監査法人の処分について
金融庁は、令和5年3月17日、公認会計士・監査審査会(以下「審査会」という。)から、赤坂有限責任監査法人(法人番号2010405007439、以下「当監査法人」という。)に対して行った検査の結果、当監査法人の運営が著しく不当なものと認められたとして、当監査法人に対する行政処分その他の措置を講ずるよう勧告を受けました。
同勧告を踏まえ、金融庁は本日、下記のとおり、当監査法人に対して公認会計士法(昭和23年法律第103号。以下「法」という。)第34条の21第2項に基づき、以下の処分を行いました。
記
1.処分の概要
(1)処分の対象
赤坂有限責任監査法人(法人番号2010405007439)(所在地:東京都港区)
(2)処分の内容
業務改善命令(業務管理体制の改善。詳細は下記3.参照。)
2.処分の理由
当監査法人の運営が著しく不当なものと認められたとして、令和5年3月17日、金融庁は審査会から行政処分勧告を受け、調査を行った結果、下記ア.からウ.までに記載する事実が認められた。当該事実は法第34条の21第2項第3号に規定する「運営が著しく不当なものと認められるとき」に該当する。
ア.業務管理態勢
当監査法人は、アドバイザリー業務を行う関係会社及び税務業務を行う関係法人(以下、併せて「関係会社等」という。)と共にグループを構成し、当該グループを一体的に運営することで、当監査法人の社員及び職員が、監査・税務・アドバイザリー業務をバランスよく実施して、働き甲斐のある人間らしい仕事を行い、社会の持続可能な経済成長に役立っていくことを目指すとしている。
しかしながら、法人代表兼品質管理担当責任者を含む各社員は、法人運営に関する重要事項に関し、社員間での十分な審議・検討を経ない業務運営を行うなど、社員間の相互牽制・相互監視機能を重視する意識が欠如している。このため、法人代表兼品質管理担当責任者を含む各社員は、内部規程等の整備・運用を含め、適正な監査品質の確保に向けた実効的かつ組織的な業務管理態勢を構築できていない。
また、法人代表兼品質管理担当責任者を含む各社員は、他の社員が実施した個別監査業務の品質を批判的に検討する姿勢に欠けるなど、法人全体における監査品質を改善・向上する意識が不足している。このため、法人代表兼品質管理担当責任者を含む各社員は、監査調書の査閲、監査業務に係る審査、定期的な検証、品質管理レビューでの指摘事項に対する改善施策等の実施に際し、法人全体の監査品質の改善・向上に向けた社員としての職責・役割を十分に果たしていない。
さらに、法人代表兼品質管理担当責任者を含む各社員は、関係会社等を通じて非監査業務を広範に展開する中で、個別監査業務の実施に際し、監査品質を重視する意識が希薄なものとなっている。このため、法人代表兼品質管理担当責任者を含む各社員は、主体的に監査業務に関与する姿勢が不足しているほか、自らを含む監査実施者において、監査の基準や現行の監査の基準が求める手続の水準に対する理解が不足していることを認識できていない。
こうしたことから、下記イ.に記載するとおり、関係会社等との取引、品質管理レビューでの指摘事項の改善状況、監査業務に係る審査など、品質管理態勢において、重要な不備を含む広範かつ多数の不備が認められている。
また、下記ウ.に記載するとおり、今回の審査会の検査で検証対象とした全ての個別監査業務において、業務執行社員及び監査補助者に監査の基準に対する理解が不足している状況及び職業的懐疑心が不足している状況が確認され、それらに起因する重要な不備を含む広範かつ多数の不備が認められている。
イ.品質管理態勢
(関係会社等との取引)
当監査法人は、関係会社等からの業務委託に係る取引価額が、委託された業務量や、従前受領してきた委託業務報酬の額等に照らして適切な金額であるかについて検討していないほか、関係会社等との重要な取引の実施について社員会で決議していないなど、適切な業務管理態勢を構築していない。
また、当監査法人は、アドバイザリー業務を行う関係会社からの業務委託に係る対価について、収益として計上することなく、人件費から控除する会計処理を行っており、費用の項目と収益の項目との直接の相殺を禁じ、総額表示を原則とする、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に則した会計処理を行っていない。
(品質管理レビューでの指摘事項の改善状況)
当監査法人は、日本公認会計士協会が実施した令和3年度品質管理レビューにおいて、品質管理態勢及び個別監査業務に関する複数の不備を指摘されている。当監査法人は、当該品質管理レビューでの指摘事項に対し、根本原因分析を行い、これを踏まえた改善措置を講じたとしている。
しかしながら、当監査法人においては、当該指摘事項についての再発防止に向けた改善措置が実効性のあるものとして講じられていない。そのため、今回の審査会検査においても、当該指摘事項と同様の不備が複数検出されている。
(監査業務に係る審査)
審査担当社員は、監査チームが行った、不正による重要な虚偽表示リスクや特別な検討を必要とするリスクに関する重要な判断、独立性に関する評価等について、業務執行社員等との討議や関連する監査調書の検討を十分に実施することなく、監査チームによる重要な判断とその結論には問題がないものとして、審査を完了させている。そのため、今回の審査会検査で検証対象とした個別監査業務において検出された重要な不備を含む複数の不備を審査で指摘できていない。
このほか、内部規程の整備及び運用、法令等遵守態勢、情報管理態勢、職業倫理及び独立性、監査契約の新規の締結及び更新、監査実施者の教育・訓練、社員及び職員の評価・報酬、監査調書の査閲及び整理、品質管理のシステムの監視に不備が認められる。
このように、当監査法人の品質管理態勢については、関係会社等との取引、品質管理レビューでの指摘事項の改善状況、監査業務に係る審査において重要な不備が認められるほか、広範かつ多数の不備が認められており、著しく不適切かつ不十分である。
ウ.個別監査業務
業務執行社員及び監査補助者は、監査の基準の要求事項に対して形式的にでも検討していれば、監査の基準等が要求する監査品質を満たすことができるものと考えており、監査の基準や現行の監査の基準が求める手続の水準に関する各人の理解が不足していることを自覚できていない。
また、業務執行社員及び監査補助者は、被監査会社の特性に応じたリスク評価を適切に実施していないほか、被監査会社の主張を批判的に検討していないなど、監査の実施に当たり、職業的専門家としての懐疑心を十分に発揮していない。
さらに、業務執行社員は、監査業務を担当できる社員の数が少数にとどまっている状況の下、非監査業務にも多くの時間を割く中で、担当する監査業務に十分な時間を確保し得ないため、担当する監査業務の実施に当たり、監査補助者からの説明と自らの理解とが合致しているかを確認するにとどまるなど、担当する監査業務への主体的な関与が不足している。
これらのことから、不正リスクの識別、収益認識に関する不正リスク対応、出資金及び債権の評価、固定資産の減損及び関連当事者との取引に係る監査手続が不十分、未訂正事項の検討が不適切といった重要な不備が認められる。
上記のほか、重要な虚偽表示リスクの識別、仕訳テスト、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性、棚卸資産の評価、未払有給休暇の検討、企業が作成した情報の利用、経営者が利用した専門家の検討、類似取引の検証、過年度に入手した情報の利用、助成金返還損失引当金の検討、IT 全般統制の評価、個人情報の取扱い、注記の検討、独立性の確認、内部統制報告書及び監査役等とのコミュニケーションに係る監査手続が不十分、さらに、特別利益に係る実証手続、前払費用に係る実証手続、四半期レビューの計画審査、経営者確認書及び監査報告書のその他の事項区分の検討が不適切といった広範かつ多数の不備が認められる。
このように、検証した個別監査業務において、重要な不備を含む広範かつ多数の不備が認められており、当監査法人の個別監査業務の実施は著しく不適切かつ不十分なものとなっている。
3.業務改善命令の内容
(1)法人代表者は、社員間の相互牽制・相互監視機能の重要性を十分に認識し、社員間での十分な審議・検討を経る態勢を整備し、適切な業務運営を行うこと。併せて、品質管理態勢を迅速に改善する必要がある状況を認識し、各社員が協働して監査品質の維持・向上を図るため、主体的に監査業務に取り組む組織風土を醸成するほか、十分かつ適切な監査業務を実施するための環境整備に向け、貴監査法人の業務管理態勢の改善に取り組むこと。
(2)法人代表者は、公認会計士・監査審査会(以下「審査会」という。)の検査及び日本公認会計士協会の品質管理レビューにおいて指摘された不備の根本原因を十分に分析したうえで改善策を策定及び実施するとともに、改善状況の適切な検証ができる態勢を整備すること。併せて、十分かつ適切な審査を実施するための態勢を整備し、貴監査法人の品質管理態勢の整備に責任を持って取り組むこと。
(3)現行の監査の基準に準拠した監査手続を実施するための態勢を強化すること(不正リスクの識別、収益認識に関する不正リスク対応、出資金及び債権の評価、固定資産の減損及び関連当事者との取引に係る監査手続、未訂正事項の検討など、審査会の検査において指摘された事項の改善を含む。)。
(4)上記(1)から(3)までに関する業務の改善計画を含む、登録上場会社等監査人が整備すべき組織体制、評価・監督機能及び監査業務遂行体制等の整備に係る計画について、令和5年7月31日までに提出し、直ちに実行すること。
(5)上記(4)の報告後、当該計画の実施完了までの間、令和5年9月末日を第1回目とし、以後、3か月ごとに計画の進捗・実施及び改善状況を取りまとめ、翌月15日までに報告すること。
- お問い合わせ先
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金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
企画市場局企業開示課(内線3660、3804)