「貸金業制度に関するプロジェクトチーム」第四回事務局会議の概要

日時   平成21年12月8日(火)11時00分~12時00分
場所   金融庁 13階共用第一特別会議室
出席者   田村内閣府大臣政務官(金融担当)、泉内閣府大臣政務官(消費者担当)、中村法務大臣政務官、警察庁生活安全局 白川生活経済対策管理官、経済産業省商務情報政策局 坂口取引信用課長
議題   ヒアリング
・池尾 和人氏   (慶應義塾大学経済学部教授)
・筒井 義郎氏   (大阪大学大学院経済学研究科教授)

【池尾和人氏の説明】

  • 私は経済学者なので、上限金利規制とか総量規制というものは、きわめて統制経済的なやり方であり、本来は望ましい手立てであるとは思っていない。ただ、多重債務問題は対応が遅れ、深刻な事態となってしまったので、このような乱暴な規制というやり方を取らざるを得なかったということだと思う。もっと早く対応していれば、他の方法もあったのではないかと思う。
  • 市場にも質があり、質の低いマーケット、質の高いマーケットと、市場の質の高低を決めるものは法律・制度・組織など市場を取り巻く様々な要素、いわゆる市場インフラと呼ぶべきものである。市場インフラがしっかりした形で整合的であり、その上に市場機構が存在するのであれば、マーケットメカニズムはうまく機能すると考えられる。ただし、常にそのようなインフラが構成されているとは限らない。劣化した市場では、相手をだまして利益を上げるなどの問題行動が発生する状況となる。
  • 消費者信用市場は、どちらかといえば質の低い市場に分類されるものであったのではないかと考える。かつて消費者信用市場では、借り手が不利益を被る略奪的貸付けが行われてきたのではないか。本来のマーケットでは起こり得ないが、貸し手と借り手との間に情報の非対称性等が存在する場合、略奪的な貸付けが行われることもある。
  • ヤミ金は100%略奪的貸付けを行っていると考えられるが、かつては登録貸金業者も略奪的貸付けに全く無縁であるかと言われれば、そうではなかったのではないか。略奪的貸付けの際は、厳しい取立てが手段として用いられることとなる。取立てにより、貸し手は借り手から幾ばくかの資金を回収するが、この際、貸し手の利益を超える損失を借り手に与える。このように、社会全体として考えた際に、純損失を発生させる貸付けは抑制すべきであると考える。
  • 貸金業法は、過剰貸付防止の規定を整備することにより、一定の信用収縮を予定していると考えている。本来、多重債務問題の解決にためには、厳しい取立てだけを防止できれば良いと考えられるが、取立規制などの行為規制は実効性を担保することが難しい。よって、上限金利規制、総量規制などを導入する必要があるのではないか。
  • 根拠はなく、感覚的な考えだが、貸金業法の施行により、略奪的貸付けは減少しているのではないかと思う。後は、改正貸金業法の副作用として発生するコストと、改正貸金業法のベネフィットとの比較である。
  • 改正貸金業法の副作用として、中小零細企業の資金繰りの悪化やヤミ金の増加が挙げられているが、データ的な裏付けは全くない。中小零細企業の資金繰りへの影響について、個別には資金繰りが悪化した事例があることは理解しているが、それがマクロ的にも意味のあるものなのかということはよくわからない。
  • ヤミ金が増加しているかどうかについても、よくわからない。神田のヤミ金業者の事務所が無くなっているところをみると、東京ではヤミ金は減っているのではないかと考える。他方、地方ではヤミ金が増加しているとの話もある。
  • このように改正貸金業法によるコスト、ベネフィットについては、正確なデータが無いため、判断に苦慮している状況である。ただし、個人的な見解としては、改正貸金業法は、コストを上回るベネフィットが得られているのではないかと考えている。

【筒井義郎氏の説明】

  • 借りるべきかどうか自分自身で判断できる合理的な借り手に取って、消費者金融は借りたいときにすぐに借りることができるという点で便利なもの。
  • また、非合理な借り手は、双曲割引(今のことばかり考える、将来のことは考えない)と自信過剰の者が多いと考えられる。この非合理な借り手が、過剰な借入れ・破産に繋がっている。
  • 基本的な規制の考え方として、合理的な借り手については、規制せず、自由に借入れを行えるようにすることが望ましいと考える。他方、非合理的な借り手については、規制により借入れを制限することが望ましいと考える。
  • 消費者金融の借入者と債務整理者に対するアンケート調査によると、債務整理者と消費者金融の借入者には、双曲割引の者・自信過剰な者の割合が多いことがわかる。
  • 消費者金融からの借入れは役に立ったかとの質問に対し、借入経験者の三分の一、債務整理者の四分の一が「大変役に立ち、助かった」と回答している。また、「まあまあ役に立ち、助かった」と回答した者を加えると、借入経験者の85%、債務整理者の70%に達する。
  • 消費者金融は負の側面があると言われているが、プラスの側面もあるのではないかと考える。例えば、消費者金融からの借入経験者の10%が、消費者金融から借りることができなければ、大変な苦境に陥ったと回答している。
  • 上限金利規制の問題点は次のとおり。
    • (1) すべての人に課せられる規制なので、合理的借り手にまで規制の影響が及ぶ

    • (2) 望ましい金利規制の水準が不明

    • (3) インフレを考慮した実質金利で上限金利を考えることが必要

    • (4) 非合理的な人の借入れは排除できない

  • 上限金利規制等により、消費者金融市場はほぼ閉鎖される状況になる懸念がある。市場閉鎖のコストと市場閉鎖のベネフィットを比較すると、規制によって2割から3割の人は多重債務者にならずにすむことになるが、7割から8割の人は借りることができなくなるので、利便性が低下する。
  • 消費者金融に対する規制の方法、制度のあり方として望ましいと考えられるのは次のとおり。
    • (1) 違法な取立て、ヤミ金融の取締り

    • (2) 自己破産、生活保護などのセーフティネット制度の周知

    • (3) 借入金利の情報などを含む、借り手の信用情報の消費者金融会社間での共有

    • (4) 返済不能に陥るリスクの説明

    • (5) 借入れ希望者の非合理性のチェック方法の開発、利用

【質疑応答】

  • ○ 上限金利規制の望ましい水準が不明である点が問題であるとの発言があったが、利息制限法の上限金利規制は意味がないという立場なのか。

  • (答:筒井氏)消費者金融の金利の水準と、銀行の金利の水準を同様の水準で規制することは無理があると思う。また、利息制限法の上限金利は名目金利であるが、インフレを考慮に入れていないという点で、非合理な規制だと思う。

  • ○ 銀行と貸金業との望ましい金利水準が違うのはなぜか。また、適正な金利水準はどの程度だとお考えか。消費者金融会社に代わり、銀行本体が消費者向けの貸付けを行うべきだとの意見を述べる人もいるが、それは可能なのか。

  • (答:筒井氏)どの程度の金利で貸付けを行うのが適切かという点について、金利は顧客と貸金業者との間で決定されるものであり、外的に一律に決めることは困難である。また、銀行と消費者金融の金利水準の違いについては、銀行と消費者金融の金利の違いというよりも、むしろ、少額・短期の貸付け(消費者金融)における金利水準と、多額・長期の貸付け(銀行)における金利水準の違いによるものであると考える。個人向けの貸付けと企業に対する貸付けで上限金利規制が同じであるということは、合理的ではないと考える。

    重要な点は借り手の返済リスクを考え、競争的に金利を決めていくことである。そのためには、リスクを見分ける手段を確立することが重要であり、貸し手間で信用情報を供給することが必要となる。現状では、銀行は貸金業者間の所有する信用情報を利用することができないため、貸金業者を子会社としていると理解している。

  • (答:池尾氏)日本では業態ごとに法律が存在し規制されていたために、銀行はリスクの高い消費者向貸付けの分野に入っていけなかった。この隙間を埋める業態として消費者金融が発展してきたという歴史的経緯がある。この点を考えると、銀行が消費者金融会社に代わり、消費者向貸付けをいきなり直接行うことは難しいと考える。

  • ○ 過払い金が貸金業者にどのような影響を与えているとお考えか。

  • (答:池尾氏)多重債務問題は、

    • (1) 既に多重債務状態に陥ってしまっている人をどうやって救済していくのかという問題と

    • (2) 新規の多重債務者の発生をどのように防止するのかという今後の問題の二つに分けて考える必要がある。一つの対策でこれら2つの問題を解決することはできない。改正貸金業法は、(2)の問題については、非常に効果的な面を持つ対策であるが、(1)の問題を抱える者に対しては、総量規制等により、むしろ直接的には悪影響を及ぼす可能性がある。

      過払い金は、過去の問題の蓄積を原因として発生している問題であり、改正貸金業法の施行後には、新たには発生しない問題である。

  • ○ 現在、過払い金の支払いによって貸金業者の経営は厳しい状況となっている。このような状況の中、貸金業者は新たな融資に慎重になっており、消費者の中には貸金業者から借りられなくなった人もいると考えられる。このように、消費者金融市場の残高の落ち込みには、過払い金の影響も相当大きいと考えるが、この点についてどうお考えか。

  • (答:池尾氏)もちろん過払い金の支払いの結果として、貸金業者の財務内容が悪化すれば、リスクを取ることが難しくなるため、借り手が借りられなくなり、残高が減少することになる可能性はあると思う。

    過払い金返還請求は、既存の多重債務者の救済の方法の一つとしてとらえられてきた部分もあるが、最近の司法関係者の一部には過払い金返還請求で多額の利益を上げている者もいると聞いており、既存の多重債務者の救済に結びついているか怪しい部分もあると個人的には思っている。

  • ○ 筒井氏の提出資料の13ページの双曲割引のグラフについて、これは消費者金融を利用したことのある人に関する統計なのか。また、貸金業法により、3割から4割の人は厚生が改善、6割から7割の人は厚生が低下と発言されているが、改正貸金業法により、厚生が低下する6割から7割の人のうち、貸金業法の影響を受けず、厚生が低下しない人もいるのではないか。

  • (答:筒井氏)当該グラフは、債務整理を行った人を対象として調査を行ったものである。総量規制が導入されることにより3割から4割の双曲割引の高い人は規制により多重債務に陥ることを避けられるが、それ以外の者については、総量規制により借りられなくなることが予測される。

  • ○ 債務整理まで至ってしまう個人事業者については、貸金業者から高い金利で借りる前に、銀行などが廃業に誘導することが重要ではないかと個人的には思う。

  • ○ 今後、消費者信用市場はどのように変化していくとお考えか。

  • (答:池尾氏)消費者信用については、消費者のニーズがあるので、今回の規制により消費者信用市場が無くなるということまでは無いと考える。ただし、ある程度、規模は縮小すると考える。これは、これまで過剰に貸付けてきた部分が適正化されるということである。

    今までの消費者信用市場は、貸し手側が過剰に貸付けを行ってきた部分があるのではないか。たとえ借り手が非合理な借り手だったとしても、貸し手側がしっかり審査を行い、過剰貸付けを行わなければ、多重債務問題は発生しない。よって、貸し手側にある程度の責任があるのではないかと考える。

  • ○ 消費者信用市場の適正規模はどの程度だとお考えか。

  • (答:池尾氏)市場の数量的な適正規模を推量することは非常に難しい。多重債務問題の背景には、低所得・貧困の問題があり、これらの問題を抱える者の資金需要を消費者信用市場が担っている部分もある。必要とされる消費者信用市場の規模は、これらの問題を抱える者の資金需要を誰が満たしていくかということに深く関係する。

    また、消費者信用市場を質の高い市場とし、ある程度マーケットメカニズムが働く状況にした上で、規制を緩和し競争を進めれば、その結果が適正規模となると考える。

  • ○ 改正貸金業法の施行の前までは、消費者金融の金利は、上限金利に張り付いており、審査をせずに貸付けを行っていたとの批判があった。どうして消費者金融の貸出金利は上限金利に張り付いていたのか。

  • (答:筒井氏)新規顧客の場合など、顧客の返済リスクがわからない状況では、リスクに応じた金利設定ができないので、全て同じ金利で貸付けを行うこととなる。よって、貸出金利が上限金利に張り付くのは当然であると考える。ただし、既存の顧客については、新規顧客よりは低い金利で貸付けを行うこともあり、顧客のリスクが把握できるにつれ、それに応じた金利で貸付けを行うという合理的な行動を取っている部分もあると思っている。

  • ○ 信用情報の共有について、貸出総額だけではなく、貸出金利の情報も共有した方が良いのか。

  • (答:筒井氏)金利についても共有することが望ましい。借り手に対して、より低い金利で貸し付けるという競争が起こるのではないか。

  • ○ 過去の貸金業法改正の議論の際、貸出金利についても信用情報として共有するべきであるという議論はあったのか。

  • ○ 金利まで情報を共有することとなるとシステムが膨大となるのではないか。基本的には、債務の総量を共有し、それによりリスクを判断するという仕組みになっているということだろうと思う。

(以 上)

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金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局企画課信用制度参事官室
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