて検討していく必要がある。
監査法人の規模と体制に関して、上場会社の監査の担い手として監査を安定的に実施するためには、やはり社員の数について一定のミニマム・リクワイアメントを設けることの検討が必要ではないか。現行の公認会計士法では、監査法人は5人の公認会計士で設立することができるが、これは監査法人制度ができた昭和41年から変わっていない。時代が当時と今では随分変わってきており、上場会社は小さい会社といえども相応に大きくなって複雑になっていることから、上場会社の監査を担当する監査法人の最低社員数を引き上げることも検討したほうがいいのではないか。社員の数を増やすことにより、公認会計士である社員のローテーションに安定的に対応することができるほか、出資金が増えて監査法人の財政基盤も安定化するといった様々なメリットがあることから検討が必要と考えている。当然、そのような話をすると反対意見が出てくるので、監査法人の設立そのものは現在の公認会計士法の5人ということで手をつけず、上場会社の監査を担当する監査法人の社員数について検討すればいいのではないか。
不正を見抜く力の向上に向けた公認会計士の能力向上・能力発揮に関して、こちらは行政当局も、日本公認会計士協会なども、それから会計教育研修機構も、様々な研修の充実化を図ってきている。CPEでも、不正対応リスクや不正事例研究で1事業年度につき6単位取る必要があると理解しており、かなり手厚く対応していると理解している。それでも十分ではないということは、研修に必ずしも実効性がないのではないか。不正事例研究は特に有用で、ケーススタディーを使った研修のやり方というのは比較的効果があると考えている。特に中小監査法人は、監査法人の中で教育研修をするところが少ないという話も聞いたことがあり、中小監査法人を強化するという意味では、その辺りについても目を向けていく必要があるのではないか。
それから、大手監査法人も含めて言えば、デジタルトランスフォーメーションということで、上場企業の中でシステム化が急速に進んでいることから、やはり公認会計士はシステムの中で行われる不正を当然に想定して監査対応する必要があるということで、ITシステムやAIに精通した専門家を利用することが必要になると理解している。専門家を利用するとしても、公認会計士が情報システムの全容を監査人として理解する能力であるとかデジタルコンピテンスを持つ必要があり、そうした能力を持つことによって、専門家を利用するときに、その専門家と適切なコミュニケーションを取ることができる。そのためにも、監査法人の中で適切なトレーニングプログラムを持ってもらうことが重要になると思う。
能力ある公認会計士の活躍の機会に関して、公認会計士試験の試験科目や受験資格など、試験内容の見直しをする時期に来ているのではないか。現在の複雑化・多様化した経済環境の中で公認会計士として必要な能力を持った人材であるかを確認する必要があり、例えば、IFRSや、あるいはデジタルに関連する情報通信技術(ICT)の概論など、そういったものを試験科目の中に取り入れられないかというような検討が必要ではないか。また、比較的若い学生で、専門学校に通って大学2年時には試験に受かって資格を取ってしまう人を見かけたことがある。そういう人が更に増えていると聞いており、この辺りも実情を調査の上、必要であれば慎重に対応を検討する必要があるのではないか。
組織内会計士に関して、基本的には、監査法人を退職して一般企業やその他の組織に入って活躍されるのは、非常に結構なことだと思う。ただ、最近は会計基準も複雑になり、IFRSの適用開始や内部統制制度をしっかり運用しなくてはいけないということで、公認会計士の知識や能力、経験も十分アップデートしていただく必要があり、組織内会計士にもCPEをしっかりと履修してもらう価値は大きい。日本公認会計士協会の中に組織内会計士のネットワークができているが、CPEの履修要件を満たさない公認会計士には、厳格に対応していただくと同時に、彼らが専門知識と倫理観を常に保持できるような形でCPE履修義務を果たしてもらうための施策が必要だと思う。
監査基準等の制度に関して、企業不正を見抜くための取組みとして、内部監査人等の利用について申し上げたい。コーポレートガバナンス・コードの改訂で、内部監査部門による取締役会・監査役への報告が盛り込まれており、取締役・監査役との連携が重要視されているが、内部監査部門との連携をより強化することも企業不正を見抜くことに寄与するのではないか。最近は企業の内部監査部門もかなり充実が図られており、会計監査において、内部監査部門との連携をより強化する、会社の実情に精通している内部監査部門の利用を図るということが適切ではないかと思う。現実はどうかというと、財務報告に係る内部統制基準、実施基準では、内部監査人等の作業を自己の検証そのものに代えて利用することはできないが、経営者の評価に対する監査証拠として利用することができるとされている。だが、実際は内部監査人等の作業の利用はほとんど行われていないのではないか。内部監査人の利用を積極的に進めることが、内部統制の強化だけでなくて監査の充実にもつながると考えている。
内部統制監査が形骸化しているという話を耳にする。内部統制報告制度は2008年度から適用され、かなり年数が経っている。これまで一定の効果を上げているということは間違いない。特に、従来、内部統制に対してあまり理解がなかった経営者が、この制度ができた以降、内部統制の重要性を認識し、様々な経営管理上の指示をしていると聞いている。そういう意味で、企業のガバナンスの向上にも寄与している制度と認識している。内部統制監査の形骸化というのは、今の日本のやり方はダイレクト・レポーティングでないために、内部監査部門の実施するモニタリングとか、あるいは内部統制の有効性の評価に対する監査人の監査が、毎年同じような監査を実施する傾向にあるということにあるのではないか。ダイレクト・レポーティングに変えるべきと言うつもりは毛頭なく、現在も、基準上は監査人が自ら十分かつ適切な監査証拠を入手することが求められていることから、それを徹底してもらうことが重要だと思う。内部統制監査の形骸化という批判を受けないように、日本公認会計士協会から監査人への注意喚起といった対応・施策が必要ではないか。
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○皆様のご指摘について、それぞれもっともなところがあると思うが、二点述べる。まず、会計監査の話なので公認会計士側にライトが当たりがちだが、公認会計士の基本は何かというと、会計監査・会計のプロということなのだろう。では上場会社の会計監査にいう会計とは何かというと、この10年、20年くらいの間に、特に事業活動に関する会計のカバーすべき範囲が徐々に広がっているという様相がある。企業活動の社会性がより意識されるようになったということだと思うが、公認会計士がその能力をきちんと発揮して、実効性のある会計監査を行えるようにするためには、しっかりとした教育が必要だというのはその通りではあろう。監査対象となる会計のカバー範囲が広がりをみせていることに対応できるような能力を持つ人材を試験で選別し、さらにそこまでの対応能力をつけてもらうことがどうすればできるのか、が課題の一つということになる。
公認会計士試験に合格した後に、社会の変化に応じて様々なバリエーションや、変化が出てくるのは、当然のことだろうと思う。むしろ、それに対応できる能力を最初の試験の段階でどう見極めるのか、それが無理ならどのように培っていけばいいのかなど、そういった観点が必要ではないか。不正を見抜く目といった言い方からも分かるように、議論の土台には、公認会計士側で最後に不正を見抜けるかどうかが問題だという発想にある気がする。しかしながら、企業の会計監査というのは、公認会計士だけが上から目線で行うものではなく、監査を受ける側である企業がどのような姿勢で監査を受けようとしているかということに、非常に大きな関係があるのではないかと思う。結局のところ、公認会計士側だけの意識に任せるだけでは足りない。やはり企業側が監査を受けることが何のために役に立っているのかということをしっかりと認識することが重要ではないか。最終的には市場の健全性を保ち、投資家に不測の損害を与えないということが実現できればいいということかと思うが、そのためには企業側も矜持を持って監査を受ける心構えを持ち、体制を整えることが必要だろうと思う。
その上で、企業と公認会計士との間に、同じ土俵の上での議論ができるような能力の差がない監査というものが実現できるようになれば、監査の質がかなり向上していくと思う。具体的には、公認会計士が企業側に様々なことを説明するにあたり、企業側がその説明を十分に理解できるようにしているのか、企業側が公認会計士は企業のビジネスの本質を分かっていないと感じることはないのか、という点は気になるところである。複数の監査法人が同じことについて全く異なる意見を出してきたというような事案、例えば損失の見積りについて出てきた金額が全然違っていたというようなときに、企業側がそれぞれの監査法人ときちんと話し合い、論破するくらいの状況が生まれないと、いい監査というのはできないのではないか。そういうことを考えると、公認会計士側から見たコミュニケーションの能力の高さというものも求められると思うが、企業側も、公認会計士とコミュニケーションを取っていくことについて、それなりの努力をしなければいけないという感覚を持ってほしいと考える。
その観点からみると、会計監査の報酬を払うのは企業側であり、報酬を受けているのが公認会計士であり、対等になっていないところがある。加えて、公認会計士の報酬は時間制で、工数が増えて時間が使われれば使われるほど報酬が高くなる。企業は、報酬が高くなることをすごく嫌うので、すぐ監査時間を削れませんかという話になってしまう。そうなると、公認会計士に言わせれば、縮小された形でしか見られないから質の高い監査はできない、というような、悪循環が起きている場合はないのだろうか。こういう問題は、企業側が監査の重要性というものを認識して、それなりに手間がかかることをしてもらっているので正当な報酬は払うという気持ちにならなければ改善されない。公認会計士側も、それだけの報酬を払っていただくのであれば、自分たちの能力を引き上げて、しっかりやらなければいけないと考えて最大限の努力をする、というような良循環が生まれるような改革、あるいは底支えが機運として育っていくことを期待したい。
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○監査業界の人間は、自分たちが関係者の皆さんからどのように見られているかということをおそらく明確に自覚していないだろうと改めて感じる。監査という独占業務が与えられている中で、多くの公認会計士がコンフォートゾーンにいるので、時代の変化に適応して企業と対峙するということが本当にできているのかどうか、改めて考えなくてはいけない。
中小監査法人の問題に関して、確かに中小監査法人の中には、極めて重い行政処分を受けるところも出ており、監査の品質に問題があるところがあることは間違いない。ただし、そうでないところもある。一方で、大手監査法人は大丈夫かというと、大手監査法人は全体としては優れているが、その中では大きなばらつきがあると思う。そのため、必ずしも大手監査法人が安心というわけではなくて、全体で底上げを図る必要があると考えている。品質の観点で言えば、今後、品質管理基準が改訂される。また、「監査法人のガバナンス・コード」を中小監査法人にも適用することも考えられる。今回、監査事務所の経営に当たり非常にクリアな品質管理基準を提示いただいており、いくつかの観点から、品質目標を定めて経営するよう要請している。こちらは要求事項であるため、どの監査法人も適用する必要がある。そこに、プリンシプルで、コンプライ・オア・エクスプレインで適用していく「監査法人のガバナンス・コード」を組み合わせることにより、監査法人の実情をクリアに見せることができるような情報開示を考えてはどうか。監査法人はあまり注目されていないという気がした。注目されていないという意味は、公認会計士の存在は尊重しているけれども、ほとんどの監査で無限定適正意見が出ているのが現実であり、当たり前のように無限定適正意見が出ているので監査が空気のような存在になっており、監査というものが、監査報告書を出すことを通じて、いかに企業の投資意思決定コストと資金調達コストを引き下げているかというメリットを、資本市場のインフラだと言いながら、おそらく多くの関係者が明確に認識していないということである。公認会計士がいかに社会に認めてもらえるのか、また注目してもらえるのかということを考えて、取組みを進めて行く必要がある。
有価証券報告書の記載内容の拡充に関して、こちらは企業側の問題であるが、内部統制やガバナンスも、より一層強化されるべきではないか。その観点から、有価証券報告書の最後に書かれている、「有価証券報告書の記載内容の適正性に関する事項」について、大体2行から3行しか書かれていないところを、海外の事例も参考にして充実させるべきではないかと強く思っている。
また、会社法と金融商品取引法の二元的な法律の規制に関しては、上場会社においては、メリットとデメリットを考えたときに、様々な利害関係者に対するデメリットのほうが大きいと思う。法体系としての一元化を考えるべき時期に来ているのではないか。
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○「会計監査の在り方に関する懇談会」なので、不正をどうしても見抜けという期待、あえて言うならば過度な期待の議論になりがちだが、米国では、民間資格で公認不正検査士というものがあり、これは不正検査を行う専門家ではない。むしろ不正を行わせないためにどのような組織体制、あるいはインセンティブ、モチベーション、仕組みをつくるのかという不正の防止のほうに大きなエネルギーを使っている。当然ながら企業の側の問題であり、企業が社会的責任を意識して、信頼し得る情報を開示する、それを側面から支えるのは会計監査人だと考えている。公認会計士と企業の向いているベクトルは同じだと思うので、やはり双方の議論が必要ではないか。