事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会
(第2回)議事録
1.日時:令和2年11月25日(水)9時00分~12時00分
2.会場:オンライン開催
〇神田座長
おはようございます。今日は朝早くからお集まりいただきまして、大変ありがとうございます。ただいまから事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会の第2回目の会合を開催させていただきます。皆様方におかれましては、本日も朝早くからお集まりいただき、また、ウェブ参加という形で開催させていただくことになりますけれども、これに御参加いただき、大変ありがとうございます。
本日でございますけれども、井上委員におかれましては10時45分頃までの御参加というふうに伺っております。
それでは早速、議事に移らせていただきます。本日でございますけれども、まず事務局から、前回の議論いただいた御意見を振り返り、その後で、資料――資料というのは前回配付したものと今日同じものも配付しておりますけれども、今日はその後半部分を御議論いただきますので、後半部分について、包括的な担保権の具体的な制度イメージについて御説明をいただきます。その後で、皆様方から質疑応答、意見交換ということとさせていただきたいと思います。
それではまず、事務局からの御説明をよろしくお願いいたします。
〇尾﨑総務課長
先生ありがとうございます。監督局の尾﨑でございます。本日もよろしくお願いいたします。
1点だけ事務連絡がございますけれども、沖野先生におかれましては、今日朝御連絡をいただきまして、所用により11時に御退室されるということなので、よろしくお願いいたします。
それでは、中身に入りたいと思います。まず資料ですが、第1回における主な御意見、それから、前回と同じ事務局資料、それから、参考資料、こちらは12ページ以降を今回、第1回目から追加しております。それから、皆様方のお手元用ということで、こちらのほうは公表資料ではありませんけれども、担保法制の比較表をお送りしておりますので、御確認をいただければ幸いでございます。
それでは、資料のうち、第1回における主な御意見に沿って、前回の御議論をまず振り返らせていただきます。前回の議論におきましては、例えば事業性のある地域企業を支えないと、地域の生産や消費がなくなる。事業を支えるためにも、資金調達の方法は多いほうが望ましいといったようなお声がありました。一方、金融機関の融資判断が横並びで、リスクの低い事業者に集中している。リスクを取っていくためのノウハウが必ずしも十分ではない。といった御意見もございまして、例えば、皮肉なことですけれども、ABLの事例において担保管理の副次的効果として事業を把握するといったような実態もあるといった御指摘もありました。その上で、金融機関が事業を見るノウハウを高めるインセンティブを持つためには、事業を見るリスクを取ることでもうかるようになることが必要とか、また、事業者も金融機関にリスクを取ってもらいたいのであれば、情報を包み隠さず伝えるとともに、自社の事業の将来性等をしっかりアピールすべきであるといったような御指摘もあったかと思います。
さらに、再生局面の課題として、事業をバックアップするような貸手が不在になりがちなことや、窮境に置かれた事業者に対する見方の問題、さらには、調整コストが大きいこと、スポンサーの探索が難しくなること、商取引先への支払いサイトが長く、商取引債務が大きいことなどが指摘されたかと思います。
2ページを御覧ください。前回事務局から御提案させていただいた包括的な担保権についての御意見といたしましては、金融機関が無形資産を含む事業全体を見てミドルリスクを取りやすく、また、事業を支えやすくなるとありがたいといったお声や、また、金融機関と事業者の関係はかつてのメインバンク制に近づくのではないかと。ただし、かつてのメインバンク制のガバナンス上の問題にも留意が必要といった御指摘や、弊害の懸念にも対処できるよう制度設計をする必要があるとのお声もございました。
また、事業者において、信用できない貸手には設定しないことも必要とか、包括的な担保権者が再生を主導し、貸手の間の利害調整コストを軽減できる可能性があること、さらに、従来の再生手続との関係で、包括的な担保権を設定せず、債務者主導で行う従来型の債権もあってもいいし、担保権者がスポンサー探しを含め価値最大化を主導する新しい形があってもいいなどの御意見をいただきました。
また、そのほかにも、これらの課題は法制度だけの問題なのか、他に要因がないか、そもそも担保法制は何のためにあるのかといった御意見もいただきました。
こうした御意見に対する資料として、参考資料の12ページ以降に学術的な研究の御紹介など新たな資料を追加しておりますので、さらなる御議論の参考としていただけますと幸いでございます。
次に、本日主に御議論いただきたい、事務局資料の後半部分、制度のイメージについて、前回いただいた御意見も踏まえつつ、簡単に御説明させていただきたいと思います。事務局資料の後半です。この資料については、前回12ページや13ページを御説明いたしましたけれども、具体的な論点な論点の例としては14ページ以降となります。
まず14ページについては、包括的な担保権が適切に活用されるためにはどうすればよいかといった点について、経営者保証の禁止など論点を3つほど提示させていただいております。
15ページは、その他の担保権等との関係です。前回は、包括的な担保権の運用について、事業者の必要資金を丸ごとリファイナンスして、権利関係を明確にすることを想定とした御意見もございましたが、そのような場合にはここで議論しているような問題がそれほど発生しないということになりますけれども、そういう意味ではここで書かれているような事例というのは限界事例ということかもしれません。
16ページと17ページにつきましては、商取引先や労働者などの後続の債権者のうち、事業価値を高めるもの等について例外規定のたたき台を記載させていただいております。論点⑧については、前回も、包括的な担保権を持つ貸手が再生困難と見る場合も、他の貸手は再生可能と見るかもしれず、既存担保への優先、例えばアメリカのプライミングリーエンのようなものかと思いますけれども、考える必要があるといった御指摘もございました。
18ページですけれども、こちら、登記制度のイメージについてであります。基本的に法務省で行われている議論によることになるものと思われますけれども、なるべく簡素、低コストになるよう、論点を提示させていただきました。
次に、19ページと20ページは実行手続のイメージであります。迅速性と適切性のバランスが求められ、前回も、担保権の実行方法として、最も高い価値で事業が譲渡されるように設計することが全ての利害関係者にとって望ましいといった御意見があった一方、事業を継続しながら価値を最大化できるような担保権の実行方法など、難しい制度設計が必要になるといった御意見もございました。実際に包括的な担保権が実行されるような最終局面まで至ってしまう事例というのは限られると思われますけれども、平時における事業価値の向上に向けた貸手・借手の適切な動機づけといった観点からも重要だと思われますので、望ましい設計を御議論いただけますと幸いでございます。
こういった制度イメージ全体の概要につきまして、前回御説明した12ページに記載しております。全体像のところですね。このうち、先ほどの論点にはなかった点ですけれども、前回、貸手、担保権者の範囲につきましては、その範囲次第で実務への影響が変わり得るといった御指摘もございました。以上が事務局資料の御説明でございます。
以上の論点につきましては、お手元の各国法制との比較表についても記載されているところであります。
以上、資料につきまして、簡単ではございますけれども、前回いただいた御意見を踏まえ御説明させていただきました。事務局からは以上でございます。神田先生、よろしくお願いいたします。
〇神田座長
どうも御説明ありがとうございました。それで、今日はそういうことでこの後御議論をいただきたいと思うのですけれども、本来であれば、まず12ページについてどうでしょうか、それから、14ページについてどうでしょうかというふうにやっていきたいとも思うのですけれども、時間の関係もありますし、それから、今御説明もありましたけれども、登記制度のようなところはそれほどこの研究会でどうこう御議論をいただく必要があるとも思えませんので、まず1周目は、皆さんから見て、先週もうこの資料を配付させていただいていましたので、重要と思われる点、違和感がある点、あるいはもっと推し進めたらどうかとか、ちょっとこれは難しいのではないかとか、皆様方から見て重要と思われる点を、まずどこの点でも結構ですので御発言いただければと思います。それで、2周目以降は少し、12ページは総論なのですけれども、このページどうでしょうかということでちょっとやってみたいと思います。
あらかじめ御連絡させていただいておりますように、御発言希望の方は、大変恐縮ですけれども、チャット欄に発言希望ということでお名前あるいは団体名とかを書いて、全員宛てにチャットを送っていただければありがたく存じます。
そういうことで、まずどの点についてでも重要と思う点あるいは発言がある点について御発言いただければと思いますけれども、前回と同じで恐縮ですけれども、まず最初に事業者様から御発言があればいただきたいと思います。そういう意味で、日本電鍍の伊藤社長と日商の山内部長に御発言いただき、その後、ほかの方々にということでやらせていただきたいと思います。ということで、恐縮ですけれども、伊藤社長、何かございませんでしょうか。
〇伊藤メンバー
伊藤でございます。よろしくお願いいたします。文字を見ると全てが難しく感じてしまうのですけれども、多分、中小企業の経営者はあんまり難しいことよりも、要は、いかに借りたいときにお金を借りられて、そして、危機的状況に置かれているときでもサポートしていただけるような仕組みにつながればと思います。
また、私の考えが少し、前回も申し上げたように、ほかの事業者と違うかもしれませんが、事業者を甘やかすような仕組みにしてはいけないと思っています。もちろん小さい規模の企業を守ることは大切ですが、だからといって、例えば借りるに当たっての準備ですね、前回お話ししたか分からないんですが、例えば月次を作るとか、しっかり決算書を出来上がったときに情報を公表するというプロセスを踏んでいるのか、踏んでいないのかというのもあると思うのですが、以前ほかの経営者の方と御一緒させていただいたときに、月次すら作っていない企業もありました。自分の月の数字すら分かっていないところに金融機関が貸すわけがなくて、自分の数字がどれだけどういう状態だというのが分かった上でのお願い事だと思うので、そのステップを踏んでいるかどうかというところはしっかり確認しないといけないのかなと思います。
そういう意味では、借りる側も貸す側も立場がもし平等であるのであれば、双方の教育というか、何が必要で何が今後もっと重要になっていくかという情報認識というか、必要項目の認識というのがされないといけないと思います。ただ、経営者というのは、教育を受けて経営者になる方ばかりではないので、そこがどうしてもサポートしたくなる気持ちにさせるかどうかというのもあると思うので、ただ、貸してください、貸してくださいではなくて、やっぱり事業者側の努力もそれ相応じゃないといけないのかなという印象を受けました。まずは以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは続きまして、日商の山内部長、お願いいたします。いかがでしょうか。
〇山内メンバー
今回この研究会が始まったことが報道にも出て、中小企業の経営者の方々も関心もあるようで、特に無形資産をどう事業評価していくのか、スタートアップの企業からも問合せがありました。
今、商工会議所では、電子帳簿を推進しようとしております。コロナ禍で厳しい経営環境にありますが、足元をしっかりと金融機関に見せられるように努力していく必要があると思っております。
事業者の観点から、改めて求めたいこととしては、不動産担保や個人保証に過度に依存しない融資をぜひ実現していただきたいということです。前回の会合で、金融検査マニュアルの廃止の経緯などお話しいただきましたが、金融機関側では貸手の事業内容よりも担保あるいは保証の有無を重視せざるを得ない状況が続いてきたわけです。このマニュアル自体は廃止されましたが、事業性を適切に評価していくことは金融機関にとっても難しいものだということは十分理解しておりますので、今後、どのように制度化していくのかが課題かと思います。
私どもといたしましても、事業性評価を普及・発展していくためには、例えば新たなプレーヤーの存在が欠かせないと思っております。アメリカでは、在庫とか売掛債権などを担保とするABLが普及しておりますが、その鍵となっておりますのは、ABLを手がける専門会社によるサービス網が存在していると聞いております。ABL市場の活性化を促す適度な競争環境があるということも挙げられると思っております。金融機関の目利き力の向上を後押ししていくとともに、こうしたプレーヤーが活躍していくことも必要だろうと思います。
また、中小企業にとっては、経営者保証に過度に頼らない融資が必要です。中小企業は、コロナ禍を契機として、自社の業務プロセスの抜本的な見直しであるとか、新商品・サービス開発、新事業ドメインの再構築など新しい取組をどんどん進めてきております。こうした中小企業の挑戦を支えるに当たっても、事業性評価融資というのは大変有益なものだと思っております。
制度の設計に当たっては、包括的な担保とか、個別の担保権との関係とか、事業の継続を前提としていくにはどのように検討を進めていくべきなのかなど難しいところですが、中小企業にとって使いやすい形となるよう、専門家の方々の御意見も伺いながら議論を進めていければと思います。
以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。それでは、ほかの委員の皆様方いかがでしょうか。どなたからでも、どの点についてでも結構です。お願いいたします。
志甫先生、お願いいたします。どうぞ。
〇志甫メンバー
志甫でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
前回、私のほうで、広く、大企業に限らず、中小企業を含めた利用が想定されるのであるならば、やはり実行の場面を想定する必要があるのではないかと申し上げました。
その流れでございますが、今お話が出た金融検査マニュアルは廃止されているとはいえ、一定程度考え方として変わらない部分はあるのではないかと思います。それで、ABLのときに担保適格としてどう考えるかという議論で、動産、債権共に、評価の客観性、合理性が確保され、換価は確実であるということが客観的、合理的に見込まれることが必要だったかと思います。
それを事業に当てはめてみたときに、前回もいろいろ各先生から御意見があったと思うのですが、今のいわゆる失期、デフォルトになって担保を実行しなくてはいけない場面における事業の価値というのが、果たして本当に価値が見られるのか、事業譲渡で譲渡代金から回収を図れるだけの事業価値が存続しているのかどうか、やはり実行の場面では問題になるかと思います。
そこで金融機関の方に御質問なのですけれども、そういった意味で、今のデフォルトまで待っていたとすると、なかなか回収できませんね、となったときに、まだ事業が傷み切っていない段階、つまり、早い段階での失期事由を、コベナンツとして定めておけば、まだ事業が生きている、価値があるうちに譲渡して回収を図ることができるかとも思います。そのような仕組みは、平常時においては私的自治として、約定に定めればできると思うのですけれども、そういうような実務に流れていくのでしょうか、というのが御質問です。
もしそうであるとすると、融資をしつつ、一定程度の回収とを両立できる仕組みになるとは思うのですが、他方、それを事業者の立場から見ると、ちょっと失期が早過ぎることにもなるのかとも思いまして、そこをうまく制度設計できるのか、という点は、実行の場面を考えると課題として出てくるのではないかと感じました。
〇神田座長
どうもありがとうございました。今、御質問がありましたけれども、金融機関といいますか、オブザーバーで出ておられる方々あるいは中原さん、もし何かあれば、ここで御発言いただいても結構ですし、後ほど御発言いただいても結構なのですけれども、今もし御発言いただける方がいるようであれば、いかがでしょうか。
では、中原さん、どうぞお願いいたします。
〇中原メンバー
志甫先生の御指摘いただいた点といいますのは、債権者である金融機関がジレンマを感じる点だろうと思います。といいますのは、事業全体を対象とする包括担保権は、事業そのものの価値を把握する担保権となりますから、業況が悪化するにつれて、融資実行時の担保権評価額と、担保を実行する段階の評価額に大きな乖離が生じる可能性があります。従って、企業価値が相当程度劣化する前に担保実行せざるを得なくなるのではないかと思います。そうなれば、事業者からは、担保実行が早いのではないかという御批判をいただくことになり、それに対して金融機関は融資をできる限り多く回収したいという対立構造となりますが、事業者の御理解を得られるのかをたいへん心配しています。したがって、今回の制度設計においては、債権者が担保実行のタイミングをどう考えるのかということが重要なポイントになるだろうと考えております。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
ほかにも御発言のある方がいらっしゃるかもしれませんけれども、取りあえず先に進ませていただきまして、チャットを頂いている順番で、次は井上先生、お願いいたします。
〇井上メンバー
ありがとうございます。細かい点は別にして、幾つか大きなというか、大まかな点だけコメント申し上げます。
14ページ、最初のところの論点①、担保権者の融資責任という部分ですけれども、これは包括担保を取る以上は融資責任を、ということだと思いますが、しかし、包括的な担保を取った後に、今話があったような形で事業環境が変わるとか様々な理由があってこれ以上は貸せないということもありますし、そうすると、どういう場合に貸す責任を負わせるのかという要件設定は容易でないと思われまして、包括的な担保を取ったという理由で融資責任を発生させる定めを置くのは、現実にはなかなか難しいのだろうと想像します。
むしろもう少し競争的な状況を整備して、他の金融機関からの融資、あるいは調達側からすれば資金調達を促進するほうが健全なように思われますので、論点②につながるわけですけれども、リファイナンスあるいは後順位担保を使いやすくする、使い勝手をよくする方向で解決することが考えられます。最初に包括担保を取った人にとにかく貸させるというよりは、違う見立てでもう少し貸せるという人が貸しやすくすることを志向するほうがいいように思います。その方法としては、リファイナンスあるいは後順位担保権を制度として使いやすく設計するのがもちろん重要ですけれども、それに加えて、前回出てきました融資実務を変えていくことも必要かなと思います。
ここに1つ、極度額の設定を求めるという記述があり、これは恐らく後順位担保権者が出てくることを想定して考えられていることだと思うのですけれども、不動産担保、根抵当の場合は、極度額の定めは、そのまま登録免許税というのですかね、登記料に直結するので、がばっと多く極度額を定めておいてということにはならないように出来ているわけですけれども、現在想定されている包括担保の登記をそういう形で使いにくくするつもりはないと思うので、というか、低コストで登記できることを想定されていると思うので、そうすると、極度額を取りあえずたくさん取っておいて、ということを止める方法を併せて考えないと、極度額さえあれば後順位担保権者が現れやすくなる、あるいは包括担保が無駄に過剰に設定されることがなくなる、ということにはならないと思います。
どうすればいいのかについてはあまりいいアイデアはないのですけれども、例えば一定期間以上、空き部分というんですかね、実際の残高と比べて極度額が非常に大きく取られている場合には、極度額減額請求を認めるとか、そういう工夫も必要になると思います。この辺の要件の設定については幾つかアイデアはあると思いますが、極度額を設定して、リファイナンスあるいは後順位担保を使いやすくすることは、今申し上げたような、極度額を大きく取るような行動を起きにくくするような工夫と併せてぜひ検討していただきたいと思います。
あと、3番目の論点のところに経営者保証の禁止があって、これは書いてあるとおりかなと思います。その意味では、包括担保を取った場合には、個人保証を併せて取らないという融資実務が広がればいいなと思います。ここには特に明示的には触れられていないのですが、想定はされているのかもしれませんけれども、先ほど伊藤社長からのお話にもありましたけれども、やっぱりきちんと情報をレンダーに提供して、借主としてやるべきことをやっている場合にこれを認めるべきであって、典型的に言えば、粉飾がある場合、あるいは粉飾までないにしても、きちんとした情報が金融機関に提供できていない場合には、これは保証の履行を経営者に請求することができてしかるべきだろうと思います。これは経営者保証ガイドラインにも書かれていることで、粉飾があったり、経理がぐしゃぐしゃになっていたりする場合には、これは困りますよ、保証を外すわけにはいきませんよ、ということですから、同じような条件で保証債務の履行を請求することができる場合があることは確認したいところではあります。
あともう一点だけ。最後の実行のところで、早速志甫先生や中原さんからも御指摘がありましたが、担保評価の時点と実行の時点で大きく変わってしまう点が、こういった事業性担保、あるいは包括担保の使いにくいところ、難しいところだというのは私も同意見です。逆に言えば、この手の担保をあらゆる場面で万能なものとしてはなかなか使えないのだろうと思います。
例えば窮境に陥るといっても、金融債務が過大になっていることでリストラが必要で、ただ、営業キャッシュフローは一応回っているような場合であれば、こういった担保も十分使えると思いますし、あるいは事業のキャッシュフローが苦しくなっている原因が、災害とか、コロナもそうかもしれませんが、一時的なものだという場合は、これも事業キャッシュフローがまた復活することを見込めると思うのですけれども、単に社会が変わり、経済が変わり、売上げが落ちて、事業性自体が低下しているときに、労務コストあるいは取引先への支払いを優先したらほとんどプラスがない、あるいはゼロということになると、事業譲渡代金を丸々確保できるということにほとんど意味がないことになってしまう。
そういう場合には、先ほどのような早期の実行につながってしまうという問題もあるので、この担保の設計だけで全てが解決できるわけではないと思うのです。ただ、今、御批判はありましたが、逆の見方をすれば、一定の事業者あるいは一定の環境の下ではうまくワークする場合もあると思うので、そういうものとして使える担保という設計だと割り切れば、利用できる場面はあり、あるいは救える事業者はいるのではないかと考えています。
以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは続きまして、沖野先生、どうぞお願いいたします。
〇沖野メンバー
ありがとうございます。実は井上先生が既に御指摘になった点とほとんど重なるのですが、重複を恐れず申し上げたいと思います。
事業育成という点からの担保というふうに理解しているのですけれども、事業を見るならば、やはり全財産を引当てということになりますが、それは通常、一般債権者がそういうものなんですけれども、そこに全財産にわたって最優先といいますか、非常に優先権の高い担保という形で地位を与えるということで、経営はしないけれども、強いコントロールを持つということになります。
そうした場合、財産ごとの優先を持っている者との間の役割分担ということが1つは問題となると思いますけれども、それとともにといいますか、全財産について事業を見る、というわけで、それに見合う形の、見合うというのはリワード的なという面もあるかもしれませんが、何よりもコントロールしていくという点で、それを与えるような担保だということになりますと、やはり担保権者になる者の適格とその規律づけという点も非常に重要になってくると思われます。また、当該担保権者が役割を終えたというときに退場する方法とか、それはさらに別の者と交代するという形のものもあれば、分担していくということもありますので、それがスムーズにできるようになっているかという点が大事ではないかと思っております。
規律づけのほうについて申し上げますと、これは担保の制度の中でするのか、もちろん競争とかレピュテーションとかその組合せかと思うのですが、ただ、最後の最後、やはり責任というものはどうしても出ざるを得ないのではないかと思っております。これは井上先生と少し話が違ってくるかもしれませんけれども、そのような強いコントロール権を持って、経営者ではないのだけれども、事業に対してのコントロールを及ぼしているという者の責任として最後の最後に関わってくる。
ただ、それは簡単に責任を認められるというものではなくて、そういう担保権者あるいは貸手としての経営判断というふうに言ったらいいのですかね、そういうものがもちろん尊重されて、それから明らかに逸脱しているとか、そういうような形で責任を明らかにしていく。曖昧な責任というのは確かに非常に問題ですので。しかし、責任を負わないということでいいのかというのは、問題ではないかと思います。責任を負うときの効果について、損害賠償のような形なのか、あるいは劣後化と組み合わせるということなのかということも考え方としてはあるかと思います。
一方、規律づけという点では、14ページの論点③の経営者保証の点がございます。経営者保証というのは、信用補完の点もあるかと思いますが、保証債務を最後は負うということで規律づけの点、そこが非常に大きいと言われていたところです。しかしながら、保証に安易に依拠しているといったように金融機関の行動をゆがめているという問題や、さらに、保証人に経営者がなることで、今度は積極的な事業展開の判断をゆがめているという問題も言われていました。なので、これ自体は経営者保証に依拠しないということから、禁止するということは十分あり得ると思います。また、それに伴って、このタイプの担保へ適切に誘導していくということにもなるのではないかと思います。
しかしながら、またここでも、最後の規律づけという面をどう捉えるか、どう担保していくかという問題がありますので、そうだとすると、それを、保証債務を負って、一定の場合に解除するという形にするのか、それとも、保証債務は負わないから安心してやってください、しかし、最後は経営者責任というものが問われますという形で、今でも役員の責任追及の制度があるとは思いますけれども、その点をある程度手厚くしていくという方向があり得るのではないかと思います。あと、技術的な点ですが、経営者保証の禁止ということだと、恐らく物上保証とか求償権保証ということも同様になるのかなと思っているところです。
それが規律づけ関係の問題でして、もう一つは、井上先生がおっしゃった極度額です。極度額は、技術的ではあるのですが、いろいろなところに関わってくる面がございます。極度額を明らかにすることで、最初から次の競争的に出てくる後順位なりを可能にすることや、あるいは、極度額を明らかにすることで交代を可能にする、そこまで借換えというか、できればいいんだという形で意味のあるものだとは思うのですけれども、極度額の設定の適正さというものをどう確保していくかという問題があり、例えばそれが高額にすぎるということが実態から明らかであるとか、そうだとすると、極度額の減額請求を認めるとか、あるいは極度額の何割までは一定の状況の下で融資を求めることができるとか、何かそういう規律を考える必要はないのだろうかということが気になります。
もう一つは、いろいろなところでほかの権利者との調整というのがあるのですが、そういったところで極度額というものが効いてこないかということが個別には問題になるように思っております。
最後に、実行のところなのですが、これは確認させていただきたい点でもあるのですけれども、早期の実行ということが行われてしまうのではないかと。そこでは、さらには債務者、事業者の判断、まだ大丈夫、行けるという判断と、担保権者側の判断がそごするという場合がとりわけ問題になると思うのですけれども、他方で、実行の方法が、事業全体を譲渡するという方法であるならば、その譲受人は、この状態でもなお買い受けて事業を継続していけるという判断をする人が出てくるという想定なのかなと思われまして、そうだとすると、ある程度問題は解決できるのかもしれないというふうに思います。
それに対して、回収もできないような価格しかつかないということで、誰もそれを評価しないということだとすると、言わば実行は、事業を維持したまま生かしていくための実行、あるいは担保権者が交代するための実行ということではなくて、解体のための実行ということになります。そうだとすると、全体では売れないけど、個々の財産ごとの切り売りと言うとちょっと適切ではないかもしれませんが、個々の財産ごとの実行というようなことも念頭に置かれるように思われますので、それとの組合せだとか選択ということも考えていく必要がないのだろうかと思っております。ただ、そのような状態になれば、もうそれは倒産で行くのだということかもしれません。
以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。最後の点についてほかの方からコメントがあるかもしれませんけれども、適宜御発言いただければと思います。
それでは、すみません、チャットをいただいている順番で、星先生、よろしくお願いいたします。
〇星メンバー
最初の伊藤社長の発言に戻りたいと思います。伊藤社長が、事業者を甘やかしてはいけないということをおっしゃって、それはそのとおりだと思います。同様に、銀行を甘やかすのもいけないと僕は思っています。というのは、現状どういったことが問題になっているかというと、銀行がリスクを取らないということです。安易に担保を取って貸しているだけで、そういったことでは問題だという、そういうところから今回のこの研究会は始まっているのだと思います。そういうときに、こういった新しい形で担保を取るということにするとリスクが取りやすくなるのではないですかと言ってあげるというのは、少し間違うと甘やかし過ぎになるのではないかと心配しています。
例えば、ここで議論しているような包括担保の制度を導入した場合、包括担保を設定した銀行が本当に事業をモニターするインセンティブを持つのかどうか、事業者側に寄り添って、危機に陥ったら再生をリードするとかいうインセンティブがあるのかどうか、それは本当に重要なところですが、疑問でもあると思います。
極端な例としては、包括担保を取ってしまえば、もう危機に陥ったら何らかの形で担保権を実行すればいいとかんがえて、志甫先生はじめ皆さんが指摘されたように、担保回収が時期尚早になるとか、再建が行われなくなるとか、そういうことになれば、今と全く同じ問題が起きてしまう。これは沖野先生が指摘されたことの1つに関連すると思いますが、期待された役割を果たさないような包括的担保権者が出てきたときにどうすればいいかを考えておくというのは重要だと思います。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは続きまして、次は、菅野先生、お願いします。どうぞ。
〇菅野メンバー
菅野です。個別の制度論もあると思うのですけれども、大きなところをコメントさせていただきたいと思います。
既に議論いただいているところなのですけれども、包括担保権を考えるときには、金融機関にとって利用しやすいものであること、これはやはり大事なことです。なぜなら、そうではないと、この担保権が普及せず、それによって、この担保権のよい面も普及しないということだと思いますので、金融機関が利用するインセンティブがある、価値のあるものにするというのがあると思います。もう片方はもちろん、そうはいっても、事業者側、借りる側、債務者側の利益に配慮しなければならないし、それから、結局、事業を止めてしまっては意味がないので、事業の再建局面でも機能する必要があると。このバランスをどこで取るかというのが非常に大事というか、これが全体にわたるテーマだと思っています。
その中で、例えば優先債権としてどういった債権を認めていくのか。商取引債権だとか不法行為債権、労働債権、こういったものをどの程度担保権より優先するものに認めていくか。でも、それが限りなく広がっていくのであれば、担保権者にとって、金融機関にとってメリットがないので、例えば、各カテゴリーの債権のキャップではなくて、総額のキャップを設けて、どこまで担保価値としてカバーできるのかの予測がしやすくなるような設計にするのかとか、こういったところはまさにバランス論の中で決まっていくのかなと思っています。ですから、この2つの要請のバランスが非常に大事というのを感じております。
2つ目が、そうはいっても、法律や制度の中で全てが決められるわけではないというのは既に議論が出ていて、おっしゃるとおりだと思っています。やはりこれは、金融機関と債務者との取引の問題ですので、契約で規定される、もしくは協議の中で解決されていくというものも実務面では非常に大きいと思っています。ですから、そういったものが片方にあるということで、法律や制度の話をするときでも、契約でどう規定される可能性があるのか、または実際に実行に近づいていくときに、どういった金融機関と債務者との間の協議が行われるのかという実際面も、予測もしくは想定しながら制度を考えていく必要があると思っています。
具体的に言うと、コベナンツはまさにそこの契約内容でもあり、そして、コベナンツの放棄というところで、実際にコベナンツにヒットしそうなときの債権者・債務者の協議というところで影響すると思いますし、それから、キャッシュフローの管理ですね。事業によって生み出されるキャッシュフローをどういうふうな形で預金として把握していって、その出し入れに金融機関が関与していくかというところなんかも、これは実行面でも大きく関わるところですので、制度で規定される以外にこの包括担保権について影響のあるものがあるというのを想定しておきたいなと思っています。
3つ目、これが最後になりますけれども、再生の実行の局面が早く訪れるのではないかという議論が出ております。私もそれは非常に関心があります。私は、包括担保権をやるのであれば、むしろある程度早期になってもらったほうがいいのではないかと思っています。早過ぎるというのは、今の再生の感覚からいうと早過ぎるのだと思うのですけれども、我々が私的整理をやっているものでも、法的整理に来ているものでも、もっと早くに金融機関と債務者とのコミュニケーションが取れていれば、違う方向に軌道修正できたのではないかと思うようなものもあったりします。
ですから、今日いただいている参考資料の参考⑫という事業把握と担保評価の関係についての資料があるのですけれども、担保評価と事業把握を別々にするのではなくて、担保管理の中で事業の把握もできる。こういったことをしていく中で、コベナンツにヒットして初めてコミュニケーションが生まれるということよりも、もっと前の段階から継続的なコミュニケーションがあり、事業計画の予実の管理の中で金融機関からもアドバイスが受けられるような体制にし、包括担保権の実行、本当の制度上定められた実行というのではなくて、もっと債務者、金融機関とのコミュニケーションの中で、M&Aが1つの選択肢になるというような解決方法が生まれていくのが非常に望ましいのかなと考えております。ですから、ある程度早くなっていくというのは想定内なのではないか、金融機関の皆様も、別に不合理に早くしたいということではなくて、そのタイミングでやるのが事業価値の最大化なのだという視点で臨まれるというようなコミュニケーションができるのが一番いいのではないかと思っています。
以上3点でした。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは続きまして、堀内さん、どうぞお願いいたします。
〇堀内メンバー
堀内です。よろしくお願いします。個別の制度面のポイントにつきましては、ほぼ井上先生と同じと言ってよいかと思っています。それ以外のところで、もうちょっと大きな観点で付け加えさせて頂きますと、一体この担保制度はどういったケースで使われるのか、そして、それがどういった状況になったときに実行されるのだろうかということがそもそも大事なのではないかと考えます。先ほど山内様が、スタートアップからの問合せが増えているとおっしゃっておられましたが、今の日本の金融機関が包括担保制度を入れたとしても、スタートアップ企業、要は、まだ商品も出来ていないとか、そういったところに融資を積極的にやるのかと考えますと、やらないとまでは言わないですけれども、あまり効果はないのではないかなと推測します。したがって、やっぱり成長企業、ある程度成長していっており、運転資金需要がどんどん増えていっているときにこういう担保制度というのは向いているのではないかと考えます。つまり、企業価値がどんどん上向き基調になっているケースです。
一方で、再生局面はどうなのですかとなると、ここは二通りに分かれていきます。つまり、ニューマネーを出すためにこの担保制度が使われるのか、既存の無担保融資を保全するために使われるのかで大きく意味が変わってくると思います。実際アメリカでは、投資適格から不適格に落ちたりすると、その時点もしくは次の更改時に全資産担保に切り替わるということはままあります。ただ、アメリカでは一行貸しもしくは1つの大きなシンジケートローンになっていることもその背景にあり、日本みたいに各金融機関がばらばらに貸している中で、どこかの銀行、例えば、早く言ってきた銀行に全部の資産を渡すということにはなりません。要は、大きなシンジケートもしくは一行貸しのときにそう変わるケースがあるということです。実際この4月1日に民法が変わって、昔、売掛債権の譲渡禁止特約というのがあった場合、担保化できなかったのが、名前を譲渡制限特約というふうに変えて、できるようになり、ゴードン・ブラザーズではこれを使ってニューマネーを出すことだけをやっているのですけれども、当然ながら、既存の金融機関の中には、既存の融資の保全で新たにそれを担保に入れるということもされているというふうに聞いています。包括担保制度の使い方をニューマネーに限定するのかどうかというところは大きなポイントになってくると思います。
志甫先生がおっしゃっていた早めの事業売却というのは、担保権者側からすれば、そのとおりと言いたいところですが、これは借入人側からすると、かなり酷だと思います。伊藤社長がおっしゃっていた貸付人との情報共有の一環として、財務制限条項というものがあるのですが、これは融資の契約の中で、月次でいろいろなものを開示すべき中の1つに、いろいろな財務比率を守ってくださいという約束事のことです。これにちょっと違反しました際に、すぐに会社を売却してください、失期しますというのは、理論的にはあるかもしれないですけれども、そういうことで借入人が望まぬ売却に追いやられることになると、逆に言うと、監督官庁としてもそういうものは看過しないのではないかと思います。従いまして、やはり私は、包括担保であっても実行というのはかなり重い状態、それは基本的には元利の延滞もしくは債務超過とか、そういったかなり大きな事態でないと、契約上できるようにするかどうかというのはまた別ですけれども、実際には行われないと思うし、無理に行うのはなかなか難しいのではないかと思います。
では、そのときに、中原様がおっしゃっていた、そんな状況になってからだったら担保価値が当初より下がっているのではないかという点でございますが、それはそのとおりだと思います。金利を延滞するときというのは、基本的にいくら全資産を担保にしていようが、その融資の時価は100ではなくなります。アメリカで全資産担保のシニア・セキュアードの融資債権が、チャプターイレブン下で平均的にトレードされるのは大体70%台でした。つまり、包括担保というのは、ABLの売掛金とか在庫みたいにフルカバーとか全額回収を目的にした担保ではないのですね。無担保よりましだよと、もしくはほかの債権者より多く返ってくるのだというだけなので、債務者が行き詰まったときには、恐らく応分の喫損は免れないが、それが全損とかそういう破産したときみたいな結果にはならないというだけなのです。
だから、会社に寄り添って、会社が倒産しないようにするというふうに、ある意味、間接的に指導するとか、アメリカだと、本当に危なくなってきたら、経営者だけを入れ替える、つまりターンアラウンドマネジャーを入れるという実務がありますけれども、そうやってサポートしていくということで、担保を実行したり、会社を売却したりして完済になるということは前提にしないほうがいいというふうに思います。
あとは、沖野先生が、前のところで、事業売却であれば、担保実行もいいかなというふうにおっしゃっていました。一般論的には、借入人が売却してもいいと言うのであれば別に問題ないと思いますが、ここで私がいつも言う例なのですが、買手のほうが、例えば従業員はコスト要因になるので別に要らないと言っている際に、売る側にしたら、やっぱり従業員の雇用を確保したいというか、重要視すると思うので、買手と売手で重要視するところが異なってくる場合があります。価格は当然ながら高く売りたい人と安く買いたい人で反対になります。加えて、雇用を重視するかどうかとか、いろいろ条件面で必ずしもいい感じで折り合う、売りたい、買ってほしいと思った人が買ってくれるというケースでないケースもあるので、そういう意味では、担保権の実行というのはやはり慎重にあるべきだというふうに思います。
それは別に早期実行を否定するわけではなくて、財務制限条項に引っかかったら、そういう選択肢もありますよというので、お客様とお話合いをして、経営者に退いていただくなり、会社を売却するとか、そういうふうな道もありますよというので交渉をしていくというのが現実的ではないかと思います。
以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは続きまして、山本先生、どうぞお願いいたします。
〇山本メンバー
私は執行・倒産の専門ですので、そういう立場からこの資料について若干のコメントをしたいと思います。
総論としては、現状、包括担保という制度としては、御承知のように企業担保法という法律があります。これはもちろん目的は今回のものとは全く違う、社債を担保することを目的としたものではありますが、この優先順位とか実行の制度を考えるについては、少なくとも現行法として存在するものですから、包括的な担保権の制度をつくるに当たり、議論の出発点にはなるだろうと思っています。それなりにこの実行等の局面については、よく考えられて、恐らく制度づくりはされているだろうというふうに見受けられます。
先ほど沖野委員から問題提起があったように、基本はやっぱり包括的な一括売却というのが基本になっていますけれども、それができないときには、個別財産の任意売却というような制度も用意されているということがあります。ただ、もちろん、私が承知している限り、この制度は実際に使われたことはない、実行手続で使われたことはないということだと思いますし、既に60年前の法律ですので、時代遅れになっているところも多々あると思います。先ほどのように目的も違いますので、出発点とはしながら、これに様々な工夫をしていかなければならないだろうと思っています。
そういう観点から3点、主としてこの資料にあまり書かれていないことを中心としてコメントをしたいと思います。1つは、第1は、倒産手続との関係ということです。現在の企業担保は、私の理解では、民事再生には優先するけれども、会社更生には劣後するというか、会社更生の場合には企業担保の実行は止まって、会社更生手続が優先するという枠組みになっておるわけですが、これでいいのかどうかということは考える必要はあるのかなと思っています。
それを考えるに当たっては、この資料でいうと⑱のところ、19ページのところですけれども、担保権の実行手続で、譲受人を決定するプロセスというところで、その主導する主体として、裁判所が選任すること、あるいは包括的な担保権の実行者が選任することという選択肢が書かれておりまして、この点は1つ大きな影響を与えるかなと思います。現在の企業担保法は、裁判所が選任する管財人が手続を主導することになっており、管財人は破産の管財人と同じように、一般的な善管注意義務を負うことになっておるわけであります。こういう者が手続を主導するのであれば、民事再生に優先して、手続を進めさせるということはあり得るかなと思っているのですが、担保権者が選任するといったことになった場合に、担保権者の利益だけを実行権者が尊重するというような仕組みにした場合に、本当に民事再生より優先させていいかどうかというのは1つ考えなければいけない点になるのかなと思っております。
それから、第2に、他の債権者との関係で、これは先ほど菅野委員なども御指摘になったところですけれども、資料だと17ページの辺りです。売手とか労働者とか不法行為債権者等との優先関係のことが書かれています。ただ、制度をつくるに当たっては、全ての債権者との優先・劣後の関係を決めないと制度はつくれないということだと思います。例えば、労働者が優先するといったときには、それでは、租税債権者との関係はどうなのかということは考えないといけないといったことです。租税債権者は、実体法上、労働債権者に優先する形になっていますので、それとの関係はどうなのか。その他一般債権者といったときに、不法行為債権は優先するということですが、それでは債務不履行に基づく損害賠償債権との関係はどうなのか。それは全て考えないといけないということになってくるだろうと思います。
私自身は、結局この担保というのは、債務者の事業性を評価し、その事業をモニターしていくということで、先ほど担保権者の責任というような話もありましたけれども、そういう性質の担保権者であるとすれば、その他の債権があまり積み上がらないところをしっかり見ていくということについて、やはり一定程度責任があってもいいのかなというふうに思っておりまして、そういう意味では、この資料にも、あるいは先ほどの御議論にも上限額という話がありましたが、これは実際上はかなり難しいのではないかなという印象を持っておりまして、基本的にはこういう他の債権者、他の金融債権者との関係ではもちろん勝てるということだと思いますけれども、その他もろもろの債権者が出てきたときは、それがあまり積み上がらないうちに実行等をしていく、それが積み上がったときにはある程度劣後しても仕方がないというような、ラフに言えば、そういう制度設計にならざるを得ないのかなと。現在の企業担保もある程度そういう考え方だと思いますけれども、そういうことになっていかざるを得ないのかなという印象は持っております。
最後3点目は細かい点ですけれども、実行手続の中で、これは譲受人との決定プロセス等が書かれていますけれども、最終的な配当の問題ですけれども、これはもちろん実体法上の優先順位に従って配当するということだと思いますけれども、例えば個別財産に後順位の担保権者が付いているようなときに、その配当をどうするかということは1つ問題になり得るだろうと思っています。
その場合に、結局、その個別の財産の評価、それが総財産のうちにどの程度の割合を占めるかというような、いわゆる割りつけというのが必要になるのだろうと思います。現在の企業担保法にも53条の規定で配当の割りつけみたいなことを書かれています。ただ、これ実際、会社更生などでは従来割りつけみたいなことを評価でやっていたわけですが、ものすごくもめて、手続が非常に重くなるというようなことが起こっていました。下手をすると、一種の執行妨害的なものとしてこういう後順位の担保を付けるみたいなことが、ひょっとすると制度の立てつけによっては起こってくるおそれもあるのかなということも心配されるところでありまして、私も必ずしも名案があるわけではありませんけれども、そういったことを考えていかなければならないのではないかというふうに思っています。
ちょっと細かな点にも入りましたけれども、一応私のコメントとしては以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
そうしますと、1巡目としては、あと中原さん、御意見があればお願いしたいのですけども、いかがでしょうか。
〇中原メンバー
ありがとうございます。2つほど発言をさせてください。
1つは、先ほどから出ています実行の場面についての問題点です。ております。メンバーの皆さんも言われているように、担保実行は事業譲渡という形で行われるのが基本形と思います。その際に、担保権者と事業者の間で事業譲渡の考え方や時期、譲渡契約内容や譲渡先等について意見が異なった場合の調整です。事業譲渡をする場合は株主総会の特別決議が必要です。会社が債務超過であれば、確かに変えて裁判所が許可できるという制度が会社更生法、民事再生法にありますが、債務超過でなければ特別決議が必要と考えられます。しかし、事業者が特別決議に協力しないといったケースがではどうするのか不安を感じています。膠着状態のまま時間が過ぎていけば業況が更に悪化して、事業価値はゼロに近づくことが予想されます。
次に、事業価値全体を見れば評価が低いが、売掛債権や原材料、商品などの個別の財産そのものに着目すれば価値があるといったケースもあると思います。このようなケースの場合の担保価値の算定をどうするのか。さらに言えば、債権者として回収を最大化するために事業全体を一体として処分するのではなく、個別財産をバラバラに処分することを希望した場合に許容する制度にするのか、という点も考える必要があると思います。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
これで1巡目、一通り御意見をいただいたかと思います。オブザーバーの皆様方でもし御発言があれば、ぜひお伺いしたいと思いますけれども、いかがでしょうか。もしありましたら、チャット等でお知らせいただければと思います。
それでは、すみません、2巡目ということになるのですけれども、少し資料に即して御意見があればいただきたいと思います。まず、資料の12ページに総論としていろいろ書いてありまして、これはもちろん各論を詰めないといけないわけで、例えば、最初に担保の目的物というか、担保権の対象と書いてありますけれども、包括といっても例外が当然あるので、それはまた後のページで出てまいりますので、ちょっと各論を見ないといけないのですけども、ちょっと12ページを御覧いただいて、先ほどから御指摘があった極度額とか、その他追加での御発言があればぜひお願いしたいのですけども、いかがでしょうか。相互に関連しますので、もちろん後のほうのページに関係する話とかを一緒に御発言いただいても結構です。後ほど後のページを議論するときに前と関連づけて戻っていただいてももちろん結構でございます。12ページ、いかがでしょうか。
ちょっと時間稼ぎみたいなところがあって、私から一言だけ発言させていただきますと、私自身はこの実行手続というのが、原則裁判所関与というと、ややどうかと思うことがありまして、もちろん裁判所が関与する実行手続はあっていいのですけども、何というのですかね、現在の制度に即して言えば、譲渡担保のようなものは、当たり前なのですけど、これは判例法なので、私的実行、質権なんかでも一定の場合にはそうであって、どういう場合かということだとは思うのですけど、裁判所を通じてやったほうが公正であることは確かなのですが、急に何か価値が非常に下がってきて、早く売らないといけないような場合は私的実行もやはり認められてしかるべきかなと。
どういう条件とか要件を付けるかという問題は別途あるとは思うのですけれども、現に譲渡担保は私的実行されていますので、それと一緒に考えるのはいいかどうかという問題は別途あるとは思いますけれども、ちょっとそんな感触がしまして、原則とは書いてあるので、いいのかもしれませんけれども、やや気にはなるというところです。
それでは、志甫先生、どうぞお願いいたします。
〇志甫メンバー
順番というか、初めに発言させていただきましたので、発言させていただきます。今、神田先生がおっしゃった点は私も少し気になっておりまして、不動産であれば、抵当権による競売手続があるわけですけど、では競売で全て換価していくかというと、そうではなくて、実務上、破産においても、競売手続を使うことなく、まずは任意売却による換価を目指しているところかと思います。
堀内さんがおっしゃったと思うのですけど、結局、この制度ができた場合には、一定程度交渉ベースで話をして、理解を求めて、経営者の方も納得いただいた上で、しっかり協力をいただかないと、事業を担保にとったとしても、うまく事業を維持することはできないのではないかと思います。そうすると、やはり、担保権者としては、まずは、債務者と交渉しつつも、話合いの中で、いろいろ債務者の協力を得ながら、進めることを目指すことになり、結局、本当に実行しなくちゃいけない場面というのは、債務者の協力を得ることができない、合意形成ができない、任意での売却ができない場面なのだと思います。
その場面において、どのような事態が想定されるかというと、今の実務にあえて類似しているものを探すとすると、債権者申立てによって会社更生なり民事再生が始まって、外から入ってきた裁判所から選任された人が入ってきて、何とか事業譲渡するとか、そういった場面が比較的近いのかなと思います。
つまり、経営者自らが申し立てたわけではなくて、債権者主導によって外から人が入ってくる。この場合において、従業員の協力を求めたり、取引先の理解を得ることが必要になりますが、例えば、取引先との関係では、基本的には債権カットを求めながら協力を求めるので難しいわけですけれども、何とかして、管財人が、こういった利害関係人の協力を得て事業譲渡なりを取り纏めていこうとするわけです。それができる立場として、山本先生がおっしゃった、債権者申立てであるとはいえ、一債権者の利益のためではなくて、善管注意義務、公平誠実義務を負っているのですよ、ということが最後の支えというか、利害関係の納得につながっているのだと思っています。
山本先生が御紹介されたとおり、企業担保法においても破産法85条が準用されているのは、やはりそういった立場で物事を進めるのがいいという考えが、恐らく根底にあるのではないかと思います。今般検討している制度でも、任意の交渉がまとまらない場合の最後の場面においては、裁判所の関与があったほうが、事業譲渡がうまくいくことにつながるのではないかと実務的な感覚としては思いました。
神田先生のおっしゃったとおり、それでは全部が裁判所の手続になるのかというと、それは先ほど私が申し上げたとおり、今でも任意売却というのはあるわけでございますので、あえて担保権者が選択できるということまで書かなくても、まずは法的手続によらず話し合いのなかでの実行が目指されるのだと思います。法的手続にのせなければならない場面においては、債務者の協力を得られない状態になっていると思いますので、裁判所ではなく、担保権者が選任した人が出てきたとしても、ちょっと難しいのかなと思いました。以上でございます。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは次に、菅野先生、どうぞお願いします。
〇菅野メンバー
先ほどの1巡目のときにも少し、他の債権者との優先関係の話、触れさせていただき、山本先生からもお話があったので、その点コメントしたいと思います。12ページにも書いてある部分だと思います。
租税債権者の話を山本先生などもしていただいたのですけれども、ここのところは実務的にどういう穴開けというか、どういう優先順位になるのかというのは関心の高いところかなと思っています。
不法行為債権というのが一般債権者の中で優先権を持つ債権のカテゴリーとして出ているのですけれども、これがなかなか難しいなと思っていまして、一般消費者に対する債権を想定されているのかもしれないのですけれども、不法行為債権は必ずしもそういった消費者だとか一般の個人の方との間だけで発生するというものではなくて、企業間で発生するものもあったりして、例えば、タカタの件のリコール債権が、法的な性質はどうかというのはあるのですけども、大量の不法行為債権というときに、それは個人の方との間でも会社との間でも顧客との間でも発生し得る。
そういったようなケースのときに、これを全部、同順位で、同列に優先債権として保護するのですかというようなところもあったりして、不法行為債権と一概に言ってもいろんな性質があるものを、1つのカテゴリーとして、一定の金額、優先させるということで、どういう調整ができるのかな、バランスが取れるのかなというのは気にしております。
それからもう一つ、ここに挙がっているのが商取引債権、労働債権、一般債権、あと山本先生から租税債権というのが出たのですけれども、そういったカテゴリーにも入らない、そうはいっても担保権の維持だとか価値を上げることに対して発生する費用のようなものが誰の負担になるのかというのはあるのかなと思っていまして、担保権に優先するようなカテゴリーとして、そういった債権者、担保権者にとってもメリットのあるような費用、例えば、債権に寄与したコンサルの費用だとか、資産を売却するときの仲介者の仲介手数料とか、こういった費用的なものについて、1つの債権のカテゴリーとして担保権に優先するという考えを持たなくてもいいのかとかいうのは、1つ論点としてはあるかなと思っています。
それから、こういった優先債権が全体として幾ら担保権に優先するのか、総額のキャップみたいな話もなかなか設定するのは難しいかもしれないのですけども、ここは金融機関の皆さんもキャップがあったほうがいいのか、それがなくたって、それは結局、各カテゴリーの債権について上限が設けられていれば、それでいいと考えるのかというのは少し御意見を伺ってみたいなと思っており、そういう論点があるのではと思っています。以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは、山本先生、お願いいたします。どうぞ。
〇山本メンバー
直前の菅野委員の御指摘、誠にごもっともというふうに思います。
この優先順位の議論はかなり注意しないと、特に劣後させようとすると、それは一方では法制的な問題が生じ、他方では非常に政治的なエネルギーを必要とすることになっていくということを懸念しているということでありまして、かつて破産法改正のときに租税債権者と労働債権者の綱引きを目の前にした人間としては、これはなかなかこの制度をつくっていく上で難しくなっていく可能性がある。恐らく企業担保法はそういう点も考慮して、非常に広範にいわゆるカーブアウトを認めて、手続の外に出していくということにならざるを得なかったのかなというのが印象としてあります。
それから、最初に神田座長が言われた点で、その点も私はカーブアウトというか、どの範囲の債権者を外に出すかということとも関係してくるかなというふうに思っておりまして、任意での実行を認めると、譲渡担保がそうであるように、結局、清算義務のようなものを認めざるを得ず、適正な価格でないというような主張を他の債権者に認めていかざるを得なくなるというふうに思っています。
その場合に、言わば弱小の債権者が残っているということになると、その債権者が実際に事業譲渡の価格が安かったのだというような主張が現実にできるかというと、多分それは非常に難しくて、そうであるとすると、そんな制度がつくれるのかという話になっていくのかなという印象を持っています。
そういう意味では、劣後するのは金融債権者だけだとすれば、金融債権者がそういう主張を、その事業譲渡は安過ぎるのではないかということを言わせるということはあり得るかなと。そういう場合には任意売却のような制度を設ける、裁判所の完全に外でという制度をつくることも可能かなと思うのですが、残る債権者がいろんな債権者が多いということになってくると、やっぱり裁判所で一応その適正性というのを担保しながら、後から不服を言わせないという制度でないと、なかなか難しいのかなという印象を持っているということです。以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは、続きまして、堀内さん、お願いいたします。
〇堀内メンバー
堀内です。12ページでいいますと、まず極度と、被担保債権の話ですけど、被担保債権が、そこの書き方ですと、「将来債権を含む」というふうな意味で、少し曖昧になっているので、多めに極度を取るというふうな懸念、今、貸していない部分、将来貸すかもしれないという部分まで取っておこうというふうな懸念を催すのは当然かと思います。極度額というのは、事業担保を設定するときに貸し出す金額、これが多分、専門用語でいうとタームローン、ベタ貸しというか、いわゆる融資残高、実際に貸し出す額ですが、それと、貸すことをコミットするコミットメントライン、ここまでは債務不履行になっていない限りは必ず引き出せますという、ラインの総額にしておけばいいのかと思います。後から何か追加で当初想定していない部分を貸した場合は、そこは含まれないし、それを含めようとするのだったらリファイナンスするというふうにしておけば、実際の必要額もしくは必要見込額が債権者と債務者がお互いに合意した金額が極度になるのかと思います。それを何か将来の部分が曖昧であると、御指摘のとおり、取りあえず多めに設定しておこうかというふうになってしまう可能性があると思います。
結局、実行の場合は、志甫先生がおっしゃるように、一番最初は任意売却から入っていくべきだと思うし、多分恐らく実務上もそうなっていくと思います。債務者と話して、それは売ったほうがいいのではないですかと言って債務者を説得して、それでは、どういうところに売りますかみたいな話になっていきますけど、折り合わないというケースは、先ほど申し上げたようにあると思います。
そのときには、普通の実行だと実行通知を打つことになると思うのです。そうすると債務者に、担保権を実行しますので、申し訳ないけど、会社を売却させていただきますという通知が行って、そこで債務者側としては、じゃ、そうしたらも裁判所に見てもらって、やってくださいというふうになるのか、それよりはいわゆる法的整理でそれを止めるということになるかと思います。
だから、債権者も、債務者が売られたくない場合は、担保権の実行を止めるために、理論的には会社更生で担保権の実行、ただ、小規模事業者のときにいわゆる民事8部で全部会社更生で行けるのかというと、またそれは実務上どうか分からないですけど、理論的には会社更生か中止命令付きの民事再生で、担保権の実行を止めるということになっていくのかと思われます。
そういう状態になったら今度、担保権者としては担保権を行使できないし、何もできない状態になるので、そうすると、何も協力したくないですねとなるのですが、実際には窮境に陥っている場面で債務者はお金を必要としていますので、DIPファイナンスが必要だよねというときに、全資産を担保に取られているから誰もお金を貸しませんとなったら困るので、プライミングリーエンとかスーパープライオリティークレームみたいなアメリカ型のものを入れておかないと、有能な先生方だと、DIPファイナンスなしでも繰り回していけなくはないかもしれないですけど、説明としては非常に苦しいと思います。
全資産が既存の担保権で押さえられていて、その人に追加融資義務がないときに、その人がもういいですって言ったら、苦しいときの運転資金を賄うファイナンスがないので、せっかく法的整理を申請して保護を求めたのに、破産しかない、清算しかないですねというふうになるのであれば、再生の可能性を否定されることになってしまいます。それをDIPファイナンスがやりやすい環境を整えるという形で、アメリカ型のプライミングリーエンとかスーパープライオリティークレームをDIPファイナンスに与えるということで、再生の道を、いわゆる自力再生、もしくはスポンサーが見つかるまでのつなぎ資金を供給することで、落ち着いて再生に取り組めるという形に持っていくのがスムーズなのではないかというふうに思います。以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
この後、チャットの順で星先生、伊藤社長に御発言いただきたいのですけども、本日は途中までの御参加というふうにあらかじめ伺っている井上先生と沖野先生には、その後でもし何かあれば、2巡目の一言をいただければと思います。
それでは、星先生、どうぞ。
〇星メンバー
論点の3に関して、経営者保証の禁止というのはやり過ぎなのではないかと思います。
包括的な担保を導入することによって経営の規律づけとかができるので、経営保証は要らないのではないかという論理だと思いますが、本当にそれが正しければ、経営者保証というのは禁止しなくても少なくなるわけで、禁止する必要はないのではないかと思います。
それから、経営者保証と担保は、貸し手から見ると、かなり近いところはあるのだと思いますが、事業者のインセンティブ、モラルハザードをどう解消するかというところから見ると、ちょっと違った例というのは出てくると思うのです。経営者が会社から上がってくる金銭的な利益と、それから事業を行うことによっていろいろ自分の名声を高めるとか、そういう個人的な利益と両方あって、個人的な利益と、それから社会への利益というのは必ずしも合致しないとか、そういうモラルハザードの場合を考えると、経営者保証でそれを規律づけるのと、貸し手が担保を取るという形で規律づけするので、違った場合が出てくると思います。ですから、経営者保証によれば解決できるけれども、担保では解決できないものという可能性も考慮に入れて、経営者保証というのは包括担保を入れたから要らないということではなくて、残しておいたほうがいいのではないかと思います。
そのほうが、包括担保の狙いというのがどれぐらい実際に効いているかということも分かるという利点もありますので、禁止というのはやり過ぎではないかと思います。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは、伊藤社長、どうぞ。
〇伊藤メンバー
ありがとうございます。今、現状を見れば見るほど、双方がしっかりと認識しなければいけない項目が多くて、今の経営者保証もそうなのですけど、私も禁止はしなくてもいいのかなという考えがあります。
例えば、今であると、多分、保証を付けなければ金利が上がる、何かちょっとそういう若干の違いがあるので、それは借り手側が選んでもいいのかなと。保証が怖くて経営者になれるか的な考えもあると思うので、やっぱり社会的責任を負う上では、別にあってもいいのかなという意識はあります。
それと、中小企業といっても、何百人規模のところから数名規模のところもありますし、意識の高い経営者からそうではない経営者がいたときに、経営者だけの判断でいろいろと判を押していけるのかなというか、例えば、担保が実行される理由とかをちゃんと理解させられるのか、金融機関対企業だけで行けるのかなというような考えもありまして、金融機関さんのほうは多分ちゃんと、会社ですから教育を受けてきますよね。でも、経営者って本当にいろんな方がいらっしゃるので、そこを分からずやっている、悪い人もいるわけですよ。悪徳な人もいるわけなので、トラブルが多くなればなるほど、かかってくるコストというのが双方すごくなってしまって、今、金融機関さんとかも人を減らしている中で本当に全てのプロセスを踏めるのかなと、そこも心配になりますし、企業のほうも、例えば税理士の先生とか顧問弁護士の先生がいらっしゃらない企業がいる中で、トラブルが起きたとき、解決しないままただ突き進むというのは、あまりいい結果を導かないのかなという気がするので、例えば、経営者側には必ず税理士の先生が入るとか弁護士の先生が入るとか、何か決め事をつくったほうが、トラブルが起きたときにはスムーズに解決できるのではないかなという印象を受けました。以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは、井上先生、もしよければ、お願いいたします。どうぞ。
〇井上メンバー
ありがとうございます。2巡目、いろいろ御意見が出ている中で、私も非常に重要だなと思うのは、優先権の範囲をどういうふうに画するかというところです。そこが明確でないと担保自体の評価もできないですし、その時々のモニタリングにおいてちゃんとした融資行動が取れないという意味で、重要なのは間違いないと思います。もっとも、そうですけれども、先ほどから話が出ているように、この担保は現実に実行されることはまれなのではないかと思うのですね。
逆に、本当に設定者・債務者と折り合わずに実行しなければならないという場合は、先ほどから御指摘があるように、ある程度公正性を確保する必要がある点や、あるいは後で争うことがなかなか難しい点からすると、裁判所の関与をある程度想定しながら、重いけれども公正である、という制度にせざるを得ないのではないかという気もするのですが、実際上は、そこまで行くことは極めてまれで、もうちょっと早いタイミングで協議の下で任意売却のような形で処理されるのではないかと思います。しかし、こういう任意売却のような事業譲渡の局面においても、一体何が優先権なのかが明確でないと、交渉のスタートにもならないので、その点で、この議論はいろんな局面で重要な問題になってくると思いました。
あと最後1点、ちょっと細かいといいますか、今の話とは変わりますけれども、不動産については、このペーパー、そんなにたくさん書いていないのですけれど、1か所、不動産所有権まで及ばないが利用できる地位に及ぶという簡単な記述があるのですけれども、実際はそんなに簡単な問題ではなくて、不動産は持っている人にとっては相当大きな価値のあるものなので、今回の包括担保権が不動産との関係でどういう関係に立つのか。あるいは、既存の不動産所有権あるいは不動産担保権、抵当権などとの関係をどう規律するのかは、難しい問題です。
現在ある既存の権利というか、既得権を減じるような法改正には非常に大きな抵抗があると思いますので、そうすると、既存の権利をある程度所与のものとしてこの制度を設計しなければいけないと思うのですけれども、それは事業者の置かれた状況によっては容易ではない。担保不動産を外して事業譲渡するとか、いろんなことを考えなければいけないので、その点で包括担保の設計にあたり不動産の権利関係をどう調整するのかは非常に重要な課題になると思います。
以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
沖野先生も今日は多少早めにというふうに伺っています。もし何かあれば2巡目の御意見をお願いいたします。
〇沖野メンバー
これもまた井上先生が御指摘になった点と非常に重なる点なのですけれども、最後におっしゃった不動産の点です。
不動産については非常に固有の問題があるということと、それから、公示なども含めまして、それ自体としてかなり独立した領域が形成されています。例えば、登記の先後によるというときに、不動産取引について不動産登記を見ただけでは分からない優先する権利があるというものをどう評価するのかというのは、多分、不動産取引などにかなり影響が出てくるかと思います。しかも、譲渡人ベースのもので不動産を探さなければいけないというようなことにもなってくると、登記というのは、その場合は、では、不動産登記に登記しなければいけないのかとか、そんな話も出てくるかと思います。
それから、15ページのところの論点⑤の下2つの点が不動産について扱っている中の項目の1つなのですけれども、「利用できる地位に(法定の賃借権として)は及ぶ」という、この賃借権が一体どういう賃借権で誰が賃料を払うのかとか、この後、リースのところでも出てくるかと思うのですが、その賃借権は誰か持って誰が賃料を払って、それに及ぶというのはどういうことなのかというのは、ちょっと技術的に分からなかったところがありますので、また、今でなくても、詳細を教えていただければというふうに思います。
それから、不動産の最後の点は、包括的な担保権は不動産に及ばないこととするのだけれども、リファイナンスした上で融資することを想定ということは、不動産担保権者をリファイナンスするというのは結局外してしまうということなのでしょうか。外してしまうと、しかし、次に付く可能性があるので、ここもどういう意味なのかなというふうに思ったところです。これはすごく細かいことですが、全般的にはちょっと不動産は要注意という感じがしているということです。
それからもう一つは、他の債権者との優先関係につきまして、論点について、⑩以下で、これは既に菅野先生やほかの先生方からも問題の指摘があったところで、不法行為債権の関係です。論点⑬のところで、不法行為債権というのは合意に基づかない債権で、しかも被害者保護の要請が高いと一般的に言われているものです。ですので、自分で約定による調整ができない、しかも被害者保護という観点があるということから、不法行為債権の保護というのはいろいろなところで言われることがあります。
しかしながら、一方で、そう言いながら先取特権も付けられていない債権であるという評価が全般的にされているということと、それから、日本法の下では不法行為債権の成立は非常に広く認められています。請求権競合で、債務履行で、したがって約定で調整できる人の損害賠償が同時に不法行為でも行けるということがありますので、不法行為債権だという一事でかなり広く認めると、正当性の問題でも疑問符が付くのではないかという問題が出てくるかと思います。
典型的には、消費者被害で特に保護に値するというような、生活にも関わるとか、そういう場合はあるかもしれませんけれども、それを念頭に不法行為債権を語ってしまうと、ちょっと保護が過ぎるというか、適切な調整にならない可能性があって、それは結局、総額を付ければいいと、例えば7割という形で付ければいいということに戻ってくるのかもしれません。
山本先生がカーブアウトと言われたものですが、そのカーブアウトについて、あるいは一定の総額をかける場合に、これは極度額との関係ですが、極度額で、しかも適正な極度額にするという堀内さんから御示唆いただいたタームローンとコミットメントラインで行くのだということになると、そこからさらにカーブアウトになると、それを割り込むことにあんります。実際こういう担保は7割までだということなら、2割か3割ぐらいはいいということになるのかもしれませんけど、このように極度額との関係でどういうことになるのかというのが気になっているところです。
もう一つ、最後です。優先関係のところなのですけれども、リースの話と、それから所有権留保が別立てになっておりまして、それがいいのかということで、財産取得、ないしは、それを利用できるようにするというための複数の手法の場合に、リースだけを取り出して別扱いということが果たして適切なんだろうかというのは気になっております。
確かにリースというのはかなり技術的にややこしい点がありますので、それについて、特にどうなるかを明らかにしていくということは大事な点だとは思うのですが、優先権という点では、並ぶ権利というのがまた出てくるのではないかということです。
以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。不動産について若干御質問があったのですが、事務局のほうからもし御発言あれば。
〇尾﨑総務課長
不動産については、例えばもともと不動産抵当権が付いていた場合には、既存の不動産抵当権者の分の債権も含めて全体をリファイナンスして、包括的な担保権を設定すると同時に、不動産抵当権を取る、という形でファイナンスをするということを想定し、書かせていただいています。
〇神田座長
沖野先生、よろしいでしょうか。
〇沖野メンバー
今御説明いただいたことで意味内容はよく分かりました。
他方で、実はこの担保を取ったときに、他の担保が利用できるのかというのも気になっておりまして、例えば、個別の債権譲渡登記や動産譲渡登記とこの登記との関係というのも分からないところがあるのですけれども、何というのか、かつて不動産担保に関して仮登記担保を含めた三種の神器といった話があるのですけど、今の不動産には及ばないのだけど、ほかの債権者が出てこないように予防的に担保を設定して登記しておくということだと、効力が認められるかという問題もあるように思います。ほかの担保権というときに、当該の包括担保権者はさらに個別にも担保設定をすると、それは単にコストがかかるだけのような気もするのですけど、そういうことが妨げられないということでいいのかどうかというのも1つ気になっていた点ですので、補足させていただきたいと思います。
〇神田座長
どうもありがとうございました。今の沖野先生の点、ちょっと私も感想です。ややこしくなってきて、細かいことを全部詰めて、先生がおっしゃったように優劣は全部決めないと動かないわけですけれども、仮にほかの担保が取れたとしても、優劣で言えば、包括担保が登記なりされていれば優先するという、そういう話だと思いますね。それから、ただ、除外されるものについては、もちろんその例外になるので、全部優劣を決めないといけないということかとは思いますけれども、ちょっと先へ進ませていただいてもよろしゅうございますでしょうか。
それでは、次に、山内部長、日商の山内さん、どうかお願いいたします。
〇山内メンバー
事業譲渡の現状につきまして一言申し上げたいと思います。
各地の商工会議所から、事業承継についての話を聞くと、M&Aを希望している企業の情報については、銀行から各地の商工会議所の役員企業、中核企業に話があり、銀行との対話を重ねながら事業譲渡に取り組んでいるようです。地域の価値ある企業、事業は、その地域に残そうという考え方で対応していただいているようです。円滑に話を進めていくには、事業者と銀行との間でしっかりとコミュニケーションを取ることが重要な鍵だと聞きました。事業性評価についても、事業者側が銀行にしっかりアピールしたりコミュニケーションを取ったりしていくことが重要だと感じました。
また、経営者としては、過剰担保とか早期の実行、事業を乗っ取られる懸念などがあります。金融機関とコミュニケーションを取り、事業計画やキャッシュフローのモニタリングに取り組んでいくことは、事業価値を高めていくためには必要ということを、中小企業側にも意識づけしていくことが重要だと感じました。実行については、早過ぎる対応にならないよう、バランスの取れた仕組みとなるよう期待しています。
また、企業の財務数値だけでは表れてこない事業性評価の方法として、金融庁と経産省で策定したローカルベンチマークのほかにも、内閣府の知的財産戦略推進事務局が公表した経営デザインシート、あるいは経産省の知的資産経営報告書など様々あります。事業の見える化に取り組むことは経営者も結構大きな気づきにつながる一方、現状は事業性評価融資にはつながっておりません。事業性評価というと、新しいツールが生み出されていく傾向にありますが、企業や金融機関に労力がかからない形で、事業性を評価していく仕組みが考えられないかと考えております。以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
〇星メンバー
山内さん、すいません、山内さんに1つ確認していいですか。
〇神田座長
どうぞお願いします。
〇星メンバー
事業譲渡の現状ということで、半分程度とおっしゃったと思うんですが、何の半分が事業譲渡だということですか。
〇山内メンバー
アンケートでM&Aをしたことがあるかということでアンケートを取りましたところ、株式が半分、事業譲渡のほうが半分ということで、中小企業は子会社型で株式のところがもっと多いのかなという印象が強かったのですけれども、結構事業譲渡ということも流れとしては多く出ているんだなということです。
〇星メンバー
M&Aをやった中で半分が事業譲渡だったということですね。
〇山内メンバー
はい。
〇星メンバー
分かりました。ありがとうございます。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは、資料のページで14ページに行かせていただいて、14ページは既に御意見をいただいたと思います。そこに書いてあります論点①②③なんですけども、やや細かめのというか、コミットメントラインとか極度額についても、もちろん全員の方から御意見いただいたわけではないのですけど、大体御意見はいただいているのですけど、14ページについて追加で御意見、御発言がありましたら、お願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。
大体御意見いただいたので、さらにあればまた出していただいても結構ですので、ちょっと時間も見ながらですが、15ページに行かせていただきまして、これも先ほどから御意見はいただいているのですが、論点の④⑤⑥⑦、要するに、他の担保権との調整というか、併存も含めてなのですけれども、④⑤辺り、先ほど沖野先生から御指摘等いただいておりますが、⑥⑦はまたちょっと違う情報開示の話かと思います。15ページについて何か追加での御発言ありませんでしょうか。
志甫先生、どうかお願いいたします。
〇志甫メンバー
ありがとうございます。少し細かい点なのですけど、実務上もしかしたら重要かなと思っておりますのは、他の担保権者との関係でございまして、これは基本的に「登記を備えた時点の先後によること」というふうなことで整理いただいているところだと思います。これは約定担保を念頭に置かれていると思っておりまして、留置権や動産先取特権など法定担保との関係について、規律はあっていいのかなと思っておりました。
動産売買先取特権と譲渡担保については昭和62年の判例が決着済みですけど、事業担保の関係でどうなるかというところと、留置権は実務上、手続が開始して物を動かそうと思ったら留置されていますということも結構ありまして、多分これは留置権者に払わざるを得ないのではないかという気もするのですが、一応ルールとして1つ置かれたほうがいいのかなと思いました。ありがとうございます。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。15ページ辺りですけれども。
それでは、いつでも戻っていただいて結構です。16ページ、論点⑧と⑨は少し違う話で、⑨のほうは対象から外す話なのですけれども、先ほど御指摘いただいたように、リースだけでなくて、優劣ということでいえば、これも優劣のほうで書くのですかね。両方あり得ると思うのですけども、そうですね、いわゆるエクイップメントというか、パーチェスマネーレンダーというか、所有権留保で、後から設備を納入して所有権留保しているような人も、例外として優先するという、いわゆる包括担保権者には優先するということだと思いますので、ちょっと優先というか、包括担保の優先権の例外のところに書くのか、およそ対象から外すのかということはあるかとは思いますけれども、⑨のほうはそういう話だと思います。
⑧はDIPファイナンスなので、、私が少し申し上げようと思ったのは、先ほどからのお話を伺っていて、担保権者のほうがやや強引にやってきたらどうするんだという早期の実行というお話がありましたけど、何というのですかね、そうすると結局、これも先ほど御指摘あったとおり、倒産手続を申し立てて対抗する。アメリカですとチャプターイレブンとか、日本ですと、会社更生でないと止まらないということだと、中止命令とかやっていかなければいけないのですけども、細かい点はともかくとして、対抗するほうの話としては、話合いでできれば任意売却でいいのでしょうけども、その先、債務者側の持っている手段というのは、法的にはそのような感じに今ですとなるわけで、そういう中でこのDIPファイナンスという話がまた関係してくるかとは思いますけれども、16ページについて追加で御発言ございませんでしょうか。
中原さん、どうかよろしくお願いいたします。
〇中原メンバー
中原です。DIPファイナンスについて1点、若干の懸念事項についてお話をしたいと思います。
この資料の16ページの下のほうに、「足下必要な融資枠と慎重な検討が必要な融資枠に分けた上で、前者について、裁判所が裁定手続申立後直ちにゼロ順位の担保権の設定を認めることを可能とすること」という表現があります。ゼロ順位担保権者となるDIPファイナンス供与者は債権保全上、何もリスクを負いません。一方、ゼロ順位担保権設定により、例えば第1順位、あるいは第2順位といった既存担保権者にとれば担保割れする可能性が生じることになります。事業再生の見込みの有無の判断を、裁判手続申立て後「直ちに」できるのかという点が気になっています。
といいますのは、不幸にして事業再生がうまくいかなかった場合、例えば民事再生手続から牽連破産に移行した場合、DIPファイナンス供与者はゼロ順位担保権者として最先順位の別除権者として全額回収できると思いますが、既存担保権者は、本来であれば最先順位の別除権者として全額回収できたかもしれないのに、担保割れにより回収不能分が生じることになり、既存の担保権者に大きな影響を与えることになります。この制度は事業再生の見込みがあることを前提としていると理解していますが、裁判所が、既存担保権者に時大きな影響を与える事業再生見込みの判断を、申立て後「直ちに」行うことができるのか、また行えるのか、という点についても不安を感じています。
〇神田座長
どうもありがとうございました。今の点、事務局何かございますか。書いてある趣旨は割と明確だったと思いますので、質問ではなかったかもしれませんが。
〇尾﨑総務課長
資金繰りが厳しく、それをファイナンスしなければ事業継続に大きな支障をきたしてしまう場合に、素早くファイナンスを行うことをどう促すか、ということが課題だと理解しています。
どのような担保権にゼロ順位として優先させるのかという議論をする際に、包括的な担保権者であれば事業全体の価値に対して関心を持っているということがございます。資金が得られなければその価値が毀損されるような状況の中でDIPファイナンスを優先させる必要があるとしていますが、論点⑧の下から二つ目のパラグラフにありますように、不動産の担保権者も優先させられる担保権者に入れるかどうかというのは、また別途の問題になってくると理解しています。
すなわち、不動産の担保権者は、事業価値とは関連の薄い資産に対し優先的な権利を持っている者と考えられるため、DIPファイナンスがなくても利益が必ずしも損なわれるとは限らず、それに優先させるのかどうかというのはまた別途の論点としてここに提示させていただいているところです。
事務局からは以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは、続きまして、堀内さん、どうぞ。
〇堀内メンバー
堀内です。今の点に関しまして補足しますと、資料16ページの左下の記載は、アメリカでいうFirst Day Orderに相当する部分です。チャプターイレブンを申し立てたその日に、裁判所が出すオーダーを指すのですが、そのうちの1つにインテリムDIPオーダー、つまり、中間的・暫定的なDIPファイナンスの命令として出されるものがあります。
それは何かというと、DIPファイナンスとして例えば100必要なだと債務者から申し立てがあっても、今すぐ100は要らないだろうと裁判所が考え、取りあえず2週間ぐらいだったら15ぐらいでいいのではないのというときには、100を出さないで、取りあえず15だけオーダーとして許可し、その後、本当に100が必要かどうかというのを見極めるということす。中原様がおっしゃったように、裁判所も一体幾ら優先させたらいいのか、前もって相談はしていると思いますけれども、すぐに幾らまでDIPファイナンスが優先してもいいか、また幾らまで必要なのかというのはなかなか見極めづらいので、大体2週間から1か月間はこのインテリムオーダーで走るというのがアメリカの制度で、それに倣った形かと思われます。
もう一つは、そうはいっても、さらに優先順位の債権者・担保権者が来るということになると、包括担保で最初に第1順位になると思っていたのが実質第2順位になってしまうし、それで担保割れする可能性があるのではというのは、理論的にはごもっともな懸念かと思います。ですが、実務上は、先ほど申し上げましたように、倒産した時点で大体延滞していますので、既に包括担保権者はほぼ100%担保割れしているというのが実情ということになります。その上に乗っかることによって、確かに担保割れ額がひどくなるだろうという議論があるのですが、一方で、破産になったらどうなるのですか、さらにひどくなりますよ、それよりはましですよということで保護されているという考え方になるのです。もちろんDIPファイナンスをやって、上の順位の担保権者になり、そのDIPファイナンスの代わり金を全部、赤字補填か何かで使用してしまい、さらに破産しましたといった最悪なシナリオの場合は、DIPファイナンスがなくて、そのまま直接破産していただいたほうがよかったですねというのはおっしゃるとおりだと思いますけれども、ここは対象会社の状況もしくは規模によるのですが、大抵の場合はDIPファイナンスが付くような先というのは再生することがほとんどなので、そのまま破産に至るというケースはかなりレアだということで、こういう運用がされています。
どこまで包括担保で小さい企業を対象にするかというので、少し違ってくるかもしれませんが、アメリカでは、そこそこの規模の会社に対してこういう運用がなされてうまく行っているというのは今申し上げたことで、そんなに包括担保権者が不公平になっていることはないと思います。
不動産に関しましては、これらは前のページに戻る部分になりますけれども、実際にチャプターイレブンとか法的整理の下で不動産担保とそれ以外に分かれて、包括担保が不動産担保をカバーしていないケースの場合は、事業譲渡された場合は山本先生がおっしゃったように、割りつけという作業になります。具体的には分かりませんが、もしかしたら金額、不動産のほうと、あと企業価値というか、除く不動産に対しての企業価値でのいわゆるバリュエーションファイト、つまり、どういうふうに金額を割りつけるかというところでの論争というのはあり得ると思いますけれども、法的整理の下では当然それも含めて裁判所が最終的には決定するというやり方でやっているというのが実務でございます。
以上でございます。
〇神田座長
どうもありがとうございました。それでは、星先生、どうぞ。
〇星メンバー
同じくDIPファイナンスのことなのですけれども、これがどういう状況を考えているのかというのは必ずしも僕には明らかではありません。包括担保権者というのは、包括担保権を取ることによってその企業の事業に対する理解とか、危機に陥ったら再建をやりやすい、やるインセンティブを持つのだと思うのですが、DIPファイナンスが出てくるというのは、これは包括担保権者がもう再生不可能だということで裁判所による調整に入っていて、しかもそのスポンサーにはならないという状況ですよね。
包括担保権者は再建できないと考えているのに、ほかにスポンサーが名乗り出るという状況だと思うのですが、具体的にどういう状況が考えられるのか、ちょっと僕にはよく分からないのですが。
〇堀内メンバー
堀内ですが、発言してよろしいですか。
〇神田座長
堀内さん、お願いします。
〇堀内メンバー
これはどういう状況かというと、おっしゃるとおり、1通りではございません。まず、既にスポンサーが決まっている、半ば内定している場合にスポンサーがDIPファイナンスを出すというケースがあります。
この場合は、スポンサーがDIPファイナンスを出して、最後にDIPファイナンスが現金で返ってくる場合もありますけれども、痛み度合いがひどい場合は、スポンサーのDIPファイナンスが更生・再生会社の株式に振り替わって、要は株主になるというケースもございます。
それ以外の、一般の金融機関がDIPファイナンスを出す場合は大きく分けて2種類あって、日本語で言うと防御型と攻撃型、ディフェンシブとオフェンシブをそのまま日本語に訳したものですが、別に防いだりとか、攻撃したりするわけではございません。主に包括担保レンダー、既存レンダーがそのままDIPファイナンスを貸し増す場合を防御型と言います。この場合、包括担保融資を通じてその会社のことをよく分かっており、これは少し資金をつないであげればスポンサーがつくかもしれないし、再生できるかもしれないという場合に、素早く条件提示して、素早くやれるというメリットがあります。
一方で、DIPファイナンスをやる場合は、原則、1行だけから提案書を取るのはよろしくなく、3行ぐらいの提案書を取らないと、裁判所は条件をなかなか認可してくれないです。常に無条件にDIPファイナンスにはプライミングリーンとか、スーパープライオリティークレームを与えられるのではなく、どの条件書、どの提案を見ても、その2つは条件になっていますね、それ以外の条件では資金調達ができないですねということを確認して、許可が下りるという形になります。
その中で、既存の包括担保レンダーが、もうこれ以上、貸し増しはちょっと厳しいですという場合や、もしくは実際に提案書を出して、それ以外のオフェンシブ、つまり既存融資をやっていないところの提案に負けるというケースもあるかもしれませんけれども、いずれにしろ既存融資債権を持っていない人が、これはリスクは限定的だし、採算もいいし、融資としてはいい案件だと判断してDIPファイナンスを提案、実行することもございます。それを業務にしているところもたくさんありますので、そういうところが提案で勝ってDIPファイナンスを出すというケースがあります。
この場合は、事業の再生には非常に興味があるかもしれませんが、もうファーストプライオリティーとスーパープライオリティークレームでほぼほぼ保全されているということで、万一、チャプターイレブンの中で清算的更生計画になったり、もしくはチャプターセブンといいますけれども、日本でいう破産ですね、これに移管したとしても返ってくるという判断であれば、あまり更生自体の細かなプロセスに声を出すこともないし、以前、申し上げたかもしれませんが、そもそも更生計画案に対する投票権がないのです。
連邦倒産法1129条という更生計画の成立要件、認可要件を定めている条項の中で、共益債権というのは当該債権者が別途、合意しない限りは絶対そういうものを返さないといけないとなっているので、自動的に現金が返ってくると法的に決まっています。従って、投票権というか、計画に同意したというか、同意したと見なされる、自動同意という形になっています。DIPファイナンスの貸付人側が会社の再生に口を出すということは、もう相当危ないというか、破産に近づいているケースを除いてはほとんどないと思います。お金を貸して時間を与える、それがDIPファイナンス主な目的という状況でございます。
以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは、先に進んでもよろしいでしょうか。次は、菅野先生、どうぞ。
〇菅野メンバー
私も、論点⑧、DIPファイナンスについて、1点、コメントさせていただきたいと思います。
ここに記載されているDIPファイナンスは、法的整理に入った後に共益債権として認められるDIPファイナンスが典型例として想定されているのかと、記載を見ながら見ております。そういうパターンもあるのですけれども、法的整理に入る前のいわゆるプレDIPと言われているものについては、包括担保権との関係がどうなるのかと思っています。
プレDIPは、法的整理に入っていないので、裁判所だとか、裁判所から選任されている監督委員だとか、管財人、こういった者の関与はない中ですので、プレDIPでやるとすると、債権者間の協議によっての担保権の順位の変更をやらなくてはならなくて、そうすると、既存の包括的担保権者とDIPファイナンスを出す債権者との間の協議でやると。そこについては、特に包括担保権制度の中には織り込まず、協議と合意によって担保権の順位の変更をするということを想定しているのか。プレDIPについても、例えばそこの部分だけ裁判所の許可を取るような手続を設けて、ゼロ順位の担保権をつけられるように考えているのか。そこは、少し派生した論点があるのではないかと思っています。
実際、事業再生の場面で必要性を感じるのは、必ずしも法的整理後のDIPファイナンスだけではなくて、プレDIPは非常に重要だと思っていまして、そのつなぎがなければその後の再建も難しいというケースもありますので、ここをどう考えるかというのが一つあるかと思います。
以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
〇堀内メンバー
よろしいですか。
〇神田座長
堀内さん、どうぞ。
〇堀内メンバー
今の御質問に関してですが、ここで書いてあるのは法的整理が典型というよりは法的整理のみです。私的整理は、ここに書いてある部分には含まれていないという理解でいいかと思います。
私的整理のDIPファイナンス、事業再生ADRとか、地域経済活性化支援機構等を使った場合に、事前に優先の同意を取っておき、主に金融債権者ですけれども、拘束される債権者に関して同意を取っておけば、その内容は裁判所で割と尊重されるという実務が確立されているかと思いますが、そこの部分は特に変わらないと思います。その時点から、私的整理の段階で担保権の順位まで変えるとなると、それは担保法の話になるかと思われます。ここで書いてあるのは、どちらかというと倒産法の中での話に限定されていると御理解いただければと思います。
では、私的整理の場合もプライミングリーンをどうするかという話になると、それはまた別途の話だし、そこはやはり包括担保レンダーとの、特にオフェンシブなプレDIPファイナンスの場合。つまり、包括担保権者と違う人がプレDIPファイナンスを出す場合は、包括担保権者の合意が必要になるのではないかと考えます。
以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは、先に進ませていただいてよろしいでしょうか。次は、17ページになります。論点⑩、論点⑪、論点⑫、論点⑬とありまして、論点⑩は先ほどもちょっと言及、リースなどもこの類型に入れていいと思うのですけれども、エクイップメントを売った人、所有権留保で後から登場しても、包括担保権者の登記は時間的に先にあったとしても、当該債権については例外ということに、当該債権というか当該物件と言うべきかもしれません。目的物については物ですね。ただ、いずれにしても、下のほうに書いてあるのをもうちょっと広めて、現在、所有権留保等でやっているのをちょっと広く、いわゆるアメリカで言うパーチェスマネーレンダーまで多少広げるかということです。
論点⑪はインベントリーのほうで通常の相手を保護するという話で、論点⑫は労働者、論点⑬はその他で不法行為債権者が特に書かれていて、論点⑫⑬は非常に政策的な難しい問題で、これは山本先生も最初におっしゃったことかとも思います。それから、不法行為については沖野先生からも大分御指摘をいただきました。
いずれにしましても、そういう状況ですけれども、17ページについていかがでしょうか。志甫先生、どうぞお願いいたします。
〇志甫メンバー
ありがとうございます。
事務局様にちょっと質問を兼ねてですけれども、ここでの優先される商取引先、労働者というのは、単一の事業をやっている事業体であれば簡単だと思うのですけれども、複数の事業がある場合において、事業ごとに包括担保を設定している場合においては、優先する商取引先、労働者というのは、当該担保の目的となっている事業体に関する商取引先、または労働債権ということで、担保の対象となっていない事業についての商取引先というのは、この保護の対象にはならない、ということでしょうか。
複数事業があり、それぞれグッド事業とバッド事業のようになっている場合において、グッド事業に事業担保をつけて、それを譲渡することによって回収するというのは一つあり得る姿かと思うのですけれども、その場合、商取引先について、当該対象となっている事業に関する債権者に対しては一定程度払って、そうではないバッド事業に関する債権者、仕入先債権者などについては払わないということになれば、会社分割のときにいろいろ議論があったような債権者平等との関係、早めの担保実行で債権者平等の規律が及ばない時点であればいいのかもしれませんが、債務超過状態など倒産時とオーバーラップしてくると、整理が必要かと思いました。
そういった質問と、あと、もう1点ですけれども、ここは恐らく倒産側と担保権者側とでちょっと立場が異なるところになると思うのですが、のれん部分についてどう考えるか、整理が必要かと思っております。今現在の倒産実務からすると、恐らくのれんは一般債権者の配当原資になっているのではないかと思うのですが、そこの部分、事業に担保を設定すると、確かにのれん部分も取れることになるかとも思います。そういった意味で、一般債権者との調整というところで、一部の債権は優先させると書いていただいていると思っておるのですが、その余の一般債権者に回す部分についてもぜひ配慮していただくものと思いました。
ありがとうございます。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
今の志甫先生の点について、事務局から何かございますでしょうか。
〇尾﨑総務課長
法人格ではなく、事業単位で包括的な担保権が設定されている場合には、最初から明確に事業を特定して担保権が設定されていると考えられ、その事業に必要な商取引債権ということになると考えられます。御質問は、全体について担保が取られているときに、何か事業を切り出して再生しようというような場合に、その事業に関しての商取引債権者のみがここでの対象になって、バッドといいますか、もう再生できないということで、どちらかというと清算のほうに向かう事業についての商取引債権者は保護する必要はないのかということかと思います。一定の範囲の商取引債権を最優先の法定担保とする構成を採ることができれば保護できると思いますが、そうでない場合は保護を及ぼす理屈は難しいように感じます。もし専門的な、実務的あるいは法的な観点から、ご示唆やご提案をいただければ大変ありがたいと思っております。
〇志甫メンバー
ありがとうございました。恐らく次の登記の公示で、どのように事業を明確に書いていくかという議論との関係で、取引先において、私は保護されないんですか、ということが結構出てくるかと思います。取引先の立場からは、およそ債務者の事業上の債権だから保護されるという期待があり、他方、担保権者の立場では、担保対象事業以外の取引先まで優先するものではありません、という話だと思います。そうすると、保護される対象をどこで見分けるかが重要で、登記でどのように事業を特定していくのか、という議論になるのだと思います。そういう前提ということで確認させていただきました。
ありがとうございました。
〇神田座長
どうもありがとうございました。そうしましたら、ほかに17ページはいかがでしょうか。
それでは、一旦、先へ進みまして18ページ、登記です。今、ちょっと御発言もありましたけれども、今、志甫先生から御指摘があったような点は重要だと思うのですけれども、何というんでしょうか、登記制度そのものについてはそれほど、ここの研究会でというよりも、こういう制度をつくるとなったら、そのつくるプロセスで詰めていく話かとは思います。誰が申請するかとか、情報を誰が見られるかとか。もちろん、何かあれば伺いたいと思いますので、18ページについていかがでしょうか。登記ですので、もちろん実務的にはものすごく重要ですが。
それでは、19ページ、実行手続です。これも既に御意見いただいているかとは思いますけれども、論点⑰⑱⑲とありますけれども、さらに追加というか、何かありますでしょうか。特によろしいでしょうか。
そうしますと、各論のところには出てないのですけれども、先ほどちょっと言及のありました、何というんですかね、この包括的な担保制度をつくるとして、その対象となるのは何かということで、不動産は除くのか、一部含まれるか、そこのところが書いてあったと思うのですけれども、除くものについて何かございますでしょうか。不動産だけ除くのではなくて、例えば船舶とか、航空機とか大きなものは除くのか。もちろん、あまり大した話ではなくて、こういう制度をつくると決めたら、最後の段階で検討すればいい話だとは思いますが。
不動産の除き方については、先ほど利用権がどうだとかいうお話がありましたので、多分、不動産は制度も、実務も、実態も積み重なっていますので、不動産も含めた包括担保というのはちょっと構想しにくいと私も思いますけれども、もし御意見があればいただければと思います。
今、中原委員から御発言の希望を聞きましたので、中原委員、どうぞお願いいたします。
〇中原メンバー
除かれるものについてですけれども、やはり不動産を除外する点が気になっています。といいますのは、事業を継続するためには、工場設備などのように商品とか製品といった財を作り出すものを含めておかないと、事業自体を成り立たせることが難しいような気がします。その点はどうなのでしょうか。
〇神田座長
どうもありがとうございます。
志甫先生からも、御発言、御希望いただいているようです。すみません、お願いします。
〇志甫メンバー
すみません、前に戻ってしまい申し訳ありません。前の19ページのところで、若干細かいですけれども、一番右下に書いていただいている「譲受人の決定・譲渡の効果について、通常の事業譲渡と異なり、個々の関係者との契約や許認可が原則引き継がれるとする(関係者等の通知は必要)」というところで、そういう制度がつくられるということであれば、それはそれでとも思うのですが、やはり大口の得意先との間の契約とかでは、事業譲渡については相手方の承諾が必要ということがデフォルトとして書かれているのが通常かとも思っております。そうであるとすると、法律で決めたとしても、どうなるのか。例えば、債権法改正で、それこそ譲渡禁止特約を譲渡制限特約にしてとか、事業譲渡において契約関係を引き継げないと、どうしようもないのですが、個別の約定で事業譲渡や契約上の地位の移転の禁止等が入っていると思いますので、整理されたほうがいいかと思いました。すみません、戻ってしまいまして。
〇神田座長
志甫先生、どうもありがとうございました。大変重要な御指摘ですよね。事業譲渡は、現在の一般のルールですと、先ほど指摘があったように、何でしたっけ、倒産手続外でやる場合には、やはり株主総会の特別決議がないといけないということになってくるので、例外が定められていればいいのですが。それと、今、御指摘のあった個別的な移転という、いわゆる組織法上の行為でない行為がなされて、法人格をAからBさんに譲渡しなくても許認可が引き継がれるかというと、許認可はAさんに出しているので、Bさんに当然に引き継がれるわけではない。この辺、何か特別規定を設けるかというのは大きな問題ですね。問題というか、課題と言うべきだとは思います。どうもありがとうございました。
中原委員のお話で、確かにこれからビジネスを起こしますというか、誰もまだ担保債権者が、不動産についても、動産についても、事業についても全くいませんというときに、最初に包括担保権者としてお金を貸しますという人は、不動産は別ですと言われると、不動産については別に不動産の抵当権を取ってくださいとなるわけですけれども、ビジネスの観点からすれば不動産も含まれたほうがいい。特に、今のような場面ではということかとは思うのですけれども、他方、現在の法制度から、不動産も含めた包括担保法制というのはハードルが高いという感じがします。というのは、不動産の抵当権についてはいろいろ発達していて、細かな、複数いるときの規律とかもあるものですから。ただ、望ましいのは全てだということは全くそのとおりだと思いますので、ちょっと皆様方の御感触、いかがでしょうか。
今の点でも結構ですし、ほかの点でも結構です。また、オブザーバーの方々も、今日のところでお気づきの点等があれば、ぜひ指摘いただきたいのですが。
それでは、堀内委員、どうぞお願いいたします。
〇堀内メンバー
中原委員からの御発言についてですが、おっしゃるとおりで、多分、中原委員の念頭にあるのは、メーカーとか、主要な工場はどうするのかということだと思います。それをほかの人が押さえていて、在庫と売掛債権を取って包括担保といっても、工場がどこかに売られてしまったらしようがないのではないかという話で、まさにおっしゃるとおりだと思います。主要な営業に関係ある不動産なのか、それとも、持ちビルで、そこにテナントが入っていて、賃貸収入が入ってくるビルの話なのかで大分違ってくると思いますし、既に担保がついているか、ついていないかということでも大分違ってくると思います。
整理すると、工場とか、営業ですごく必要な不動産であった場合、まず、これに既存の担保権がついている場合は、実務上は、包括担保レンダーはこれをリファイナンスせざるを得ないのではないかと思います。それは置いておいて、ほかの債権者がコントロールして、売掛債権と在庫だけを担保にとなると、個別資産担保といっても、どちらかというと売掛債権と在庫の担保価値に依存したABLみたいな形になっていくので、いわゆる企業価値を見たという形からはちょっと離れていくように思います。
やはりもう既に担保がいろいろくっついていて、それについて後からつけたり、それを上回るような感じにするとか、そういう議論は関係者が多く複雑で難しいと思うので、既に抵当権とか、根抵当権がついていたら、それをリファイナンスしない限りは尊重されるということでいいかと思います。ついていない場合は、既存のレンダーがそれに担保価値を見いだしていなかったということだと思うので、包括で取れるようにすればいいという考えです。
以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
ほかに、いかがでしょうか。私からちょっと、担保の対象ということで一つ課題になり得るのは、先ほどのれんとかいうお話がありましたけれども、そういう無形のものですよね。こういったようなものも、包括という以上は入るのではないかとは思うものの、ちょっとそこのところの、登記の仕方というのもあるのかもしれませんけれども、その前に、実態というか、実質としてどこまでのものを入れるのかというのは要検討、本当は細かく検討しないといけないとは思いますけれども、幾つかあるような感じがいたします。
それから、あと変動するものですよね。よく言われるのは預金債権ですとか、アカウントと呼ばれているもので、証券口座などというもので、そこに例えば余資というか、預金も変動しますけれども、国債に一部していたものが投資信託になったりとか、そういうものがあるので、これは一般の包括担保の発想からすれば、在庫と同じで変動するものも対象になる。その変動すること自体が問題ではないのですけれども、無形の資産と併せてそういう口座物について、またアメリカとUNCITRALとで違っていますし、ちょっと理屈を言い出すと細かく詰める必要があるかとは思います。
オブザーバーの方々からは、特にございませんでしょうか。
それでは、金融庁のほうから、さらにこういうところについて、今日、ちょっと意見を聞いておきたいという点はございませんでしょうか。
〇尾﨑総務課長
17ページの優先関係については、我々も専門的なところを検討する際に御知見をいただきたいところであり、さらに御意見をいただければ大変ありがたいです。
〇神田座長
ありがとうございます。
そうしましたら、皆様方、17ページを御覧いただいて、論点⑩は、最低限という言い方は変ですけれども、今、所有権留保で提供しているエクイップメントの、売った人は、包括担保権者が今、時間優先するという中で、それに対して例外的に優先するというのですかね。さらに広げると、アメリカのようなパーチェスマネーレンダーまで行くということかもしれませんが。これが論点⑩ですね。
論点⑪は、通常のプロセスなので、普通、インベントリーですけれども、エクイップメントが通常のプロセスで売買あるかどうかというのは言葉の問題なので、これはむしろ日本では要件で、現在ですと即時取得の規定を活用というか、借用して保護するとか、即時取得の適用がない自動車などですと、最高裁は権利濫用理論でやっているわけですけれども、包括担保法制になれば、通常の事業の範囲という言葉はよく言われる言い方ですけれども、いずれにしてもそういう例外をつくるかですね。
論点⑫は、労働者であり、先ほど事業が2つあるときはどうだということを御指摘いただきましたけれども、一定範囲で労働者を優先させなければいけないということは疑いがないので、最後、政策でどこまで優先させるか。
論点⑬については、不法行為及びそれに準じる、租税債権とかいろいろなものがあると思うのですけれども、不法行為については非常に難しいので、最後、どこかに線を引くということになるかと思います。
これらが競合する場合には、山本先生に最初から御注意いただいているように、全部優劣を決めないといけませんので、ほかの担保権と競合をする場合も全部決めないといけません。まず競合する担保権同士については、基本は時間優先なので、ここに挙がっている債権者はその例外になるという整理だとは思います。いずれにしても、最後に全部決めないといけないということかと思います。
17ページについて、さらに御発言があればお願いしたいと思うのですけれども、いかがでしょうか。だんだん難しくなってくるので、大変だとは思うのですが。
志甫委員、ありがとうございます。お願いいたします。
〇志甫メンバー
すみません、ありがとうございます。
商取引債権で、発生後●か月以内に弁済を受けるという決め方は非常に難しいように思っていまして、今回の参考資料でも、手形サイトの短縮について御準備いただいているところも、そこの関係かと思っております。
あとは、手形サイトを短縮したとして、前回、御紹介いただいた、資金繰りを商取引先からの猶予に頼ることにも関係すると思うのですけれども、今、物を売っている売手側で、例えば相談を受けるときに、取引先から支払いの猶予の申出があったときには、やはりそれは、ここで回収すると、倒れてしまったらしようがないから、そこはある程度猶予してもやむを得ないのではないのか、といった話は、実務上、やはりあるわけです。そこが、まさにこの●か月以内の狭間にヒットしてしまうと、それは優先しないという話になってしまうと。そこは、前回ご説明のあった、資金繰りは商取引先の猶予に頼るというところを変えていくのだという話であれば、それはそれでいいのかもしれませんが、現在の実務は必ずしもそうではない。商取引債権を遅らせるのは本当に最後の手段だとは思うのですが、実務上はあり得るわけで、ここの●か月という決め方により、実務がどうなるかは気になりました。●か月は、初めの約定に従い猶予してこの期間を超えた場合でも依然として優先する、ということではなく、やはり猶予した後の期間によるのでしょうか。
ありがとうございます。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
それでは、中原委員、そして山本先生の順で、中原委員、どうぞお願いいたします。
〇中原メンバー
論点⑪の買い手の保護の点についてです。現在、法務省のほうで、譲渡担保法制の検討が進んでいると思います。その中でも、担保動産を取得した者の保護をどの範囲で認めるかという議論がされていると思いますので、事業包括担保権においても、それと合わせた形で考えたほうが混乱が生じないと思います。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
山本先生、どうぞ。
〇山本メンバー
非常に難しい問題なので、なかなか定見というのはないのですけれども、特に一般債権の部分です。不法行為についてもいろいろあると、沖野委員をはじめ御指摘があったところで、それはそのとおりかと思います。一つあり得るのは、現在の破産法の免責とか、あるいは民事再生法の中でも、一定の不法行為をくくり出して優先させるといいますか、免責の場合は非免責債権にするという枠組みとしては、悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権、それから故意、重過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権というのを別出しで繰り出している例はあるかと思っています。ただ、これだと消費者被害のような場合、悪意が多いという感じもしないではないですが、そういう場合はカバーできるということですが、なお通常の過失等で消費者に損害を加えた場合、劣後してしまうというところでの批判等は受ける可能性はあるかと思って、この辺りはなかなか、非常に、今後も考えていかなきゃいけないかとは思っています。取りあえず以上です。
〇神田座長
特によろしゅうございますでしょうか。私もウェブ参加しているものですから、事務局と小さい声で、ちょっと早めに、ここで終わってもいいでしょうかという相談もできないのですけれども、ないようでしたら今日はこの辺りで閉じさせていただきたいと思います。
また、追加でお気づきの点があれば、ぜひお知らせいただきたいことと、今後、さらに御議論いただく点等を絞っていくプロセスにおいて、個別に御相談させていただくこともあろうかと思いますので、よろしくお願いいたします。
いずれにしても、具体的な法制度を構想というか考えるのは、非常に道のりが険しいというか、最終的には細かいことを全部決めないといけないので、方向性はいいと思うのですけれども、メリットも非常にあると思うのですけれども、他方でデメリットも押さえてというようなお話を、今日、最初のほうにいただきました。なかなか大変で、どこをどういうふうに詰めていったらいいのかというのは、ちょっとすぐに私も分からない。結局、最後は全部詰めないといけないので、どこから詰めていっても同じなのかもしれないのですが。
次回は、本格的な担保制度の具体的なイメージをさらに深めていくという観点から、皆様方に御議論をお願いしたいと思っております。本日いただきました御意見等を整理した上でと思います。
金融庁のほうからございますでしょうか。
〇尾﨑総務課長
神田座長、ありがとうございます。先生が最後おっしゃいましたように、我々のほうで、今日、お出しいただいた御意見を整理しまして、次回、御議論いただけるような形にした上で、また御相談を申し上げたいと思っております。
次回の研究会の日時につきましては、改めて事務局より御案内させていただきます。また、次回の資料について整理ができましたら、御相談させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
事務局からは以上です。
〇神田座長
どうもありがとうございました。
本日も、大変長時間にわたり、ウェブ開催にもかかわらずといいますか、大変熱心に、また貴重な御意見を多数いただきまして、誠にありがとうございました。また、私の若干、音声の不備とか、進行のミスとかもあって、大変申し訳ありませんでした。
それでは、以上をもちまして本日の研究会を終了させていただきます。どうもありがとうございました。