「貸金業制度に関するプロジェクトチーム」第六回事務局会議の概要
日時 | 平成21年12月15日(火)11時00分~12時00分 | |||||||
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場所 | 金融庁 13階共用第一特別会議室 | |||||||
出席者 | 田村内閣府大臣政務官(金融担当)、泉内閣府大臣政務官(消費者担当)、中村法務大臣政務官、警察庁生活安全局 立﨑生活経済対策管理官付理事官、経済産業省商務情報政策局 坂口取引信用課長、日本銀行企画局 吉岡審議役 | |||||||
議題 | ヒアリング
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【飯田隆雄氏の説明】
「(1)金利20%超の貸付残高減少」及び「(2)全体の貸付残高減少」による北海道の経済波及効果について、GDPの北海道シェア率及び33部門の北海道産業連関表(金融・保険・不動産)を用いて推計したところ、上限金利規制の影響については、導入されることが公表された年度の最終需要額の減少がもっとも大きく、制度改革のショックは収束して来ているのではないか。また、2005度度から2008年度までの全体の貸付残高減少の影響を見ると、最終需要額▲3,380億円、経済波及効果▲4,856億円、雇用効果▲22,604人というマイナスの効果となっている。
もう少し詳しく見てみると、貸付金利20%超の最終需要の減少率は約20%であり、貸付金利20%超の高金利貸付残高の急速な減少が、全体の貸付残高減少による経済波及効果の減少に大きな影響を与えていることが伺われる。
2005年度の北海道の人口を563万人とすれば、一人当たりの経済波及効果は▲55,375円であり、北海道のGDP約20兆円のうち約▲3,000億円(▲1.6%)のマイナスの経済波及効果と推計される。
他の事例と比較してみると、北海道日本ハムファイターズが札幌ドームにおいて通算64試合、総観客動員数167.1万人を集めたビックイベントにかかわる総消費額を124億円と推定し、観客の消費動向を買い物、外食、宿泊、交通費に分け、それぞれが耕作農業・漁業・その製造製品・商業・運輸通信放送・サービス業に支出されると推計した場合、経済波及効果△171億円、雇用効果△1,722人というプラスの結果になった。このように制度設計の変更が地域経済に大きな影響を及ぼしていることが明らかである。
(注) 後日、2005年度の分析データについて、公表データを見直した結果、以下のように結論が変わったので、ここに、お詫びして、修正したものを公表する。
2005年度の貸付残高は106,516億円、金利20%超の貸付残高は公表されていないので、全残高のシェア率を見てみると2006年度90%、2007年度88%、2008年度86%と減少傾向であったので、このトレンドを考慮して、2005年度を90%と仮定した。よって、金利20%超の貸付残高の推計値は95,864億円となった。
従って、2005度度から2008年度までの全体の貸付残高減少の影響を見ると、最終需要額1,497億円、経済波及効果2,151億円、雇用効果10,014人のマイナス効果となった。
また、貸付金利20%超の2005-2006年度の最終需要の減少率は約7.33%であったが、2006-2007年度19.30%、2007-2008年度20.9%と拡大してきている。全体でも、7.1%、17.5%、19.4%と拡大してきている。貸付金利20%超の高金利貸付残高の急速な減少が、全体の貸付残高減少によるマイナスの経済波及効果の拡大に影響を与えていることが伺われる。
2005-2008年度の北海道の人口を平均560万人とすれば、一人当たりの経済波及効果も平均12,804円であり、北海道のGDP約20兆円のうち約717億円(0.36%)のマイナス経済波及効果と推計される。
【宇都宮健児氏の説明】
平成19年4月に多重債務問題改善プログラムを策定し、その改善プログラムに基づいて多重債務者の救済活動が行われている。多重債務者対策本部有識者会議では、当該プログラムの進捗状況をフォローアップしてきている。これまでの多重債務者対策の現状としては、全ての都道府県に多重債務者対策会議あるいは同協議会が設置されており、その中で都道府県と弁護士会・司法書士会・被害者団体が連携し、多重債務者の掘り起こし等を行っている。
改善プログラムに基づき、多重債務者の相談窓口として消費生活センターが主な窓口になっているが、先進的な取り組みを行っている自治体では、徴税部門や福祉の部門などと消費生活センターが連絡を取りながら、多重債務者の実態把握と掘り起こしを行っている。
これまでの大きな取り組みとしては、2007年12月に多重債務者相談ウィークを開催している。また、2008年9月から12月にかけて多重債務者相談強化キャンペーンを実施し、本年も現在実施されているところ。
以上のような取り組みの結果、個人の自己破産の申立件数が減少してきており、ピーク時は24万件を超えていたが、昨年の申立ては13万件を切っている。
弁護士会の相談窓口におけるヤミ金の相談件数も2003年をピークに当時の1/5程度に減少してきている。
政府の多重債務者対策が一定の効果を上げてきているが、なお多くの多重債務者は存在するため、更なる改善が求められている。
宮城県栗原市では、民間金融機関と連携して多重債務者対策に取り組んでいるが、債務整理や生活再建資金の貸付けを行う民間金融機関の窓口を設置することにより、多重債務者の相談が増えている。単に多重債務者の相談窓口を設けるのではなく、このような融資の窓口を設けることも、多重債務者の掘り起こしのためには重要な取り組みではないか。
ドイツやフランスには日本のような貸金業者が存在しないし、ヤミ金業者も存在しない。消費者金融を担っているのは銀行であり、銀行から借り入れが出来ない者に対しては、セーフティネット貸付けが行われている。そのため、日本のような高金利で貸付けを行う業者が存在する余地がない社会が構築されている。
セーフティネット貸付けを行っている社会福祉協議会もすべて各地の多重債務対策協議会のメンバーに入り、多重債務者の相談と再建を図ることが望ましいものと考える。
融資を受けることが出来ない者に対して、貸金業者は貸金業法第12条の9の規定に基づき、法テラスなどの適切なカウンセリング機関を紹介するよう努めなければならないとされているので、ただ融資を謝絶するのではなく、適切な窓口を紹介するよう監督当局は貸金業者に対して指導する必要がある。
平成20年6月10日の最高裁で「ヤミ金には元本も含めて一切支払う必要がない」旨の判決が明らかになった。このことをヤミ金の被害の相談を受ける現場の警察官に周知することが重要。
事業者に対する相談体制も構築する必要がある。政府の緊急融資制度や政府機関の融資などは重要であるが、融資の問題と債務整理の相談体制を連携することが、個人と同様に、事業者においても重要であると考える。
政府は、多重債務者対策本部とは別に自殺対策本部を設置し自殺対策を実施しているが、両本部の連携強化が必要であり、また、地方自治体レベルでも連携強化するように指導していく必要があると考える。
【質疑応答】
○ 宇都宮弁護士の説明資料に、ヤミ金融に関する最高裁判決について現場警察官に周知徹底すべきであるとの記述があるが、警察庁はこの点についてどのように考えているのか。
(答:警察庁)警察においては、これまでも、ご指摘の判決のような重要な事項について現場警察官への周知徹底を図っている。警察庁としては、平成19年に策定された多重債務問題改善プログラムに基づき、「ヤミ金融事犯相談対応マニュアル」を作成し、現場の警察官に配布しているところであり、当該最高裁判決についてもこのマニュアルに盛り込んでいる。ヤミ金融事犯の相談者が警察に訪れた際、「借りたお金は返せ」、「元本だけでも返せ」という対応をとることについては、厳に慎むよう周知徹底を図っている。
(答:宇都宮氏)警察庁の相談対応マニュアルにより、周知徹底が図られているところは多くなってきている。しかし、相談に訪れた際、未だに「借りたお金は返せ」、「元本だけでも返せ」との対応をとる警察官もいる。平成20年の最高裁判決では、10万円借りて、ヤミ金融業者に100万円返済で支払った場合、100万円全額返還請求ができると判断しており、このようなことを踏まえ、現場の警察官にマニュアルを徹底してほしいと要請した。現場の警察官の対応は相談者へ与える影響が大きいので、現場への周知徹底をお願いしたい。
また、多重債務問題改善プログラムでは、ヤミ金融業者の取締りについて、電話警告を積極的に行うことが記載されている。現在、かなり積極的に取り組んでいただいているが、警察署によってはまだまだ対応していないところもある。この点についても周知徹底をお願いしたい。
(答:警察庁)電話警告については、平成20年度は12,529件実施しており、平成19年度の10,557件と比較し、件数は増加している。今後ともマニュアルの周知徹底、電話警告等に積極的に取り組んでいきたいと考えている。
○ 警察への相談の現場で、ご指摘のような問題が確認された場合、警察庁に伝える仕組みはあるのか。
(答:宇都宮氏)警察への相談の現場でこのような対応を受けた際には、相談対応マニュアルを示して、内容を理解してもらうなどの取組みは行っている。また、本日、私が代表幹事をつとめる全国ヤミ金対策会議において、ヤミ金融全国一斉集団告発が実施されている。このような際にも、ヤミ金相談について不適切な対応を取った警察官の情報を警察に伝えている。ただ、全国の警察署は都道府県の管轄なので、警察官が不適切な対応を取った際は、県警本部で指導していただければ良いと考える。
○ 貸金業規制について、飯田教授は何かお考えがあるか。
(答:飯田氏)私は札幌の大学に勤めているが、実家は名古屋であり、母は三重県の伊勢市の施設に入っている。従って、何か問題が起きて、名古屋に帰らなければならなくなった際には、飛行機代が月に10万円程度かかることもある。このような場合、消費者金融などで、簡単に借りることができる仕組みがあれば、便利だという考えもあると思う。
今回の計算によると、北海道における上限金利規制の経済波及効果は3,000億円程度のマイナスである。北海道のGDPシェア率が約4%であることを考えると、単純計算として25倍し、全国の影響に換算すると、7.5兆円程度のマイナスの経済波及効果であると見積もることもできる。これはインパクトが大きいのではないか。
(注) 再計算の結果、累計で2,151億円のマイナスの経済効果、単純計算では25倍すると全国では約5.4兆円程度のマイナスの経済波及効果が見積もれる。いずれにしても制度設計の変更は大きな経済的インパクトがある。
苫小牧にトヨタなどの工場ができ、800億円の投資がなされたが、計算すると、経済波及効果は700億円、雇用効果は6,000人程度であった。このような状況を考えると、規制により地域社会に大きな影響の差が出来、ひいては個人の生活にも影響を与えると言うことも考えられるのではないか。
借りる方としては、今日どうしても借りなければならないという状況もある。また、自信過剰で、自分は多重債務に陥らないと思い、借り続けてしまう人など、カウンセリングが必要な人も存在する。このように、借入れても返済が可能な人とそうではない人を分離して考えることが必要ではないか。例えば継続的に取引きを行っている事業者など、過去のクレジットの履歴により、支払いの能力を把握し、貸付けを可能とすることも考えられるのではないか。
○ 飯田教授にお伺いしたい。飯田教授の計算は、貸金業者の貸出残高減少の影響を計算したとものと理解している。他方、上限金利が29.2%から20%に引下げられれば、9.2%分の利息の支払いが消費に回ると考えられるが、この点は考慮に入れているのか。
(答:飯田氏)今回は、貸出残高減少の影響を計算したものであり、ご指摘の点は計算に入っていない。ご指摘の点を計算に入れることは難しい。
前回質問の追加説明として、貸出金利が上限金利に張り付くという状況は、経済学的に考えれば、もっと高い金利帯が適正金利であるということである。クレジット履歴の共有など、信用情報の共有化を進めることができれば、金利を下げることもできるのではないか。
また、最近の大学生は挨拶ができないなど、家庭でのしつけがなっていないと感じることもある。このような状況の中、本来家庭で教えるべき「手持ち現金で慎ましく生活する」とか「質素倹約」という考え方に基づいた金融経済教育を、大学においても取り組まなければならないのではないかと感じている。
○ 宇都宮弁護士に質問がある。資料2ページの生活福祉資金貸付に関連し、社会福祉協議会と民生委員が各自治体に存在していると思うが、どのように生活福祉資金貸付に対応しているのか。また、健全な借り手と多重債務に陥り生活を破壊してしまう借り手を区別し考えるべきではないかとの意見があるが、この点についてどうお考えか。
(答:宇都宮氏)民生委員が生活困窮者を発見し、生活福祉資金貸付制度につなげている例は多い。民生委員は全国にかなりの数が存在しており、このような人たちに多重債務問題に関する情報・知識が届いていない。知識が無いまま生活福祉資金貸付制度の利用を進めてしまい、融資が焦げ付くケースが多く、その取立てが民生委員の負担となっている。
生活困窮者に対しては、生活保護などの給付的な制度が必要であり、ある程度収入がある者に対しては、生活福祉資金貸付制度のような低金利の貸付制度が必要となる。また、それ以上収入がある者に対しては、労働金庫や生協などの民間の機関が行っている融資制度の利用が考えられる。このように、セーフティネット制度は、収入により層を分けて考える必要があるのではないか。
これまでは、セーフティネット制度を民間金融機関に任せてきており、高利の貸付けが社会保障の代替であった。この点を抜本的に見直し、公的なセーフティネット制度を確立することが必要ではないか。消費者金融は、手軽に借りることができる面もあるが、お金を借りたために自殺に追い込まれる社会は健全ではない。
○ 過払金について、一部の弁護士、司法書士が莫大な利益を得ている。これは本来多重債務者に返されるべきものであり、この過払金が弁護士・司法書士の利益となることは、多重債務者の救済という観点から問題ではないか。弁護士・司法書士の手数料を制限すべきではないかとの意見もあるが、どう考えるか。
(答:宇都宮氏)過払金の問題は日弁連でも重要な問題であると認識しており、本年7月17日にはガイドラインを策定している。ガイドラインでは、過払金返還請求が相談者の生活再建を目的としていることを明確にしており、直接相談者と面談をすること、依頼の趣旨を尊重することなどを規定している。ただし、当該ガイドラインに違反したからといって懲戒にはならない。現在、過払金返還請求の実態がどうなっているか実態調査を行っているところである。
個人的には、大々的にCMを行い、多重債務者の過払金返還請求で莫大な利益を上げるということはけしからんと思う。過去には、弁護士の広告規制、報酬規定が存在したが、規制改革委員会や公正取引委員会等の意見もあり、廃止された。その当時は、広告規制、報酬規定が無くなり、自由競争が行われることによって、手数料が下がるとの考えであったが、現実は違っていた。個人的には、広告規制、報酬規定は必要ではないかと考えている。
最後に、過払金の手数料が問題になると考えるのであれば、貸金業者が直接顧客に過払金を返還すればよいと思う。
(以 上)
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