貸金業制度に関するプロジェクトチーム」第七回事務局会議の概要
日時 | 平成21年12月21日(月)17時00分~18時00分 | |||||||
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場所 | 金融庁 13階共用第一特別会議室 | |||||||
出席者 | 泉内閣府大臣政務官(消費者担当)、中村法務大臣政務官、警察庁生活安全局 白川生活経済対策管理官、経済産業省商務情報政策局 坂口取引信用課長、日本銀行企画局 吉岡審議役 | |||||||
議題 | ヒアリング
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【吉野直行氏の説明】
資料P2「7,資金循環表から見た消費者信用」について、「家計部門の借入総残高」は、約259兆円であり、その内訳は、「家計部門の住宅借入残高」が、約154兆円、「消費者信用」が、約34兆円(うち貸金業が約17兆円)、「個人事業者借入」が、約70兆円(うち貸金業が約23兆円)である。また、注目すべき点として、「民間法人企業の借入残高」は、約259兆円であり、「家計部門の借入総残高」と同程度である。法人企業の借入れについて、低下していることが確認できる。
資料P2「8,近年、過剰な資金の流れが政府部門へ」について、表の見方として、左側から右側へ資金が流れていき、一番下の「金融資産調達額」は、どの部門が資金を調達しているかを示している。「図表・1984年~1990年(バブル期)の資金循環」では、「金融機関」は、196兆円、「民間企業」は、114兆円、「家計」は、25兆円調達している。「図表・1990年~2000年の資金循環」では、「民間企業」はむしろ資金を返済しており、△10兆円となっている。「図表・2000年から2005年の資金循環」では、最も資金を調達しているのは、政府部門の43兆円となっている。この点について、本来、資金は企業に流れていなければならないが、政府に集まっている。これは、日本の現状として、民間企業が弱くなっていることを示している。
資料P3「9,日本と中国のGDPの推移」について、1990年の中国のGDPは、当時の日本のGDPの10分の1であったが、2008年では中国が追い抜き、逆転している。「10,主要国の実質GDP成長率」を見て頂くと、中国は10%程度と大きく成長しているのに対し、日本は2%程度の成長と、最も低い数字となっている。消費者金融を考えるうえで、日本経済をどう発展させていくかということも大事である。
グラミン銀行と日本の消費者金融の違いについて、グラミン銀行は、生産(所得)を増やすための融資をするのに対し、日本の消費者金融は、生活苦の援助のための融資を行っている。今後の日本の消費者金融の課題は、生産活動及び所得の増加に結びつく融資をどう行っていくかということである。
「事業者向け融資」と「消費者向け融資」とは区別して考えるべきであり、これまでの多くは、消費者向け融資の議論がされている傾向がある。
貸金業法についてはデータ収集による不断の見直しが必要であり、成功事例、失敗事例、大手・中小のデータ分析、供給者、利用者、市場の3つの視点等を踏まえることが必要である。
過払い金問題について、最高裁判決が出た以上やむを得ないとは考えるが、ノンバンクは過去に合法的に行動していたことに鑑みると、経済学を専攻する者として、予測可能性という世界経済のルールからは違和感がある。
日本全体の成長がなければ、生活者の所得増加も厳しくなる。マクロ政策としての経済成長戦略が必要不可欠であり、バスケット通貨制度の導入や、国際基準作成において、政治・官僚・民間・学者が連携を取り、日本の主張を行っていくべきである。
貸金業の市場では、改正法で金利を20%まで引下げることになる。これは、市場原理では決まらないところで金利を決めることになり、結果として、借りたい者の方が貸したい者より多くなり、超過需要となる。この超過需要が、ブラックマーケットに向かわないようにする政策が必要である。
多重債務の原因としては、1990年のデータによると、32%が「遊興飲食交際」、31%が「贅沢品・収入以上の買物」、15%が「生活費」であったが、2004年のデータによると、31%が「生活費」、25%が「失業倒産収入減少」となっており、生活するための借入が原因となってきている。
他国の状況を申し上げると、フランスでは、貸出しを行う金融機関はすべて免許制となっており、ノンバンクも銀行も全く同じ基準で規制されている。また、日本と異なる点として、金利の上限規制がない。上限規制がない理由としては、リスクの高い人の金利が高く決まるのは、貸倒れリスクが高いためであり、市場で決まる金利で貸出しすべきであるという考え方に基づいている。
本来、金利は、市場で決まるべきものであるが、生活苦の消費者への社会的セーフティネットは必要である。
多重債務者を事前に防ぐため、若年代からの金融経済教育と、万一、多重債務者に陥った場合の生活債権支援(カウンセリング)が必要である。
貸金業への参入要件の厳格化は、貸金業者の質の向上のためにも必要である。
【堂下浩氏の説明】
貸金業法改正当時、金融庁の懇談会において、科学的根拠に基づき十分な検証が行われたかという点については、疑問である。また、議論の内容について、楽観的なものであったと認識している。
2006年5月に行った貸金業法改正前の市場の実態についてのアンケート調査結果を申し上げたい。まずは、消費者金融の過去利用者を「完済者」と「債務整理者」に分けて、特徴的な変数を示したデータである。このデータを比べると、経済的な変数より金銭管理に対する意識が顕著に表れるという傾向がある。具体的には、「ローン利用時の重視点」では、「完済者」の傾向として、「金利、会社の信頼度、返済のしやすさ」が挙げられ、「債務整理者」の傾向としては、「借入可能かどうか」が挙げられる。また、「主な返済方法」では、「完済者」の傾向として、「月々の返済と臨時収入を併用」が挙げられ、「債務整理者」の傾向として、「月々決まった額だけ」等が挙げられる。
現在利用者における「返済余力のある利用者」と「返済余力のない利用者」に分けたデータを比べた場合においても、「完済者」と「債務整理者」に分けたデータと同様に、経済的な変数より金銭管理に対する意識が顕著に表れる傾向がある。特徴的なデータを申し上げると、「リボルビング方式評価」では、「返済余力のある利用者」の傾向として、「自分で計画的に利用できる、借入限度が高すぎる」が挙げられ、「返済余力のない利用者」の傾向としては、「借入限度額が低すぎる」が挙げられる。もう一点は、「返済余力のない利用者」の「職業」では、「経営者・会社役員」が挙げられている。これはつなぎ資金を調達した「経営者・会社役員」と救済を必要とする多重債務者が混在しているためであり、「返済余力のない利用者」の中から、つなぎ資金として消費者金融を利用している「経営者・会社役員」を区別する必要がある。
次に貸金業法改正後の市場についてのアンケート調査結果を申し上げたい。上場している大手4社について、「仕入れコストなし」、「貸し倒れなし」と仮定し、与信不能となる少額・短期融資の収益性を借入日数と金額からシミュレーションしたものである。仮に10万円の融資をした場合、6ヶ月以上貸さないと利益を得られず、与信不能となる。「仕入れコストなし」、「貸し倒れなし」という現実にはあり得ない貸し手側にとって理想的な条件においても、社会的ニーズのある少額・短期融資が与信不能となっており、この点もマーケットの収縮を促す要因となっている。
消費者金融大手7社の貸出残高と契約成約率についてのアンケート結果によると、法改正前の残高は、8兆5千億円であったが、2009年9月では、4兆7千億円に減少しており、40%減となっている。また成約率についても、法改正前までは、55%程度で推移していたが、2009年9月では、30~33%程度で推移している。
2007年に資金需要者側へ実施した「法改正により影響を受けた属性」に関する調査では、職業別で見ると「経営者・役員」、「派遣社員」、「自営業者」が先ず貸し渋りにあっており、業種別では、「運輸」、「建設」といった労務系、さらに「飲食・宿泊」への就労者が貸し渋りにあっている。この原因は、上限金利の引下げの決定により、融資審査の厳格化が進んだことによるものと考えられる。
2008年、2009年に実施した「法改正により影響を受けた属性」についての調査では、世帯年収別の「希望通りに借りられない何らかの対応を受けた率」は、年収が低い世帯ほど高くなっている。
消費者金融の現在利用者が保有する消費者金融、銀行のカードローン、親族や友人からの借入残高の推移について、消費者金融からの借入残高は、2007年の116万円から2009年の98万円に減少し、逆に銀行カードローンの借入は、2007年の72万円から2009年の88万円に増加し、さらに親族や友人からの借入は、2007年の184万円から2009年の215万円に増加している。
零細事業主は改正貸金業法により、資金調達のコストを下げることができたが、一方で機動的な資金調達が断たれたことで、そのトレードオフの関係にある売上げの減少という事態に陥った。
零細事業主の資金繰りを日銀短観と比較すると、零細事業主(消費者金融現在利用者)の「業況感」は日銀短観よりも悪くはない。しかし、「資金繰り」と「金融機関の貸出態度」で日銀短観よりも非常に悪く、金融機関の貸し渋り、資金繰りの悪化が見て取れる。
ヤミ金融からの借入率は、2007年2.9%、2008年3.1%、2009年2.7%と推移している。また、「クレジットカードのショッピング枠の現金化」の利用率は、2008年1.8%、2009年2.7%に上昇しており、ヤミ金融からの借入率を吸収する勢いで増加していると考えられる。
「ヤミ金融のソフト化」という現象について、2008年と2009年の調査結果を比較すると、ヤミ金融の借入経験者全体では、「ヤミ金融に手を出し後悔」と「金利が高く返済が大変」の回答率は、ともに前年から10ポイント以上下落しており、ヤミ金融のソフト化を裏付けている。一方、「生活費の補填(食費など)」の目的で消費者金融から融資を拒絶された後、ヤミ金融から借り入れたグループでは、「ヤミ金融に手を出し後悔」と「金利が高く返済が大変」の回答率は逆に上昇しており、ヤミ金融においては、資金需要者をリスクに応じて選別する動きが見られる。
現状、消費者金融の利用者は、1,000万人程度存在していると考えられる。その内、完全施行後、総量規制に抵触する人数は、半数の500万人と考えられる。また、消費者金融の市場の規模について、専業大手7社の現状の残高は、約5兆円であるが、総量規制によりその半額の約2.5兆円と縮小すると考えられる。しかし、実際には、総量規制により貸し渋りを受けた利用者は返済困難に陥り、破綻することが考えられる。その結果、専業大手7社の残高は、総量規制の実施により最終的に1.5兆円程度に縮小すると見込まれる。
最後に、見直しの際、次の点について特に留意して頂きたい。ヤミ金融は多様化・変容化して、社会へ確実に浸食している。改正貸金業法の成果を科学的に予測・検証すべき段階にきている。改正貸金業法により、一体、誰が得をしたのか。
【質疑応答】
○ 利息制限法の規定については改正すべきなのか、それとも現状を維持すべきなのか、どのように考えるか。
(答:吉野氏)生活苦にある方は、高い金利であれば返済が出来なくなる。そういった方々は、公的な補助が受けられるような制度が必要である。例えば、ゼロ金利政策やインフレ率が低い場合の上限金利20%と、金利が高い場合やインフレ率が高い場合の上限金利20%では、異なるものである。そういう意味で利息制限法の上限金利は、変わるべきものと考える。
(答:堂下氏)上限金利規制は必要ないものと考える。少額短期の貸付けは金利というより、手数料という色彩が濃くなる。例えば、1万円を18日間借りた場合、利息として受け取れるのは98円までであり、これでは貸し手にとって魅力のない取引なため、結果として少額短期の与信が不能となってしまう。従って、少額短期の融資に対して利息制限法を適用すると、甚だ経済活動を阻害することとなってしまう。
利息制限法の上限金利がどのようにして決まったものか、その経緯を調べる必要があるものと考える。江戸時代のお定めで金利を1割5分に引き直すという規定が出ており、それを明治の太政官令及び現在の利息制限法が引き継いでいるものと考えられるが、どういう趣旨で1割5分に設定されたのかを検討する必要があるが、歴史的に紐解いて行けば、如何に根拠のないものかが分かってくるのではないか。
事業性資金と消費性資金で分けるべきであり、更に期間でも分ける必要があるものと考える。ただし、実際の零細事業主による債務行動を見ると、そこを分けることは不可能である。
○ 日本の銀行は、貸金業者が担っている役割を担うことが出来るのか、また、今後、担うべきと考えるか。
(答:吉野氏)リスクのある先に銀行がどこまで貸せるかどうかであると思うが、銀行は預金を預かりながら貸しているので、リスクの高い人、例えばこれまでの信用の記録のない人に対しては、銀行は貸付けを行いにくい。
リスクのある先への融資について、日本の銀行においては、「地域ファンド」や「地域投資信託」などを利用することが考えられるのではないか。10万円のうち、9万円は銀行に預金し、残りの1万円をその地域の新しい事業を行う人たちにファンドとして投資することが考えられる。そのファンドを銀行の窓口を通じて消費者に販売することにより、銀行は自身の勘定ではなく、投資信託やファンドという別の会社の下、貸付けを行うという仕組みもあるのではないか。
(答:堂下氏)銀行というのは、大衆から集めた大切な預金を原資にして融資を行うのであるから、なかなかリスクの高い人たちに貸付けを行うことは出来ない。
銀行の預貸率によって、銀行とノンバンクの境界が決まるのではないか。預貸率の設定の仕方、つまりは銀行のリスクの取り方に関係してくるのではないか。銀行にどこまでリスクを背負わせて良いのかどうかは、政府が考えるべき事項と思われる。ただし、銀行にリスクを背負わせるということは、その部分のコストは預金者が負うかたちになりかねない。そのことを踏まえれば、やはりバンクとノンバンクの境界線というのは、一定のところで明確に規定をして、ノンバンクに対して公的資金は導入できないが、リスクのある融資を任せるという棲み分けが必要なのではないか。
○ 本来、消費者金融から融資を受けるべきではない人たちも存在しており、そういった人たちに対する金融はノンバンクの議論と分けて考える必要があると思うが、例えば、現在のノンバンクの市場が無くなってしまった場合、リスクの高い者に対する金融は誰が担うのか。
(答:吉野氏)日本において、ここ十数年、地域の金融が発達していない。その理由として、次の2つが考えられる。1つ目としては、企業が日本から海外に出て行ってしまっているという点。この点については、為替に対するマクロ政策などによって、日本の中で企業が活躍できるようにすることが必要である。2つ目としては、新しい企業にリスクマネーが提供できているかという点。銀行がなかなか貸せない中、リスクマネーを提供できるようなシステムを早急に構築する必要がある。このようなシステムの一部としてノンバンクがあると考える。
○ 事業者金融と消費者金融の分離は可能なのか。
(答:堂下氏)15年程前、米国のテキサス州のオースティンというベンチャー企業が勃興する地域で、ベンチャー企業の資金調達について調べた。ベンチャーキャピタルが投資する企業というのは、米国も日本も共通して、ある程度利益が望めるようなビジネスモデルが確立したものに対してファイナンスが行われている。
また、その他にもう1つ共通していることとして、企業を立ち上げた当初は、クレジットカードのキャッシング枠を利用して、運転資金に回しているという特徴も共通している。そのため、米国では企業を起こす場合、クレジットスコアを出来る限り高めてキャッシング枠を拡大するというのが一つの条件となっている。
このように準備段階を含めて、起業するために消費者金融から借入れを行っているという状況を踏まえると、事業者金融と消費者金融の分離というのは難しいのではないか。起業が間もなければ間もないほど、また、企業の規模が小さければ小さいほど、その傾向が強いものと考える。
○ 参入規制の厳格化やCMなどの広報・勧誘の規制についてはどうお考えか。
(答:堂下氏)以前は強硬な回収を行っていた貸金業者も存在していた。このような業者を排除するのは行為規制を徹底するべきであって、参入規制を強めるべきではないと考えている。地方都市ほど、顔を知っている人に対する貸付けが行われているが、そういった少額短期を担ってきた中小の貸金業者が、参入規制によって淘汰されていくことは避けるべきと考える。
CM規制は行うべきで、ルールとして明確にすべきである。例えば、金利の示し方として、金利の数値を示すだけではなく、具体的な事例を示すなどの貸金業者の工夫を義務付ける必要があるのではないか。また、取引の透明性を高めるために契約書においても、細かい字で記載するのではなく、もっとわかりやすく記載することが必要と考える。
(答:吉野氏)銀行の場合、メガバンクと信用金庫・信用組合とで異なった規制になっている。例えば、地域の金融機関と大手のノンバンクで、異なった規制があっても良いのではないか。
○ 堂下氏の「海外先行研究」について、追加で説明があればお願いしたい。
(答:堂下氏)ジョージタウン大学のスタテイテン教授の調査(2002年3月)によると、債務整理者約1万4千人を対象に、3年間のクレジットカウンセリングで債務者の信用実績にどのような影響を与えるかを調査したところ、カウンセリングの効果があって、債務者の意識が改善されている。私の調査によると、過払い金返還請求だけでは、ヤミ金融等からの債務行動は改善されていない。やはりカウンセリングを伴った債務整理を行わないと本質的な改善に繋がっていかないのではないか。
ニューヨーク連邦準備銀行のワーキングペーパー(2007年11月)によると、ペイデーローン(主に短期高金利貸付)については非常に悪い評価がなされているが、適切な監督の下、マーケットの中で上手に利用する方が、社会にとって有益との報告がなされている。
英国政府は上限金利規制を設けない法案を2004年12月に下院へ提出したが、その際に英国貿易産業省が発表した調査報告書によると、金利規制はいわゆる経済的弱者を結果として、困難な状況に導いてしまうという結論が出ている。
(以 上)
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