スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第27回)議事録
1.日時:
令和4年5月16日(月曜日)9時00分~11時30分
2.場所:
オンライン開催 ※一部、中央合同庁舎第7号館 13階 共用第1特別会議室
【神田座長】
おはようございます。皆様、お待たせして申し訳ございません。ただいまからスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議の第27回目の会合を開催させていただきます。皆様方とは久しぶりにお会いすることになりますけれども、大変お忙しいところを御参加いただきまして、誠にありがとうございます。
本日の会議でございますけれども、オンライン会議を併用した開催とさせていただきます。会議の模様はウェブ上でライブ中継させていただいております。また、議事録ですけれども、通常どおり作成の上、金融庁ウェブサイトにて後日公開させていただく予定ですので、よろしくお願い申し上げます。
なお、今日は私がヘッドホンを使わせていただくことになっておりまして、もし声等が聞こえにくい等がございましたら、御指摘をいただければありがたく存じます。
それでは初めに、今回フォローアップ会議を開催するに当たりまして、新しくお二人の方にメンバーとして御参画いただくことになりましたので、事務局から御紹介をお願いします。廣川課長、よろしくお願いいたします。
【廣川企業開示課長】
事務局を務めさせていただきます、金融庁企業開示課、廣川でございます。よろしくお願いいたします。
この度新たにフォローアップ会議のメンバーに御就任いただいたお二方を御紹介させていただき、御挨拶を頂戴できればと存じます。
まず、東原敏昭様でいらっしゃいます。よろしくお願いいたします。
【東原メンバー】
皆さん、こんにちは。今回初めて参加させていただきます、日立製作所の東原でございます。最初、私が今、取締役になって8年が過ぎたわけでございますけれども、日立の取締役関連の改革は、皆さん御案内のように川村さんとか中西さんの時代からずっとやっておりまして、私はその間、この8年間ぐらいこの改革に一緒に携わっております。
そういった意味で、現在の状況を申し上げますと、取締役は全員で13名おります。それで、日立関係者は3名です。今、執行系は、私、会長と社長、それから、OBが1人おりまして、日立関係者は3名でございます。10名は全て社外でありまして、その10名のうち6名がノンジャパニーズであります。そういう関係の部隊でありまして、かつ指名委員会等設置会社ですから、指名委員会とか、報酬委員会とか、あるいは監査委員会とか、全て委員長は社外が務めております。それから、取締役会の議長も社外になっておりまして、比較的、日立の執行系とガバナンス系がきちっと分かれた形で今やらせていただいています。
それで、当初、私が社長になった2014年頃は、執行系の資料と取締役系の資料とで若干違いがあったのですが、今は全く社内と社外取締役との間のドキュメントは全く同じになっております。そういった意味で、取締役と執行系の情報の共有というのは一致していると思っています。特に力を入れているのは、やはり将来日立をどういうふうにしていくんだというビジョンと、あるいは執行系の、現状のそれに向かってどういうふうに進めているのかというところの共通認識をどう持つかというところが今、力を入れているところです。
それで、かつ欧米の取締役のガバナンスを見ると、結構、取締役のガバナンスが強いというのがあるのですけれども、今、日立は執行系の自主性もどんどん主張していくような形にして、取締役系のガバナンスと執行系の主体性がうまくバランスが取れるような形で運営しております。そういった意味では、お互いのトラスト、信頼感というのは非常に重要でありまして、そこに注力している状況であります。
それから、日立の取締役のメンバーの方の一つの特徴として、将来日立を担って立つ幹部候補生を自分が教育するという熱い思いを持たれている方が結構多くて、将来の幹部候補生に対する教育とか、あるいはダイバーシティに関して、女性リーダーを育てるというので女性の取締役がどんどんロールモデルとして出てきていただいたり、そういうことも頻繁にやっております。それから、もっと言うと、彼はもうちょっと伸びるのでメンターをしたいという、取締役が執行系のメンターになったりするケースも増えておりまして、非常にそういった意味では、お互い信頼し合いながら、将来の会社をどうしていくかという議論がうまくかみ合っている状況ではないかと思っております。
私からは以上です。
【廣川企業開示課長】
東原さん、大変ありがとうございました。
それでは、続いてもう一方、片山銘人様でいらっしゃいます。片山様、よろしくお願いいたします。
【片山メンバー】
労働団体連合の片山と申します。どうぞよろしくお願いします。昨年10月から経済・社会政策局長として着任しております。今後参加させていただくことになりましたので、どうぞよろしくお願いします。
【廣川企業開示課長】
片山様、ありがとうございました。
そのほか、引き続き御参加いただくメンバーとオブザーバーの皆様につきましては、名簿をお手元に配付しておりますので、そちらを御覧ください。また、事務局にも異動がございましたが、時間の都合もございますので、配席図をもって紹介に代えさせていただければと存じます。
以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。それでは、議事に移らせていただきます。
本日でございますけれども、事務局である金融庁と東京証券取引所から資料の説明をまずしていただきまして、その後、質疑応答、討議の時間とさせていただきたいと思います。
それではまず、事務局の金融庁のほうからの説明をお願いします。廣川さん、よろしくお願いします。
【廣川企業開示課長】
ありがとうございます。お手元の資料の事務局説明資料、こちらのほうで説明をさせていただきます。
おめくりいただきまして、1ページの目次のところでございます。本日の議題といたしましては、まず1番目、コーポレートガバナンス・コード再改訂後の中間点検というのが一つ、それから、2つ目としては個別論点、さらに具体的には、持続的な成長に向けた課題、そして、企業と投資家との対話に係る課題、この2つを議題として取り上げさせていただきたく存じます。以下、資料に沿いまして説明をさせていただきます。
2ページを御覧ください。まずコーポレートガバナンス・コード再改訂後の中間点検についてということでございます。2014年のスチュワードシップ・コード策定以降、累次のコーポレートガバナンス改革を実施してまいりました。2021年のコーポレートガバナンス・コードの再改訂を受けまして、各企業におけるガバナンス改革の取組みは一層進展してございます。例えば2022年4月時点におきましては、プライム市場上場企業の8割超が3分の1以上の独立社外取締役を選任。また、プライム市場上場企業の8割弱が指名委員会を設置、8割超が報酬委員会を設置といったような状況でございます。
3ページを御覧ください。こうした取組みが進展する一方で、次のような指摘も聞かれます。例えば企業側からは、「コードはコンプライ又はエクスプレイン」の枠組みだが、実際には「エクスプレイン」すると投資家に十分理解されるか不安。また、そのエクスプレインのための検討が大変。こうした中、一部において、コードへの対応が形式的になっているおそれがある。また、コード改訂やガバナンス改革の取組みが企業価値や「稼ぐ力」の向上につながっているか検証が必要といった指摘がございました。
一方、機関投資家からの指摘としては、企業との充実した対話の実現に向け、対話を支える制度的な要素も含め、一層の改革が必要。持続的な成長に向け、現預金・内部留保の一層の活用などを検討すべきといったようなものでございます。
こうした中での点検ということで、今回は私どものほうで、円谷先生のお力も借りまして実証研究の整理をいたしました。また、金融庁のほうで企業へのインタビューも行ってまいりました。点検のポイントとしては、一番下ですけれども、上場企業各社のガバナンスの充実・強化に向けた取組み、あるいはエンゲージメント、こういったところについてどういった工夫が見られるのか、あるいは課題は何かといったところが点検事項かと考えてございます。
次に、5ページまで飛んでいただきます。まず実証研究につきましてですけれども、海外におきましては、コーポレートガバナンス制度の整備や機関投資家による株式保有がどのような条件の下で企業のパフォーマンスに影響を与えるかについての実証研究の蓄積がございます。詳しくは6ページにございます。他方で、日本のコーポレートガバナンス改革実施以降の期間を対象とした実証研究の数は必ずしも多くはなく、その結果も様々でございます。日本の実証研究においての改革の評価は必ずしもまだ定まっていない状況かと存じます。
例えば、下で研究の一例を御紹介させていただきますと、社外取締役のところでいきますと、改革実施前を対象期間とした研究においては、社外取締役の導入が市場からの評価を上げるというような研究もございました。他方で、改革実施後の研究については、複数はあるのですけれども、社外取締役の導入は企業価値との間に有意な関係が見られないという研究成果のほうが割合としては多いというような状況でございます。委員会設置については、指名委員会、報酬委員会を設置している企業はROAの伸びが大きいといった研究成果がございます。資本政策に関連しましては、余剰現預金を減少させると、市場からの評価が上昇する、また、政策保有株式につきましては、政策保有株式の売却によって利益率が改善するですとか、あるいは自社株買いや配当が増加するですとか、そういったところに有意な関係が見られるといったような論文がございます。対話、エンゲージメントの関係でいきますと、機関投資家とのエンゲージメントがガバナンス改善や株価上昇をもたらすといった論文がございました。株式所有に関しましては、アクティブ投資家比率が高いほど製造業のR&D成果が上がる。あるいは、機関投資家・外国人持株比率が高い企業ほど、生産性や市場からの評価は高いといったような研究成果があるといったような状況でございます。
続きまして、16ページに参ります。企業インタビューについての説明でございます。私どもは昨年の12月から今年4月にかけて上場企業16社様に企業への個別インタビューということでお話を聞かせていただきました。対象企業の選定に当たっては、経団連様からも御協力をいただきました。この場を借りて御礼を申し上げます。具体的な個社名はこちらに掲げさせていただいたとおりでございます。
次の17ページに参りまして、どういったお話を頂戴できたかということで少し御紹介をさせていただきます。まず上のほうの総論というところを御覧いただければと思うのですが、コーポレートガバナンス改革への主な評価といたしましては、執行陣を含め多くの企業から、取締役会の審議の充実・中長期的な経営戦略の議論の深化、深まりによって企業経営に良い影響が生じた、投資家との対話から経営に有益な示唆を得られたといった声が聞かれまして、コーポレートガバナンス改革の方向性及び有効性は広く支持されていることを示唆しているものかと受け止めております。例えば、取締役会の機能発揮につきましては、下にも少し書かせていただいておりますが、執行側からの説明方法を創意工夫するといったような様々な工夫をされているというお話をたくさん伺えております。
それから一方で、指摘された主な課題のところですけれども、1つ目ですが、コンプライへのプレッシャーが企業にある中で、コーポレートガバナンス・コードが、企業経営の細部に至る要請を行うことで、かえって企業が形式のみを整えることとなり、改革が形骸化することを懸念する声があったということでございます。また、2つ目ですが、機関投資家の形式的な議決権行使、特に中堅以下の規模の企業における対話の機会不足、実質株主把握の困難等の課題へ対応することにより、より質の高い対話を促進すべきという指摘もあったところでございます。
そのほか、下のほう、いくつか抜粋して御紹介しますと、執行側との役割分担のところでありますけれども、取締役会で中長期的な経営戦略を議論し、執行に権限を委譲。その執行の進捗確認を通じてモニタリングする形により、経営のスピードが上がり、中長期的な戦略に沿った経営ができたという御指摘もいただきました。また、取締役会の実効性評価のところでありますけれども、取締役会の実効性評価を通じて、コーポレートガバナンス改革のPDCAを回すことにより、取締役会の質の向上につながったという意見も頂戴しております。
最後、エンゲージメントのところですが、社長や取締役会議長、社外取締役が積極的・継続的に対話に取り組むことや、中長期的な視点で企業を見てくれる投資家と対話を行うことで、投資家から経営に対する有益な示唆を得られたといったポジティブな御意見も頂戴したところでございます。
続いて、資料飛びまして、大きく2つ目、個別論点のところですけれども、1つ目、持続的な成長に向けた課題というところでございます。
おめくりいただきまして23ページですけれども、コーポレートガバナンス改革は、中長期的な企業価値の向上に向けて、経営陣の果断なリスクテイクを支えることを狙いとしてきておりますけれども、日本企業の成長投資(設備投資、研究開発・知財投資、人的投資等)は、コーポレートガバナンス・コード策定以降、小幅な伸びにとどまっているということかと存じます。1点だけ、下につけている折れ線グラフは、マクロの統計でございますので、その点は留意して見る必要があるかと考えてございます。
24ページに参りまして、コーポレートガバナンス・コードの再改訂後も、この1年ですけれども、政府の中で内閣官房、経産省、あるいは政府の外におきましても、様々な形で企業の知的財産や人的資本等への経営資源の配分に関する議論が進んでいっているものと思います。ただ、現時点におきましては、投資家と比較をしますと、企業の側ではその重要性が必ずしも十分に認識されていないといったようなアンケート調査結果もございます。
次の25ページに参りまして、そうした中で、足元、日本の大企業の内部留保は242兆円まで、特にそのうち現預金は79兆円まで積み上がってきているというような状況でございます。下のほうに少し図をつけております。成長投資という観点からは、それがどういう形で会計上現れるかというのは少し注意して見る必要があるかと思っておりまして、例えば、人的資本に関連するものでいうと給与手当、研究開発・知財に関するものでいうと研究開発費、こういったものは、真ん中ほどにあります損益計算書の当期のところの費用として発生する分、当期の当期純利益は下がるわけでありますけれども、これが将来的にどういう形で企業価値向上につながっていくのか。また、当期純利益は、右側にあります配当・自社株買いに回らないものは、貸借対照表上は内部留保(利益剰余金)という形で積み上がっていくということになりますが、その内部留保は貸方の話でありまして、成長投資等の文脈でいえば、例えば、設備投資を行うとか、M&Aを行うといった場合には内部留保が減ることなく、借方のほうに資産という形でそれぞれの影響が現れてくるという面があろうかと思います。そういった中で、借方にあります現預金をどのように考えるかといったような論点もあろうかと存じます。
次の26ページに参ります。よく自社株買いの話が言われますけれども、株主還元の数字を見てみますと、日本企業の配当・自社株買いは、米国や英国と比べても、必ずしも過大とは言えないといったデータがございます。
次に、個別論点の2つ目の企業と投資家との対話に係る課題について御説明申し上げます。
28ページでございます。近年、株式のパッシブ運用はますます増加しております。それに伴いまして、協働エンゲージメントを行ったことがある投資家も増えてきているというのがアンケート結果で確認されております。
次のページに参りまして、29ページでございます。スチュワードシップ・コードの有識者検討会におけるこれまでの議論におきましては、建設的な対話を支える制度的な要素(協働エンゲージメントに係る法的枠組み等)についての指摘が行われてきているところでございます。特に大量保有報告制度との関係でいきますと、「共同保有者」や「重要提案行為」といった概念の範囲が不明確だという御指摘がこれまでにもございました。この点に関しましては、2014年に金融庁のほうから、「法的論点に係る考え方の整理」というものをお示しさせていただいております。ただ、その後も、例えば、2019年12月、「スチュワードシップ・コードの再改訂案について」というのを中ほどに書かせていただいておりますけれども、引き続き協働エンゲージメントの範囲が明確ではないというような声もあるということが確認されております。また、直近でいきますと、下に棒グラフがついておりますけれども、日本投資顧問業協会が実施された昨年のアンケートによりますと、協働エンゲージメントの課題として、引き続き、「重要提案行為への該当性判断が不明確」、あるいは「共同保有者への該当性判断が不明確」といったようなことを掲げていらっしゃる運用会社さんがいるということが確認されているというような状況でございます。
1ページ飛びまして、31ページです。これまた別の話ですけれども、制度的な話としては、近年、株主提案等が増加傾向にある中で、上場会社が株主との対話を深めていく観点から、「実質株主」を確認できるようにする制度について検討すべきとの指摘がなされております。一例としては、そちらの下にあります、2020年7月、新時代の株主総会プロセスの在り方研究会、経産省の報告書においてもその指摘がなされているということでございます。
以上が御議論の材料でありまして、最後に33ページ、34ページに「御議論いただきたい事項」をまとめさせていただいております。少し長くなりますけれども、読み上げさせていただきます。
まず、「コーポレートガバナンス・コード再改訂後の中間点検」についてでございますが、2014年のスチュワードシップ・コード策定以降、累次のコーポレートガバナンス改革を実施してきたが、改革の効果についての実証研究の蓄積は未だ多くなく、改革の効果に関する評価は定まっていない。他方、創意工夫でコーポレートガバナンス改革に取り組んだ企業からは、取締役会審議の充実化等、一定の効果を感じているとの指摘がある。このような状況を踏まえ、これまでのコーポレートガバナンス改革の効果をどのように評価しているか。その際、コーポレートガバナンス改革の効果についての企業の実感、コードを細則化すべきでない等の批判をどのように受け止めるべきか。そして、資料で挙げている分析以外に、改革の点検として見るべき分析はあるか。また、分析結果を踏まえ、今後のコーポレートガバナンス改革で対応していくべき課題はあるか。最後、企業の取組みの中で、今後フォローアップ会議として取り上げるべきものはあるか、ということでございます。
また、次の論点、「持続的な成長に向けた課題」につきましては、まず1つ目として、コーポレートガバナンス改革を通じて、企業に持続的な成長に資する投資(設備投資、研究開発・知財投資、人的投資等)を促してきたが、米国と比較すると、それらの投資は小幅な伸びにとどまっており、内部留保が特に現預金として積み上がっているという結果がございます。そうした中で、価値創造の基盤となる知的財産や人的資本に関する投資の重要性は、政府等において議論されてきたものの、企業における取組みは未だ道半ばであると考えられるところでございます。
積み上がり続ける日本企業の内部留保(特に現預金)の有効活用に向け、下記の点をどう考えるかということで、1つ目、中長期的な企業価値の向上に向けた経営資源の適切な配分(設備投資、研究開発・知財投資、人的資本等)。その際の成長投資と、資本コストを踏まえた株主還元のバランス。2つ目に、コロナ禍、資源高、ウクライナ情勢等、不確実性の高い状況における現預金保有の方針。3つ目に、企業が上記の課題に取り組む際の取締役会や株主、両者の対話の役割、そして、企業の説明責任の在り方、といった点でございます。
最後、「企業と投資家との対話に係る課題」といたしましては、企業と投資家の建設的な対話の在り方については、様々な議論・検討が進展している一方で、過去のフォローアップ会議やスチュワードシップ・コードの有識者検討会において、協働エンゲージメントの範囲が明確ではない等の指摘がなされているということで、1つ目に、これまでの指摘を踏まえて何らかの対応を検討すべきと考えるか。2つ目に、これまでの指摘以外にも、関連する制度において検討すべき論点はあるか、ということでございます。
私からは以上です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。それでは続きまして、東京証券取引所から御説明をいただければと思います。青さん、どうぞよろしくお願いいたします。
【青常務執行役員】
東京証券取引所の青です。私からは、昨年皆様に御議論いただきました改訂コードについて、上場会社の対応状況の報告をさせていただきます。このガバナンス改革に関しましては、形式的な対応よりも実効性の面が重要と承知をしていますけれども、ここでは客観データをいくつか御説明させていただきます。必ずしも概括的な状況を示す数字の高低がガバナンスのよしあしを直接的に表すわけではないので、あくまで参考としてお聞きいただければと存じます。
資料の1ページは改訂事項の概要を示しております。本日は、主な改訂項目として、太字の部分の状況について御説明させていただきます。
2ページでは、プライム市場における独立社外取締役の選任比率をグラフにしています。これを見ますと、引き続き選任が進んでいる状況でして、独立社外取締役が3分の1以上を占める上場会社が4月時点では約8割超に増加しています。増加の要因としては、プライム市場を選択した12月期決算会社を中心に前倒しで社外取締役の選任が進んできたと考えられます。一方で、独立社外取締役が過半数を占める上場会社の比率は増加しているものの、1割弱という状況です。こちらは3月決算会社の6月の株主総会前のものなので、総会を経るころになりますと、もう少し全般的な傾向が明らかになると思われますので、夏頃には状況をアップデートしていきたいと考えております。
3ページでは、プライム市場において、法定あるいは任意の指名・報酬委員会を設置している会社の推移を示しております。こちらも増加しているところです。指名委員会、報酬委員会共に約8割にまで増加してきています。先ほどの独立社外取締役の選任と同様に、株主総会後には状況が変わっているかと思いますので、さらにアップデートしていきたいと思っています。
4ページは、取締役会が備えるべきスキルの開示状況を示しています。それで、この原則をコンプライとする会社の割合、こちらは、以前の市場第一部で見ますと約7割でして、エクスプレインを選択する3割の会社におきましても、次回の総会に向けて対応を検討しているという記載が見られているところです。それで、中身あるいは人選が重要なポイントであるということですけれども、開示のほうでは進捗しているところであるということです。なお、スキルの組合せの開示方法としましては、下の円グラフのように、TOPIX100、つまり、100銘柄を集計しておりますけれども、こちらでは、いわゆるスキル・マトリックスを用いる例が大半という状況だということです。
5ページは、中核人材の登用関係です。改訂コードでは、女性、外国人、中途採用者に関して測定可能な目標を設定することなどが盛り込まれたということですけれども、以前の市場第一部の会社で見ますと、約7割がコンプライしている状況にあるということです。一方でコンプライとしつつも、この3つの属性のいずれかについて目標が設定されていないという会社もあるということです。例えば、下のほうにありますように、TOPIX100の銘柄で見た場合には、女性と外国人、中途採用者の間では対応状況にかなり差があるというところが見受けられます。
6ページではサステナビリティ関連の状況を記載しています。まず、以前の市場第一部上場会社でいいますと、9割以上がサステナビリティを重要な経営課題と意識をしているところが見受けられます。他方で、基本的な方針の策定ですとか、取組み等の開示といったような具体的なアクションになりますと、コンプライ率は6から8割程度になってまいります。そこで、今後さらなる充実が期待される部分かと考えています。それで、現時点で開示を行っております会社の状況をTOPIXの上位100銘柄で見ますと、自社のウェブサイトや統合報告書などで開示を行うという例が多くなってきています。また、今般プライム市場に盛り込まれたTCFDに基づく開示の取組状況を見ますと、右下のグラフのとおり、8割近くが対応済みという形でして、先行して取組みが進んでいるとTOPIX100銘柄については言えるかと思います。
7ページは飛ばして、8ページですが、こちらは、プライム市場向けに盛り込まれました英文開示の実施状況です。左側のグラフにありますとおり、プライム市場におきまして英文開示に取り組むという会社は堅調に増加をしてきているところです。また、右側のグラフを見ますと、資料別の状況ですけれども、こちらでは、決算短信、IR説明会の資料、株主総会の招集通知の本体と参考書類が、英文開示の実施率が高い資料という形になっているところです。
9ページは、市場区分別のところで英文開示の実施率をまとめたものですので、後ほど参考に御覧いただければと存じます。
10ページを御覧いただきますと、こちらもプライム市場向けに盛り込まれました、議決権の電子行使プラットフォームの利用状況を示したものです。プライム市場の上場会社においては、利用が9割を超えるという状況でして、昨年と比べて増加してきていると言えると思います。
以上、駆け足ですけれども、私からの説明は以上です。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。それでは、討議に入ります前に、本日御欠席のワリングメンバーと冨山メンバーから意見書を提出していただいております。事務局から簡単に概要の御説明をお願いいたします。
【廣川企業開示課長】
それではまず、ワリングメンバーから頂戴した意見書の概要を説明させていただきます。ワリングメンバーからは、10点ほど多岐にわたる御意見を頂戴しておりますので、本当に一つ一つの項目についてはざっとでございますけれども、まず1つ目は、次のページ、2ページに参りまして、「独立取締役の数」についてでございます。期限を設けて独立社外取締役の割合を高めていくべきというような御提言をいただいております。
それから、次の3ページに参りまして、「独立取締役の質」のところでございます。様々御意見ありますが、独立取締役の質の評価に資するような開示の充実などを推奨されておられます。
それから、同じページの下の部分、「多様性、公平性、包摂性」でございますけれども、例えば企業が目標とか行動計画とか測定可能な期限付きの目標を表す明確なポリシーで、取締役会の多様性、公平性、包摂性へのコミットメントを示すことを推奨といったような御意見を言っておられます。
それから、4ページに参りまして、「委員会の採用」のところです。こちらは全てのプライム市場上場企業が指名委員会等設置会社制度を採用することを推奨されておられます。
次の「資本配分」のところでございます。こちらは5ページからさらに6ページにかけて、非常に大部ではありますけれども、5ページの下の部分、「以下の事をお勧めします」ということでいくつか書かれているので、例えばということで御紹介をしますと、資本配分決定の合理的根拠に関する開示の改善とか、中核でない資産を保有するための合理的根拠に関する開示の改善、また、資本コストに関する開示の向上といったような御提唱をいただいているといったようなところでございます。
それから、6点目、「政策保有株式」のところですけれども、こちらのほうもいろいろ書いておられますけれども、例えば、政策保有株式をなぜ保有するのかということについての根拠については、より企業が多くの情報を提供することを提案しますといったような御意見でございます。
また、次の7ページ、「コーポレートガバナンスの開示」のところ、中ほどでありますが、例えば、定時株主総会の招集通知と事業報告書を株主総会の少なくとも30日前に公開すること、また、総会の開催時期については7月に開催できるようにということ、それから、資料としては、有価証券報告書と招集通知の双方に英語訳を提供すること、こういったことを推奨されておられます。
その下からですけれども、8番目、「持続性(サステナビリティ)に関する開示」につきましては、次のページの2段落目ですが、サステナビリティ情報というのは、有価証券報告書や、その他の自主的な企業開示資料でより広範囲に開示されることを推奨ということでございます。
また、9番目、「集団的対話」、collective engagementと英語ではなっておりますけれども、こちらについては、エンゲージメントに関するガイダンスを金融庁が公開することが有益といった御意見でございます。
また、次の、最後10番目ですけれども、「企業と投資家の間の対話の向上」、こちらは次のページにかけて書いておられますが、ごくざっと申し上げますと、「コンプライ・オア・エクスプレイン」システムを通じて対話の向上を図っていくべきといった御意見になっているかと存じます。
ワリングメンバーからの意見は以上でございます。
続いて、もう一つの資料、冨山メンバーからの御意見でございます。
1つ目のところに書かれております「コーポレートガバナンス改革の実質化、実効化に関わる問題」ということで、ガバナンス改革が実質化の壁にぶつかっている最大の要因はその「担い手」の質の問題であるということで、独立社外取締役の質、それから、執行側の人材の質ということを課題として掲げていらっしゃいます。また、その下のポチですけれども、企業価値の「向上」、特に破壊的イノベーション時代の成長を促進するためには、そこで求められる経営者の質と経営者を選び監督するガバナンスの質の要求レベルは極めて高いものになるということで、コードの改訂や詳細化でクリアできる問題領域が減ってきており、担い手の質の向上のための他の方策にもっと力を入れるべきということで、例えば下のほうの赤字の部分ですが、ベストプラクティスとしてモデル社外取締役適格性基準を作成すべきといったような御意見を言っておられます。
2つ目に、「過少投資傾向の解消に向けたガバナンス改革の問題」ということであります。内部留保性現金問題と過少人材投資の問題の根源は、日本企業の太宗の産業モデル、事業モデルが、有形設備投資依存の大量生産大量販売型で、知識集約型の破壊的イノベーションの時代に取り残されて古く脆弱なものになっていることにあるということで、新たな成長機会の探索、イノベーション投資、事業モデルの転換に必要な新しい組織能力を手に入れるための買収など、非連続的な領域への不確実な投資が求められる時代に、どうハイリスクの未来投資をエンカレッジするか、という問題設定されるべきということで、この観点からガバナンス改革が何をなし得るかに焦点を当てるべきとされております。
最後、3つ目ですけれども、「スチュワードシップ・コードの改訂の位置づけについて」ということです。スチュワードシップ・コードについては、現在の新しい資本主義の議論の枠組みの中では当面あまり大きな論点は認識していない、むしろ機関投資家側の課題は、コーポレートガバナンスにおいて、エンゲージメントの担い手としての質と量の低下リスクにあり、この問題に焦点を当てるべき、といった御意見でございます。
以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。それでは、これから皆様方から御質問、御意見をお伺いする討議の時間とさせていただきたいと思います。先ほどの事務局資料の33ページと34ページに御議論いただきたい事項を掲げてありますので、適宜御参照いただければと思います。ただ、これらに限らず、今日は再開後というか、今年度の第1回ですので、幅広く御意見を伺えればと思います。
時間も限られておりますので、いつものことで恐縮ですけれども、皆様方の御発言のお時間を確保できるようということで計算させていただきますと、大変恐縮でございますけれども、お一人当たり5分程度以内ということかと思いますが、その辺りを御参考にしていただければと思います。
なお、御発言御希望の方は、いつものようにチャット欄に全員宛てに発言希望とお名前とを入れていただければ、私のほうでそれを拝見して御指名をさせていただきます。そうしましたら、マイクのミュートを解除して御発言いただき、恐縮ですけれども、御発言が終わりましたら、またミュートを設定していただければと存じます。
それでは、どなたからでも、どの点についてでも結構でございますので、御発言いただける方はチャット欄に全員宛てに御入力いただければありがたく思います。いかがでしょうか。
ありがとうございます。大場さん、どうぞお願いいたします。
【大場メンバー】
すみません、今日所用で途中退席をさせていただく関係で、発言を最初に希望させていただきます。論点がたくさんありまして、何からかというのは大変難しいのですが、一応2点に絞りたいと思います。
第1点は、この論点にもあります、御議論いただきたい事項の、現状をどう評価するかということにも関連するのですが、残念ながら、個々の事業で大変成果を上げられている会社はあろうかと思いますが、全体として見ると、実効性が上がっているという評価には至っていないということではないかと思います。
その最大の理由なのですが、取締役会というか経営陣が現状の市場評価にあまりにもこだわっていないことが原因ではないかと思われます。最近の事例でいいますと、日本電産の永守社長がこの前CEOに復帰されたというニュースが流れておりましたが、その最大の理由は、今の市場評価には耐えられないと、こういうように発言をされております。こういうようなことが各取締役会並びに経営陣の中で議論されることが大変重要ではないかと思われるのですが、そういったことがあまり報告されない。ここにまず第1の課題があるのではないかというふうに思います。これが第1点です。
もう1点は、コードがあまりにも細かくなり過ぎてという問題で、コードを細分化すべきでないとの批判をどのように受け止めるかという論点にも関連する話なのですが、廣川課長から御説明いただいたように、企業の調査をしますと、大変プレッシャーを感じているという回答が多いんですね。何かコンプライしないといけないと、こういう風潮が出来上がってしまっているのではないかと思います。コンプライ率がどの程度なのかという事実を開示することは大変重要だと思うのですが、コンプライ率が上がると改善しているというような評価が示されていることが、プレッシャーを与えているのではないかと思います。そもそもは、コードは原則主義が前提でありますので、その原則を踏まえて各社が独自で自分なりに考えて表明するという原則に立ち返るのが望ましいのではないかと思いますので、コードのコンプライをすることが望ましいという風潮を払拭していくことが大変重要ではないかと思います。
以上2点です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
どうもありがとうございます。三瓶さん、どうぞお願いいたします。
【三瓶メンバー】
三瓶です。私も、論点1、論点2についてかいつまんで意見を述べさせていただきたいと思います。
まず、中間点検についてですけれども、もう一度コーポレートガバナンス・コードの目的に立ち戻ると、あそこに書いてあるのは、「本コードは、我が国の成長戦略の一環として策定されたものである」ということ、それと、「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いている」とあります。ということは、中間点検でしなければいけないのは、成長と企業価値の向上を検証すべきということだと思います。これは極めてストレートに結果を直視することが重要だと思います。
そして、2つのコードが策定された時期、伊藤レポートでROE最低8%が指摘されてから8年、CGコードが2015年に導入されてから7年ですから、日本の典型的な3年中計からすれば、2サイクルが終わったということですね。ですから、こういった検証をするのに十分な時間がたっているはずと考えます。
検証では、例えばどんな点を見るのかということですけれども、時価総額の推移、これは外部環境の影響等があるので、海外市場との相対的な尺度で測るということもあると思います。また、今、大場さんもおっしゃいましたけれども、市場の評価という意味では、典型的な分かりやすい指標であればPBRなど、また、市場評価の根拠となるROEとかROIC、また、成長率がどうであったかと、こんなことを見ていくべきだと思います。私が見る限りは、まだこれが進捗したとは言いにくい状況だと思います。中計で2サイクルが終わったにもかかわらず、株主資本コストを超えるようなROEを確保して、そのときに回収すべき経営資源は回収して成長投資へ向かうはずだったと思いますが、いまだに成長へかじを切れていないという状況だと思います。
次に、コードの細則化をすべきではないというところの指摘については、私もそう思います。コードについては、これは原則主義という考え方なので、これがまだ十分に定着してないのかなと。ですから、原則主義を定着させずに細則化ということに向かうべきではないと思います。
また、改革の点検として見るべき分析ということでは、コードの導入等の中でも、何度も「果断な意思決定」という言葉が使われてきました。これが意味することは事業ポートフォリオの変革ということがあると思います。これができているのかどうなのかということも見ていく必要があると思います。
今後対応していく課題ということでは、前回のCGコードの改訂では、「変化」ということがキーワードだったと思います。ですから、変化への対応力がついたのか、経営の改革はできているのか、そういったことが課題としていまだ重要なのではないかと思います。
最後、今後フォローアップ会議として取り上げるものとして、私が非常に心配しているのは、成長戦略の一環として2つのコードが導入されたにもかかわらず、市場から見ると、成長を期待されていない日本企業があまりにも多いということです。ですから、そういった企業に成長戦略を語ってもらっても、市場は聞く耳を持たないという、市場との大きなギャップが生まれてきていると思います。この辺について、丁寧に現状分析をして問題把握をする必要があるのではないかと思います。
論点2のほうは、持続的な成長に向けた課題のところで、重要な点は、経営資源の適切な配分というときに、回収のことが抜けているのではないかなと。回収というのは売却や撤退を含みます。もちろん成功による回収もありますけれども。ですから、成長投資と回収というのは等しく重要であると思っています。内部留保または現預金の積み上がりについてですけれども、これは中身を見ていくと、結局は稼ぐ力がないために、安全を考えると内部留保、現預金をため込んで、安全を図るというほうに行ってしまっている。ですから、稼ぐ力とバランスシートの問題は裏腹であると思います。
また、もう一つの点で、企業と投資家との対話に関わる課題で協働エンゲージメントが挙げられていますが、今ここでなぜ見直さなければいけないかというと、従来言われていたcollective engagement、集団的エンゲージメントというのは、どちらかというと共同提案的な行為が主眼にあったと思います。一方で今、この協働エンゲージメント、collaborative engagementと言われているものは、どちらかというと、例えばですけれども、環境イニシアチブのようなものがあって、そこに方向性として賛同と協調行動を取るというのがまずあって、そうすると、その先にまた株主提案等があるときに、乗らないのはおかしいということで、巻き込まれるという言い方はちょっと違うかもしれませんけれども、結局そこに合流していく。この場合は共同保有者なのかどうかというのが分かりにくくなっているんだと思います。ですから、特に5%保有をしていない、5%未満の保有であっても、共同保有者になれば、重要提案行為ということで引っかかって大量報告に関わってくるので、その辺の整理が必要なため、数年前にはなかった新たな動きがあるので、改めて見直すべきなのではないかということです。
そのときに、重要提案行為の該当性の要件が3つありますけれども、その中で、「提案」の該当性を見分ける一つの方法として、これは私見ですけれども、強要なのか否かというのが重要ではないかと考えます。提案があったとしても最終的に企業経営者のほうに判断余地、選択余地があるものなのか、それとも、例えば議決権などを集めて法的権利の行使によって強要するものになっているのかどうか、こういったことをもう一度整理すべきではないのかなと思います。
さらに、これまでの金融庁の解釈の中では、例えば取材の一環として純粋に質問する場合はその可能性が低くなるとか、受動的に自身の意見を陳述する行為は当たらないとか、かなり消極的な行為であれば当たらないという言い方なんですけれども、これはそもそもの対話の双方向性などとは矛盾する考えではないかと思っておりますので、対話の深化ということと、重要提案行為に当たらないのかどうかということはいま一度整理しないと、対話の深化も進まなくなると心配をしています。
もう一つ最後に、いわゆる企業と投資家のエンゲージメントですけれども、これは企業価値向上に資するエンゲージメントをどの投資家も同様にできるという認識はそもそも甘いのではないかということが一つ。また、実際に機関投資家がエンゲージメントする際には、多くの他の一般株主のインタレストにかなう課題を取り扱うべきであるという点は、念を押しておくべきだと思います。これは20年ぐらい前に私が英国流のエンゲージメントに接したとき、また、アメリカのリレーショナルインベスターがアクティブオーナーシップを励行するにあたり、両者とも「一番気をつけなければいけないのは、自分たちの主義主張だけ押しつけるのではなくて、他の一般の株主のインタレストとは合っているのかということを責任を持って考えるということ」、と言っていたのを非常に印象強く覚えています。こういったスタンスをもう一度確認しておく必要があるのではないかと思います。
以上です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。それでは、多くの方からチャットを頂いておりまして、ありがとうございます。その順番で、佃さん、どうぞお願いいたします。
【佃メンバー】
佃です。私からは、コーポレートガバナンス改革の効果、それから課題ということについて述べさせていただきます。
まず、効果について2点です。まず1点目は、取締役会の機能の強化についてです。独立取締役という外部視点を取締役会に持ち込むことで、経営、そして、経営者を監督するという取締役会の機能の基本中の基本が日本企業で認識されつつあります。これはガバナンス改革の大きな一つの効果かなと認識しております。
それから、2点目、機関投資家との対話です。両コードの導入目的でもあるインベストメントチェーンを機能させる、この大きい目標に向けて、徐々にではありますが前進しているといったところを実感しております。
以上が2点、効果であると思いますが、一方で、ガバナンス改革が進むに従って課題も明確化されていると思います。ここでは3点簡潔に指摘させていただきたいと思います。
まず1点目は、ガバナンス改革の費用対効果です。実務実感では、ガバナンス改革を自社の企業価値向上に結びつけることができている企業がある一方で、表面的な対応に終始して、企業価値向上に結びつけられていない企業もあります。後者の企業の場合、どうしてもコードの細則化を批判するという傾向にあるような気がしまして、それも分かりますけれども、やはりガバナンス改革には時間がかかるといった認識の下、結論を急がずに粘り強く取り組んでいくことが必要でないかなと考えます。そういった観点で今回の中間点検は、すばらしい取組みだと思います。このような検証を節目節目で実施して、改革にかかるコストと改革による効果をきっちりと見ていくことが大事であると考えます。
2点目の課題は、ガバナンス改革の目的の再認識といったところです。日本では、「攻めのガバナンス改革」と言われておりますけれども、やはり大事なのは、ガバナンス改革は手段であり目的ではないという点にあると思います。取締役会に外部目線を入れ、経営を監督し、経営の改革を促すことを通じて、攻めの経営、攻めの執行を実現することこそが重要だと考えます。先ほどの東原メンバーによる日立の事例はまさにそのベストプラクティスでないかと思うのですけれども、やはり攻めの経営者を輩出し、果断な経営判断を促す。「果断な経営判断」こそが大事であることを日本企業に促すことが重要だと思います。この観点で多くの日本企業はまだ道半ばだと思います。
最後、3点目、ショートターミズムへの懸念です。今回の主要ポイントではありませんけれども、これは協働エンゲージメントとも多少関わるかもしれません。ショートターミズムが跋扈していないか、ここがちょっと気になるところでございます。株主還元要求であるとか様々な株主提案がなされています。個別事案に接していますと、これはショートターミズムではないか、要は、中長期的な将来キャッシュフローを全部、今、株主還元として返してしまうことが株主共同利益の観点から本当にいいのだろうかと、考えさせられる事案もあります。もちろん株主の権利は大事ですし、株主提案の中にはすばらしい提案も多いとは思いますけれども、やはり中長期的な企業価値の向上こそが重要であり、ショートターミズムには目を光らせておく必要があると思います。
私からは以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは続きまして、小幡さん、どうぞお願いいたします。
【小幡メンバー】
御指名ありがとうございます。私、企業におります身として、3点ほどコメントをさせていただこうと思います。
まず1点目が、今回のコーポレートガバナンス・コードの中間点検という点でございますけれども、企業としましては、コードについては真摯に捉えて対応してきていると思います。ただ一方、会社が採択するガバナンスというものはやっぱり会社の競争戦略の一つであると考えており、会社がどのようなガバナンス体制を採用していくかということにつきましては、各社が各社の置かれている環境・状況などを踏まえながら、もちろんコードは十分理解した上でということなんですけども、各社が各社なりに決めていくものであると考えております。ということを踏まえますと、現行のガバナンス・コードにおきましても、かなり細かなところまでの規定もございますので、新たにこのコードを今の段階で改訂していく、細則化していくことはせずに、当面は現状で、コード自体は様子を見ながら、各社の取組みを図っていくということが適切ではないかと考えております。
2点目が、社外取締役の位置づけになります。一連のコーポレートガバナンス改革の結果を踏まえまして、社外取締役に求められるものが大分変わってきているというのが私どもの捉え方になります。以前のように取締役会に出ていただいて議論いただくということに加えまして、今は時間的にも大変な時間をコミットしていただく必要が出てきておりますし、会社に対する想いというものにつきましても、本当にこの会社をよくしようという意識をいかに持っていただくかという点が非常に重要になってきていると思っています。そういう中におきましては、先ほど来議論も出ておりますけれども、社外取締役の質をさらに向上させていただく必要があると思いますし、一方、成り手も不足してきているという考え方があろうかと思います。その辺をどのようにして、今後ガバナンスの実態の部分を向上させていくかという点につきましては、社外取締役の成り手を増やすということと質の向上が不可欠だと思いますので、その辺を今後議論できればと思います。
加えまして、会社の経営戦略を社外取締役に議論していただくにあたり、会社側のほうからいかに必要な情報をお伝えするかというのがポイントになってくるかと思います。従来の決議事項の件数は減る一方、報告はあれもこれもということになってしまっていますと、取締役会の所要時間といった制約の中で非常に難しい運営になってきていると考えておりますので、その点が気になるところです。
最後、3点目ですけれども、先ほど実質株主の判明の点についても御指摘がありました。実質株主がもう少し見える化されますと、企業としては、対話の観点のみならず、会社の資本政策などを検討するときにも、考慮要因になってくるのではないかと思っておりますので、ぜひ実質株主の判明というものがある程度進む形でいろいろな検討を進められることをぜひお願いしたいと思っております。
私からは以上3点になります。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは次に、川北さん、どうぞお願いいたします。
【川北メンバー】
川北です。私はまず、PBR1倍割れの企業が依然として多いことが問題だと考えます。市場第一部、プライム市場の半数程度がずっと1倍割れです。そういう企業というのは、要は、投資家が評価をしていない可能性が高いということです。この観点から言いますと、2つのコードができて以降、コードの実質的効果というのは、まだまだ発揮できていない。さらにコードの効果を高めていく必要性があるということを示唆しているのだと思います。
そうはいっても、コードとして定めるべき領域というのは、2つのコードがほぼカバーしてきていると私は認識をしています。もちろん、多少の改訂とか追記をする部分があるという、その必要性を否定するものではありませんが、さらにどんどん充実させていく必要性は大きくないということです。
以上を前提に問題点を3つ挙げさせていただくと、1つは、アセットオーナーと資産運用者のエンゲージメントが不十分だと私は考えています。これは特にコードの議論が始まったときから懸念していたことなのですけれども、TOPIXを対象とするパッシブ運用、もしくは、それをベンチマークとする運用が主流を占めてきています。それで、その企業数というのは2,000を超えているわけです。非常に多いということです。2,000というのは、個々の運用者が、もしくはアセットオーナーがエンゲージメントできる、もしくは、エンゲージメントを指示できる企業数では、これは現実的にはないわけです。ということで、アセットオーナーとか資産運用者がパッシブに用いる、もしくは、ベンチマークとして用いるその指数、これを工夫すべきだと、そういう段階に来ていると思います。
例えば、TOPIXですけれども、これもいろいろなサブの指数があるわけです。今日もTOPIX100を用いて東証の方が説明をされていました。そういう、何が適切な、特にエンゲージメントを行う上での適切な指数なのかということを検討すべき段階に来ているということです。
2つ目は、配当すればいい、その配当性向は3割だ、その内外だということで、配当に関するワンパターン化というものが非常に気になります。企業ごとに事業の成熟度とか成長のための投資のチャンスとか、それに応じて必要な内部留保の金額には当然差があるわけです。ということで、企業へのエンゲージメントというものは、配当ではなくて内部留保を対象にすべきだと考えます。内部留保としてどのぐらい必要なのか。内部留保の金額を決めると、その残りとしての配当金額が決まってくるということです。
こういうエンゲージメントを投資家側から積極的に行うことで、金融庁の資料に書いていますように、過剰に保有されている現預金問題というものは解決に向かう、その道筋ができると思います。また、企業も、内部留保の必要性に関する情報とか、成長戦略とか、それに伴う投資計画とか、そういうものを積極的に、投資家向けに提供していく必要性があるだろうと思います。
3つ目は、少し観点が違うのですが、取締役の質という観点からすると、現状、3社も4社も社外取締役を兼務する例というのが目立つという問題があります。そうすると、どうしてもおざなりの議論を提供するということに社外取締役の人はなっていくと思いますし、実際、有力な社外取締役の方から聞いた話では、1社だけでも大変なんだと、何でこれが3社も4社もできるんだと、そういう議論もされています。これは一種のコードの形骸化だろうと思います。何社も兼務していて、それを許すというのは、形骸化です。そういう意味で、企業側としても、人材を幅広く募っていく必要性があるわけですし、その人材が不足しているというのであれば、その人材をいかに拡充していくのか、その議論をする段階に来ていると思います。また、アセットオーナーや運用機関としても、このように社外取締役が3社も4社も兼務していていいのかということで、エンゲージメントすべき課題だと思います。
以上です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、岡田さん、どうぞ、お願いいたします。
【岡田メンバー】
岡田です。
今回、中間点検でインタビューを実施していただきまして、大変有効な調査をしていただいたと感謝しております。いろいろ意見はあると思いますが、私は改訂を経たこのコーポレートガバナンス・コードは、原則を示すという意味では、ほぼ完成形に近いと考えております。インタビューでは、企業が形式のみを整えて改革が形骸化する、投資家も形式から判断して議決権行使しているという意見もございます。しかし、インタビュー結果を見ますと、各社それぞれ工夫を凝らしていて、改革が進んでいる会社も多いと感じました。これは16社に限った話ではあるかもしれませんが、そういう会社も見られると思いました。企業価値の向上につながるまでにはまだまだ時間がかかるかもしれませんけれども、一定の効果があったと言ってよいのではないかと思います。したがって、コードはこれ以上細則化する必要はないのではないかというのが私の意見であります。
これからの発展のためには企業の自律的な改善努力が欠かせません。そのためには、実証研究、投資家によるレビューが有効だと思います。今後は、実証研究によってベストプラクティスが広まっていくことを期待しております。また、企業の側でも、コンプライしたというだけではなくて、ガバナンス改善の取組みを具体的に示し、その結果、投資家とのエンゲージメントが進むように改善を図ることも重要だと思います。どの企業も、ガバナンス体制が完璧に整うということはあり得ないという前提で見ていったほうがいいのではないかと思います。
企業の努力も当然ですけれども、投資家も形式的に判断するのではなく、エクスプレインに耳を傾けること、たとえコンプライしていても、中長期的なさらなる改善を目指す取組みを評価する姿勢が望まれると思います。
このフォローアップ会議にこれまで参加させていただいて、私が1点だけ気になる点があります。これはコードの問題ではないのですが、社外取締役の数の問題です。社外取締役が増えた結果、企業価値が向上するかどうかは実証研究を待つことになります。また、企業にも問題意識が生まれ、投資家も社外取締役の少ない企業に対する評価を低くするということもあると思います。ただ、これは数の問題で片付けられるほど簡単な問題ではないと私は思っております。
まず、現状、社外取締役を3分の1以上選任している会社が8割を超えたということは大変よいことでありますけれども、では、一体3分の1にはどんな意味があるのか、2人よりは多いほうがよい、多々益々弁ずるという意味であれば、もちろんいいことではありますが、社外取締役が過半数を占めなければ意味を持ちません。社内の意思決定を覆せるか、という問題意識を持つと、原則は過半数必要で、これが目指すべき方向性だと思います。したがって、社外取締役が牽制を効かせる、そういう仕組みを工夫してこそ意味を持ってくると思います。
課題は、日本の機関設計の制度に問題があるのではないかと思います。まず、監査役会設置会社というのは、取締役が業務執行するという前提ですが、そこに社外取締役を増やすということになると、監視と監督、いわゆる監督する側と監督される側を兼務する状況に陥ってしまう。これでは社外取締役が牽制する上で限界があります。
一方、指名委員会等設置会社制度そのものも、各委員会の構成としては社外取締役が過半数を占めていて、そこが取締役会よりも強力な権限を持つ。これもなかなか普及しない原因だと思いますが、そういう問題もある。一方で、監査等委員会設置会社にも課題があるというような意見をおっしゃる方もいらっしゃると聞いております。これらを総合的に勘案しますと、まず、会社法上の機関設計の問題に手をつけることが望ましいと思います。ただ、これはそう簡単に進む話ではないということも十分承知しております。会社法を改正するまでもなく、指名委員会等設置会社をしっかりと機能させるためには、やはり採用した会社が改革に本気で取り組むことが必要だと思います。そういう意味では、プライム市場に上場している会社に対しては、将来的な方向として指名委員会等設置会社に移行することを推奨しては、と思います。なかなかそうはいかないんですけれども、将来的な方向としては、指名委員会等設置会社に移行することを推奨していくと。
それから、監査役会設置会社であっても、社外取締役が牽制する仕組みをしっかりとワークさせるということも工夫次第で可能です。私の経験ですが、取締役会で社外取締役が疑問を呈す、あるいは、異を唱えるという場合には、社外取締役にもう一度説明する機会を設けて、納得を得られなければ差戻し、あるいは却下ということもあってしかるべきだと思います。最終的には全会一致で決めるようにするとか、そのような工夫をすることによって、監査役会設置会社でも社外取締役がある程度限られた権限内で実質的なガバナンスの効果を上げる工夫をできるのではないかと思います。
この辺は制度に関わってくる問題もありますし、ある意味では、各社のベストプラクティスというのが生きてくると思いますので、今後、投資家の方も、各企業がどういうふうに社外取締役を活用しているのかということを見ていっていただきたいと考えております。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、いただいているチャットの順番で、次に、神作先生、どうぞお願いいたします。
【神作メンバー】
神作でございます。御指名ありがとうございます。3点申し上げます。
コーポレートガバナンス・コードや、それを支える経産省のガバナンスや、社外取締役等に係る各種指針の策定によって、上場企業のコーポレートガバナンスは、社外取締役の任用や報酬・指名委員会の増加など、形の上で大きな変化がもたらされており、私はその点だけを取ってもコーポレートガバナンス・コードの意義は大変大きかったと評価しています。形が整ってこそ、ガバナンス改革の最終目標である企業の持続的成長のための議論をより真剣に行うことができると考えるからです。
そこで、コーポレートガバナンスの形が整いつつある中で、そのことが実効的なコーポレートガバナンスへとつながるように、コードのさらなる見直しを行うとともに、形の面でも、引き続き検討を続けていくことが必要と考えます。会社の経営戦略やポートフォリオの見直しのみならず、今後さらに重要になるであろうと思われるサステナビリティ・ガバナンスや会社のパーパスについても、取締役会で議論がなされることになると推察します。
私は個人的に、取締役会の構成、取締役会におけるアジェンダの設定、取締役会議長とCEOの分離など取締役会の運営の仕方、指名委員会・報酬委員会を含む各種委員会がその役割を一層発揮するためのベストプラクティスなどに関心を持っています。
第2に、背後にいる投資家に対しフィデューシャリー・デューティーを負った機関投資家が、適切にスチュワードシップ活動を行い、経営者との対話を通じて株主の意思が株主総会の議題・議案や取締役会の議論に適切に反映されることが望ましいと思われます。取締役会の構成や経営戦略、とりわけ人的資本を含めた内部留保の使途などを含め、いわゆるパッシブな機関投資家も含む機関投資家が、実効的かつ効果的なスチュワードシップ活動を行い、経営陣と建設的な対話を行うことができるような環境整備をさらに進める余地があると考えます。
パッシブな機関投資家が有効なエンゲージメントを行うためには、協働エンゲージメントを促進するとともに、その目線をそろえる必要があると考えられます。どのような場合に協働エンゲージメントを行うのか、目線をそろえるとともに、それを阻害する要素として指摘されている共同保有者や重要提案行為の範囲を限定する方向で明確化することによって法的安定性を図ることが望ましいように思われます。
共同保有者や重要提案行為の範囲について、例えば、EUですと、議決権行使について了解がある場合ですとか、会社の経営方針に対して継続的かつ決定的な変更を加えようとしている場合といったように要件がかなり限定されています。また、個別の共同行為はそれらに該当しないことが明確化されているなど、要件が日本法よりも厳格、限定的であると理解しています。この点は最終的には立法上の手当てを要すると考えられますけれども、重要提案行為や共同保有者の概念を見直し、それらを限定する方向で明確化することが考えられるように思います。
第3に、他方、パッシブな機関投資家には、必ずしも積極的にスチュワードシップ活動を行うインセンティブがないことですとか、可能な限り水面下で買い集めを進めようとする敵対的な企業買収者が存在するといったことを考えると、会社やほかの株主にとっても、一体誰が株主であるかということをもう少し早く知り、経営者のほうから機関投資家等に適切な働きかけを行ったり、ほかの株主がより適切な行動を取ったりすることを可能にすることが望ましいように思われます。
英国は、大量保有報告制度や株主調査権制度によって、株主が誰であるかをより早く正確に知り得る仕組みを採用しており、他方、買収防衛策は原則として禁止することによって、株主と経営者による対話を早い時点から可能にし、それを促す仕組みになっていると考えられます。これに対し、米国の大量保有報告制度は、英国、さらには日本に比べても緩やかであり、公開買付制度や委任状勧誘制度が活発に利用されている一方、買収防衛策が許容され、攻防のバランスが取られています。
2つのコードが施行され、日本のコーポレートガバナンスにおける実務上の課題が明らかになってきたように思われます。その中には法制度の在り方に及ぶ課題もあると考えます。例えば、日本法が大量保有報告制度や株主調査権制度についてどのようなスタンスを取るか、先ほどの共同保有者や重要提案行為の概念の見直しを含め、立法的にも検討すべき点があるように思われます。
その際には、公開買付規制や敵対的企業買収防衛策の在り方との関係を踏まえつつ、将来の日本の上場企業のコーポレートガバナンスの基本的な在り方を見据えながら、大量保有報告制度や株主調査権制度について、立法論を含め検討すべき段階に入っているように思われます。
私からは以上でございます。どうもありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、高山さん、どうぞ、お願いいたします。
【高山メンバー】
高山です。私からは33ページにある論点からいくつか意見を述べさせていただきます。
まず、コーポレートガバナンス改革の効果についてどう思うかというところですけれども、私は効果があったと考えております。マクロの数字などではなかなか明確な結果というのは出てきませんが、個々の企業を見ていると、取締役会の在り方というのは非常に大きく変わりました。私は仕事柄多くの企業の取締役会を見てきておりますけれども、皆さんそれぞれ取締役会の改革を進めて変化をし、その結果、議論の内容が変わり、それが中長期の戦略の策定に反映されるという状況が数多くありました。それらの企業に共通しているところは、改革の進め方・内容は様々ですが、志向するところは取締役会の監督機能を高める、というところにあることです。企業価値を上げるためには、取締役会の監督機能を高めることが重要だという考え方は、私が見てきた全ての企業において共有されていました。このような重要なことが共有されている理由としては、まず、コーポレートガバナンス・コードにおいて、取締役会のあるべき姿について明確に示しているということ、それから、コードに関する様々な議論においても、それを念頭になされている、そして、その議論の内容が企業にも共有されているということが、あげられると思います。その観点でこのフォローアップ会議というのは意義があるものだと考えております。
それから、2つ目のコードの細則化についての考え方ですけれども、私は、コード自体は原則中心であるべきで、細かいことは企業に任せたほうがいいと思います。ただ、一方で、企業の側としても、では、具体的にどうしたらいいのか、具体的な施策を知りたいという要望もあることは事実です。この解決策ですが、海外の事例が参考になると思います。イギリスの場合は、ガバナンス・コードには比較的簡単な原則を記載していますけれども、それを実行するに当たってのベストプラクティスなど、より具体的な内容については、改訂の時期と併せて、同時に当局がガイダンスを出しています。そのガイダンスを見ることによって、具体的な施策について企業も参考にできるという状況があります。こういったことを次の改訂の際に考えてもよろしいかと思います。
それから、改訂の時期については、現在のように3年に1度というのが適切ではないかと思います。といいますのも、環境がどんどん変わってきていますので、コードの原則はあまり変える必要はないということであったとしても、見直しの時期というのは定期的に設けるべきだと思います。その結果、中身があまり変わらなかったということであっても、改訂の検証の意義というのは十分あると考えます。
それから、最後に、今後の対応についてです。現在、様々な形式の整備が進んでいます。私も、形式というのは非常に重要で、形式が実質を規定するというところはかなりあると考えております。その整備が今大分進んでいるという状況でありますので、今後は、形式もそうですけれども、実質、実効性により関心が高まっていくだろうと思います。実効性というところではいろいろなポイントがあると思いますが、例えば、冨山メンバーであったりワリングメンバーから挙げられている内容として、社外取締役の質の向上というところがあります。これは非常に重要なことだと考えております。
では、具体的にどうやって社外取締役の質を向上するか、実力を上げるかというところですが、これもワリングメンバーの意見書にあるように、社外取締役の評価、取締役個人の評価というのを取締役会評価の中で行うということが有効であると考えています。海外の主要国のコードでは、取締役評価において、取締役会全体、委員会、個人の評価が求められているところが多いです。一方、日本のコードでは、取締役会全体の評価のみ求められていて、委員会や個人の評価は企業と投資家の対話ガイドラインに記載されているにとどまっている状況です。
今後、コードを改訂する際には、取締役会評価の内容についても、グローバルな状況、それから、日本の社外取締役の実力を向上しなければいけないという状況を踏まえて、議論を進めるとよろしいと思います。
以上です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
チャットの順番では、次が松岡さんになります。チャットをいただいておりまして、議論が進んだところでというふうにいただいているのですけれども、議論は十分進みつつあると思いますので、松岡さん、どうか御発言をお願いいたします。
【松岡メンバー】
ありがとうございます。発言の機会をいただきまして感謝申し上げます。
冒頭の御紹介にございました東原様の御説明に当社としても大変共感を覚えながら、本日は、主に経団連資本市場部会長としての視点で発言をさせていただきたいと思います。
経団連資本市場部会からは書面にて、コードの実効性の向上を図る観点から、意見を提出させていただいておりますので、詳細についてはそちらを御参照いただきたいと思うのですが、ここで少しコメントを加えてさせていただきます。
まず、コード再改訂後の中間点検という論点に関してでございますけれども、我が国のコードは成長戦略として位置づけられたものでございまして、コードやそれに基づく企業の改革の効果は、中長期的価値の向上につながったかどうか、ということで点検すべきであると考えます。ただ、近年の経済状況におきましては、企業価値の向上という成果が認識しづらかったり、また、時間を要する面というのもあるかと思います。今後、コードの規定に応じた取組みを持続的な成長につなげていくには、さらなる工夫が必要であると考えます。コードの各項目の意義、効果、課題につきまして、引き続き検証、確認を行うことが望まれます。
また、投資家側で対話に充てる時間の確保が必ずしも十分でないということなど、そちらの課題も顕在化しているということもございます。企業側が自社の戦略などの説明の充実に努めるということは当然でございますが、株主や投資家、そして関係機関におかれましても、一律、形式的な判断を行うのではなく、投資先企業との建設的な対話を通じた企業価値向上を目指せるよう、スチュワードシップ・コードの実効性の向上が目指されるべきとも考えております。
また、企業、投資家、政府、その他市場関係者においては、コードが持続的な成長を目的とするものであることや、コンプライと丁寧なエクスプレインというのは同等の価値を持つことなどについて認識を共有すべきと考えます。投資家側におかれましては、企業の説明に耳を傾け、様々なステークホルダーを有する企業の中長期的価値向上に向けた建設的な提案、対話というのがあることをぜひお願いしたいと存じます。
そして、次に、持続的成長への課題の内部留保、人的投資についてですけれども、まず、内部留保に関してですが、これは内部留保率、景気と業績との関係で見る視点というのも必要なのではないかと考えます。また、昨今では、コロナ禍や地政学リスクなど経営環境の不透明感や不確実性というのが高まる中、企業経営においては様々なリスクを想定して行う必要がございます。さらには、企業を支える仕組み、例えば、資金調達の在り方、これは直接市場を含めた選択肢のアベイラビリティや、内部留保の実質信用力としての位置づけ、また、企業再生やM&Aの実態なども併せて勘案して、丁寧に見ていく必要があると考えております。
このように健全で安定的な企業経営というのを確保しつつ、中長期的に成長分野への投資や新規事業の開拓、そして、設備投資や研究開発、知財への投資、さらには人的資本への投資も大変重要と考えます。ただし、いずれもそれらの施策が成長に資するかどうか、また、どのように成長に資するかどうか、各社がビジネス環境や経営戦略に応じて判断して説明をしていくというのがよろしいのではないかと思っております。
最後に、企業と投資家との対話に係る課題でございますけれども、協働エンゲージメントを実施する際に、共同保有者と重要提案行為の定義に該当するかを明確化することで、市場の透明性を高め、投資家と発行体との建設的な対話の促進につながるということが期待されます。ただし、長年議論のある難しい問題であるとも思われますので、適切な場において、発行体企業、そして投資家双方の意見を踏まえて、よく議論をしていただくのがよろしいかと思っております。
私からは以上になります。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、片山さん、どうぞお願いいたします。
【片山メンバー】
連合の片山です。発言の機会をいただきましてありがとうございます。私からは2点発言させていただきたいと思います。
まず、第1に、今回、コーポレートガバナンス改革の効果・影響について検証していただいたことは、今後のコーポレートガバナンスの在り方を考える上で大変有意義だと思っております。ただし、今回の検証では、企業のパフォーマンスや市場からの評価が中心となっておりまして、コンプライアンス体制がきちんと強化されているかどうかについても、コーポレートガバナンスにおいては重要だと考えますので、今後、この点についても検証が必要だと思います。
第2に、企業の人的投資が依然として不十分である点を指摘したいと思います。事務局説明資料の24ページにもありますとおり、企業の人的投資に関する意識が投資家と比べて低いというのは大きな問題だと思っております。労働組合との協議や、取締役会における中長期的な投資・財務戦略の議論、投資家との建設的な対話などを通じて、人的投資の拡大に向けた経営戦略を構築すべく、コーポレートガバナンスの観点からも後押ししていく必要があるのではないかと思っております。
私からは以上です。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、上田さん、どうぞお願いいたします。
【上田メンバー】
上田でございます。御指名ありがとうございました。また、今回、フォローアップ会議の再開に当たって、企業のインタビューなどを実施された御報告を受けまして、これは改めて大変参考になりましたし、議論の活性化につながると思います。ありがとうございました。
まず、コード改革の実効性ですけれども、私は効果はあったというふうに思っております。というのは、コーポレートガバナンス、私はもう学生時代から研究しているのですけれども、10年ぐらい前までは、かなりニッチなテーマで、一部の興味あるような人だけがやっているようなことだったんですが、今や、どなたとお会いしても、コーポレートガバナンスというは重大なイシューとして認識されている、これは大きな改善であったと思っております。
ただ、実効性を見ると、ここは相当二極化していると感じます。これは次の課題にも関係するのですけれども、つまり、本気で改善をしよう、何か変えよう、変えなければいけないという思いの会社と、コードができたのでコンプライしなければいけないんだという消極的なコンプライアンス的対応としてなされておられる会社、そこは二極化していると感じております。
重要なのは、プリンシプルベースである、コードは法律ではなくて、ただ、枠組みは守りつつも、その実質のところというのは自分で考えて、何が実質かについても含めて考えていってほしいという点です。コードは遵守が目的ではなく、改善が目的であるということについては、認知をさらに一層していかなければいけないのかなと思いました。
この細則化に対する批判なのですけれども、例えば、英国のガバナンス・コード等を見ていても、結構細かくなっておりまして、労働者の問題も入ってきたりしています。一方で、例えば、取締役会体制のところのように、別途、スピンアウトして、あまりに細か過ぎるものはガイダンス、ガイドラインという形で添付書類として出しています。こういった取組みもありますので、この辺りは、今後、あまりに細則化が懸念されるのであれば、構成を含めて考えるということも必要になってくる局面もあるかもしれません。
他方で、コンプライが求められるべきものもあって、例えば、具体的に言うと、開示、特に英文化の問題です。今回、東証さんが本当によく調べていただいて、大変参考になったのですが、例えば、今後、プライム市場の魅力・価値というものを上げるためには、やはり英文開示、それも、有価証券報告書であるとか招集通知についても、参考書類まで踏み込んだ開示というのは必要であろうと思います。こういったものを少し濃淡というものも共有していくような取組みが必要かなと感じております。
本日の次のテーマの、今後取り上げるべきものは何かについては、最後にお伝えします。次のテーマである内部留保のところも、今の二極化に関連してくるのですけれども、結局、市場からさらされている会社というのは投資家から成長ということを突きつけられますので、そのための投資というものを真剣に考える。他方で、そうでない場合には、今のように、ウクライナ問題を理由にするなどして、守りというところで内部留保が積み上がってしまって、成長投資につながらないということもあるかもしれない。ここも、これはガバナンス・コード、中長期の企業価値ということですけれども、そのためには時間軸である程度区切って整理をしていくということも必要になるかと思います。例えば、短期での成長投資、内部留保の在り方、中長期ではどうか。例えば、短期での在り方というのは、当然、ウクライナのような緊急事態に対する対応であろうと思います。中長期になると、より中長期視点での研究開発、知財、あるいは、サステナビリティ、人的投資ということになろうかと思います。そういった整理というものも今後必要になってくるのかと思いました。
最後の対話のところですけれども、対話は、先ほど三瓶メンバーからでしょうか、御指摘があったかと思うのですが、投資家は一様ではないということは改めて企業さんが一番強く感じておられると思います。また、そもそも投資家からアプローチがないというようなコメントもあったようでございますが、企業価値を見てくれる投資家のほかにも、そうではなくて議決権行使の時に意識するだけという投資家が、パッシブ化が進むと増えてくる。さらには、そもそも投資家から対話を求められないというような、成長が期待されない、あるいは、成長がないと判断されてしまっているような会社があるということで、これはコーポレートガバナンス・コード、あるいはスチュワードシップ・コード、それぞれの話だけではないなと感じています。
それで、今後の議論したいテーマというところになるんですけれども、フォローアップ会議で、議論していただけるとありがたいなと思っているテーマとして、一点目として、せっかく今年、目先のコードの改訂というよりも、本当にフォローアップというような目的であろうとするならば、企業向けと投資家向けそれぞれのコードの間に落ちてしまうようなテーマ、例えば、対話の質の問題であるとか、政策保有の問題、これは政策保有株主側を見るか、政策保有させる側を見るかで両方のコードに関係もしてくる可能性もあります。また、二点目のテーマとして、インベストメントチェーン全体に関わる問題があります。具体的に言いますと、開示の充実。必要な開示は何か。それは企業ではなく、投資家側も透明性を高めるということが必要であろうかと思います。また、監査の重要性です。特に、今後、非財務情報とか、サステナビリティの活動が活発になる中で、上場会社の監査法人には中小の監査法人も増えているという中で、監査法人の質の問題。監査法人もガバナンス・コードがあるということですので、そういった普段コード改訂にフォーカスしているときには議論しきれないインベストメントチェーン全体の議論というものもできるとよろしいのではないかと思いました。
以上でございます。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、小口さん、どうぞお願いいたします。
【小口メンバー】
ありがとうございます。小口でございます。
本日は、コーポレートガバナンス・コード再改訂後の中間点検ということで、まず、コードの効果についてですが、これはもう皆様がおっしゃっているとおり、私もポジティブ、効果があったというふうに考えているということを申し上げたいと思います。
その上で、中間点検ですが、このフォローアップ会議自体の中間点検という意味で、何に着目してフォローアップしていくことがこの会議のもともとの目的である形式から実質への深化というところに貢献できるのかなという視点で、3点ほど意見を申し上げたいのです
まず、コーポレートガバナンス・コードのほうですが、今日の事務局資料(資料2)の3ページの企業からの指摘に整理されていますように、それから、皆様からの御指摘もあったように、コンプライ至上主義とまでは言いませんけれども、コンプライ優先主義から脱却し切れないという事実があるのかなと思います。
実は、このフォローアップ会議ができて、初めて意見書を出したのが2015年ですけれども、当時から、意見書の中で、形だけコンプライするよりも、コンプライしていない理由を積極的にエクスプレインするほうが評価に値するケースも少なくないという指摘を続けてきて、エクスプレインの重要性を言ってきているわけですが、現状は、今日も御指摘のあったとおりです。
途中で、コンプライ・オア・エクスプレインではなくてコンプライ・アンド・エクスプレインと言い換えたりとか、いろいろ工夫をしてきたと思うのですが、コンプライしたほうが説明責任が軽減されるので、コンプライが先に立ってしまうというところからなかなか抜け出せていません。
例えに使って恐縮なのですが、別に資料がいけないとかそういう意味ではないのですけれども、本日の東証の説明資料でも、やはりコンプライ率は分かりやすいから、どうしてもそこに目が行ってしまって、そこが上がっていればガバナンス改革が進んだというふうに言ってしまう。ですから、この率の開示があるからどうしても目が行くので、このフォローアップ会議でエクスプレインが重要だということであれば、ある程度上昇が見られているコンプライ率というのは一旦忘れて、コンプライしてもしなくても、エクスプレイン率を重視した議論というのを進めてはどうかと思っています。
エクスプレイン率を高めるというのは、要するに、企業の説明責任をもっと求める、高めることなので、まずはエクスプレインを優先してみて、その上で、エクスプレインした内容について、その内容の検証については機関投資家との対話に委ねるというアプローチを進めたらどうかと考えています。
次に、機関投資家のほうですけれども、本日の論点にもなっています、協働エンゲージメントの範囲が不明確だという指摘については、メンバーからの指摘もあったとおり、透明性という視点からは取り組むべき課題だと思っております。ただ、これも形式から実質というフォローアップ会議に貫かれる思想から言うと、海外では既に、今日も何度かメンバーからの御指摘もございましたが、明確化が図られているわけですけれども、では、海外では、実証研究において、協働エンゲージメントに対してどのような示唆がなされているのか、効果のエビデンスみたいなところはあるのかなというのは興味を持って聞いておりました。要するに、海外の先行事例から、協働エンゲージメントに何を期待するのか、何のためやるのかというところも明らかにする必要があるのではないかと思っております。
それから、先月22日の日経新聞で、金融庁が実態を伴わない運用会社のいわゆるグリーンウオッシュやESGウオッシュを監督されるという記事を拝見したのですけれども、エンゲージメントについても、今日の議論にもつながるかもしれませんが、形態にとらわれず、個別であっても協働であっても、形だけのエンゲージメント、言わばエンゲージメントウオッシュがはびこらないように、この領域は多分金融庁で監視できる領域だと思うので、形式から実質への深化という視点で御尽力いただきたいと思っております。
3点目に、両コードに関わる共通の目的として、中長期的な企業価値向上がコード策定当初からずっとあったわけですけれども、本日の事務局資料でもございましたが、海外との比較においては、不十分な成長投資と株主還元、その結果として、内部留保、現預金が積み上がってくるという指摘がなされております。これらはいずれも海外に比べて突出して高いPBR1倍割れ企業比率の要因になっております。
これは先ほど川北メンバーがおっしゃったとおりで、川北メンバーが昨年の12月に『週刊エコノミスト』に書かれた分析を拝見したのですが、市場環境が比較的良好だった昨年9月末時点でも、当時の東証一部で、先ほど御指摘あったとおり約半分が、46.9%という数字が出ておりましたけれども、PBR1倍割れ、要するに解散価値割れの状況にあったということです。投資家の立場からすると、資本コストを中長期的に上回る投資があれば投資していただいて、なければ市場に還元していただくことで、このPBR1倍割れ、いわゆる解散価値割れというのは通常は回避されるものなので、元をただせば、資本コストの意識が欠如していることがなせるわざじゃないかというふうに理解しております。2年前の2020年10月20日のフォローアップ会議で提示された資料によりますと、当時で約半数の企業が、未だ自社の資本コストを算出していないというということでありました。そこで、最後の意見ですが、資本コストへの意識を企業に根づかせるためには、資本コスト経営の推進をエンゲージメントのアジェンダの中心として、言わば資本コスト経営の比率を向上させるということを、このフォローアップ会議の目的の1つとして目指したらどうかと思っています。PBR1倍割れということに対して、危機感がない、危機感が醸成されていないという現状を懸念しております。
私からの意見は以上でございます。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、岩間さん、どうぞお願いいたします。
【岩間メンバー】
ありがとうございます。私自身がこの問題に関与し始めたのは、資本市場・証券市場の活性化有識者会合というのが始まった2013年だと思うのですけれども、そのときにスチュワードシップ・コードを導入するかどうかという話が出たというところから始まっておるのですが、そこから考えますと、非常に進展をしたのは間違いない、方向性としては間違ってないということだと皆さんお考えのとおりだと思うんです。
それで、そのときの文脈で言いますと、資本市場の活性化、証券市場の活性化というのが非常に重要であるということで、その中で我々として注目していたのは、長期投資家が健全な知見を持って中長期の投資をすると、それが企業の中長期的な価値を上げるということに有効に機能するということだったと私は思うのですが、そうなりますと、パッシブ化が進む中で、パッシブこそエンゲージメントが必要だということなのだと思うのです。
私は今ノルウェーのソブリン・ウエルス・ファンドのアドバイザーもやらせていただいているのですが、あそこは巨大な機関投資家でございますので、全世界の上場企業に投資をしているわけです。これは言ってみれば市場を買うということでございますので、ポートフォリオをバリューアップするためにも、個々の投資先企業の中長期的なバリューアップが必要であるという観点で積極的に関与しているということなんです。私は今、発行体のほうと投資家サイドと両方関係しておるわけですけれども、機関投資家、例えば、投資顧問会社ということで言いますと、アセットオーナーがお客様で、アセットオーナーのために働くということになるわけです。それで、アセットオーナーが長期機関投資家であるということが結構あるわけです。そこがこういう問題についてどのような感覚、方針を持って臨むのかということも非常に大きな問題なので、先ほど上田メンバーからも御指摘があったように、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの間に落っこちるような問題が全体的なインベストメントチェーンの活性化につながるというような視点も取り上げてもいいんじゃないかなという具合にひとつ思っております。
それから、そういった中長期の投資家が活動の効果を上げるためには、協働エンゲージメントというものが実効性を持って行われるということが鍵の1つなのではないかということで、これはやはり環境整備が必要なのではないかと思います。これは私専門外でございますから、あれですけれども、法的な環境整備も含めて考えていただく必要があるのではないかと思います。
それから、取締役会がどういう具合に動いてきたかというと、これは私の僅かな経験で言うと、極めて変化したということだと思うのです。それで、今問題になっているのはまさに、取締役会及び委員会の実効性がどれだけ上がっているかということを取締役会、委員会自体がどれだけシリアスに考えるかという話で、そこから課題が現れますし、逆に、エンゲージメントする側からは、そういうものをちゃんとしっかりと見た上で対話をするということも必要なのではないかと思います。
あと、先ほどから内部留保の問題も出ておるわけですけれども、これは企業サイドから見ても、投資家サイドから見ても、資本の有効活用ができているかということに尽きるのだろうと思います。これは御指摘がかなりの方からおありになったように、資本コストをどれだけ意識されているか、資本コストに全ての尺度があるのではないか。それをフォーカルポイントとしてエンゲージもしていくということが求められるのかなと思います。
ちょっと雑なあれですけれども、以上でございます。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、翁さん、どうぞお願いいたします。
【翁メンバー】
それでは、意見を申し上げます。コードの効果については、今まで、2015年からスタートして、一定の企業価値の向上はあったと思いますけれども、多くの皆さんがおっしゃっているように、PBRが1以下の企業が多いという問題がずっとございまして、今御指摘にあったような、長期的に資本コストを上回る資本収益率を上げるという考え方についての意識がまだ定着してないと思っております。
それから、今日御紹介があったように、コードは、ガイドラインというよりは、数値などが示されていることもあり、それにコンプライするという形式的な対応になってしまっているという点の懸念についても共有をしております。もともと市場というのは、見方が多様なはずですけれども、議決権行使助言会社などが投資家に助言をすることによって、どの程度機関投資家が影響を受けているのかといった、そういった傾向の変化なども調べていただく必要があるのではないかと思っております。
たとえばダイバーシティ確保といったことを助言会社が助言することが間接的に企業の改革の推進力になる面もあるんですけれども、助言会社が寡占的であるという問題もございますので、そういった市場構造がある中で、コンプライせずにもっとエクスプレインすべきだと言っても難しい面がある可能性もあるのではないかと思って、この辺りは調べていただくといいかなと思っております。
少なくとも、企業がそれぞれのビジネスモデルに合った形で、コードを参照しながら、場合によってはエクスプレインしていく、場合によってはコンプライしていく、という形で自らガバナンスを高めていくということで、企業自体の多様性が確保されていくこともとても重要なのではないかと思っております。そういった点が1つの感想でございます。
また、最近は、経済安全保障の問題が非常に大きな問題になってきていますし、急速に円安が進んでいて、日本株が海外からみると非常に魅力的になってしまっているという点があります。これはプラスの側面もありますけれども、経済安全保障の観点から考えて、例えば、政策保有株式といったことについては、もちろん、今まで方向としては、いろいろ対応が進んできているのですけれども、今後はいろいろな環境変化を考えて議論していく必要が出てきているのではないかなと感じております。
それから、今後の企業の成長の課題については、皆さんが御指摘されたとおりで、持続的に企業価値を向上させていくことが日本企業にとっては非常に重要で、人材への投資が私も重要だと思っております。今日、経営者の質とか社外取締役の質ということも御指摘ございましたけれども、特に、CEO、社長のリーダーシップが取れるような方がどんどん育っていくということが極めて重要だと思っております。
人材投資も含むのですが、無形資産投資が海外と比較しても非常に低いという状況で、既に前回の改訂でコードに書き込んでおりますけれども、人的資本への投資とか、それから知的財産への投資とか、データ、ソフトウエア、こういったものへの投資が低い状況になっておりますので、こういったところをしっかり取り組んでいくことが大事と思っております。
これらはもう既に前回の改訂で書いておりますけれども、この効果が出てくるのは中長期的な先のことになってくるとは思いますけれども、引き続き重要な課題であり、開示についても、いろいろなガイドラインが今後出てくると思うのですけれども、こういったことにしっかり取り組んでいくことが大事と思っております。
いずれにしましても、コーポレートガバナンス・コードというのは、当初、株主を中心に考えていたものですけれども、徐々に、中長期的という意味でも、マルチステークホルダーの利益を考えながらやっていくということが大事になってきていると思っております。
最後になりますが、エンゲージメントの担い手であるアセットオーナーについて、しっかりとしたエンゲージメントが大事ではないかという御意見がたくさんありましたが、私も同じ意見を持っております。例えば、アセットオーナーである企業年金については、もっとしっかりと役割を果たしていただくことが大事ではないかと思っております。スチュワードシップ・コードに多くはコミットされているのですけれども、日本の企業年金で国連のPRI原則にコミットしているのはたった3社しかないということでございます。コードにも企業年金のことは少し書いてございますけれども、どうやったらこういった企業年金についてもサステナビリティの貢献をしてもらえるか、大事だと思っておりまして、こういった点をコードに書いていけないか、私自身は個人的に問題意識を持っております。
以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、挙手をいただいていたようで申し訳ありません。武井さん、どうぞお願いいたします。
【武井メンバー】
武井でございます。何点かございます。
まず、コンプライが望ましいという形式的風潮とか、そういう御指摘が今日もいくつかございましたが、この点につきまして、企業側だけの問題というよりは、機関投資家側の形式的な対応の問題があるのだと思います。コンプライか否か以外に、議決権行使の文脈とかでもそうです。機関投資家側の形式的対応をどういうふうに改善するかという点に関しましては、依然としてずっと課題が残っている、それは現状も変わらない、その点についてもきちんと取り組むべきだと思っております。
2点目が、企業側の日本企業全体の成果なのですけれども、欧米ですと、この手のコードに関する施策というのは、大体上場会社で数百社ぐらいのところで見ている面もあると思います。日本における成果も、JPX400なのかTOPIX500なのかいろいろあると思いますが、数百社レベルで見るという視点もあってもいいのかなというふうに思います。これが2点目です。
3点目が、資料の34ページにございます、研究開発投資であったり、知財、人的資本への投資がされてないという点です。この点は、去年のガバナンス・コードの改訂で相当踏み込んだ改訂がなされていて、この点は相当重要な点であって、かつこの点につきましては、まだまだ日本の上場企業にとって相当な伸び代がある部分ではないかと思っております。
この点に関しては例えば、資料にもございますけれども、今年の1月には内閣府のほうから、知財・無形資産ガバナンスガイドラインというものも公表されております。そこでは費用でなく資産として捉えるべきであるとか、あと、ビジネスモデルとリンクして、ロジックをもってちゃんと説明しましょうということが書かれています。こうした点に関しましてきちんと取り組んでいくということは極めて大事なのではないかと思っております。
特に人件費であったり研究開発費の効果というのは、単年度で決して埋没するものではない。それにもかかわらず、会計上は、人件費や研究開発費という形で単年度費用としてしか企業には取られない。その結果、営業利益を高くしようと思ったら、費用削減の対象にするという悪循環が起きている。ある意味、会計上の数値に引きずられた経営になっている。会計原則自体を変えることは難しいと思いますので、営業利益にこういった遅延投資効果があるような人件費であったり研究開発費とかを足し戻した、いろいろな将来企業価値を生む、投資という形で足し戻したものを企業側も算定して、そういったものを開示なり説明していくと。そういったことを内外の中長期の機関投資家の方々に発信していくということが大変重要ではないかと思います。
もちろん、その前提として、こういった人件費とか研究開発費が企業価値に意味があるということが大事です。まさに企業としてのパーパスであったりビジネスモデルときちんとリンクした形での投資であるかどうか、しかも、それが単に人件費や研究開発費を増やすということではなく、こうしたパーパスとかビジネスモデルにどういうふうにつながっているのかということをきちんとロジックをもって説明する。しかも、そういったロジックをもって機関投資家の方とも対話する。そういう形で、こういった人的資本なり無形資産とかの見える化、価値の見える化を図っていくということが、今後日本の上場企業にとって大変重要な点かと思いますし、この点は相当伸び代があると思います。
またこういったロジックの一連の流れの中で、今とても関心が高まっていますサステナビリティの関連の事項なんかも関連してくるのだと思います。もちろん、自社に関連するマテリアリティがあるサステナビリティ事項に限られるわけですけれども。サステナビリティという英語を使う前に、そもそも日本語的にも、世の中の人のために仕事をしているというのが、働いている方、人的資本の方のモチベーションも上がりますし、スキルも上がりますし、ヒトの付加価値も高まる。それによって採用コストも下がるとか、研修コストも下がるとか、いろいろな設備の稼働率も上がっていくと。いろいろロジカルに良い流れができますので、そういったことを数字的に、企業価値の観点から数字的にプラスの見える化をしていくということが一例としてありえます。いずれにしても、この人的資本の箇所について、こういったことに関して積極的に取り組んでいくことが重要だと思います。ちまたに出ている実証研究ですと、例えば、TOPIX500ぐらいとかの相当な数の日本企業において、こういった人件費であったり研究開発費が、5年、10年とかで見たときに、いろいろ御指摘の出ているPBRの向上においても相当正の相関関係があるという実証研究もございます。この点に関してフォローアップ会議として、日本の上場企業が昨年のガバナンス・コードの改訂を踏まえて取り組んでいくということが相当大事な点ではないかと思います。これが3点目です。
あと、資料の最後の制度的論点というところでございます。この文脈は大量保有報告制度のことを想定されているのかなと思いますけれども、この点に関してコメントしますと、私は、現行の大量保有報告制度は、前回の改正から約15年が経過しているわけですが、その間、いろいろ皆様のおっしゃっているとおり、まさに、資本市場の透明性という観点から、制度的対応が求められている事項が相当たまっているのではないかと思います。
欧米でも、透明性を高める改正も最近いろいろと行われておりますし、あと、デリバティブに関連する開示の問題であったり、エンフォースメントの強化の論点もございます。あと、資料31ページにございますような実質株主の把握という論点もございます。先ほど翁委員のおっしゃった国家経済安全保障という論点ももしかしたら絡んでくるのかもしれません。いずれにしても、こういった大量保有報告制度を含む資本市場の透明性の向上というのは大変重要な論点だと思いますので、この点に関しまして、制度的対応についてきちんと議論すべき時期が来ているのではないかと思う次第でございます。
以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
これで本日御参加の皆様方全員からの御発言をいただくことができました。東原会長には冒頭挨拶の中で御発言いただいたという形になっておりますけれども、何か追加でもし御発言があれば承りたいと思います。
【東原メンバー】
東原です。皆さんの御意見を伺って、非常にこれまでの経緯がよく理解できまして、非常に参考になりました。ありがとうございました。
それで、ちょっと気づいた点を何点か、個人的な意見も含めて言わせていただきたいのですが、まず、このスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの状況というのは、数年前からは相当企業に浸透してきたと私は実感を持っています。そして、今後のこのコードの細則化とかいろいろ議論が出ておりましたけれども、私は、あくまでも、こういうコーポレートガバナンスとかということは企業が主体であるべきだというのが基本的な考えです。ですから、ルールというのは、非常に最低限のものを決める、強いて言うと、企業側が欲しいのは、方向性はこういう方向ですよというガイドラン的なやつはいいのですけれども、ルールはこうだと決めると、どうしても形骸化するポテンシャルを今の日本企業は持っていると思うので、ぜひそういう、主体性は企業側にあるということをまず考えていただきたいなと思います。
そして、特に重要なのは、私は社長、CEOの考え方だと思っています。社長、CEOの人たちが会社経営に対してどういうビジョンを持つかというのは非常に重要であります。それを取締役会の中で議論しながら、考え方をシェアしていくというのが重要で、それによってある程度まとまれば、それから投資家への説明、それから従業員あるいは組合との関係への説明ということが社長、CEOの大きなミッションだと思います。
それで、先ほど剰余金の話も出ましたけれども、それは分野とか今の状況、コロナとかウクライナの問題とかそういう状況にもよりますし、取り扱っている事業分野にもよりますので、それは、私は、社長、CEOが考えて、それを取締役会の中で議論するというのが筋だと思っています。その中で、どういうふうな方向に行くのかというのは、まず、市場との間でもトラストが重要で、できるだけ取締役会、社長、CEOの考え方をどういう情報を使えば開示できるのかという、情報の開示の精度を上げていくのは、これは会社サイドの問題だと私は思って、今は剰余金が要るんだとか、例えば、キャッシュフロー、キャッシュを重視しなきゃいけないんだ、これはこういうリスクがあるから、コミットメントラインまで含めて、ここまで金を持っておかないといけないんだという時期だ、今は成長投資の時期だというのは、それぞれで決めれば私はよろしいのではないかなと思います。
それから、先ほどのWACCの話が出ましたけれども、私はやっぱり、それはまずB/S上の中身をどう見るかというのは、これは企業側の責任だと思っています。ROICスプレッドでやるのかいろいろ、それは企業サイドで考えればいい話です。企業の中で自分たちのB/Sをどういう単位で区切り、そこでROICスプレッドでどう管理していくか、あるいは、キャッシュフロー経営をどう見ていくかというのは企業サイドのオペレーションであって、それをいかに市場に開示していくかというのは、これは企業側の問題だと思っています。
それに対して、私どもはずっと、この8年ぐらいは、春と秋には投資家のところに直接行って、大手の投資家とは実際に議論をしながら、実はこういうことを望んでいるんだと聞いて、それを経営に生かしていくことを8年ぐらいやってきましたけれども、そういうことを今後も進めていくことによって、私は日本企業は相当変わってくるのではないかなと思います。
ただ、これから、先ほどおっしゃったように、環境問題も含めたサステナブル経営というのが重要です。それから、先ほどの経済安全保障も問題です。そういうことで、ぜひ、金融庁を含めて、こういう方向のガバナンスしていくべきだよというガイドラインは出していただきたいのだけど、主体はあくまでも企業側でやっていけるような環境づくりをよろしくお願い申し上げたいというのが私からの意見です。
以上です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、ほかの皆様方で、もし追加で御発言があれば承りたいと思いますけれども、いかがでしょうか。特によろしゅうございますでしょうか。
それでは、予定のお時間よりは少し早いかと思うのですけれども、本日はこの辺りとさせていただければと思います。本日も大変貴重な御意見をたくさん、また、いろいろな点についていただきまして、誠にありがとうございました。もし追加でお気づきの点等ございましたら、ぜひ事務局までメール等でお知らせいただければありがたく存じます。本日の議論につきましては、事務局において整理をしていただければと思います。
最後に、事務局から御連絡等ございましたらお願いいたします。
【廣川企業開示課長】
次回のフォローアップ会議の日程等でございますけれども、今後の進め方につきましては、座長と御相談の上決定をさせていただきたいと思いますので、御案内をお待ちいただければと存じます。
以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、以上をもちまして、本日の会議を終了とさせていただきます。長時間にわたり熱心に御参加いただき、大変ありがとうございました。
―― 了 ――
おはようございます。皆様、お待たせして申し訳ございません。ただいまからスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議の第27回目の会合を開催させていただきます。皆様方とは久しぶりにお会いすることになりますけれども、大変お忙しいところを御参加いただきまして、誠にありがとうございます。
本日の会議でございますけれども、オンライン会議を併用した開催とさせていただきます。会議の模様はウェブ上でライブ中継させていただいております。また、議事録ですけれども、通常どおり作成の上、金融庁ウェブサイトにて後日公開させていただく予定ですので、よろしくお願い申し上げます。
なお、今日は私がヘッドホンを使わせていただくことになっておりまして、もし声等が聞こえにくい等がございましたら、御指摘をいただければありがたく存じます。
それでは初めに、今回フォローアップ会議を開催するに当たりまして、新しくお二人の方にメンバーとして御参画いただくことになりましたので、事務局から御紹介をお願いします。廣川課長、よろしくお願いいたします。
【廣川企業開示課長】
事務局を務めさせていただきます、金融庁企業開示課、廣川でございます。よろしくお願いいたします。
この度新たにフォローアップ会議のメンバーに御就任いただいたお二方を御紹介させていただき、御挨拶を頂戴できればと存じます。
まず、東原敏昭様でいらっしゃいます。よろしくお願いいたします。
【東原メンバー】
皆さん、こんにちは。今回初めて参加させていただきます、日立製作所の東原でございます。最初、私が今、取締役になって8年が過ぎたわけでございますけれども、日立の取締役関連の改革は、皆さん御案内のように川村さんとか中西さんの時代からずっとやっておりまして、私はその間、この8年間ぐらいこの改革に一緒に携わっております。
そういった意味で、現在の状況を申し上げますと、取締役は全員で13名おります。それで、日立関係者は3名です。今、執行系は、私、会長と社長、それから、OBが1人おりまして、日立関係者は3名でございます。10名は全て社外でありまして、その10名のうち6名がノンジャパニーズであります。そういう関係の部隊でありまして、かつ指名委員会等設置会社ですから、指名委員会とか、報酬委員会とか、あるいは監査委員会とか、全て委員長は社外が務めております。それから、取締役会の議長も社外になっておりまして、比較的、日立の執行系とガバナンス系がきちっと分かれた形で今やらせていただいています。
それで、当初、私が社長になった2014年頃は、執行系の資料と取締役系の資料とで若干違いがあったのですが、今は全く社内と社外取締役との間のドキュメントは全く同じになっております。そういった意味で、取締役と執行系の情報の共有というのは一致していると思っています。特に力を入れているのは、やはり将来日立をどういうふうにしていくんだというビジョンと、あるいは執行系の、現状のそれに向かってどういうふうに進めているのかというところの共通認識をどう持つかというところが今、力を入れているところです。
それで、かつ欧米の取締役のガバナンスを見ると、結構、取締役のガバナンスが強いというのがあるのですけれども、今、日立は執行系の自主性もどんどん主張していくような形にして、取締役系のガバナンスと執行系の主体性がうまくバランスが取れるような形で運営しております。そういった意味では、お互いのトラスト、信頼感というのは非常に重要でありまして、そこに注力している状況であります。
それから、日立の取締役のメンバーの方の一つの特徴として、将来日立を担って立つ幹部候補生を自分が教育するという熱い思いを持たれている方が結構多くて、将来の幹部候補生に対する教育とか、あるいはダイバーシティに関して、女性リーダーを育てるというので女性の取締役がどんどんロールモデルとして出てきていただいたり、そういうことも頻繁にやっております。それから、もっと言うと、彼はもうちょっと伸びるのでメンターをしたいという、取締役が執行系のメンターになったりするケースも増えておりまして、非常にそういった意味では、お互い信頼し合いながら、将来の会社をどうしていくかという議論がうまくかみ合っている状況ではないかと思っております。
私からは以上です。
【廣川企業開示課長】
東原さん、大変ありがとうございました。
それでは、続いてもう一方、片山銘人様でいらっしゃいます。片山様、よろしくお願いいたします。
【片山メンバー】
労働団体連合の片山と申します。どうぞよろしくお願いします。昨年10月から経済・社会政策局長として着任しております。今後参加させていただくことになりましたので、どうぞよろしくお願いします。
【廣川企業開示課長】
片山様、ありがとうございました。
そのほか、引き続き御参加いただくメンバーとオブザーバーの皆様につきましては、名簿をお手元に配付しておりますので、そちらを御覧ください。また、事務局にも異動がございましたが、時間の都合もございますので、配席図をもって紹介に代えさせていただければと存じます。
以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。それでは、議事に移らせていただきます。
本日でございますけれども、事務局である金融庁と東京証券取引所から資料の説明をまずしていただきまして、その後、質疑応答、討議の時間とさせていただきたいと思います。
それではまず、事務局の金融庁のほうからの説明をお願いします。廣川さん、よろしくお願いします。
【廣川企業開示課長】
ありがとうございます。お手元の資料の事務局説明資料、こちらのほうで説明をさせていただきます。
おめくりいただきまして、1ページの目次のところでございます。本日の議題といたしましては、まず1番目、コーポレートガバナンス・コード再改訂後の中間点検というのが一つ、それから、2つ目としては個別論点、さらに具体的には、持続的な成長に向けた課題、そして、企業と投資家との対話に係る課題、この2つを議題として取り上げさせていただきたく存じます。以下、資料に沿いまして説明をさせていただきます。
2ページを御覧ください。まずコーポレートガバナンス・コード再改訂後の中間点検についてということでございます。2014年のスチュワードシップ・コード策定以降、累次のコーポレートガバナンス改革を実施してまいりました。2021年のコーポレートガバナンス・コードの再改訂を受けまして、各企業におけるガバナンス改革の取組みは一層進展してございます。例えば2022年4月時点におきましては、プライム市場上場企業の8割超が3分の1以上の独立社外取締役を選任。また、プライム市場上場企業の8割弱が指名委員会を設置、8割超が報酬委員会を設置といったような状況でございます。
3ページを御覧ください。こうした取組みが進展する一方で、次のような指摘も聞かれます。例えば企業側からは、「コードはコンプライ又はエクスプレイン」の枠組みだが、実際には「エクスプレイン」すると投資家に十分理解されるか不安。また、そのエクスプレインのための検討が大変。こうした中、一部において、コードへの対応が形式的になっているおそれがある。また、コード改訂やガバナンス改革の取組みが企業価値や「稼ぐ力」の向上につながっているか検証が必要といった指摘がございました。
一方、機関投資家からの指摘としては、企業との充実した対話の実現に向け、対話を支える制度的な要素も含め、一層の改革が必要。持続的な成長に向け、現預金・内部留保の一層の活用などを検討すべきといったようなものでございます。
こうした中での点検ということで、今回は私どものほうで、円谷先生のお力も借りまして実証研究の整理をいたしました。また、金融庁のほうで企業へのインタビューも行ってまいりました。点検のポイントとしては、一番下ですけれども、上場企業各社のガバナンスの充実・強化に向けた取組み、あるいはエンゲージメント、こういったところについてどういった工夫が見られるのか、あるいは課題は何かといったところが点検事項かと考えてございます。
次に、5ページまで飛んでいただきます。まず実証研究につきましてですけれども、海外におきましては、コーポレートガバナンス制度の整備や機関投資家による株式保有がどのような条件の下で企業のパフォーマンスに影響を与えるかについての実証研究の蓄積がございます。詳しくは6ページにございます。他方で、日本のコーポレートガバナンス改革実施以降の期間を対象とした実証研究の数は必ずしも多くはなく、その結果も様々でございます。日本の実証研究においての改革の評価は必ずしもまだ定まっていない状況かと存じます。
例えば、下で研究の一例を御紹介させていただきますと、社外取締役のところでいきますと、改革実施前を対象期間とした研究においては、社外取締役の導入が市場からの評価を上げるというような研究もございました。他方で、改革実施後の研究については、複数はあるのですけれども、社外取締役の導入は企業価値との間に有意な関係が見られないという研究成果のほうが割合としては多いというような状況でございます。委員会設置については、指名委員会、報酬委員会を設置している企業はROAの伸びが大きいといった研究成果がございます。資本政策に関連しましては、余剰現預金を減少させると、市場からの評価が上昇する、また、政策保有株式につきましては、政策保有株式の売却によって利益率が改善するですとか、あるいは自社株買いや配当が増加するですとか、そういったところに有意な関係が見られるといったような論文がございます。対話、エンゲージメントの関係でいきますと、機関投資家とのエンゲージメントがガバナンス改善や株価上昇をもたらすといった論文がございました。株式所有に関しましては、アクティブ投資家比率が高いほど製造業のR&D成果が上がる。あるいは、機関投資家・外国人持株比率が高い企業ほど、生産性や市場からの評価は高いといったような研究成果があるといったような状況でございます。
続きまして、16ページに参ります。企業インタビューについての説明でございます。私どもは昨年の12月から今年4月にかけて上場企業16社様に企業への個別インタビューということでお話を聞かせていただきました。対象企業の選定に当たっては、経団連様からも御協力をいただきました。この場を借りて御礼を申し上げます。具体的な個社名はこちらに掲げさせていただいたとおりでございます。
次の17ページに参りまして、どういったお話を頂戴できたかということで少し御紹介をさせていただきます。まず上のほうの総論というところを御覧いただければと思うのですが、コーポレートガバナンス改革への主な評価といたしましては、執行陣を含め多くの企業から、取締役会の審議の充実・中長期的な経営戦略の議論の深化、深まりによって企業経営に良い影響が生じた、投資家との対話から経営に有益な示唆を得られたといった声が聞かれまして、コーポレートガバナンス改革の方向性及び有効性は広く支持されていることを示唆しているものかと受け止めております。例えば、取締役会の機能発揮につきましては、下にも少し書かせていただいておりますが、執行側からの説明方法を創意工夫するといったような様々な工夫をされているというお話をたくさん伺えております。
それから一方で、指摘された主な課題のところですけれども、1つ目ですが、コンプライへのプレッシャーが企業にある中で、コーポレートガバナンス・コードが、企業経営の細部に至る要請を行うことで、かえって企業が形式のみを整えることとなり、改革が形骸化することを懸念する声があったということでございます。また、2つ目ですが、機関投資家の形式的な議決権行使、特に中堅以下の規模の企業における対話の機会不足、実質株主把握の困難等の課題へ対応することにより、より質の高い対話を促進すべきという指摘もあったところでございます。
そのほか、下のほう、いくつか抜粋して御紹介しますと、執行側との役割分担のところでありますけれども、取締役会で中長期的な経営戦略を議論し、執行に権限を委譲。その執行の進捗確認を通じてモニタリングする形により、経営のスピードが上がり、中長期的な戦略に沿った経営ができたという御指摘もいただきました。また、取締役会の実効性評価のところでありますけれども、取締役会の実効性評価を通じて、コーポレートガバナンス改革のPDCAを回すことにより、取締役会の質の向上につながったという意見も頂戴しております。
最後、エンゲージメントのところですが、社長や取締役会議長、社外取締役が積極的・継続的に対話に取り組むことや、中長期的な視点で企業を見てくれる投資家と対話を行うことで、投資家から経営に対する有益な示唆を得られたといったポジティブな御意見も頂戴したところでございます。
続いて、資料飛びまして、大きく2つ目、個別論点のところですけれども、1つ目、持続的な成長に向けた課題というところでございます。
おめくりいただきまして23ページですけれども、コーポレートガバナンス改革は、中長期的な企業価値の向上に向けて、経営陣の果断なリスクテイクを支えることを狙いとしてきておりますけれども、日本企業の成長投資(設備投資、研究開発・知財投資、人的投資等)は、コーポレートガバナンス・コード策定以降、小幅な伸びにとどまっているということかと存じます。1点だけ、下につけている折れ線グラフは、マクロの統計でございますので、その点は留意して見る必要があるかと考えてございます。
24ページに参りまして、コーポレートガバナンス・コードの再改訂後も、この1年ですけれども、政府の中で内閣官房、経産省、あるいは政府の外におきましても、様々な形で企業の知的財産や人的資本等への経営資源の配分に関する議論が進んでいっているものと思います。ただ、現時点におきましては、投資家と比較をしますと、企業の側ではその重要性が必ずしも十分に認識されていないといったようなアンケート調査結果もございます。
次の25ページに参りまして、そうした中で、足元、日本の大企業の内部留保は242兆円まで、特にそのうち現預金は79兆円まで積み上がってきているというような状況でございます。下のほうに少し図をつけております。成長投資という観点からは、それがどういう形で会計上現れるかというのは少し注意して見る必要があるかと思っておりまして、例えば、人的資本に関連するものでいうと給与手当、研究開発・知財に関するものでいうと研究開発費、こういったものは、真ん中ほどにあります損益計算書の当期のところの費用として発生する分、当期の当期純利益は下がるわけでありますけれども、これが将来的にどういう形で企業価値向上につながっていくのか。また、当期純利益は、右側にあります配当・自社株買いに回らないものは、貸借対照表上は内部留保(利益剰余金)という形で積み上がっていくということになりますが、その内部留保は貸方の話でありまして、成長投資等の文脈でいえば、例えば、設備投資を行うとか、M&Aを行うといった場合には内部留保が減ることなく、借方のほうに資産という形でそれぞれの影響が現れてくるという面があろうかと思います。そういった中で、借方にあります現預金をどのように考えるかといったような論点もあろうかと存じます。
次の26ページに参ります。よく自社株買いの話が言われますけれども、株主還元の数字を見てみますと、日本企業の配当・自社株買いは、米国や英国と比べても、必ずしも過大とは言えないといったデータがございます。
次に、個別論点の2つ目の企業と投資家との対話に係る課題について御説明申し上げます。
28ページでございます。近年、株式のパッシブ運用はますます増加しております。それに伴いまして、協働エンゲージメントを行ったことがある投資家も増えてきているというのがアンケート結果で確認されております。
次のページに参りまして、29ページでございます。スチュワードシップ・コードの有識者検討会におけるこれまでの議論におきましては、建設的な対話を支える制度的な要素(協働エンゲージメントに係る法的枠組み等)についての指摘が行われてきているところでございます。特に大量保有報告制度との関係でいきますと、「共同保有者」や「重要提案行為」といった概念の範囲が不明確だという御指摘がこれまでにもございました。この点に関しましては、2014年に金融庁のほうから、「法的論点に係る考え方の整理」というものをお示しさせていただいております。ただ、その後も、例えば、2019年12月、「スチュワードシップ・コードの再改訂案について」というのを中ほどに書かせていただいておりますけれども、引き続き協働エンゲージメントの範囲が明確ではないというような声もあるということが確認されております。また、直近でいきますと、下に棒グラフがついておりますけれども、日本投資顧問業協会が実施された昨年のアンケートによりますと、協働エンゲージメントの課題として、引き続き、「重要提案行為への該当性判断が不明確」、あるいは「共同保有者への該当性判断が不明確」といったようなことを掲げていらっしゃる運用会社さんがいるということが確認されているというような状況でございます。
1ページ飛びまして、31ページです。これまた別の話ですけれども、制度的な話としては、近年、株主提案等が増加傾向にある中で、上場会社が株主との対話を深めていく観点から、「実質株主」を確認できるようにする制度について検討すべきとの指摘がなされております。一例としては、そちらの下にあります、2020年7月、新時代の株主総会プロセスの在り方研究会、経産省の報告書においてもその指摘がなされているということでございます。
以上が御議論の材料でありまして、最後に33ページ、34ページに「御議論いただきたい事項」をまとめさせていただいております。少し長くなりますけれども、読み上げさせていただきます。
まず、「コーポレートガバナンス・コード再改訂後の中間点検」についてでございますが、2014年のスチュワードシップ・コード策定以降、累次のコーポレートガバナンス改革を実施してきたが、改革の効果についての実証研究の蓄積は未だ多くなく、改革の効果に関する評価は定まっていない。他方、創意工夫でコーポレートガバナンス改革に取り組んだ企業からは、取締役会審議の充実化等、一定の効果を感じているとの指摘がある。このような状況を踏まえ、これまでのコーポレートガバナンス改革の効果をどのように評価しているか。その際、コーポレートガバナンス改革の効果についての企業の実感、コードを細則化すべきでない等の批判をどのように受け止めるべきか。そして、資料で挙げている分析以外に、改革の点検として見るべき分析はあるか。また、分析結果を踏まえ、今後のコーポレートガバナンス改革で対応していくべき課題はあるか。最後、企業の取組みの中で、今後フォローアップ会議として取り上げるべきものはあるか、ということでございます。
また、次の論点、「持続的な成長に向けた課題」につきましては、まず1つ目として、コーポレートガバナンス改革を通じて、企業に持続的な成長に資する投資(設備投資、研究開発・知財投資、人的投資等)を促してきたが、米国と比較すると、それらの投資は小幅な伸びにとどまっており、内部留保が特に現預金として積み上がっているという結果がございます。そうした中で、価値創造の基盤となる知的財産や人的資本に関する投資の重要性は、政府等において議論されてきたものの、企業における取組みは未だ道半ばであると考えられるところでございます。
積み上がり続ける日本企業の内部留保(特に現預金)の有効活用に向け、下記の点をどう考えるかということで、1つ目、中長期的な企業価値の向上に向けた経営資源の適切な配分(設備投資、研究開発・知財投資、人的資本等)。その際の成長投資と、資本コストを踏まえた株主還元のバランス。2つ目に、コロナ禍、資源高、ウクライナ情勢等、不確実性の高い状況における現預金保有の方針。3つ目に、企業が上記の課題に取り組む際の取締役会や株主、両者の対話の役割、そして、企業の説明責任の在り方、といった点でございます。
最後、「企業と投資家との対話に係る課題」といたしましては、企業と投資家の建設的な対話の在り方については、様々な議論・検討が進展している一方で、過去のフォローアップ会議やスチュワードシップ・コードの有識者検討会において、協働エンゲージメントの範囲が明確ではない等の指摘がなされているということで、1つ目に、これまでの指摘を踏まえて何らかの対応を検討すべきと考えるか。2つ目に、これまでの指摘以外にも、関連する制度において検討すべき論点はあるか、ということでございます。
私からは以上です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。それでは続きまして、東京証券取引所から御説明をいただければと思います。青さん、どうぞよろしくお願いいたします。
【青常務執行役員】
東京証券取引所の青です。私からは、昨年皆様に御議論いただきました改訂コードについて、上場会社の対応状況の報告をさせていただきます。このガバナンス改革に関しましては、形式的な対応よりも実効性の面が重要と承知をしていますけれども、ここでは客観データをいくつか御説明させていただきます。必ずしも概括的な状況を示す数字の高低がガバナンスのよしあしを直接的に表すわけではないので、あくまで参考としてお聞きいただければと存じます。
資料の1ページは改訂事項の概要を示しております。本日は、主な改訂項目として、太字の部分の状況について御説明させていただきます。
2ページでは、プライム市場における独立社外取締役の選任比率をグラフにしています。これを見ますと、引き続き選任が進んでいる状況でして、独立社外取締役が3分の1以上を占める上場会社が4月時点では約8割超に増加しています。増加の要因としては、プライム市場を選択した12月期決算会社を中心に前倒しで社外取締役の選任が進んできたと考えられます。一方で、独立社外取締役が過半数を占める上場会社の比率は増加しているものの、1割弱という状況です。こちらは3月決算会社の6月の株主総会前のものなので、総会を経るころになりますと、もう少し全般的な傾向が明らかになると思われますので、夏頃には状況をアップデートしていきたいと考えております。
3ページでは、プライム市場において、法定あるいは任意の指名・報酬委員会を設置している会社の推移を示しております。こちらも増加しているところです。指名委員会、報酬委員会共に約8割にまで増加してきています。先ほどの独立社外取締役の選任と同様に、株主総会後には状況が変わっているかと思いますので、さらにアップデートしていきたいと思っています。
4ページは、取締役会が備えるべきスキルの開示状況を示しています。それで、この原則をコンプライとする会社の割合、こちらは、以前の市場第一部で見ますと約7割でして、エクスプレインを選択する3割の会社におきましても、次回の総会に向けて対応を検討しているという記載が見られているところです。それで、中身あるいは人選が重要なポイントであるということですけれども、開示のほうでは進捗しているところであるということです。なお、スキルの組合せの開示方法としましては、下の円グラフのように、TOPIX100、つまり、100銘柄を集計しておりますけれども、こちらでは、いわゆるスキル・マトリックスを用いる例が大半という状況だということです。
5ページは、中核人材の登用関係です。改訂コードでは、女性、外国人、中途採用者に関して測定可能な目標を設定することなどが盛り込まれたということですけれども、以前の市場第一部の会社で見ますと、約7割がコンプライしている状況にあるということです。一方でコンプライとしつつも、この3つの属性のいずれかについて目標が設定されていないという会社もあるということです。例えば、下のほうにありますように、TOPIX100の銘柄で見た場合には、女性と外国人、中途採用者の間では対応状況にかなり差があるというところが見受けられます。
6ページではサステナビリティ関連の状況を記載しています。まず、以前の市場第一部上場会社でいいますと、9割以上がサステナビリティを重要な経営課題と意識をしているところが見受けられます。他方で、基本的な方針の策定ですとか、取組み等の開示といったような具体的なアクションになりますと、コンプライ率は6から8割程度になってまいります。そこで、今後さらなる充実が期待される部分かと考えています。それで、現時点で開示を行っております会社の状況をTOPIXの上位100銘柄で見ますと、自社のウェブサイトや統合報告書などで開示を行うという例が多くなってきています。また、今般プライム市場に盛り込まれたTCFDに基づく開示の取組状況を見ますと、右下のグラフのとおり、8割近くが対応済みという形でして、先行して取組みが進んでいるとTOPIX100銘柄については言えるかと思います。
7ページは飛ばして、8ページですが、こちらは、プライム市場向けに盛り込まれました英文開示の実施状況です。左側のグラフにありますとおり、プライム市場におきまして英文開示に取り組むという会社は堅調に増加をしてきているところです。また、右側のグラフを見ますと、資料別の状況ですけれども、こちらでは、決算短信、IR説明会の資料、株主総会の招集通知の本体と参考書類が、英文開示の実施率が高い資料という形になっているところです。
9ページは、市場区分別のところで英文開示の実施率をまとめたものですので、後ほど参考に御覧いただければと存じます。
10ページを御覧いただきますと、こちらもプライム市場向けに盛り込まれました、議決権の電子行使プラットフォームの利用状況を示したものです。プライム市場の上場会社においては、利用が9割を超えるという状況でして、昨年と比べて増加してきていると言えると思います。
以上、駆け足ですけれども、私からの説明は以上です。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。それでは、討議に入ります前に、本日御欠席のワリングメンバーと冨山メンバーから意見書を提出していただいております。事務局から簡単に概要の御説明をお願いいたします。
【廣川企業開示課長】
それではまず、ワリングメンバーから頂戴した意見書の概要を説明させていただきます。ワリングメンバーからは、10点ほど多岐にわたる御意見を頂戴しておりますので、本当に一つ一つの項目についてはざっとでございますけれども、まず1つ目は、次のページ、2ページに参りまして、「独立取締役の数」についてでございます。期限を設けて独立社外取締役の割合を高めていくべきというような御提言をいただいております。
それから、次の3ページに参りまして、「独立取締役の質」のところでございます。様々御意見ありますが、独立取締役の質の評価に資するような開示の充実などを推奨されておられます。
それから、同じページの下の部分、「多様性、公平性、包摂性」でございますけれども、例えば企業が目標とか行動計画とか測定可能な期限付きの目標を表す明確なポリシーで、取締役会の多様性、公平性、包摂性へのコミットメントを示すことを推奨といったような御意見を言っておられます。
それから、4ページに参りまして、「委員会の採用」のところです。こちらは全てのプライム市場上場企業が指名委員会等設置会社制度を採用することを推奨されておられます。
次の「資本配分」のところでございます。こちらは5ページからさらに6ページにかけて、非常に大部ではありますけれども、5ページの下の部分、「以下の事をお勧めします」ということでいくつか書かれているので、例えばということで御紹介をしますと、資本配分決定の合理的根拠に関する開示の改善とか、中核でない資産を保有するための合理的根拠に関する開示の改善、また、資本コストに関する開示の向上といったような御提唱をいただいているといったようなところでございます。
それから、6点目、「政策保有株式」のところですけれども、こちらのほうもいろいろ書いておられますけれども、例えば、政策保有株式をなぜ保有するのかということについての根拠については、より企業が多くの情報を提供することを提案しますといったような御意見でございます。
また、次の7ページ、「コーポレートガバナンスの開示」のところ、中ほどでありますが、例えば、定時株主総会の招集通知と事業報告書を株主総会の少なくとも30日前に公開すること、また、総会の開催時期については7月に開催できるようにということ、それから、資料としては、有価証券報告書と招集通知の双方に英語訳を提供すること、こういったことを推奨されておられます。
その下からですけれども、8番目、「持続性(サステナビリティ)に関する開示」につきましては、次のページの2段落目ですが、サステナビリティ情報というのは、有価証券報告書や、その他の自主的な企業開示資料でより広範囲に開示されることを推奨ということでございます。
また、9番目、「集団的対話」、collective engagementと英語ではなっておりますけれども、こちらについては、エンゲージメントに関するガイダンスを金融庁が公開することが有益といった御意見でございます。
また、次の、最後10番目ですけれども、「企業と投資家の間の対話の向上」、こちらは次のページにかけて書いておられますが、ごくざっと申し上げますと、「コンプライ・オア・エクスプレイン」システムを通じて対話の向上を図っていくべきといった御意見になっているかと存じます。
ワリングメンバーからの意見は以上でございます。
続いて、もう一つの資料、冨山メンバーからの御意見でございます。
1つ目のところに書かれております「コーポレートガバナンス改革の実質化、実効化に関わる問題」ということで、ガバナンス改革が実質化の壁にぶつかっている最大の要因はその「担い手」の質の問題であるということで、独立社外取締役の質、それから、執行側の人材の質ということを課題として掲げていらっしゃいます。また、その下のポチですけれども、企業価値の「向上」、特に破壊的イノベーション時代の成長を促進するためには、そこで求められる経営者の質と経営者を選び監督するガバナンスの質の要求レベルは極めて高いものになるということで、コードの改訂や詳細化でクリアできる問題領域が減ってきており、担い手の質の向上のための他の方策にもっと力を入れるべきということで、例えば下のほうの赤字の部分ですが、ベストプラクティスとしてモデル社外取締役適格性基準を作成すべきといったような御意見を言っておられます。
2つ目に、「過少投資傾向の解消に向けたガバナンス改革の問題」ということであります。内部留保性現金問題と過少人材投資の問題の根源は、日本企業の太宗の産業モデル、事業モデルが、有形設備投資依存の大量生産大量販売型で、知識集約型の破壊的イノベーションの時代に取り残されて古く脆弱なものになっていることにあるということで、新たな成長機会の探索、イノベーション投資、事業モデルの転換に必要な新しい組織能力を手に入れるための買収など、非連続的な領域への不確実な投資が求められる時代に、どうハイリスクの未来投資をエンカレッジするか、という問題設定されるべきということで、この観点からガバナンス改革が何をなし得るかに焦点を当てるべきとされております。
最後、3つ目ですけれども、「スチュワードシップ・コードの改訂の位置づけについて」ということです。スチュワードシップ・コードについては、現在の新しい資本主義の議論の枠組みの中では当面あまり大きな論点は認識していない、むしろ機関投資家側の課題は、コーポレートガバナンスにおいて、エンゲージメントの担い手としての質と量の低下リスクにあり、この問題に焦点を当てるべき、といった御意見でございます。
以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。それでは、これから皆様方から御質問、御意見をお伺いする討議の時間とさせていただきたいと思います。先ほどの事務局資料の33ページと34ページに御議論いただきたい事項を掲げてありますので、適宜御参照いただければと思います。ただ、これらに限らず、今日は再開後というか、今年度の第1回ですので、幅広く御意見を伺えればと思います。
時間も限られておりますので、いつものことで恐縮ですけれども、皆様方の御発言のお時間を確保できるようということで計算させていただきますと、大変恐縮でございますけれども、お一人当たり5分程度以内ということかと思いますが、その辺りを御参考にしていただければと思います。
なお、御発言御希望の方は、いつものようにチャット欄に全員宛てに発言希望とお名前とを入れていただければ、私のほうでそれを拝見して御指名をさせていただきます。そうしましたら、マイクのミュートを解除して御発言いただき、恐縮ですけれども、御発言が終わりましたら、またミュートを設定していただければと存じます。
それでは、どなたからでも、どの点についてでも結構でございますので、御発言いただける方はチャット欄に全員宛てに御入力いただければありがたく思います。いかがでしょうか。
ありがとうございます。大場さん、どうぞお願いいたします。
【大場メンバー】
すみません、今日所用で途中退席をさせていただく関係で、発言を最初に希望させていただきます。論点がたくさんありまして、何からかというのは大変難しいのですが、一応2点に絞りたいと思います。
第1点は、この論点にもあります、御議論いただきたい事項の、現状をどう評価するかということにも関連するのですが、残念ながら、個々の事業で大変成果を上げられている会社はあろうかと思いますが、全体として見ると、実効性が上がっているという評価には至っていないということではないかと思います。
その最大の理由なのですが、取締役会というか経営陣が現状の市場評価にあまりにもこだわっていないことが原因ではないかと思われます。最近の事例でいいますと、日本電産の永守社長がこの前CEOに復帰されたというニュースが流れておりましたが、その最大の理由は、今の市場評価には耐えられないと、こういうように発言をされております。こういうようなことが各取締役会並びに経営陣の中で議論されることが大変重要ではないかと思われるのですが、そういったことがあまり報告されない。ここにまず第1の課題があるのではないかというふうに思います。これが第1点です。
もう1点は、コードがあまりにも細かくなり過ぎてという問題で、コードを細分化すべきでないとの批判をどのように受け止めるかという論点にも関連する話なのですが、廣川課長から御説明いただいたように、企業の調査をしますと、大変プレッシャーを感じているという回答が多いんですね。何かコンプライしないといけないと、こういう風潮が出来上がってしまっているのではないかと思います。コンプライ率がどの程度なのかという事実を開示することは大変重要だと思うのですが、コンプライ率が上がると改善しているというような評価が示されていることが、プレッシャーを与えているのではないかと思います。そもそもは、コードは原則主義が前提でありますので、その原則を踏まえて各社が独自で自分なりに考えて表明するという原則に立ち返るのが望ましいのではないかと思いますので、コードのコンプライをすることが望ましいという風潮を払拭していくことが大変重要ではないかと思います。
以上2点です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
どうもありがとうございます。三瓶さん、どうぞお願いいたします。
【三瓶メンバー】
三瓶です。私も、論点1、論点2についてかいつまんで意見を述べさせていただきたいと思います。
まず、中間点検についてですけれども、もう一度コーポレートガバナンス・コードの目的に立ち戻ると、あそこに書いてあるのは、「本コードは、我が国の成長戦略の一環として策定されたものである」ということ、それと、「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いている」とあります。ということは、中間点検でしなければいけないのは、成長と企業価値の向上を検証すべきということだと思います。これは極めてストレートに結果を直視することが重要だと思います。
そして、2つのコードが策定された時期、伊藤レポートでROE最低8%が指摘されてから8年、CGコードが2015年に導入されてから7年ですから、日本の典型的な3年中計からすれば、2サイクルが終わったということですね。ですから、こういった検証をするのに十分な時間がたっているはずと考えます。
検証では、例えばどんな点を見るのかということですけれども、時価総額の推移、これは外部環境の影響等があるので、海外市場との相対的な尺度で測るということもあると思います。また、今、大場さんもおっしゃいましたけれども、市場の評価という意味では、典型的な分かりやすい指標であればPBRなど、また、市場評価の根拠となるROEとかROIC、また、成長率がどうであったかと、こんなことを見ていくべきだと思います。私が見る限りは、まだこれが進捗したとは言いにくい状況だと思います。中計で2サイクルが終わったにもかかわらず、株主資本コストを超えるようなROEを確保して、そのときに回収すべき経営資源は回収して成長投資へ向かうはずだったと思いますが、いまだに成長へかじを切れていないという状況だと思います。
次に、コードの細則化をすべきではないというところの指摘については、私もそう思います。コードについては、これは原則主義という考え方なので、これがまだ十分に定着してないのかなと。ですから、原則主義を定着させずに細則化ということに向かうべきではないと思います。
また、改革の点検として見るべき分析ということでは、コードの導入等の中でも、何度も「果断な意思決定」という言葉が使われてきました。これが意味することは事業ポートフォリオの変革ということがあると思います。これができているのかどうなのかということも見ていく必要があると思います。
今後対応していく課題ということでは、前回のCGコードの改訂では、「変化」ということがキーワードだったと思います。ですから、変化への対応力がついたのか、経営の改革はできているのか、そういったことが課題としていまだ重要なのではないかと思います。
最後、今後フォローアップ会議として取り上げるものとして、私が非常に心配しているのは、成長戦略の一環として2つのコードが導入されたにもかかわらず、市場から見ると、成長を期待されていない日本企業があまりにも多いということです。ですから、そういった企業に成長戦略を語ってもらっても、市場は聞く耳を持たないという、市場との大きなギャップが生まれてきていると思います。この辺について、丁寧に現状分析をして問題把握をする必要があるのではないかと思います。
論点2のほうは、持続的な成長に向けた課題のところで、重要な点は、経営資源の適切な配分というときに、回収のことが抜けているのではないかなと。回収というのは売却や撤退を含みます。もちろん成功による回収もありますけれども。ですから、成長投資と回収というのは等しく重要であると思っています。内部留保または現預金の積み上がりについてですけれども、これは中身を見ていくと、結局は稼ぐ力がないために、安全を考えると内部留保、現預金をため込んで、安全を図るというほうに行ってしまっている。ですから、稼ぐ力とバランスシートの問題は裏腹であると思います。
また、もう一つの点で、企業と投資家との対話に関わる課題で協働エンゲージメントが挙げられていますが、今ここでなぜ見直さなければいけないかというと、従来言われていたcollective engagement、集団的エンゲージメントというのは、どちらかというと共同提案的な行為が主眼にあったと思います。一方で今、この協働エンゲージメント、collaborative engagementと言われているものは、どちらかというと、例えばですけれども、環境イニシアチブのようなものがあって、そこに方向性として賛同と協調行動を取るというのがまずあって、そうすると、その先にまた株主提案等があるときに、乗らないのはおかしいということで、巻き込まれるという言い方はちょっと違うかもしれませんけれども、結局そこに合流していく。この場合は共同保有者なのかどうかというのが分かりにくくなっているんだと思います。ですから、特に5%保有をしていない、5%未満の保有であっても、共同保有者になれば、重要提案行為ということで引っかかって大量報告に関わってくるので、その辺の整理が必要なため、数年前にはなかった新たな動きがあるので、改めて見直すべきなのではないかということです。
そのときに、重要提案行為の該当性の要件が3つありますけれども、その中で、「提案」の該当性を見分ける一つの方法として、これは私見ですけれども、強要なのか否かというのが重要ではないかと考えます。提案があったとしても最終的に企業経営者のほうに判断余地、選択余地があるものなのか、それとも、例えば議決権などを集めて法的権利の行使によって強要するものになっているのかどうか、こういったことをもう一度整理すべきではないのかなと思います。
さらに、これまでの金融庁の解釈の中では、例えば取材の一環として純粋に質問する場合はその可能性が低くなるとか、受動的に自身の意見を陳述する行為は当たらないとか、かなり消極的な行為であれば当たらないという言い方なんですけれども、これはそもそもの対話の双方向性などとは矛盾する考えではないかと思っておりますので、対話の深化ということと、重要提案行為に当たらないのかどうかということはいま一度整理しないと、対話の深化も進まなくなると心配をしています。
もう一つ最後に、いわゆる企業と投資家のエンゲージメントですけれども、これは企業価値向上に資するエンゲージメントをどの投資家も同様にできるという認識はそもそも甘いのではないかということが一つ。また、実際に機関投資家がエンゲージメントする際には、多くの他の一般株主のインタレストにかなう課題を取り扱うべきであるという点は、念を押しておくべきだと思います。これは20年ぐらい前に私が英国流のエンゲージメントに接したとき、また、アメリカのリレーショナルインベスターがアクティブオーナーシップを励行するにあたり、両者とも「一番気をつけなければいけないのは、自分たちの主義主張だけ押しつけるのではなくて、他の一般の株主のインタレストとは合っているのかということを責任を持って考えるということ」、と言っていたのを非常に印象強く覚えています。こういったスタンスをもう一度確認しておく必要があるのではないかと思います。
以上です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。それでは、多くの方からチャットを頂いておりまして、ありがとうございます。その順番で、佃さん、どうぞお願いいたします。
【佃メンバー】
佃です。私からは、コーポレートガバナンス改革の効果、それから課題ということについて述べさせていただきます。
まず、効果について2点です。まず1点目は、取締役会の機能の強化についてです。独立取締役という外部視点を取締役会に持ち込むことで、経営、そして、経営者を監督するという取締役会の機能の基本中の基本が日本企業で認識されつつあります。これはガバナンス改革の大きな一つの効果かなと認識しております。
それから、2点目、機関投資家との対話です。両コードの導入目的でもあるインベストメントチェーンを機能させる、この大きい目標に向けて、徐々にではありますが前進しているといったところを実感しております。
以上が2点、効果であると思いますが、一方で、ガバナンス改革が進むに従って課題も明確化されていると思います。ここでは3点簡潔に指摘させていただきたいと思います。
まず1点目は、ガバナンス改革の費用対効果です。実務実感では、ガバナンス改革を自社の企業価値向上に結びつけることができている企業がある一方で、表面的な対応に終始して、企業価値向上に結びつけられていない企業もあります。後者の企業の場合、どうしてもコードの細則化を批判するという傾向にあるような気がしまして、それも分かりますけれども、やはりガバナンス改革には時間がかかるといった認識の下、結論を急がずに粘り強く取り組んでいくことが必要でないかなと考えます。そういった観点で今回の中間点検は、すばらしい取組みだと思います。このような検証を節目節目で実施して、改革にかかるコストと改革による効果をきっちりと見ていくことが大事であると考えます。
2点目の課題は、ガバナンス改革の目的の再認識といったところです。日本では、「攻めのガバナンス改革」と言われておりますけれども、やはり大事なのは、ガバナンス改革は手段であり目的ではないという点にあると思います。取締役会に外部目線を入れ、経営を監督し、経営の改革を促すことを通じて、攻めの経営、攻めの執行を実現することこそが重要だと考えます。先ほどの東原メンバーによる日立の事例はまさにそのベストプラクティスでないかと思うのですけれども、やはり攻めの経営者を輩出し、果断な経営判断を促す。「果断な経営判断」こそが大事であることを日本企業に促すことが重要だと思います。この観点で多くの日本企業はまだ道半ばだと思います。
最後、3点目、ショートターミズムへの懸念です。今回の主要ポイントではありませんけれども、これは協働エンゲージメントとも多少関わるかもしれません。ショートターミズムが跋扈していないか、ここがちょっと気になるところでございます。株主還元要求であるとか様々な株主提案がなされています。個別事案に接していますと、これはショートターミズムではないか、要は、中長期的な将来キャッシュフローを全部、今、株主還元として返してしまうことが株主共同利益の観点から本当にいいのだろうかと、考えさせられる事案もあります。もちろん株主の権利は大事ですし、株主提案の中にはすばらしい提案も多いとは思いますけれども、やはり中長期的な企業価値の向上こそが重要であり、ショートターミズムには目を光らせておく必要があると思います。
私からは以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは続きまして、小幡さん、どうぞお願いいたします。
【小幡メンバー】
御指名ありがとうございます。私、企業におります身として、3点ほどコメントをさせていただこうと思います。
まず1点目が、今回のコーポレートガバナンス・コードの中間点検という点でございますけれども、企業としましては、コードについては真摯に捉えて対応してきていると思います。ただ一方、会社が採択するガバナンスというものはやっぱり会社の競争戦略の一つであると考えており、会社がどのようなガバナンス体制を採用していくかということにつきましては、各社が各社の置かれている環境・状況などを踏まえながら、もちろんコードは十分理解した上でということなんですけども、各社が各社なりに決めていくものであると考えております。ということを踏まえますと、現行のガバナンス・コードにおきましても、かなり細かなところまでの規定もございますので、新たにこのコードを今の段階で改訂していく、細則化していくことはせずに、当面は現状で、コード自体は様子を見ながら、各社の取組みを図っていくということが適切ではないかと考えております。
2点目が、社外取締役の位置づけになります。一連のコーポレートガバナンス改革の結果を踏まえまして、社外取締役に求められるものが大分変わってきているというのが私どもの捉え方になります。以前のように取締役会に出ていただいて議論いただくということに加えまして、今は時間的にも大変な時間をコミットしていただく必要が出てきておりますし、会社に対する想いというものにつきましても、本当にこの会社をよくしようという意識をいかに持っていただくかという点が非常に重要になってきていると思っています。そういう中におきましては、先ほど来議論も出ておりますけれども、社外取締役の質をさらに向上させていただく必要があると思いますし、一方、成り手も不足してきているという考え方があろうかと思います。その辺をどのようにして、今後ガバナンスの実態の部分を向上させていくかという点につきましては、社外取締役の成り手を増やすということと質の向上が不可欠だと思いますので、その辺を今後議論できればと思います。
加えまして、会社の経営戦略を社外取締役に議論していただくにあたり、会社側のほうからいかに必要な情報をお伝えするかというのがポイントになってくるかと思います。従来の決議事項の件数は減る一方、報告はあれもこれもということになってしまっていますと、取締役会の所要時間といった制約の中で非常に難しい運営になってきていると考えておりますので、その点が気になるところです。
最後、3点目ですけれども、先ほど実質株主の判明の点についても御指摘がありました。実質株主がもう少し見える化されますと、企業としては、対話の観点のみならず、会社の資本政策などを検討するときにも、考慮要因になってくるのではないかと思っておりますので、ぜひ実質株主の判明というものがある程度進む形でいろいろな検討を進められることをぜひお願いしたいと思っております。
私からは以上3点になります。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは次に、川北さん、どうぞお願いいたします。
【川北メンバー】
川北です。私はまず、PBR1倍割れの企業が依然として多いことが問題だと考えます。市場第一部、プライム市場の半数程度がずっと1倍割れです。そういう企業というのは、要は、投資家が評価をしていない可能性が高いということです。この観点から言いますと、2つのコードができて以降、コードの実質的効果というのは、まだまだ発揮できていない。さらにコードの効果を高めていく必要性があるということを示唆しているのだと思います。
そうはいっても、コードとして定めるべき領域というのは、2つのコードがほぼカバーしてきていると私は認識をしています。もちろん、多少の改訂とか追記をする部分があるという、その必要性を否定するものではありませんが、さらにどんどん充実させていく必要性は大きくないということです。
以上を前提に問題点を3つ挙げさせていただくと、1つは、アセットオーナーと資産運用者のエンゲージメントが不十分だと私は考えています。これは特にコードの議論が始まったときから懸念していたことなのですけれども、TOPIXを対象とするパッシブ運用、もしくは、それをベンチマークとする運用が主流を占めてきています。それで、その企業数というのは2,000を超えているわけです。非常に多いということです。2,000というのは、個々の運用者が、もしくはアセットオーナーがエンゲージメントできる、もしくは、エンゲージメントを指示できる企業数では、これは現実的にはないわけです。ということで、アセットオーナーとか資産運用者がパッシブに用いる、もしくは、ベンチマークとして用いるその指数、これを工夫すべきだと、そういう段階に来ていると思います。
例えば、TOPIXですけれども、これもいろいろなサブの指数があるわけです。今日もTOPIX100を用いて東証の方が説明をされていました。そういう、何が適切な、特にエンゲージメントを行う上での適切な指数なのかということを検討すべき段階に来ているということです。
2つ目は、配当すればいい、その配当性向は3割だ、その内外だということで、配当に関するワンパターン化というものが非常に気になります。企業ごとに事業の成熟度とか成長のための投資のチャンスとか、それに応じて必要な内部留保の金額には当然差があるわけです。ということで、企業へのエンゲージメントというものは、配当ではなくて内部留保を対象にすべきだと考えます。内部留保としてどのぐらい必要なのか。内部留保の金額を決めると、その残りとしての配当金額が決まってくるということです。
こういうエンゲージメントを投資家側から積極的に行うことで、金融庁の資料に書いていますように、過剰に保有されている現預金問題というものは解決に向かう、その道筋ができると思います。また、企業も、内部留保の必要性に関する情報とか、成長戦略とか、それに伴う投資計画とか、そういうものを積極的に、投資家向けに提供していく必要性があるだろうと思います。
3つ目は、少し観点が違うのですが、取締役の質という観点からすると、現状、3社も4社も社外取締役を兼務する例というのが目立つという問題があります。そうすると、どうしてもおざなりの議論を提供するということに社外取締役の人はなっていくと思いますし、実際、有力な社外取締役の方から聞いた話では、1社だけでも大変なんだと、何でこれが3社も4社もできるんだと、そういう議論もされています。これは一種のコードの形骸化だろうと思います。何社も兼務していて、それを許すというのは、形骸化です。そういう意味で、企業側としても、人材を幅広く募っていく必要性があるわけですし、その人材が不足しているというのであれば、その人材をいかに拡充していくのか、その議論をする段階に来ていると思います。また、アセットオーナーや運用機関としても、このように社外取締役が3社も4社も兼務していていいのかということで、エンゲージメントすべき課題だと思います。
以上です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、岡田さん、どうぞ、お願いいたします。
【岡田メンバー】
岡田です。
今回、中間点検でインタビューを実施していただきまして、大変有効な調査をしていただいたと感謝しております。いろいろ意見はあると思いますが、私は改訂を経たこのコーポレートガバナンス・コードは、原則を示すという意味では、ほぼ完成形に近いと考えております。インタビューでは、企業が形式のみを整えて改革が形骸化する、投資家も形式から判断して議決権行使しているという意見もございます。しかし、インタビュー結果を見ますと、各社それぞれ工夫を凝らしていて、改革が進んでいる会社も多いと感じました。これは16社に限った話ではあるかもしれませんが、そういう会社も見られると思いました。企業価値の向上につながるまでにはまだまだ時間がかかるかもしれませんけれども、一定の効果があったと言ってよいのではないかと思います。したがって、コードはこれ以上細則化する必要はないのではないかというのが私の意見であります。
これからの発展のためには企業の自律的な改善努力が欠かせません。そのためには、実証研究、投資家によるレビューが有効だと思います。今後は、実証研究によってベストプラクティスが広まっていくことを期待しております。また、企業の側でも、コンプライしたというだけではなくて、ガバナンス改善の取組みを具体的に示し、その結果、投資家とのエンゲージメントが進むように改善を図ることも重要だと思います。どの企業も、ガバナンス体制が完璧に整うということはあり得ないという前提で見ていったほうがいいのではないかと思います。
企業の努力も当然ですけれども、投資家も形式的に判断するのではなく、エクスプレインに耳を傾けること、たとえコンプライしていても、中長期的なさらなる改善を目指す取組みを評価する姿勢が望まれると思います。
このフォローアップ会議にこれまで参加させていただいて、私が1点だけ気になる点があります。これはコードの問題ではないのですが、社外取締役の数の問題です。社外取締役が増えた結果、企業価値が向上するかどうかは実証研究を待つことになります。また、企業にも問題意識が生まれ、投資家も社外取締役の少ない企業に対する評価を低くするということもあると思います。ただ、これは数の問題で片付けられるほど簡単な問題ではないと私は思っております。
まず、現状、社外取締役を3分の1以上選任している会社が8割を超えたということは大変よいことでありますけれども、では、一体3分の1にはどんな意味があるのか、2人よりは多いほうがよい、多々益々弁ずるという意味であれば、もちろんいいことではありますが、社外取締役が過半数を占めなければ意味を持ちません。社内の意思決定を覆せるか、という問題意識を持つと、原則は過半数必要で、これが目指すべき方向性だと思います。したがって、社外取締役が牽制を効かせる、そういう仕組みを工夫してこそ意味を持ってくると思います。
課題は、日本の機関設計の制度に問題があるのではないかと思います。まず、監査役会設置会社というのは、取締役が業務執行するという前提ですが、そこに社外取締役を増やすということになると、監視と監督、いわゆる監督する側と監督される側を兼務する状況に陥ってしまう。これでは社外取締役が牽制する上で限界があります。
一方、指名委員会等設置会社制度そのものも、各委員会の構成としては社外取締役が過半数を占めていて、そこが取締役会よりも強力な権限を持つ。これもなかなか普及しない原因だと思いますが、そういう問題もある。一方で、監査等委員会設置会社にも課題があるというような意見をおっしゃる方もいらっしゃると聞いております。これらを総合的に勘案しますと、まず、会社法上の機関設計の問題に手をつけることが望ましいと思います。ただ、これはそう簡単に進む話ではないということも十分承知しております。会社法を改正するまでもなく、指名委員会等設置会社をしっかりと機能させるためには、やはり採用した会社が改革に本気で取り組むことが必要だと思います。そういう意味では、プライム市場に上場している会社に対しては、将来的な方向として指名委員会等設置会社に移行することを推奨しては、と思います。なかなかそうはいかないんですけれども、将来的な方向としては、指名委員会等設置会社に移行することを推奨していくと。
それから、監査役会設置会社であっても、社外取締役が牽制する仕組みをしっかりとワークさせるということも工夫次第で可能です。私の経験ですが、取締役会で社外取締役が疑問を呈す、あるいは、異を唱えるという場合には、社外取締役にもう一度説明する機会を設けて、納得を得られなければ差戻し、あるいは却下ということもあってしかるべきだと思います。最終的には全会一致で決めるようにするとか、そのような工夫をすることによって、監査役会設置会社でも社外取締役がある程度限られた権限内で実質的なガバナンスの効果を上げる工夫をできるのではないかと思います。
この辺は制度に関わってくる問題もありますし、ある意味では、各社のベストプラクティスというのが生きてくると思いますので、今後、投資家の方も、各企業がどういうふうに社外取締役を活用しているのかということを見ていっていただきたいと考えております。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、いただいているチャットの順番で、次に、神作先生、どうぞお願いいたします。
【神作メンバー】
神作でございます。御指名ありがとうございます。3点申し上げます。
コーポレートガバナンス・コードや、それを支える経産省のガバナンスや、社外取締役等に係る各種指針の策定によって、上場企業のコーポレートガバナンスは、社外取締役の任用や報酬・指名委員会の増加など、形の上で大きな変化がもたらされており、私はその点だけを取ってもコーポレートガバナンス・コードの意義は大変大きかったと評価しています。形が整ってこそ、ガバナンス改革の最終目標である企業の持続的成長のための議論をより真剣に行うことができると考えるからです。
そこで、コーポレートガバナンスの形が整いつつある中で、そのことが実効的なコーポレートガバナンスへとつながるように、コードのさらなる見直しを行うとともに、形の面でも、引き続き検討を続けていくことが必要と考えます。会社の経営戦略やポートフォリオの見直しのみならず、今後さらに重要になるであろうと思われるサステナビリティ・ガバナンスや会社のパーパスについても、取締役会で議論がなされることになると推察します。
私は個人的に、取締役会の構成、取締役会におけるアジェンダの設定、取締役会議長とCEOの分離など取締役会の運営の仕方、指名委員会・報酬委員会を含む各種委員会がその役割を一層発揮するためのベストプラクティスなどに関心を持っています。
第2に、背後にいる投資家に対しフィデューシャリー・デューティーを負った機関投資家が、適切にスチュワードシップ活動を行い、経営者との対話を通じて株主の意思が株主総会の議題・議案や取締役会の議論に適切に反映されることが望ましいと思われます。取締役会の構成や経営戦略、とりわけ人的資本を含めた内部留保の使途などを含め、いわゆるパッシブな機関投資家も含む機関投資家が、実効的かつ効果的なスチュワードシップ活動を行い、経営陣と建設的な対話を行うことができるような環境整備をさらに進める余地があると考えます。
パッシブな機関投資家が有効なエンゲージメントを行うためには、協働エンゲージメントを促進するとともに、その目線をそろえる必要があると考えられます。どのような場合に協働エンゲージメントを行うのか、目線をそろえるとともに、それを阻害する要素として指摘されている共同保有者や重要提案行為の範囲を限定する方向で明確化することによって法的安定性を図ることが望ましいように思われます。
共同保有者や重要提案行為の範囲について、例えば、EUですと、議決権行使について了解がある場合ですとか、会社の経営方針に対して継続的かつ決定的な変更を加えようとしている場合といったように要件がかなり限定されています。また、個別の共同行為はそれらに該当しないことが明確化されているなど、要件が日本法よりも厳格、限定的であると理解しています。この点は最終的には立法上の手当てを要すると考えられますけれども、重要提案行為や共同保有者の概念を見直し、それらを限定する方向で明確化することが考えられるように思います。
第3に、他方、パッシブな機関投資家には、必ずしも積極的にスチュワードシップ活動を行うインセンティブがないことですとか、可能な限り水面下で買い集めを進めようとする敵対的な企業買収者が存在するといったことを考えると、会社やほかの株主にとっても、一体誰が株主であるかということをもう少し早く知り、経営者のほうから機関投資家等に適切な働きかけを行ったり、ほかの株主がより適切な行動を取ったりすることを可能にすることが望ましいように思われます。
英国は、大量保有報告制度や株主調査権制度によって、株主が誰であるかをより早く正確に知り得る仕組みを採用しており、他方、買収防衛策は原則として禁止することによって、株主と経営者による対話を早い時点から可能にし、それを促す仕組みになっていると考えられます。これに対し、米国の大量保有報告制度は、英国、さらには日本に比べても緩やかであり、公開買付制度や委任状勧誘制度が活発に利用されている一方、買収防衛策が許容され、攻防のバランスが取られています。
2つのコードが施行され、日本のコーポレートガバナンスにおける実務上の課題が明らかになってきたように思われます。その中には法制度の在り方に及ぶ課題もあると考えます。例えば、日本法が大量保有報告制度や株主調査権制度についてどのようなスタンスを取るか、先ほどの共同保有者や重要提案行為の概念の見直しを含め、立法的にも検討すべき点があるように思われます。
その際には、公開買付規制や敵対的企業買収防衛策の在り方との関係を踏まえつつ、将来の日本の上場企業のコーポレートガバナンスの基本的な在り方を見据えながら、大量保有報告制度や株主調査権制度について、立法論を含め検討すべき段階に入っているように思われます。
私からは以上でございます。どうもありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、高山さん、どうぞ、お願いいたします。
【高山メンバー】
高山です。私からは33ページにある論点からいくつか意見を述べさせていただきます。
まず、コーポレートガバナンス改革の効果についてどう思うかというところですけれども、私は効果があったと考えております。マクロの数字などではなかなか明確な結果というのは出てきませんが、個々の企業を見ていると、取締役会の在り方というのは非常に大きく変わりました。私は仕事柄多くの企業の取締役会を見てきておりますけれども、皆さんそれぞれ取締役会の改革を進めて変化をし、その結果、議論の内容が変わり、それが中長期の戦略の策定に反映されるという状況が数多くありました。それらの企業に共通しているところは、改革の進め方・内容は様々ですが、志向するところは取締役会の監督機能を高める、というところにあることです。企業価値を上げるためには、取締役会の監督機能を高めることが重要だという考え方は、私が見てきた全ての企業において共有されていました。このような重要なことが共有されている理由としては、まず、コーポレートガバナンス・コードにおいて、取締役会のあるべき姿について明確に示しているということ、それから、コードに関する様々な議論においても、それを念頭になされている、そして、その議論の内容が企業にも共有されているということが、あげられると思います。その観点でこのフォローアップ会議というのは意義があるものだと考えております。
それから、2つ目のコードの細則化についての考え方ですけれども、私は、コード自体は原則中心であるべきで、細かいことは企業に任せたほうがいいと思います。ただ、一方で、企業の側としても、では、具体的にどうしたらいいのか、具体的な施策を知りたいという要望もあることは事実です。この解決策ですが、海外の事例が参考になると思います。イギリスの場合は、ガバナンス・コードには比較的簡単な原則を記載していますけれども、それを実行するに当たってのベストプラクティスなど、より具体的な内容については、改訂の時期と併せて、同時に当局がガイダンスを出しています。そのガイダンスを見ることによって、具体的な施策について企業も参考にできるという状況があります。こういったことを次の改訂の際に考えてもよろしいかと思います。
それから、改訂の時期については、現在のように3年に1度というのが適切ではないかと思います。といいますのも、環境がどんどん変わってきていますので、コードの原則はあまり変える必要はないということであったとしても、見直しの時期というのは定期的に設けるべきだと思います。その結果、中身があまり変わらなかったということであっても、改訂の検証の意義というのは十分あると考えます。
それから、最後に、今後の対応についてです。現在、様々な形式の整備が進んでいます。私も、形式というのは非常に重要で、形式が実質を規定するというところはかなりあると考えております。その整備が今大分進んでいるという状況でありますので、今後は、形式もそうですけれども、実質、実効性により関心が高まっていくだろうと思います。実効性というところではいろいろなポイントがあると思いますが、例えば、冨山メンバーであったりワリングメンバーから挙げられている内容として、社外取締役の質の向上というところがあります。これは非常に重要なことだと考えております。
では、具体的にどうやって社外取締役の質を向上するか、実力を上げるかというところですが、これもワリングメンバーの意見書にあるように、社外取締役の評価、取締役個人の評価というのを取締役会評価の中で行うということが有効であると考えています。海外の主要国のコードでは、取締役評価において、取締役会全体、委員会、個人の評価が求められているところが多いです。一方、日本のコードでは、取締役会全体の評価のみ求められていて、委員会や個人の評価は企業と投資家の対話ガイドラインに記載されているにとどまっている状況です。
今後、コードを改訂する際には、取締役会評価の内容についても、グローバルな状況、それから、日本の社外取締役の実力を向上しなければいけないという状況を踏まえて、議論を進めるとよろしいと思います。
以上です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
チャットの順番では、次が松岡さんになります。チャットをいただいておりまして、議論が進んだところでというふうにいただいているのですけれども、議論は十分進みつつあると思いますので、松岡さん、どうか御発言をお願いいたします。
【松岡メンバー】
ありがとうございます。発言の機会をいただきまして感謝申し上げます。
冒頭の御紹介にございました東原様の御説明に当社としても大変共感を覚えながら、本日は、主に経団連資本市場部会長としての視点で発言をさせていただきたいと思います。
経団連資本市場部会からは書面にて、コードの実効性の向上を図る観点から、意見を提出させていただいておりますので、詳細についてはそちらを御参照いただきたいと思うのですが、ここで少しコメントを加えてさせていただきます。
まず、コード再改訂後の中間点検という論点に関してでございますけれども、我が国のコードは成長戦略として位置づけられたものでございまして、コードやそれに基づく企業の改革の効果は、中長期的価値の向上につながったかどうか、ということで点検すべきであると考えます。ただ、近年の経済状況におきましては、企業価値の向上という成果が認識しづらかったり、また、時間を要する面というのもあるかと思います。今後、コードの規定に応じた取組みを持続的な成長につなげていくには、さらなる工夫が必要であると考えます。コードの各項目の意義、効果、課題につきまして、引き続き検証、確認を行うことが望まれます。
また、投資家側で対話に充てる時間の確保が必ずしも十分でないということなど、そちらの課題も顕在化しているということもございます。企業側が自社の戦略などの説明の充実に努めるということは当然でございますが、株主や投資家、そして関係機関におかれましても、一律、形式的な判断を行うのではなく、投資先企業との建設的な対話を通じた企業価値向上を目指せるよう、スチュワードシップ・コードの実効性の向上が目指されるべきとも考えております。
また、企業、投資家、政府、その他市場関係者においては、コードが持続的な成長を目的とするものであることや、コンプライと丁寧なエクスプレインというのは同等の価値を持つことなどについて認識を共有すべきと考えます。投資家側におかれましては、企業の説明に耳を傾け、様々なステークホルダーを有する企業の中長期的価値向上に向けた建設的な提案、対話というのがあることをぜひお願いしたいと存じます。
そして、次に、持続的成長への課題の内部留保、人的投資についてですけれども、まず、内部留保に関してですが、これは内部留保率、景気と業績との関係で見る視点というのも必要なのではないかと考えます。また、昨今では、コロナ禍や地政学リスクなど経営環境の不透明感や不確実性というのが高まる中、企業経営においては様々なリスクを想定して行う必要がございます。さらには、企業を支える仕組み、例えば、資金調達の在り方、これは直接市場を含めた選択肢のアベイラビリティや、内部留保の実質信用力としての位置づけ、また、企業再生やM&Aの実態なども併せて勘案して、丁寧に見ていく必要があると考えております。
このように健全で安定的な企業経営というのを確保しつつ、中長期的に成長分野への投資や新規事業の開拓、そして、設備投資や研究開発、知財への投資、さらには人的資本への投資も大変重要と考えます。ただし、いずれもそれらの施策が成長に資するかどうか、また、どのように成長に資するかどうか、各社がビジネス環境や経営戦略に応じて判断して説明をしていくというのがよろしいのではないかと思っております。
最後に、企業と投資家との対話に係る課題でございますけれども、協働エンゲージメントを実施する際に、共同保有者と重要提案行為の定義に該当するかを明確化することで、市場の透明性を高め、投資家と発行体との建設的な対話の促進につながるということが期待されます。ただし、長年議論のある難しい問題であるとも思われますので、適切な場において、発行体企業、そして投資家双方の意見を踏まえて、よく議論をしていただくのがよろしいかと思っております。
私からは以上になります。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、片山さん、どうぞお願いいたします。
【片山メンバー】
連合の片山です。発言の機会をいただきましてありがとうございます。私からは2点発言させていただきたいと思います。
まず、第1に、今回、コーポレートガバナンス改革の効果・影響について検証していただいたことは、今後のコーポレートガバナンスの在り方を考える上で大変有意義だと思っております。ただし、今回の検証では、企業のパフォーマンスや市場からの評価が中心となっておりまして、コンプライアンス体制がきちんと強化されているかどうかについても、コーポレートガバナンスにおいては重要だと考えますので、今後、この点についても検証が必要だと思います。
第2に、企業の人的投資が依然として不十分である点を指摘したいと思います。事務局説明資料の24ページにもありますとおり、企業の人的投資に関する意識が投資家と比べて低いというのは大きな問題だと思っております。労働組合との協議や、取締役会における中長期的な投資・財務戦略の議論、投資家との建設的な対話などを通じて、人的投資の拡大に向けた経営戦略を構築すべく、コーポレートガバナンスの観点からも後押ししていく必要があるのではないかと思っております。
私からは以上です。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、上田さん、どうぞお願いいたします。
【上田メンバー】
上田でございます。御指名ありがとうございました。また、今回、フォローアップ会議の再開に当たって、企業のインタビューなどを実施された御報告を受けまして、これは改めて大変参考になりましたし、議論の活性化につながると思います。ありがとうございました。
まず、コード改革の実効性ですけれども、私は効果はあったというふうに思っております。というのは、コーポレートガバナンス、私はもう学生時代から研究しているのですけれども、10年ぐらい前までは、かなりニッチなテーマで、一部の興味あるような人だけがやっているようなことだったんですが、今や、どなたとお会いしても、コーポレートガバナンスというは重大なイシューとして認識されている、これは大きな改善であったと思っております。
ただ、実効性を見ると、ここは相当二極化していると感じます。これは次の課題にも関係するのですけれども、つまり、本気で改善をしよう、何か変えよう、変えなければいけないという思いの会社と、コードができたのでコンプライしなければいけないんだという消極的なコンプライアンス的対応としてなされておられる会社、そこは二極化していると感じております。
重要なのは、プリンシプルベースである、コードは法律ではなくて、ただ、枠組みは守りつつも、その実質のところというのは自分で考えて、何が実質かについても含めて考えていってほしいという点です。コードは遵守が目的ではなく、改善が目的であるということについては、認知をさらに一層していかなければいけないのかなと思いました。
この細則化に対する批判なのですけれども、例えば、英国のガバナンス・コード等を見ていても、結構細かくなっておりまして、労働者の問題も入ってきたりしています。一方で、例えば、取締役会体制のところのように、別途、スピンアウトして、あまりに細か過ぎるものはガイダンス、ガイドラインという形で添付書類として出しています。こういった取組みもありますので、この辺りは、今後、あまりに細則化が懸念されるのであれば、構成を含めて考えるということも必要になってくる局面もあるかもしれません。
他方で、コンプライが求められるべきものもあって、例えば、具体的に言うと、開示、特に英文化の問題です。今回、東証さんが本当によく調べていただいて、大変参考になったのですが、例えば、今後、プライム市場の魅力・価値というものを上げるためには、やはり英文開示、それも、有価証券報告書であるとか招集通知についても、参考書類まで踏み込んだ開示というのは必要であろうと思います。こういったものを少し濃淡というものも共有していくような取組みが必要かなと感じております。
本日の次のテーマの、今後取り上げるべきものは何かについては、最後にお伝えします。次のテーマである内部留保のところも、今の二極化に関連してくるのですけれども、結局、市場からさらされている会社というのは投資家から成長ということを突きつけられますので、そのための投資というものを真剣に考える。他方で、そうでない場合には、今のように、ウクライナ問題を理由にするなどして、守りというところで内部留保が積み上がってしまって、成長投資につながらないということもあるかもしれない。ここも、これはガバナンス・コード、中長期の企業価値ということですけれども、そのためには時間軸である程度区切って整理をしていくということも必要になるかと思います。例えば、短期での成長投資、内部留保の在り方、中長期ではどうか。例えば、短期での在り方というのは、当然、ウクライナのような緊急事態に対する対応であろうと思います。中長期になると、より中長期視点での研究開発、知財、あるいは、サステナビリティ、人的投資ということになろうかと思います。そういった整理というものも今後必要になってくるのかと思いました。
最後の対話のところですけれども、対話は、先ほど三瓶メンバーからでしょうか、御指摘があったかと思うのですが、投資家は一様ではないということは改めて企業さんが一番強く感じておられると思います。また、そもそも投資家からアプローチがないというようなコメントもあったようでございますが、企業価値を見てくれる投資家のほかにも、そうではなくて議決権行使の時に意識するだけという投資家が、パッシブ化が進むと増えてくる。さらには、そもそも投資家から対話を求められないというような、成長が期待されない、あるいは、成長がないと判断されてしまっているような会社があるということで、これはコーポレートガバナンス・コード、あるいはスチュワードシップ・コード、それぞれの話だけではないなと感じています。
それで、今後の議論したいテーマというところになるんですけれども、フォローアップ会議で、議論していただけるとありがたいなと思っているテーマとして、一点目として、せっかく今年、目先のコードの改訂というよりも、本当にフォローアップというような目的であろうとするならば、企業向けと投資家向けそれぞれのコードの間に落ちてしまうようなテーマ、例えば、対話の質の問題であるとか、政策保有の問題、これは政策保有株主側を見るか、政策保有させる側を見るかで両方のコードに関係もしてくる可能性もあります。また、二点目のテーマとして、インベストメントチェーン全体に関わる問題があります。具体的に言いますと、開示の充実。必要な開示は何か。それは企業ではなく、投資家側も透明性を高めるということが必要であろうかと思います。また、監査の重要性です。特に、今後、非財務情報とか、サステナビリティの活動が活発になる中で、上場会社の監査法人には中小の監査法人も増えているという中で、監査法人の質の問題。監査法人もガバナンス・コードがあるということですので、そういった普段コード改訂にフォーカスしているときには議論しきれないインベストメントチェーン全体の議論というものもできるとよろしいのではないかと思いました。
以上でございます。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、小口さん、どうぞお願いいたします。
【小口メンバー】
ありがとうございます。小口でございます。
本日は、コーポレートガバナンス・コード再改訂後の中間点検ということで、まず、コードの効果についてですが、これはもう皆様がおっしゃっているとおり、私もポジティブ、効果があったというふうに考えているということを申し上げたいと思います。
その上で、中間点検ですが、このフォローアップ会議自体の中間点検という意味で、何に着目してフォローアップしていくことがこの会議のもともとの目的である形式から実質への深化というところに貢献できるのかなという視点で、3点ほど意見を申し上げたいのです
まず、コーポレートガバナンス・コードのほうですが、今日の事務局資料(資料2)の3ページの企業からの指摘に整理されていますように、それから、皆様からの御指摘もあったように、コンプライ至上主義とまでは言いませんけれども、コンプライ優先主義から脱却し切れないという事実があるのかなと思います。
実は、このフォローアップ会議ができて、初めて意見書を出したのが2015年ですけれども、当時から、意見書の中で、形だけコンプライするよりも、コンプライしていない理由を積極的にエクスプレインするほうが評価に値するケースも少なくないという指摘を続けてきて、エクスプレインの重要性を言ってきているわけですが、現状は、今日も御指摘のあったとおりです。
途中で、コンプライ・オア・エクスプレインではなくてコンプライ・アンド・エクスプレインと言い換えたりとか、いろいろ工夫をしてきたと思うのですが、コンプライしたほうが説明責任が軽減されるので、コンプライが先に立ってしまうというところからなかなか抜け出せていません。
例えに使って恐縮なのですが、別に資料がいけないとかそういう意味ではないのですけれども、本日の東証の説明資料でも、やはりコンプライ率は分かりやすいから、どうしてもそこに目が行ってしまって、そこが上がっていればガバナンス改革が進んだというふうに言ってしまう。ですから、この率の開示があるからどうしても目が行くので、このフォローアップ会議でエクスプレインが重要だということであれば、ある程度上昇が見られているコンプライ率というのは一旦忘れて、コンプライしてもしなくても、エクスプレイン率を重視した議論というのを進めてはどうかと思っています。
エクスプレイン率を高めるというのは、要するに、企業の説明責任をもっと求める、高めることなので、まずはエクスプレインを優先してみて、その上で、エクスプレインした内容について、その内容の検証については機関投資家との対話に委ねるというアプローチを進めたらどうかと考えています。
次に、機関投資家のほうですけれども、本日の論点にもなっています、協働エンゲージメントの範囲が不明確だという指摘については、メンバーからの指摘もあったとおり、透明性という視点からは取り組むべき課題だと思っております。ただ、これも形式から実質というフォローアップ会議に貫かれる思想から言うと、海外では既に、今日も何度かメンバーからの御指摘もございましたが、明確化が図られているわけですけれども、では、海外では、実証研究において、協働エンゲージメントに対してどのような示唆がなされているのか、効果のエビデンスみたいなところはあるのかなというのは興味を持って聞いておりました。要するに、海外の先行事例から、協働エンゲージメントに何を期待するのか、何のためやるのかというところも明らかにする必要があるのではないかと思っております。
それから、先月22日の日経新聞で、金融庁が実態を伴わない運用会社のいわゆるグリーンウオッシュやESGウオッシュを監督されるという記事を拝見したのですけれども、エンゲージメントについても、今日の議論にもつながるかもしれませんが、形態にとらわれず、個別であっても協働であっても、形だけのエンゲージメント、言わばエンゲージメントウオッシュがはびこらないように、この領域は多分金融庁で監視できる領域だと思うので、形式から実質への深化という視点で御尽力いただきたいと思っております。
3点目に、両コードに関わる共通の目的として、中長期的な企業価値向上がコード策定当初からずっとあったわけですけれども、本日の事務局資料でもございましたが、海外との比較においては、不十分な成長投資と株主還元、その結果として、内部留保、現預金が積み上がってくるという指摘がなされております。これらはいずれも海外に比べて突出して高いPBR1倍割れ企業比率の要因になっております。
これは先ほど川北メンバーがおっしゃったとおりで、川北メンバーが昨年の12月に『週刊エコノミスト』に書かれた分析を拝見したのですが、市場環境が比較的良好だった昨年9月末時点でも、当時の東証一部で、先ほど御指摘あったとおり約半分が、46.9%という数字が出ておりましたけれども、PBR1倍割れ、要するに解散価値割れの状況にあったということです。投資家の立場からすると、資本コストを中長期的に上回る投資があれば投資していただいて、なければ市場に還元していただくことで、このPBR1倍割れ、いわゆる解散価値割れというのは通常は回避されるものなので、元をただせば、資本コストの意識が欠如していることがなせるわざじゃないかというふうに理解しております。2年前の2020年10月20日のフォローアップ会議で提示された資料によりますと、当時で約半数の企業が、未だ自社の資本コストを算出していないというということでありました。そこで、最後の意見ですが、資本コストへの意識を企業に根づかせるためには、資本コスト経営の推進をエンゲージメントのアジェンダの中心として、言わば資本コスト経営の比率を向上させるということを、このフォローアップ会議の目的の1つとして目指したらどうかと思っています。PBR1倍割れということに対して、危機感がない、危機感が醸成されていないという現状を懸念しております。
私からの意見は以上でございます。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、岩間さん、どうぞお願いいたします。
【岩間メンバー】
ありがとうございます。私自身がこの問題に関与し始めたのは、資本市場・証券市場の活性化有識者会合というのが始まった2013年だと思うのですけれども、そのときにスチュワードシップ・コードを導入するかどうかという話が出たというところから始まっておるのですが、そこから考えますと、非常に進展をしたのは間違いない、方向性としては間違ってないということだと皆さんお考えのとおりだと思うんです。
それで、そのときの文脈で言いますと、資本市場の活性化、証券市場の活性化というのが非常に重要であるということで、その中で我々として注目していたのは、長期投資家が健全な知見を持って中長期の投資をすると、それが企業の中長期的な価値を上げるということに有効に機能するということだったと私は思うのですが、そうなりますと、パッシブ化が進む中で、パッシブこそエンゲージメントが必要だということなのだと思うのです。
私は今ノルウェーのソブリン・ウエルス・ファンドのアドバイザーもやらせていただいているのですが、あそこは巨大な機関投資家でございますので、全世界の上場企業に投資をしているわけです。これは言ってみれば市場を買うということでございますので、ポートフォリオをバリューアップするためにも、個々の投資先企業の中長期的なバリューアップが必要であるという観点で積極的に関与しているということなんです。私は今、発行体のほうと投資家サイドと両方関係しておるわけですけれども、機関投資家、例えば、投資顧問会社ということで言いますと、アセットオーナーがお客様で、アセットオーナーのために働くということになるわけです。それで、アセットオーナーが長期機関投資家であるということが結構あるわけです。そこがこういう問題についてどのような感覚、方針を持って臨むのかということも非常に大きな問題なので、先ほど上田メンバーからも御指摘があったように、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの間に落っこちるような問題が全体的なインベストメントチェーンの活性化につながるというような視点も取り上げてもいいんじゃないかなという具合にひとつ思っております。
それから、そういった中長期の投資家が活動の効果を上げるためには、協働エンゲージメントというものが実効性を持って行われるということが鍵の1つなのではないかということで、これはやはり環境整備が必要なのではないかと思います。これは私専門外でございますから、あれですけれども、法的な環境整備も含めて考えていただく必要があるのではないかと思います。
それから、取締役会がどういう具合に動いてきたかというと、これは私の僅かな経験で言うと、極めて変化したということだと思うのです。それで、今問題になっているのはまさに、取締役会及び委員会の実効性がどれだけ上がっているかということを取締役会、委員会自体がどれだけシリアスに考えるかという話で、そこから課題が現れますし、逆に、エンゲージメントする側からは、そういうものをちゃんとしっかりと見た上で対話をするということも必要なのではないかと思います。
あと、先ほどから内部留保の問題も出ておるわけですけれども、これは企業サイドから見ても、投資家サイドから見ても、資本の有効活用ができているかということに尽きるのだろうと思います。これは御指摘がかなりの方からおありになったように、資本コストをどれだけ意識されているか、資本コストに全ての尺度があるのではないか。それをフォーカルポイントとしてエンゲージもしていくということが求められるのかなと思います。
ちょっと雑なあれですけれども、以上でございます。ありがとうございました。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、次に、翁さん、どうぞお願いいたします。
【翁メンバー】
それでは、意見を申し上げます。コードの効果については、今まで、2015年からスタートして、一定の企業価値の向上はあったと思いますけれども、多くの皆さんがおっしゃっているように、PBRが1以下の企業が多いという問題がずっとございまして、今御指摘にあったような、長期的に資本コストを上回る資本収益率を上げるという考え方についての意識がまだ定着してないと思っております。
それから、今日御紹介があったように、コードは、ガイドラインというよりは、数値などが示されていることもあり、それにコンプライするという形式的な対応になってしまっているという点の懸念についても共有をしております。もともと市場というのは、見方が多様なはずですけれども、議決権行使助言会社などが投資家に助言をすることによって、どの程度機関投資家が影響を受けているのかといった、そういった傾向の変化なども調べていただく必要があるのではないかと思っております。
たとえばダイバーシティ確保といったことを助言会社が助言することが間接的に企業の改革の推進力になる面もあるんですけれども、助言会社が寡占的であるという問題もございますので、そういった市場構造がある中で、コンプライせずにもっとエクスプレインすべきだと言っても難しい面がある可能性もあるのではないかと思って、この辺りは調べていただくといいかなと思っております。
少なくとも、企業がそれぞれのビジネスモデルに合った形で、コードを参照しながら、場合によってはエクスプレインしていく、場合によってはコンプライしていく、という形で自らガバナンスを高めていくということで、企業自体の多様性が確保されていくこともとても重要なのではないかと思っております。そういった点が1つの感想でございます。
また、最近は、経済安全保障の問題が非常に大きな問題になってきていますし、急速に円安が進んでいて、日本株が海外からみると非常に魅力的になってしまっているという点があります。これはプラスの側面もありますけれども、経済安全保障の観点から考えて、例えば、政策保有株式といったことについては、もちろん、今まで方向としては、いろいろ対応が進んできているのですけれども、今後はいろいろな環境変化を考えて議論していく必要が出てきているのではないかなと感じております。
それから、今後の企業の成長の課題については、皆さんが御指摘されたとおりで、持続的に企業価値を向上させていくことが日本企業にとっては非常に重要で、人材への投資が私も重要だと思っております。今日、経営者の質とか社外取締役の質ということも御指摘ございましたけれども、特に、CEO、社長のリーダーシップが取れるような方がどんどん育っていくということが極めて重要だと思っております。
人材投資も含むのですが、無形資産投資が海外と比較しても非常に低いという状況で、既に前回の改訂でコードに書き込んでおりますけれども、人的資本への投資とか、それから知的財産への投資とか、データ、ソフトウエア、こういったものへの投資が低い状況になっておりますので、こういったところをしっかり取り組んでいくことが大事と思っております。
これらはもう既に前回の改訂で書いておりますけれども、この効果が出てくるのは中長期的な先のことになってくるとは思いますけれども、引き続き重要な課題であり、開示についても、いろいろなガイドラインが今後出てくると思うのですけれども、こういったことにしっかり取り組んでいくことが大事と思っております。
いずれにしましても、コーポレートガバナンス・コードというのは、当初、株主を中心に考えていたものですけれども、徐々に、中長期的という意味でも、マルチステークホルダーの利益を考えながらやっていくということが大事になってきていると思っております。
最後になりますが、エンゲージメントの担い手であるアセットオーナーについて、しっかりとしたエンゲージメントが大事ではないかという御意見がたくさんありましたが、私も同じ意見を持っております。例えば、アセットオーナーである企業年金については、もっとしっかりと役割を果たしていただくことが大事ではないかと思っております。スチュワードシップ・コードに多くはコミットされているのですけれども、日本の企業年金で国連のPRI原則にコミットしているのはたった3社しかないということでございます。コードにも企業年金のことは少し書いてございますけれども、どうやったらこういった企業年金についてもサステナビリティの貢献をしてもらえるか、大事だと思っておりまして、こういった点をコードに書いていけないか、私自身は個人的に問題意識を持っております。
以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、挙手をいただいていたようで申し訳ありません。武井さん、どうぞお願いいたします。
【武井メンバー】
武井でございます。何点かございます。
まず、コンプライが望ましいという形式的風潮とか、そういう御指摘が今日もいくつかございましたが、この点につきまして、企業側だけの問題というよりは、機関投資家側の形式的な対応の問題があるのだと思います。コンプライか否か以外に、議決権行使の文脈とかでもそうです。機関投資家側の形式的対応をどういうふうに改善するかという点に関しましては、依然としてずっと課題が残っている、それは現状も変わらない、その点についてもきちんと取り組むべきだと思っております。
2点目が、企業側の日本企業全体の成果なのですけれども、欧米ですと、この手のコードに関する施策というのは、大体上場会社で数百社ぐらいのところで見ている面もあると思います。日本における成果も、JPX400なのかTOPIX500なのかいろいろあると思いますが、数百社レベルで見るという視点もあってもいいのかなというふうに思います。これが2点目です。
3点目が、資料の34ページにございます、研究開発投資であったり、知財、人的資本への投資がされてないという点です。この点は、去年のガバナンス・コードの改訂で相当踏み込んだ改訂がなされていて、この点は相当重要な点であって、かつこの点につきましては、まだまだ日本の上場企業にとって相当な伸び代がある部分ではないかと思っております。
この点に関しては例えば、資料にもございますけれども、今年の1月には内閣府のほうから、知財・無形資産ガバナンスガイドラインというものも公表されております。そこでは費用でなく資産として捉えるべきであるとか、あと、ビジネスモデルとリンクして、ロジックをもってちゃんと説明しましょうということが書かれています。こうした点に関しましてきちんと取り組んでいくということは極めて大事なのではないかと思っております。
特に人件費であったり研究開発費の効果というのは、単年度で決して埋没するものではない。それにもかかわらず、会計上は、人件費や研究開発費という形で単年度費用としてしか企業には取られない。その結果、営業利益を高くしようと思ったら、費用削減の対象にするという悪循環が起きている。ある意味、会計上の数値に引きずられた経営になっている。会計原則自体を変えることは難しいと思いますので、営業利益にこういった遅延投資効果があるような人件費であったり研究開発費とかを足し戻した、いろいろな将来企業価値を生む、投資という形で足し戻したものを企業側も算定して、そういったものを開示なり説明していくと。そういったことを内外の中長期の機関投資家の方々に発信していくということが大変重要ではないかと思います。
もちろん、その前提として、こういった人件費とか研究開発費が企業価値に意味があるということが大事です。まさに企業としてのパーパスであったりビジネスモデルときちんとリンクした形での投資であるかどうか、しかも、それが単に人件費や研究開発費を増やすということではなく、こうしたパーパスとかビジネスモデルにどういうふうにつながっているのかということをきちんとロジックをもって説明する。しかも、そういったロジックをもって機関投資家の方とも対話する。そういう形で、こういった人的資本なり無形資産とかの見える化、価値の見える化を図っていくということが、今後日本の上場企業にとって大変重要な点かと思いますし、この点は相当伸び代があると思います。
またこういったロジックの一連の流れの中で、今とても関心が高まっていますサステナビリティの関連の事項なんかも関連してくるのだと思います。もちろん、自社に関連するマテリアリティがあるサステナビリティ事項に限られるわけですけれども。サステナビリティという英語を使う前に、そもそも日本語的にも、世の中の人のために仕事をしているというのが、働いている方、人的資本の方のモチベーションも上がりますし、スキルも上がりますし、ヒトの付加価値も高まる。それによって採用コストも下がるとか、研修コストも下がるとか、いろいろな設備の稼働率も上がっていくと。いろいろロジカルに良い流れができますので、そういったことを数字的に、企業価値の観点から数字的にプラスの見える化をしていくということが一例としてありえます。いずれにしても、この人的資本の箇所について、こういったことに関して積極的に取り組んでいくことが重要だと思います。ちまたに出ている実証研究ですと、例えば、TOPIX500ぐらいとかの相当な数の日本企業において、こういった人件費であったり研究開発費が、5年、10年とかで見たときに、いろいろ御指摘の出ているPBRの向上においても相当正の相関関係があるという実証研究もございます。この点に関してフォローアップ会議として、日本の上場企業が昨年のガバナンス・コードの改訂を踏まえて取り組んでいくということが相当大事な点ではないかと思います。これが3点目です。
あと、資料の最後の制度的論点というところでございます。この文脈は大量保有報告制度のことを想定されているのかなと思いますけれども、この点に関してコメントしますと、私は、現行の大量保有報告制度は、前回の改正から約15年が経過しているわけですが、その間、いろいろ皆様のおっしゃっているとおり、まさに、資本市場の透明性という観点から、制度的対応が求められている事項が相当たまっているのではないかと思います。
欧米でも、透明性を高める改正も最近いろいろと行われておりますし、あと、デリバティブに関連する開示の問題であったり、エンフォースメントの強化の論点もございます。あと、資料31ページにございますような実質株主の把握という論点もございます。先ほど翁委員のおっしゃった国家経済安全保障という論点ももしかしたら絡んでくるのかもしれません。いずれにしても、こういった大量保有報告制度を含む資本市場の透明性の向上というのは大変重要な論点だと思いますので、この点に関しまして、制度的対応についてきちんと議論すべき時期が来ているのではないかと思う次第でございます。
以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
これで本日御参加の皆様方全員からの御発言をいただくことができました。東原会長には冒頭挨拶の中で御発言いただいたという形になっておりますけれども、何か追加でもし御発言があれば承りたいと思います。
【東原メンバー】
東原です。皆さんの御意見を伺って、非常にこれまでの経緯がよく理解できまして、非常に参考になりました。ありがとうございました。
それで、ちょっと気づいた点を何点か、個人的な意見も含めて言わせていただきたいのですが、まず、このスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの状況というのは、数年前からは相当企業に浸透してきたと私は実感を持っています。そして、今後のこのコードの細則化とかいろいろ議論が出ておりましたけれども、私は、あくまでも、こういうコーポレートガバナンスとかということは企業が主体であるべきだというのが基本的な考えです。ですから、ルールというのは、非常に最低限のものを決める、強いて言うと、企業側が欲しいのは、方向性はこういう方向ですよというガイドラン的なやつはいいのですけれども、ルールはこうだと決めると、どうしても形骸化するポテンシャルを今の日本企業は持っていると思うので、ぜひそういう、主体性は企業側にあるということをまず考えていただきたいなと思います。
そして、特に重要なのは、私は社長、CEOの考え方だと思っています。社長、CEOの人たちが会社経営に対してどういうビジョンを持つかというのは非常に重要であります。それを取締役会の中で議論しながら、考え方をシェアしていくというのが重要で、それによってある程度まとまれば、それから投資家への説明、それから従業員あるいは組合との関係への説明ということが社長、CEOの大きなミッションだと思います。
それで、先ほど剰余金の話も出ましたけれども、それは分野とか今の状況、コロナとかウクライナの問題とかそういう状況にもよりますし、取り扱っている事業分野にもよりますので、それは、私は、社長、CEOが考えて、それを取締役会の中で議論するというのが筋だと思っています。その中で、どういうふうな方向に行くのかというのは、まず、市場との間でもトラストが重要で、できるだけ取締役会、社長、CEOの考え方をどういう情報を使えば開示できるのかという、情報の開示の精度を上げていくのは、これは会社サイドの問題だと私は思って、今は剰余金が要るんだとか、例えば、キャッシュフロー、キャッシュを重視しなきゃいけないんだ、これはこういうリスクがあるから、コミットメントラインまで含めて、ここまで金を持っておかないといけないんだという時期だ、今は成長投資の時期だというのは、それぞれで決めれば私はよろしいのではないかなと思います。
それから、先ほどのWACCの話が出ましたけれども、私はやっぱり、それはまずB/S上の中身をどう見るかというのは、これは企業側の責任だと思っています。ROICスプレッドでやるのかいろいろ、それは企業サイドで考えればいい話です。企業の中で自分たちのB/Sをどういう単位で区切り、そこでROICスプレッドでどう管理していくか、あるいは、キャッシュフロー経営をどう見ていくかというのは企業サイドのオペレーションであって、それをいかに市場に開示していくかというのは、これは企業側の問題だと思っています。
それに対して、私どもはずっと、この8年ぐらいは、春と秋には投資家のところに直接行って、大手の投資家とは実際に議論をしながら、実はこういうことを望んでいるんだと聞いて、それを経営に生かしていくことを8年ぐらいやってきましたけれども、そういうことを今後も進めていくことによって、私は日本企業は相当変わってくるのではないかなと思います。
ただ、これから、先ほどおっしゃったように、環境問題も含めたサステナブル経営というのが重要です。それから、先ほどの経済安全保障も問題です。そういうことで、ぜひ、金融庁を含めて、こういう方向のガバナンスしていくべきだよというガイドラインは出していただきたいのだけど、主体はあくまでも企業側でやっていけるような環境づくりをよろしくお願い申し上げたいというのが私からの意見です。
以上です。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、ほかの皆様方で、もし追加で御発言があれば承りたいと思いますけれども、いかがでしょうか。特によろしゅうございますでしょうか。
それでは、予定のお時間よりは少し早いかと思うのですけれども、本日はこの辺りとさせていただければと思います。本日も大変貴重な御意見をたくさん、また、いろいろな点についていただきまして、誠にありがとうございました。もし追加でお気づきの点等ございましたら、ぜひ事務局までメール等でお知らせいただければありがたく存じます。本日の議論につきましては、事務局において整理をしていただければと思います。
最後に、事務局から御連絡等ございましたらお願いいたします。
【廣川企業開示課長】
次回のフォローアップ会議の日程等でございますけれども、今後の進め方につきましては、座長と御相談の上決定をさせていただきたいと思いますので、御案内をお待ちいただければと存じます。
以上でございます。
【神田座長】
どうもありがとうございました。
それでは、以上をもちまして、本日の会議を終了とさせていただきます。長時間にわたり熱心に御参加いただき、大変ありがとうございました。
―― 了 ――
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