「ESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会」(第2回):議事録

1.日時:

令和4年3月3日(木曜日)12時30分~15時00分

2.場所:

オンライン開催
 
<事務局>
・前回第1回の議事を終えた後に、事務局から評価機関の方に本検討会議の趣旨や意義などを説明させていただいた。その上で、現在どのようなサービスを提供しておられるか、また、サービス提供の在り方、具体的には、評価手法の透明性の確保の取組、リソースの確保を含むデータや評価の品質確保の取組、潜在的な利益相反の管理の在り方、評価企業とのコミュニケーション、また、本検討会において行動規範等について議論を行うに当たってどのような点が重要となるかということについての御意見、こうした点についてプレゼンテーションまたは書面で情報をいただけないかということで伺ったところ、多数ご協力いただける旨の回答をいただいた。お礼申し上げたい。本日は評価機関の方からお話を頂くことになっており、感謝申し上げたい。
 
<梶原メンバー資料説明(資料1 日本格付研究所説明資料)>
<竹林メンバー 資料説明(資料2 Sustainalytics 説明資料)>
<CDP 横堀氏 資料説明(資料3 CDP 説明資料)>
<REFINITIV 山田氏他 資料説明(資料4 Refinitiv 説明資料)>
<柴野メンバー、MSCI Acres氏 資料説明(資料5 MSCI 説明資料)>
 
<メンバーの発言要旨>
・Issuer PayモデルとSubscriber Payモデルでは、利益相反という点で注意すべき点が具体的にどのように異なるのかを具体的に検討していく必要があるのではないか。また企業とのコミュニケーションについては、ESG評価機関がより主体的にかかわっていくことも重要。

・ESG債の評価において、SPO(Second Party Opinion)、直訳すると第二者による「意見」と、第三者「検証」では、必要となるプロセスやスキルが異なるのではないか。

・ESG評価機関が社内向けに倫理規定や利益相反防止に関するポリシー等を持つことは重要であると同時に、こうしたポリシー策定後に、社内的に適切に運用されているかどうかを確認する社内のレビューのようなことも重要。

・品質については、評価の品質とデータの品質のどちらも重要だが、アセットマネジメント会社の視点からはとりわけデータの信頼性の重要性が非常に高まっているとの印象を持っている。金融機関がポートフォリオのファイナンスドエミッションを測定して開示をするという取組がかなり広がってきているということ、また、SFDRに代表されるように、環境や社会の様々な側面についての客観的な指標について、ポートフォリオのレベルを中心として開示を行うことが広がってきていることが背景にある。こうした中、アセットマネジメント会社自身でデータを全て集めることは不可能であるため、ESG評価・データ提供機関のデータの品質は非常に重要な視点であると考える。

・企業の開示はいわばアンストラクチャードデータであり、フォーマット、開示の指標の単位、開示の範囲、更新タイミングも異なっている。さらに、開示後に精度を高めるためということで上書きされたり、過去に遡って遡及でデータを更新されたりということもある。こうした中でデータの品質を高めていくには、IT等の技術利用や、企業へのファクトチェックなど、具体的にはどのように品質を高めることが可能なのか。

・品質確保の観点からは、優秀な人材の確保に加え、評価の仕方における工夫なども重要ではないか。

・社会・環境が変化し続ける中、変化に対する企業のあり方も絶えず形を変えていき、ESG評価の基準や結果も変化するため、評価機関の透明性確保が重要だと考える。

・開示の質が、どのようにESGレーティングに影響を与えるのかという視点は重要。

・ESGの評価を表明することは表現の自由の範疇の問題。一方で、その評価により市場に不当な影響を与えることを防ぐ目的でルールが必要ということであれば、どのような範囲にこれを及ぼし、どうエンフォースできるのか。理念的な規範にとどめるのではなく、実効性を伴うルールとするのには相当慎重な議論が必要。

・幾つかの評価機関は、自社の評価の透明性を提示するため評価方法を公開していると述べているが、その意味は、公開されている評価方法に従い、第三者でも同じデータを入手できれば同じ結果が出る、つまり、再現可能性があるということか。それとも、実際にはその間にアナリストの方の考え方が入り、評価に幅が出てしまうのか。

・ESG評価機関によっては、企業に対してフィードバックを有料で行う場合もあると理解しているが、この場合の利益相反についてはどのように考えればよいかも検討していく必要がある。有料のフィードバックがESG評価等に影響を与えることはあると思うが、例えば何社に対してこのような有料サービスを提供したか等の開示を行うことは可能かどうか。

・ESGのデータプロダクトについては、すべてを行動規範の対象とすることは難しい面もあると理解する一方で、例えばCO2排出データについては評価機関毎に排出原単位等の計数が大きく異なるという現状があり、評価にも一定程度影響する。特に環境へのインパクトを分析しできる限り排出量を減らすということが目的だった場合、情報提供者ごとに推定値が異なることで削減目標値が大幅に変わる等の混乱を招いてしまう。よってデータの質に関しては推計データを含めて取扱いをどう考えるべきか、今後検討していく必要がある。

・評価機関において、実際に評価を行う方々の専門性を磨くための支援は重要だと考える。

・第三者意見はあくまで意見であり、参考にはしつつも評価対象にはならないという扱いだったが、ESG評価におけるセカンドパーティーオピニオンについても、同様の扱いになっているかどうかを確認する必要がある。

・ESG評価機関においては、投資家を主なターゲットとしつつ、投資家以外のサービスプロバイダー等に評価やデータを提供している場合、そういったクライアントとのエンゲージメントも重要ではないか。

・ESG評価基準については、定期的なレビューやモニタリングを実施することが望ましいと考える。

・企業の規模により取得できるESGデータは異なる現状を踏まえ、評価のコンフィデンスレベルを確認し、情報として投資家に提供することも有用かもしれない。新興のESG評価機関の中には、コンフィデンスレベルなどをレーティングの横に付与し、例えば、開示情報や情報の範囲が限定的であったのでこのようなコンフィデンスレベルとなっている旨を示しているケースがある。

・手法等の透明性が高い場合においては、ESG評価機関による有料のフィードバックやアドバイスは利益相反にあたらないという考え方もある一方で、リソースが限られている企業にとっては、こうしたサービスや外部コンサルタントに頼ることなく質問等の意図を正確に理解し、アンケート等に正確に回答していくのは困難な現状もある。

・Subscriber Payモデルの場合の透明性を考えるにあたっては、投資家に対する透明性と企業に対する透明性のそれぞれについて、あるべき姿を検討すべきではないか。

・データの正確性について、あるデータ提供機関のデータを他のデータ提供機関や評価機関が情報ソースの一つとして利用する場合、大元のデータが様々な形で流通していくので、影響力が大きくなることが考えられる。投資家が企業と対話する中で、大元のデータの修正が必要と判明した際に、そうした修正が反映される仕組みが重要である。
 
<参加評価機関の発言要旨>
・ESGレーティングやESG評価、企業全体の評価をする場合には、Issuer PayモデルとSubscriber Payモデルの2つが可能性としてあると理解。Issuer Payの場合の利益相反とSubscriber Payの場合の利益相反は異なる利益相反が発生し得るという可能性があり、それぞれに対して、どのように恣意性を排除したり、あるいは企業に阿るようなことを排除するように、共通したCodeに沿って各評価機関が自主的にルールを定め、それを開示するというアプローチが適切であると考える。ESG債の評価はデューデリジェンスに近く、提出された資料を正確に確認し、その正確性に問題なかったという評価、言わば絶対評価であるため、Subscriber Payモデルは存在しないと考える。Issuer Payモデルについては、如何に恣意性を排除して一貫性と透明性のある正確な評価を提供できるかという観点から利益相反を排除していく、こういったアプローチが必要になる。

・多くの評価会社は評価対象となる発行体とのコミュニケーションを非常に重視している。発行体向けの対話プラットフォームも整備されているケースがほとんどだと思うが、評価会社側からプロアクティブにコンタクトをするのは、評価対象となる発行体の総数や評価に求められる即時性、リソースの制限からベストエフォートでの実施というのが実情ではないか。

・ESG債の評価においては、ICMAによれば外部の評価等について4つの分類、レーティング、セカンドパーティーオピニオン、そして、検証、認証があり、原則上は4つのどれを使ってもいいとの話になっており、各評価機関が自分の強みを持ちながらいろいろな表現をしているのが現状ではないか。

・評価には専門性が必要となるが、自社で不足しているところは外部機関と連携して必要に応じ専門家を派遣してもらうという形で補っている。

・ESG債の評価においては、自ら評価手法を構築し、レーティングも付与する形で第三者意見を提供するような場合と、客観的な外部機関等の基準を満たしているかどうかという観点を確かめる場合があるが、数字の実績の確認等であれば「検証」と言い得るような確認が可能だが、求められる水準などは毎年変化するため、こうしたものについての判断が入る場合にはセカンドパーティーオピニオンという形で意見を表明している。

・企業のESG情報開示の標準化は基本的にPrinciple based approach の考え方が主流なので、現状は開示方法も様々である。それ自体は各社の独自性を可視化するという利点はあるものの、評価を行う上での情報・データを取得するという観点では、今後、少なくとも開示のバウンダリーの基準等が整備されないと、各評価会社においてデータ推計を行わざるを得ず、それは評価品質に大きな影響を与える。

・ESG債評価の品質確保という観点では、優秀な人材確保に加えて、評価を受ける企業から違和感を持たれることがないよう、コミュニケーションを密に取ることは非常に大事と思う。

・評価手法を詳細に開示しており、その中で加点・減点の具体的な理由を示している。評価される側や投資家に評価体系に関する情報共有を図ることで評価の透明性確保に努めている。

・「取組みはおこなっているものの開示が十分でない」というケースをどう評価するのかについては様々な議論がある。ステークホルダーとのコミュニケーションそのものがESGの取組みの重要な一部であると考えるならば、開示されていない取組みを推計して評価において考慮することは必ずしも重要ではないという考え方もある。ただそれは、ESGの取組み・開示に大企業ほどのリソースを割けない企業が不利になるということではなく、各企業のステークホルダーへのExposureの規模に応じ、適切な評価フレームワークを採用するといった取組みで対応がなされている。

・評価手法を公表して公開情報を基に評価を行う場合であっても、人が介在して、インプットの内容、もしくは企業公表のデータを非常に深く読み込みながら最終的に結果を出していく。完全な機械化を行うことはできないため、インプット情報からアウトプット評価に結びつくプロセスを透明化することが重要と考える。

・ESG格付けへの介入の抑制については、行動規範において積極的に規定をすることが考えられる。例えば、ESG格付け機関が格付けを付与するにあたって第三者からの介入を受けずに付与できるようにする、といったものが考えられる。

・企業に対するフィードバック等のサービスについては、公開されている基準に基づき第三者の目で見るとこう見えるということを企業が理解することにより、より良い開示につながり、結果として評価が向上するのであれば、それ自体は望ましいことだと考えられる。もちろん、開示も含めて、良い評価を獲得するには、行動自体が伴う必要があり、こうしたサービスや分析等に基づいて明らかになった課題・行動を改善していくことが大前提となる。

・ESG情報の企業開示はまだ限定的であり、例えば我々としても温室効果ガス排出量のスコープ1,2,3のデータ開示等についてはコメントレターを政策立案当局に対して提出している。発行体の開示を強化するとともに、比較可能で定量的なメトリックスの開示を求めていくことが重要である。例えば気候変動領域であればTCFDの項目の開示を強化することで、他社比較が可能になる。企業開示に関わる問題を解決することで、データ利用の下流側の問題、例えば推計値に関する懸念などは、完全に取り除かれるとは言わないまでも、低減されるのではないか。ESG格付け機関においては、格付けの手法やレーティングのキードライバーについて、格付けの利用者に対して開示することを検討すべきではないか。(多くのESG格付け機関はInvestor-Payモデルで事業を行っており、格付けのユニバースを公開するのではなくSubscriberにのみ開示していることに留意されたい。)

・評価基準は一般に公開しているが、それをどのように実際の評価に落とし込むか、レベル感を合わせるということを行っている。

・評価データの提供先は評価機関により様々であり、投資家・企業以外にもデータプロバイダーが活用することもある。

・ESG評価機関による基準のレビューは、グローバルなトレンドを考慮して行われることが多いのではないか。例えば、気候変動については、現在、多くの企業等が1.5℃を基準として取り組みを進めるようになってきたが、こうした点も踏まえて、1.5℃を目標とする企業はより高く評価するといった見直しが適宜行われている。

・評価アナリストの専門性向上については、長く勤めているスタッフが中心となり、専門性を活かして社内でトレーニングを行うのが実際のところではないか。また、新しい分野については、外部からの知見を入れて、全体の知見を高めていくことが重要である。

・ESG評価については、企業からピアアナリシス的に他の企業がどういう位置にいるか確認したいというニーズが多く存在するため、透明性高く確認できるような環境を整えている。

・ESGアナリストのバックグラウンドとしては、金融投資系のバックグラウンドとサステナビリティー系のバックグラウンドの双方が必要となるが、実際には両方を兼ね備えている人材を常に採用できるわけではないため、研修の充実は勿論重要。加えて、Unstructured DataやQualitative Informationをもとに数値化された評価を組成することを求められるという業務の特性上、アナリストは顧客や企業から過度なプレッシャーに晒されることも多い。個々のESG評価会社は必ずしも十分な資本力があるわけではない中、業務負担はここ数年飛躍的に増えており、才能ある人材の定着も難しい課題。社内での知識醸成のためのトレーニングは重要ではあるが、ESG評価の質の向上は、評価会社以外のステークホルダーとの協働なしでは解決できない問題である。

―― 了 ――

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