「ESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会」(第1回):議事録
1.日時:
令和4年2月7日(月曜日)14時00分~16時00分
2.場所:
オンライン開催
<金融庁資料説明(資料1 事務局資料)>
・サステナブルファイナンス有識者会議として、昨年6月18日に取りまとめを頂き、具体的な施策として、企業開示の充実、市場機能の発揮、金融機関の投融資先支援とリスク管理が挙げられている。市場機能の発揮の中で、「ESG評価・データ提供機関について期待される行動規範の在り方について議論を進めることを期待する」ということで提言を頂いている。
・昨年の8月に、金融庁として公表した行政方針の中でも、評価やデータが信頼ある形で利用されるエコシステムの構築に向けて、評価手法の透明性確保、評価の独立性・客観性に係るガバナンスの確保など、ESG評価機関・データ提供機関に期待される行動規範等を策定するよう、このために企業と投資家が果たすべき役割を明らかにすることも念頭に、有識者等を交えた検討の場で議論を進める旨記載している。
・3ページ目、ESG評価機関、またデータ提供機関について重要性が高まっている。世界的なESG投資の拡大の中で、アセットオーナーや運用機関が、ESGインテグレーションということで、ESGの課題を投資判断の際に織り込むという動きがある。また、ESGの課題を考慮したインデックスを参照する投資信託が販売され、広く購入されている。ボンドの発行にあたっても、国内外のガイダンスなどで評価を受けるべきこと等とされており、例えば、ICMAによる「グリーンボンド原則」の中でも、このガイダンスへの準拠状況を評価機関が確認することを奨励している。さらには、機関投資家が企業に対してのエンゲージメントを行っていく際の選択であるとか、その内容を検討する際にESG評価を利用するといったことも見られている。
・こうした中で、IOSCOにおいて議論が行われ、昨年の11月にESG格付及びデータ提供者に係る報告書が公表されている。報告書では、世界のESG評価のマーケットの現状を調査した結果を取りまとめているほか、規制当局、ESG格付及びデータ提供者、投資家、企業等に対する提言をまとめている。
・具体的な内容については5ページ目以降に記載がある。まず市場状況については、一定の試算によれば、営利・非営利含めて160程度のESG評価機関・データ提供機関が存在すること、評価の目的や手法には、各評価・データ提供機関それぞれの間で大きな違いがあり、評価に使うベースとしてのデータが非常に重要であること。大きく2つ、“subscriber pays”のモデルと、“issuer pays”のモデルがあり、“subscriber pays”のほうが総数としては多く、ビジネスの在り方・利益相反管理の在り方なども変わってくるであろうこと。
・また、投資家も単一の評価機関ではなくて、多数の評価機関を利用することが増えてきており、特に、多数の評価機関を利用しながら、その結果を組み合わせて、インハウスでレーティング・評価を行う事例が増えてきていること。
・また、企業等から、評価手法の透明性、使用するデータの範囲、調査のタイミング等について課題があるのではないかとの指摘があったこと。ESG評価・データ提供機関と企業との間のコミュニケーションの問題として、例えば、質問票のタイミング、どのような理由で評価がされたのか、改善していくためにはどのような対応が必要か、こうした点について情報やアドバイスが欲しいとの声があったこと、こうした点を紹介している。
・また、提言について。ESG評価・データ提供機関への具体的な提言としては、まず、評価機関が評価に当たり十分な分析を行っているという点について透明性を確保すべきこと、高品質なESG評価をしていくためのリソースが重要となること。また、潜在的な利益相反があり得るが、これを特定し、低減し、管理していくという方法が必要であること。また、評価について開示を行う場合に、開示対象として検討し得る項目として、例えば、評価の目的、評価の基準、KPI、そして、どのソースから情報を得て、何のデータを活用したか。こうした提言となっている。
・ESG評価・データ提供機関のユーザーである市場関係者への提言については、例えば、投資家としてもESG評価がどのような形で行われたのか、そのメソドロジーなどについて投資家としても吟味していくことが重要であるといった提言がある。
・ESG評価機関・データ提供機関が評価対象の企業等とどう関わるべきかかについても、情報のやり取りを円滑にすること、評価のタイミングなどについてのあらかじめ連絡を取っておくこと、コンタクトポイントを明確にしておくことが重要といった提言となっている。
・企業への提言としては、資料にもあるとおり、コンタクトポイントを特定しておくこと、ESGに関連する企業の取組みについてウェブサイト等で分かりやすく開示していくことが重要、といった提言となっている。
・G20においても、「G20サステナブルファイナンス・ロードマップ」をまとめており、この中でESG評価・データ提供機関のデータの質や利便性、評価手法の透明性を高めるための関係国際機関の検討を慫慂していくとしている。
・各国においても、インド証券取引委員会(SEBI)から発表があったが、一定のESG評価機関を証券当局に登録を求めること、財務要件を満たして一定の専門家を有する信用格付機関やアナリスト等について認定を付与するといった市中協議案を出している。英国では、金融行為規制機構(FCA)が昨年の6月にディスカッションペーパーを公表し、この中でESG評価・データの利用者向けのガイダンスや、自主的なベストプラクティスコードまたはFCAによる規制の導入について意見を求めている。欧州委員会では、2023年の第一四半期までにESG評価の信頼性・比較可能性を強化するための行動をとることとされている。
・P11では、日本のマーケットの状況について簡単に分類している。上のところは、企業のデータ・評価で、ESGのデータを収集し、評価を行いスコア、レーティングを組成、またはこれらをまとめて指数とし、また、指数を利用した投資商品の組成に活用するなどで、基本的には企業に対する評価が中心となる。下のところは、債券やローン等の個別の金融商品が発行、実行されるときに、評価を受ける企業や債券の発行体が評価機関に依頼をして評価を受けるもので、例えばグリーンボンドやソーシャルボンドなどは、国際的なガイダンスを参照しながら評価を受けている。先ほどのIOSCOの箇所でも指摘があったが、一般に、上のほうはデータの利用者、subscriberが費用を支払いする構成であることが多いのに対して、下のほうは、issuer、すなわち債券やローンなどの発行を行う企業などが費用を負担する形が多いものと理解している。真ん中の「関連するサービス」は、非常にいろいろなものがあるが、例えば、投融資先企業の分析は、ポートフォリオ全体でどれくらいの温室効果ガスが排出されているかを算出するようなもの。
・P16について、こうした国際的な議論の状況も踏まえながら、サステナブルファイナンスの拡大を背景に、ESGに係る評価やデータが信頼される形で利用されるエコシステムを構築していくことを念頭に、今後ご議論いただけたらと考えている。サステナブルファイナンス有識者会議で指摘いただいた論点としては、ESG評価機関のみではなく、それを活用される企業、投資家も含めて、全体としてどのような課題があるかということ。具体的には検討事項の一番下の青のところにあるとおり、企業と評価機関の双方がメリットを得られるため、どのような関係が望ましいか。ESG評価機関については、評価の透明性、信頼性をさらに高めていくため、具体的にはどのような点が重要となるか。サービスの特性に合わせてどのような留意点があるか。投資家にも課題はないか等。
・先々週、1月28日に金融庁でサステナブルファイナンス有識者会議を開催し、以上のところまでを事務局で説明した上で、メンバーの方から議論、意見を頂いた。その際の意見の模様を13から15ページまでのところで簡単に記載している。
・ESG評価・データ提供機関については、評価の判断が各評価機関によって異なってくること自体は理解できるが、透明性は重要ではないか。評価機関の評価の方法が時系列で変わってくることがあるが、この場合、時系列で比較が難しくなってくるという課題がある。また、ESGデータの値段が最近、高騰している場面もあるということで、ビジネスモデルについても議論をしたらどうか。また、信用格付機関について、サブプライム問題の中で指摘があったが、その時の経験も活かしながら議論をしていくことが重要ではないか。ESG格付けについて、評価を利用する場面や会社によって見方が異なるので、それぞれいろいろな見方があることを留意しながら議論していくことが重要ではないか。トランジションファイナンスにおける移行経路など、企業としても自ら設定する目標と進捗状況について、科学的根拠をもって説明することが重要ではないか。こうした点について、評価者の能力、品質確保が重要ではないかという指摘があった。
・P14について、キャパシティビルディングについての指摘をいただいた。また、パッシブ投資の隆盛などを背景に、評価機関からすると、調査費用を下げて受益者への費用転嫁を抑えるべきというプレッシャーがある一方で、評価の内容はますます専門化、高度化していく状況があり、この辺のバランスをどうしていくか。
・また、事業会社としては、自社の取組の改善および、投資家からの投資を呼び込むために、評価機関を利用しており、特に企業自身の改善に活かすためには、どのような基準で評価がなされたのか、評価の結果の理由についてより、深く理解することが、改善のためにも重要なのではないかという指摘。また、エンゲージメントのミーティングをぜひ開催してほしいという声もあった。評価を受ける企業の開示を前提としつつ、評価機関と企業との間での積極的なコミュニケーションを期待したいという指摘もあった。
・また、投資家としても、ESG情報をどのように使っているかということを明らかにしていくことが重要ではないかという指摘と、一部は開示が行われているが、その点を企業その他関係者の方に理解していただくことが重要との指摘もあった。
・最後、総論として大きな違和感はないが、日本市場の特殊性であるとかをメッセージとしてしっかり発信をしていくことが重要ではないか。また、日本の強みがインプットできるような視点を持ち、国際的にもインプットできるような視点を持ちながら議論をしていくことが重要ではないか、との指摘があった。また、評価機関の重要性の高まり、透明性の確保の必要性を考えると、当局の適切な監督が将来的には望まれるのではないかといった指摘もあった。
以上、ESG評価・データ提供機関についての議論の経過と、1月28日の有識者会議での議論の概要を紹介させていただいた。こうした点を踏まえて本日、御議論いただければ大変幸い。
<足達メンバー資料説明(資料2 ESG評価・データ提供機関 をめぐる議論にあたって>
<岸上メンバー資料説明(資料3 ESG評価・データサービスの現状および将来の在り方>
<IOSCO WSについて(金融庁)>
・先ほど紹介のあったIOSCOのワークストリームについて、金融庁は共同議長を務めているため、背景等を簡潔に述べる。
・まず、IOSCOがなぜ動き出したかという観点だが、これはもともと信用格付業者について各国が規制監督を導入する前からIOSCOでは行動規範を策定していたという経緯があり、このESG評価あるいは格付けというものが、マーケットにおける情報としての重要性を高めている中で、各国が規制監督を導入するかどうかは別にして、何らかの行動をIOSCOが取る必要があるだろうと。その中で信用格付業者の例にならうと、行動規範のようなものを作ることが考えられるのではないかというのが出発点だったのが1つである。
・また、いろいろ指摘いただいたように、信用格付をある種、範としながらということではあるものの、ESGデータや格付は信用格付とは性質が違うということも認識しており、信用力の評価は、評価のばらつきはあるかもしれないが、評価スキルが上がっていけば、ある程度収れんしてくるような性格を持つ一方で、ESGのデータあるいは格付けに関しては、何を測定しているか、評価しているかというのが違うという部分もあり、実態として非常に多様なプロダクトがマーケットにある状況。ここはIOSCOとしても数回にわたり様々な関係者とのラウンドテーブルを実施したが、コンセンサスとしてはこうした多様なプロダクトがあることを尊重しつつ、その多様なプロダクトを市場参加者が選んでいくような形で、そうしたものを提供する機関の透明性を高めていくことが市場の信頼性向上に資するのではないかという議論が多かったのではないかと思う。
・それから、この報告書が置かれた、いろいろなバックグラウンドがあると思うが、今申し上げたラウンドテーブルでは、国際的な会計基準、サステナビリティが見えるこの基準の統一化が進むことによって、データの比較可能性などが確保されることによって、その結果としてESG評価・データ提供機関の皆さんの、ある種、問題として指摘されている点も改善する部分はあるのだという声は何度も聞かれ、また当局者もその点は認識しているかと思う。一方で、ISSBの設立が昨年11月に行われたように、その結果として、マーケットが今後どうなるかというところまで観測した上で報告書をまとめ切ることはできなかったので、そこは今後の展開を見ながら、各国当局がそれぞれにある種判断するということになっているということかと思う。
・各国当局のスタンスだが、インドが動いた部分は若干意外な感じもしたが、ESMAや英国のFCAなどの動きというのは、規制監督の可能性もにらみつつ、一方で民間ベースの行動規範的なアプローチもにらみつつ、両にらみで動いているという感じではないかと思う。まさに今、申し上げた、マーケットのこの展開も見ながら、そうした方向を模索している状況かと思う。一方、必ずしもすぐに行動規範のようなものそのもののアクションも取らない当局もあり、そうした多様な当局の意見も踏まえ、最終的なプリンシプルそのものは、かなり方向性として透明性あるいは利益相反の管理など、必要な項目については提言を出している形にはなっているが、中身はかなり柔軟性の高い、幅のある提言になっている。
<メンバーからの主な意見>
・金融庁資料の11ページにもあるとおり、ESG評価・データサービスは、幅広く存在する。ESG評価機関といっても主に2つあり、ESGファイナンス評価を行う企業と、ESGスコアリングを提供する企業がある。ESGスコアリングを提供する企業は、主戦場がエクイティであり、収入は機関投資家から得るというのがメイン。一方、ESGファイナンス評価は、主戦場は債券やローン、デッドであり、収入は発行体企業から得る仕組みである。置かれているマーケットと収入源が異なる。足達メンバーの説明資料のP4の「細部を議論する際の区分の提案」というところで、aとbに分けていただいたのは、まさに今の点である。収入源がbの事業会社側、一部金融機関も含まれるが、そちらの側にあるのがESGファイナンスの評価で、債券やローン、デッドの評価であり、aのエクイティとは異なる。わけて議論していくことが重要。岸上メンバーの最初のページ、そして、最後にも示されていたとおり、こちらではラベル債券発行の際の外部評価、ESGファイナンス評価と、第三者ESG評価とされているが、ESGスコアリング、エクイティの評価とは全く異なっている。IOSCOの最終報告書では、ESGスコアリング、エクイティの話が中心であるように読め、ESGファイナンス評価の部分は対象外なのではないかと思う。行動規範を作ることが今回目的だとした場合でも、全く一緒というのはなかなか飛躍的ではないかと思う。また、二本立てとなると、実務として難しいのかもしれないが、違うということが分かるように作成することも考えられる。もしくは、まずは今、世界で議論になっているエクイティの、あるいは企業全体のことから始めるのもありかと思う。
・区分の部分についてコメントする。例えば、発行体を対象にしたESG格付けを提供している企業と、デットを基本的に格付けされているようなクレジットエージェンシーは、ビジネスモデルが異なる。発行体を対象としたESG格付けでは、基本的には公開情報を元に評価が行われているが、クレジットエージェンシーでは、企業から直接情報を得ていくところもある。その辺りの違いもあると考えているため、そこは分けていくべきではないか。
・今回、ESG評価機関とESGデータ提供機関ということで、議論の対象となる主体がかなり幅広くなっているが、プリンシプルについて議論をするにあたっては、まずはESGの格付け、レーティングのところからスタートすべきではないか。ESGデータまで含めると、データの範囲が非常に幅広くなり、ESGで使われているデータをどこで区切るのかというところの判断も非常に難しくなってくる。また、そこもイノベーションが進み、新たなデータがどんどん使われるようになることもあると思われるため、そうしたイノベーションを阻害しないという意味でも、まずはESGのレーティングのところからプリンシプルというものを考えていくのがよいのではないかと思う。
・改めてESG評価・データ提供機関の在り方を語ると、市場とは何か、市場における情報の取扱いとは何か、市場の規律は誰がどのように保つべきかなど、深淵な議論に発展するのは理解できる。事業会社にとって、十分な調査をせずに低い評価を出す機関には、相場操縦に等しい行為として厳しい処遇を求めたいという気持ちも出てくる一方で、規律を保とうとしても、言論の自由は尊重されるべきだから、法人であろうと、個人であろうと、また、どの国のどの立場の人、機関であろうと、健全な批判をすることは可能であり、どのような評価をして、どう表明するかということは自由であると思う。しかも、この評価やデータを提供する主体を一生懸命定義して、日本政府だけで規律をしようとしても、なかなか労多くして意義に乏しいものになるのではないか。消費者法の分野で、デジタルプラットフォーマーを介した消費者取引についても同じような議論がある。日本にある法人の行為だけを日本政府が規律しても意味がない。“Issuer pay”に似ている話で、客観的に人気ランキングを出しているように見えるが、実はそれは商品を販売しているところの広告について、消費者がだまされるといった問題への対応を一生懸命やっている。どうやって、それを取り締まるのかは結構難しい話。国際的な認識の共有を通じ、悪質な主体を自然に駆逐するというのが遠回りのようで最も近道であり、まず、そこから始めるしかないのかなと思う。たくさん論点があるのは分かるが、この点、事務局から説明があったIOSCOの報告書は、現時点で世界的にも最も受け入れやすい規範的な要素を列挙しているようにも見受けられたので、次回以降の進め方としては、このIOSCOの報告の中から行動規範的な要素を検討していき、日本の市場参加者として関連する部分があるのかどうかを検討し、日本で、さらにグローバルでの市場に参加する全ての方々で共有していく方向がいいのではないかと思う。
・ESG評価機関の手順の透明性が大事だという話があるが、その手順の透明性に加えて、評価の観点の透明性も重要リスクなのか、企業価値創造なのか、リスクに関しても、自社のサステナビリティリスクなのか、あるいは周辺環境に関するリスクなのかというところの共通認識が必要だが、投資家、運用機関、あるいは事業会社間での共通認識はまだできていない気がしており、この点での透明性の議論もしていただければ良いかと思う。評価結果がばらつくことに対しての何らかの回答にもなり得るかと考えている。
・評価機関の専門性、アナリストの専門性ももちろん重要だが、個々のアナリストの専門性が、評価機関の会社全体でどのように共通化されているかなども重要ではないかと思う。これは今、ESG評価機関が共通化できていないというつもりではなく、エンジニアリング企業、コンサルティング企業など、個人のエンジニアの質に依存するところでは常に企業としての共有化が課題のためあえて言及した。
・ESG評価機関・データ提供機関の定義は各資料でも指摘されている点だが、ここに関しての共通理解は大事だと感じている。ESGの側面で何らかの客観的な評価を付与しているという意味で言うと、金融庁の資料P11で整理していただいており、またメンバーの説明の中でも、コンサルがやる保証業務もあるといった指摘について、なるほどと感じた。このスコープに入れるかどうかというところも含めて議論したいところとして、ESGの客観的評価やランキングでいうと、専門的な評価機関に加えて、メディアやNGOなどがやっているESG評価のようなものがある。特に国際的にNGOが実施しているものなど、結構影響力の強いものがあり、それでいて彼らの場合、営利でやっていない部分があるところを踏まえると、今回どのようにこれを議論したらいいかというところは、皆さんの御意見もお伺いしてみたいと考えている。
・透明性と説明責任について、これらはマーケットの機能を充実する点で重要だが、実践していく上で複数の対象があることを前提に議論できればと思う。具体的には、クライアントに対しての説明責任、透明性というものと、パブリックに対して行っている説明責任や透明性。これらは両方重要ではあるが、評価会社に対し、この二者への説明責任・透明性の実践、つまり情報開示を同水準で求めていくのか、またそれがそもそも営利事業としておこなう前提で可能なのかも議論すべきと感じた。
・評価機関における透明性が大事であるというこの点には、全く異論がないが、もう少し掘り下げたほうがいいかという気もしている。足達メンバーの資料の中で、透明性の議論の対象として、方法論のみなのか、それとも、評価結果まで含むべきかという問題提起があったが、方法論の透明性も大事だが、その手前にある目的というか、何を評価しようとしているのか、何を測ろうとしているのかについての透明性がすごく大事かと思う。つまり、ESG評価が良い、悪いというのは大変抽象的な概念なので、もう少し踏み込んで、何を評価しようとしているのかが明確化されるといいのかと。そうすると、今回のこの議論のスコープで、投資家と評価機関の間のコミュニケーションの在り方といったところもスコープに入っていると思うが、個別具体の評価項目とか、データ項目についてどうこうというコミュニケーションはもちろん大事だが、評価の全体設計というか、何のためにやろうとしているのかといったところが明確化されていないと、なかなかその個別具体の評価項目を議論してもコミュニケーションがうまく進まない面があるのではないかと思う。また、測りたいと思っていたものが、本当に測れるかどうかというのは簡単なことではないので、ここについても不断の見直しというか、PDCAは通常行われてしかるべきだと思う。方法論に関連して、どのようにPDCAを回しているのか、事後検証して改善していくプロセスについても透明性の議論の中に含めていただくといいのかと思う。
・利益相反について述べさせていただきたい。透明性とセットになる議論なのかと思う。評価結果がバラバラであることが問題かどうかという議論もあったと思うが、方法論というのは、大きく2種類あると思う。1つは、セルサイドのアナリストのリサーチをイメージしていただくと非常に分かりやすいと思うが、セルサイドの証券会社のアナリストの株価評価とか、企業評価、投資判断というのは、はっきり言ってバラバラである。特段問題視している人はいなくて、皆そのようなものだと思っていて、逆にそこに個人の見立てに利用者側も価値を置いているということだと思うが、ESG評価もこのような定性判断色の強いというか、見解色の強いものであれば、バラバラでも構わない。ただ、こういった裁量の余地が大きい評価の時こそ、利益相反が生じやすい、鉛筆をなめやすいという性質があるので、そのようなときは利益相反の懸念も大きくなるということで、管理が議論になるのだろうと思う。一方で、最近、AIを使って、自然言語処理を使ってESGの評価をするとか、あるいは評価者の裁量が極めて小さいタイプの客観性の高い評価もあり、このような場合はどちらかというと利益相反というのは、裁量が小さい分、生じにくい面もあるので、方法論の透明性の議論と、利益相反を未然に回避するための取組は、セットで議論することが大事な面もあるということを申し上げたい。
・岸上メンバーの資料6ページを見ていくと、「独立したESG評価」の情報を活用してESG評価を行うウェイトが低いという背景の一つには、機関投資家側に説明責任が移行しつつあることを表していると考える。これは何を意味するかというと、機関投資家側にESG情報の価値が非常に高まってきていることの表れではないか。つまり、機関投資家は投資判断材料やその先の説明責任を果たすべく、様々な情報を入手して評価や対話をしているといったところかと思っている。この検討会の中では、これら機関投資家の行動変容がどう影響を及ぼすのかという視点もぜひ検討いただきたい。特に最近の大きな動きとしては、ESG評価の枠組みを超えてインデックスを中心とした新たなポートフォリオ構築やレーティングプロバイダーのような取組を進めるNGOと投資家連携がグローバルでは進んできている。この連携はESG評価ベンチマーキングというよりは、ESG対話ベンチマーキングとしての役割を期待しており、そのような観点も考慮に入れ、今後の検討の場で考慮に入れていただきたい。そして、これらESG評価の枠組みが最終的に資本市場の健全な発展にどのような影響を及ぼすのか。ポジティブなインパクトやネガティブなインパクト等を踏まえて議論していただけると、とてもありがたいと思っている。
・運用機関のアウトソーシングが今後続くのかという点だが、これも運用機関のサイズにもよると思うが、企業のレポートを常に読んで、リサーチをするのは不可能なところがあり、そうなったときにサービスプロバイダーのレーティングとリサーチ力が、スターティングポイントになる。そうなったときに、評価が違うというのが問題になるかどうかというところだが、複数のサービスプロバイダーのデータとレーティングに頼り、そこでコンセンサスを見るということを行っており、そのようなところでサービスプロバイダーのレーティングが役に立つ。今後、数値が違っていた場合にどうするか。そのようなことをいろいろ議論できれば良いと思う。
・サービスプロバイダーの独立性について述べさせていただく。例えば、企業との関わりが多ければ多いほど良いのか、それとも、本当に公開情報だけを見て、レーティングを判断する方が良いのか。様々な意見があると思うので、この独立性の部分をどうやって考えたらいいか考えていきたい。
・足達メンバーの資料1ページにあった、企業の取組の空洞化が印象に残った。スコアをどう上げるのかだけに関心がある企業がとても多いのが現状だと感じている。実際には開示の数量バイアスがすごく生じており、企業がESG情報をきちんと正しく分かりやすくより多く開示すれば、スコアは驚くほど上がるという分析結果がある。何が一番問題だと日頃感じているかというと、それが必ずしも企業の実際の価値、端的に言えば株価だが、こことのリンクがされていない。一体これは何を評価しようとしているのかという点に、日頃から疑問を感じている。目先の株価だけで比較するのはおかしいと思うが、将来の価値を含む、より本源的なものを長期的な視点で見ているのか、何を信用すればいいのかというところが分からなくなってきているので、何を評価しているのか、ここは1つクリアにすべきかと感じている。
・評価機関間で評価結果がばらばらな状況は問題ではないと思っている。一昔前は、Sスコアは評価機関間で逆相関だったりもしていたが、最近は低いなりにも正の相関になっており大分足並みが揃ってきた印象を持っている。したがって、評価結果の違いは問題視するところではなく、何を評価しているのか、ここが1つの焦点になるかと感じている。
・“subscriber pays”の形のものと、事業会社が費用負担をされるデッドのもの、これは分けて議論すべき事項がいろいろあると感じている。 “subscriber pays”で恐らく重要なことというのは、公表資料でもって客観性と相対性を重視しながら、より多くの情報を横並びで投資家に見せするところに重点が置かれているのかと思っている。一方で、デッドの場合、むしろ相対というよりも絶対的にこのアセットがグリーンなのか、どうかというところに重点が置かれているので、深掘りの仕方が異なるということだと思っている。それを前提として、評価機関にどう透明性を求めていくのかという議論を展開していただけるといいのではないかと思う。透明性といったときに、メソドロジーを明らかにするというところもあったが、評価した根拠、データソースが明らかであれば、さほど結果に誤解が生じないのではないかという気もしておりますので、むしろ結果の判断というよりも、手法及びデータソースの辺りの透明性が重要かと感じた。
・今後だが、これは事務局、ここで即断というわけにはいかないと思うが、“subscriber model”、“issuer model”を分けるのか、あるいは“subscriber model”に専念するのか、ここは大きな論点だと思う。日本のESG債の現状を見るのであれば、歯を食いしばってでも両方やるべきではないかという思いを持っている。というのは、海外から日本のESG債を見たときに、様々な意見があることは、ここにおられる皆さんもよく御存知のことだろうと思っているので、そのようなことを前提とすれば、この“issuer model”の中でも日本のSPOなり、そのようなものが自立的に質の担保をしようとしている、その姿を見せることは、世界のマネーを日本に呼び寄せるところまでできないかもしれないが、パッシングをさせない1つの拠り所になるのではないかと、その意見だけを提案させていただきたい。
・“subscriber”と“issuer model”に分けるというのは、基本的には賛同する。欧州でも、この債券での“issuer model”としての評価に対する懸念は上ってきているので、そこを見ないとなると、また遅れてしまう可能性があるので、両方見ていく必要があるのではないかと思う。気をつけたいと思った点は、先ほど株式とデッドと分けて話されていたと思うが、その“issuer model”ではない、例えば、債券インデックスなどになりますと、もっと広い意味でのESG評価になってしまうかと思うので、株式とデッドという分け方でいくと混乱が生じてしまうのではないかと感じた。
・個別に見ていく価値と、統一で見ていく価値、両方あると思う。仮にそのESGレーティングに着目した場合、大手となると、例えば、指数会社などが算出するものになるので、どうしても最終的に利用する、そのグループ会社が統一性を求めるモデルになってしまう。一方でESGレーティングを使いたい利用者としては個別評価も見たいということもあると思う。そのビジネスモデルとの関係でも見ていく必要があるのではないかと思う。
―― 了 ――
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