I 基本的考え方
I -1 指定紛争解決機関の監督に関する基本的考え方
(1)金融分野における裁判外紛争解決制度(以下「金融ADR制度」という。)は、金融商品・サービスの利用者と金融機関間のトラブルについて、指定紛争解決機関(以下「指定機関」という。)が、専門的な知見を活かしつつ、中立・公正な立場で、裁判外での簡易・迅速な解決手段を提供するものであり、利用者保護の充実、利用者利便の向上のため、重要な役割を果たしている。また、金融ADR制度の充実は、金融商品・サ-ビスに対する利用者の信頼性の向上につながるものであり、信頼・活力のある金融・資本市場の構築のためにも大きな意義がある。
指定機関は、こうした金融ADR制度の意義を踏まえ、法令及び業務規程等に基づき、利用者の立場から利用し易い手続を整備し、中立・公正かつ簡易・迅速なトラブルの解決に努めるとともに、トラブルに関する情報の分析・類型化等を行い、その結果を適時・適切に、利用者及び加入金融機関(指定機関が手続実施基本契約を締結した金融機関)等に対し提供することにより、同種のトラブルの未然防止に資することが求められる。
指定機関の監督は、指定機関に対する定期的・継続的なヒアリングや指定機関から提供された各種の情報の蓄積及び分析を通じて、法令及び業務規程等に基づいた指定機関の公正かつ適確な業務運営を確保し、もって利用者の信頼を確保することを目的とする。また、指定機関に対し、他の指定機関との連携等により、手続の整合性の確保や利用者の利便性の向上を促すことが必要である。
なお、指定機関の監督においては、基本的に、苦情処理手続及び紛争解決手続における個別事案の結果の適否を評価するものではないことに留意する。
(注)「ADR」: Alternative Dispute Resolution(裁判外紛争解決手続)
(2)指定機関の監督に携わる職員は、(1)の基本的考え方を踏まえつつ、業務遂行に当たって、以下の事項を行動規範とし、行政の信認の確保に努めることとする。
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① 国民からの負託と職務倫理の保持
自らの業務が国民から負託された職責に基づくものであって、その遂行に当たっては、Ⅰ-1(1)における指定機関の監督の目的を最優先の課題として行う必要があることを意識するとともに、職務に係る倫理の保持に努め、金融行政に対する国民の信頼を確保することを目指す。 -
② 綱紀・品位、秘密の保持
金融行政の遂行に当たり、綱紀・品位及び秘密の保持を徹底し、穏健冷静な態度で臨む。 -
③ 大局的かつ中長期的な視点
金融サービスを利用する国民や企業の目線に立って、局所的・短期的な問題設定・解決のみに甘んじるのではなく、根本原因を把握し、大局的かつ中長期的な視点から、早め早めに問題解決に取り組む。 -
④ 公正性・公平性
法令等に基づく適正な手続きに則り、各指定機関の状況を踏まえて、公正・公平に業務を遂行する。 -
⑤ 指定機関の自主的努力の尊重
指定機関の監督の目的を達成するためには、指定機関による自主的な取組みと創意工夫が不可欠であることを自覚し、指定機関の業務の運営についての自主的な努力を尊重するよう配慮する。 -
⑥ 自己研鑽
諸外国を含む金融に関する諸規制や金融機関の動向等のほか、金融という経済インフラを取り巻く幅広い社会・経済事象について、基本的知見を養う。 -
⑦ 適切かつ密接な組織内外の関係者との連携
実効性の高い監督を実現するためには、自らの所管に限らない広い視野が重要であり、庁内外の様々な主体と適切かつ密接に連携する。
I -2 監督指針策定の趣旨
指定機関は、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(平成21年法律第58号)において、金融商品取引法(昭和23年法律第25号。以下「金商法」という。)を含む16の法律に創設された金融ADR制度の中核となる機関であり、平成22年10月に紛争解決等業務を開始した。
指定機関が紛争解決等業務を開始した後、金融トラブル連絡調整協議会(注1)等において、指定機関に係る課題等を議論してきた。また、平成25年3月には、それまでの指定機関の業務遂行状況の検証や金融ADR制度の在り方の検討を行った「金融ADR制度のフォローアップに関する有識者会議」(注2)において、その議論が取りまとめられた。同取りまとめにおいて、指定機関は、利用者保護に一定の役割を果たしているとの評価がある一方で、指定機関等に対する利用者の信頼性・利便性の向上、各指定機関間において分かり易く整合的な手続の構築及び各指定機関間の連携強化等が求められている。
以上の経緯を経て、指定機関に対する監督の透明性を確保し、金融ADR制度に対する利用者の信頼性の向上に資するため、上記の取りまとめを参考としつつ、16の法律に共通する監督の着眼点及び手法等を整備することとした(注3)。この際、指定機関に係る指定の申請に対する審査基準を定めた「金融分野における裁判外紛争解決制度(金融ADR)に関する留意事項について(金融ADRガイドライン)」の内容も踏まえていることから、本監督指針の策定に伴い、同ガイドラインは廃止する。
本監督指針は、指定機関の業務運営態勢等を踏まえ、様々なケースに対応できるように作成したものであり、本監督指針に記載されている監督上の評価項目等の全てを各々の指定機関に一律に求めているものではない。したがって、各評価項目等における字義通りの対応が行われていない場合であっても、利用者保護等の観点から問題のない限り、不適切とするものではないことに留意し、機械的・画一的な運用に陥らないように配慮する必要がある。一方、評価項目等に係る機能が形式的に具備されていたとしても、利用者保護等の観点からは必ずしも十分とはいえない場合もあることに留意する必要がある。
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(注1)平成12年の金融審議会答申を踏まえ、金融分野における裁判外紛争解決制度の改善のため、学識経験者・弁護士・消費者団体・業界団体(平成22年10月以降は指定機関を含む。)及び金融当局等が任意に参加し、設置された協議会。
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(注2)金融商品取引法等の一部を改正する法律附則において、法施行後3年以内に、指定機関の業務の遂行状況等を踏まえ、金融ADR制度の在り方等について検討を行うべき旨が規定されていることも勘案し、金融ADR制度を、より一層、利用者利便の向上に資するものとするため、金融庁総務企画局長のもとに設置された有識者会議。
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(注3)
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本監督指針において、便宜上、金商法、同法施行令(昭和 40年政令第 321号)及び金融商品取引法第5章の5の規定による指定紛争解決機関に関する内閣府令(平成 21年内閣府令第 77号。以下「指定機関府令」という。)における該当条項を示している。なお、金商法を含む16の法律において、金融ADR制度に関する同旨の規定が措置されており、他の法律により指定された指定機関については、その法律の該当規定を適用する。
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指定機関制度が導入された 16の法律は以下の通り。
- 金商法
- 無尽業法(昭和6年法律第 42号)
- 金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(昭和 18年法律第 43号)
- 農業協同組合法(昭和 22年法律第 132号)
- 水産業協同組合法(昭和 23年法律第 242号)
- 中小企業等協同組合法(昭和 24年法律第 181号)
- 信用金庫法(昭和 26年法律第 238号)
- 長期信用銀行法(昭和 27年法律第 187号)
- 労働金庫法(昭和 28年法律第 227号)
- 銀行法(昭和 56年法律第 59号)
- 貸金業法(昭和 58年法律第 32号)
- 保険業法(平成7年法律第 105号)
- 農林中央金庫法(平成 13年法律第 93号)
- 信託業法(平成16年法律第154号)
- 資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)
- 証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成18年法律第66号)第57条第2項の規定によりなおその効力を有するものとされる同法第1条の規定による廃止前の抵当証券業の規制等に関する法律(昭和62年法律第114号)
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