VII 監督上の評価項目と諸手続(有価証券等仲介業務)
VII-1 業務の適切性(有価証券等仲介業務)
VII-1-1 法令等遵守態勢
有価証券等仲介業務を行う金融サービス仲介業者(本VIIにおいて、「有価証券等仲介業者」という。)は、個人投資家、機関投資家、有価証券の発行体である企業等が、金融商品市場にアクセスする際に、市場仲介者として機能し、円滑な取引を可能とする役割を果たしている。こうした業務には高い公共性が付随しており、有価証券等仲介業者は、適正な顧客保護を図りつつ、信頼性の高い業務を遂行することにより、市場仲介機能を効率的かつ安定的に発揮することが求められている。また、そのためには、市場プレイヤーとしても、高い自己規律の下で健全かつ適切に業務を運営することが求められている。こうした有価証券等仲介業者の法令等遵守態勢については、基本的にはIII-2-1における態勢整備の着眼点及び監督手法をもって対応することとするが、それ以外にも、市場仲介機能等の適切な発揮の観点から策定された自主規制規則の遵守状況も含めた幅広い検証を行うこととする。
VII-1-2 営業員管理態勢
有価証券等仲介業者は、顧客属性等に則した適正な勧誘の履行を確保する観点から、営業員の勧誘実態等の把握及び法令等遵守の徹底が重要であるが、その徹底に当たっては、以下の点に特に留意するものとする。(1)主な着眼点
- 営業員の勧誘実態等の把握及びその適正化
- イ.勧誘実態の把握について、例えば、各営業部門における管理責任者等は、必要に応じて顧客との直接面談や顧客との間の勧誘のやりとりに係る記録の確認等を行うことにより、その実態の把握に努め、適切な措置を講じているか。
- ロ.内部管理部門においては、上記イの勧誘実態等の把握に係る具体的な方法を定め、当該方法を役職員に周知徹底するとともに、必要に応じて、その状況を把握・検証し、当該方法の見直し等、その実効性を確保する態勢を構築しているか。
- 役職員の法令等遵守意識の徹底
- イ.役職員の法令等遵守意識の徹底について、研修の目的及び対象者等を考慮した事例研修及び外部研修等を実施し、役職員の法令等遵守意識の向上を図っているか。
- ロ.内部管理部門においては、各種研修の内容及び実施状況を把握・検証し、内容等を見直しする等、その実効性を高める措置を講じているか。
- 日常の監督事務や、事故等届出等を通じて把握された有価証券等仲介業者の営業員管理態勢上の課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金融サービス提供法第35条第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、有価証券等仲介業者における自主的な改善状況を把握することとする。また、金融サービス仲介業の健全かつ適切な運営の確保又は顧客保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金融サービス提供法第37条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。さらに、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金融サービス提供法第38条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
VII-1-3 広告等の規制
有価証券等仲介業者が行う広告等(仲介業者等府令第83条第1項に規定する広告等をいう。以下同じ。)の表示は、顧客への投資勧誘の導入部分に当たり、明瞭かつ正確な表示による情報提供が、適正な投資勧誘の履行を確保する観点から最も重要であるが、その徹底に当たっては、以下の点に特に留意するものとする。-
(注)なお、広告等には、勧誘資料やインターネットのホームページ、郵便、信書便、ファックス、電子メール、ビラ、パンフレット等による多数の者に対する情報提供が含まれるが、実際に広告等に該当するか否かの判断は、投資者との電子メール等のやり取り、イメージCM、ロゴ等を記載した粗品の提供などの外形ではなく、実態をみて個別具体的に判断する必要がある。
- 顧客判断に影響を及ぼすこととなる重要事項に関する留意事項
- イ.顧客が支払うべき手数料(報酬、費用その他いかなる名称によるかを問わず、手数料と同種のものとして特定金融サービス契約に関して顧客が支払うべき対価を含む。)が無料又は実際のものよりも著しく低額であるかのように誤解させるような表示をしていないか。
- ロ.元本欠損が生ずるおそれがある場合には、その旨を明確に表示しているか。
- 明瞭かつ正確な表示
- 広告等において準用金融商品取引法第37条に規定する項目を表示する場合に、仲介業者等府令第83条第1項に規定する明瞭かつ正確な表示がなされているか否かの判断に当たっては、具体的に以下の点に留意することとする。
- イ.当該広告等に表示される他の事項に係る文字と比較して、使用する文字の大きさ、形状及び色彩において、不当に目立ちにくい表示を行っていないか。
特に、金利や相場等の指標の変動を直接の原因として損失が生ずることとなるおそれのある場合の当該指標、損失が生ずるおそれがある旨・その理由、及び元本超過損が生ずるおそれがある場合の、その直接の原因、元本超過損が生ずるおそれがある旨・その理由は、広告上の文字又は数字の中で最も大きなものと著しく異ならない大きさで表示しているか。 - ロ.取引の長所に係る表示のみを強調し、短所に係る表示が目立ちにくい表示を行っていないか。
- ハ.当該広告等を画面上に表示して行う場合に、表示すべき事項の全てを判読するために必要な表示時間が確保されているか。
- イ.当該広告等に表示される他の事項に係る文字と比較して、使用する文字の大きさ、形状及び色彩において、不当に目立ちにくい表示を行っていないか。
- 誇大広告に関する留意事項
- イ.有価証券等の価格、数値、対価の額の動向の断定的な表現や、確実に利益を得られるように誤解させて、投資意欲を不当に刺激するような表示をしていないか。
- ロ.利回りの保証若しくは損失の全部若しくは一部の負担を行う旨の表示又はこれを行っていると誤解させるような表示をしていないか。
- ハ.申込みの期間、対象者数等が限定されていない場合に、これらが限定されていると誤解させるような表示を行っていないか。
- ニ.登録を行っていること等により、内閣総理大臣、金融庁長官、その他の公的機関が、有価証券等仲介業者を推薦し、又はその広告等の内容を保証しているかのように誤解させるような表示をしていないか。
- ホ.不当景品類及び不当表示防止法、屋外広告物法に基づく都道府県の条例その他の法令に違反する又は違反するおそれのある表示をしていないか。
- へ.社会的に過剰宣伝であるとの批判を浴びるような表示をしていないか。
- 顧客を集めての勧誘
- イ.セミナー等(講演会、学習会、説明会等の名目の如何を問わない。以下同じ。)を開催して、一般顧客等を集め、当該一般顧客等に対して金融サービス契約の締結の勧誘(勧誘を目的とした具体的商品の説明を含む。)を行う場合には、当該セミナー等に係る広告等及び送付する案内状等に、金融サービス契約の締結を勧誘する目的があることをあらかじめ明示しているか。
- ロ.上記イの「金融サービス契約の締結を勧誘する目的があることをあらかじめ明示」することには、セミナー等の名称が、金融サービス仲介業務に関連するものであることを明確に表していることのみでは足りず、勧誘する目的がある旨を明確に表示している必要がある。
- 広告等審査体制
- 準用金融商品取引法第37条の規定を遵守する観点から、広告等の審査を行う広告等審査担当者が配置され、審査基準に基づいた適正な審査が実施されているか。
- 日常の監督事務や、事故等届出等を通じて把握された、有価証券等仲介業者の広告等に関する課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金融サービス提供法第35条第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、有価証券等仲介業者における自主的な改善状況を把握することとする。また、金融サービス仲介業の健全かつ適切な運営の確保又は顧客保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金融サービス提供法第37条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。さらに、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金融サービス提供法第38条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
VII-1-4 顧客に対する勧誘・説明態勢
一般顧客の中には、投資知識や経験等が十分ではない者も含まれることから、有価証券等仲介業者が判断材料となる情報を正確かつ公平に顧客等へ開示するなど、説明責任が履行される必要がある。したがって、顧客に対する説明等においては、以下の点に留意するものとする。その際、有価証券等仲介業者と顧客が契約を締結しようとする金融商品取引業者又は登録金融機関との間の顧客に対する情報の提供及び説明に関する役割分担を適切に踏まえ、機械的・画一的な取扱いとならないよう配慮するものとする。-
(注)なお、「説明等」には、セミナー等の開催により顧客を集め、実質的に勧誘を行うような場合の当該セミナー等における説明も含まれることに留意する必要がある。
- 適合性原則を踏まえた説明態勢の整備
- 契約締結前交付書面の交付の際等において、顧客の知識、経験、財産の状況、及び取引の目的に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度を適切に選択し、適合性原則を踏まえた適切な説明がなされる態勢が整備されているか。
- 適切な商品・サービス説明等の実施
- イ.取引を行うメリットのみを強調し、取引による損失の発生やリスク等のデメリットの説明が不足していないか。
- ロ.セールストーク等に虚偽や断定的な判断の表示となるようなものはないか。
- ハ.商品や取引を説明する際の説明内容は客観的なものか、恣意的、主観的なものになっていないか。
- ニ.商品や取引の内容(基本的な商品性、及びリスクの内容、種類や変動要因等)を十分理解させるように説明しているか。
特に、契約締結前交付書面に係る記載順に関する規定の趣旨等を踏まえ、顧客判断に影響を及ぼす重要な事項を先に説明するなど、顧客が理解をする意欲を失わないよう努めているか。 - ホ.当該金融サービス契約に関して誤解を与える説明をしていないか。特に、有価証券等仲介業者又は金融商品取引業者若しくは登録金融機関によって元本が保証されているとの誤解を与えるおそれのある説明をしていないか。
- へ.市場動向の急変や市場に重大なインパクトを与える事象の発生が、投資信託の基準価額に重大な影響を与えた場合において、顧客に対して適時適切な情報提供に努め、顧客の投資判断をきめ細かくサポートしているか。
- ト.第三者が作成した相場予測等を記載した資料(新聞記事、アナリストレポート等を含む。)を用いて勧誘を行う場合において、当該相場予測等の内容が偏ったもののみを恣意的に利用していないか。
- チ.その他、顧客に不当な負担となる、あるいは経済合理性に欠ける商品や取引の勧誘、又は投資判断上の重要な事項の説明不足はないか。
- 約定内容等の説明
- 金融サービス契約の約定後に、約定内容(約定日時、約定金額又は約定数値等)について顧客から提示要請があった場合に、契約締結時の書面交付や金融商品取引業者又は登録金融機関の連絡先の提示等により、当該情報を顧客に対して適切に提示できるような措置を講じているか。
- インターネットを通じた説明の方法
- 仲介業者等府令第111条第1項第1号に規定する「当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明」について、有価証券等仲介業務をインターネットを通じて行う場合においては、顧客がその操作する電子計算機の画面上に表示される説明事項を読み、その内容を理解した上で画面上のボタンをクリックする等の方法で、顧客が理解した旨を確認することにより、当該説明を行ったものと考えられる。
- 高齢顧客への勧誘に係る留意事項
- 高齢顧客は、過去の投資経験が十分であったとしても、身体的な衰えに加え、短期的に投資判断能力が変化する場合もあることから、高齢顧客に対する投資勧誘においては、適合性の原則に基づいて、慎重な勧誘・販売態勢を確保するとともに、問題のある勧誘・販売を早期に発見するためのモニタリング態勢を整備する必要がある。また、商品販売後においても、丁寧にフォローアップしていく必要がある。以上を踏まえ、以下の点に留意して監督するものとする。
- イ.高齢顧客に対する勧誘・販売に関する社内規則を整備するとともに、社内規則の遵守状況をモニタリングする態勢を整備しているか。なお、当該態勢の整備に当たっては、認定金融サービス仲介業協会の自主規制規則がある場合には、当該自主規制規則も踏まえているか。
- ロ.商品の販売後においても、高齢顧客の立場に立って、きめ細かく相談にのり、投資判断をサポートするなど丁寧なフォローアップを行っているか。
- 投資信託の勧誘に係る留意事項
- 投資信託は、専門知識や経験等が十分ではない一般顧客を含めて幅広い顧客層に対して勧誘・販売が行われる商品であることから、顧客のライフステージ、財産の状況、投資目的等を踏まえたニーズを把握し、これに見合った商品を提供するとともに、顧客の知識、経験、投資意向に応じて適切な勧誘を行うことが重要である。
以上の観点を踏まえ、投資信託の勧誘に関し、例えば、以下の点にも留意して監督するものとする。- イ.投資信託の勧誘を行う際、販売手数料等の顧客(特定投資家を除く。ロにおいて同じ。)が負担する費用について、次に掲げる事項を分かりやすく説明しているか。
- a.勧誘を行う投資信託の販売手数料の料率及び購入代金に応じた販売手数料の金額(勧誘時点で確定できない場合は概算額)
- b.勧誘する投資信託の購入後、顧客が負担することになる費用(信託報酬(ファンド・オブ・ファンズ方式での運用を行う投資信託については投資対象とするファンドの運用管理費用を含めた実質的な負担率)、信託財産留保額等)
- ロ.投資信託の分配金に関して、分配金の一部又は全てが元本の一部払戻しに相当する場合があることを、顧客に分かり易く説明しているか。
- イ.投資信託の勧誘を行う際、販売手数料等の顧客(特定投資家を除く。ロにおいて同じ。)が負担する費用について、次に掲げる事項を分かりやすく説明しているか。
- 投資信託の乗換えに関する重要事項の説明に係る留意事項
- 投資信託の短期乗換え勧誘は、顧客にとっては販売手数料の負担が増加するほか、運用面においても設定後短期間で解約が増加することにより、効率的な運用が行えず、運用成果の低下を招くなど、必ずしも顧客の安定的かつ効率的な資産形成にはつながらない問題がある。このため、顧客の投資意向や市場動向等に鑑み、投資信託の乗換えに合理性があると判断される場合であっても、顧客に対し、当該乗換えに係る投資信託の特性や当該乗換えのメリット・デメリット等を丁寧に説明し、顧客がこうした点を十分理解した上で取引の必要性の有無を判断できるようにする必要がある。
こうした点を念頭に、有価証券等仲介業者が、顧客の理解度に応じて、投資信託又は投資法人(以下「投資信託等」という。)の乗換えの投資目的との整合性を含め、当該乗換えの合理性について顧客が判断するために必要な事項の説明を行っていない場合において、実効的な検証を行うために必要な社内管理体制を構築していないと認められるときは、仲介業者等府令第118条第1項第4号の規定「投資信託受益証券等の乗換えを勧誘するに際し、顧客に対して、当該乗換えに関する重要な事項について説明を行っていない状況」に該当するものとする。なお、当該乗換えの合理性について顧客が判断するために必要な事項としては、例えば、投資信託等の販売にかかる一般的な説明事項のほか、解約する投資信託等の概算損益や、解約する投資信託等と取得する投資信託等の商品性や費用等の比較といった事項等が含まれ得るものの、個別の事案毎に顧客の知識、経験、財産の状況、投資目的や投資信託等の性質等に応じて異なり得ることに留意するものとする。 - 債券の売出し等の際の重要事象の説明に係る留意事項
- イ.有価証券等仲介業者が、金融サービス提供法第11条第4項第3号(私募の取扱いを除く。)の行為により債券(仲介業者等府令第118条第1項第5号に規定する有価証券をいう。本において同じ。)を個人である顧客(特定投資家を除く。)に取得させ又は売り付けようとする際に、次に掲げる事象について説明を行っていないと認められる場合は、仲介業者等府令第118条第1項第5号に規定する「これらの有価証券の取得又は買付けの申込みの期間中に生じた投資判断に影響を及ぼす重要な事象について、個人である顧客(特定投資家を除く。)に対して説明を行っていない状況」に該当するものとする。
- a.当該債券の利回りが、当該債券と同じ発行体が既に発行している類似の債券の利回りと比較して、顧客にとって著しく不利な状況となっている場合においては、その旨
- ロ.上記イaについては、以下の点に留意すること。
- a.「当該債券」とは、個人向け社債等(日本証券業協会「個人向け社債等の店頭気配情報の発表等に関する規則」第2条第1号に規定する個人向け社債等をいう。以下同じ。)に該当する債券をいうこと。
- b.「類似の債券」とは、個人向け社債等であって、当該債券(新発債)の償還日に6か月を加えた期間内に償還日が到来するもののうち、当該債券(新発債)の償還日に最も償還日の近い銘柄(複数銘柄が存在する場合は、直近に発行が行われた銘柄とする。)をいうこと。
- c.「顧客にとって著しく不利な状況」については、募集(売出)時点の金利水準その他の事情を勘案し、例えば、以下の値(α)を基に判断すること。
- α=X(類似の債券のクレジット・スプレッド相当分)-Y(当該債券(新発債)のクレジット・スプレッド相当分)
- X=(類似の債券に係る「個人向け社債等の店頭気配情報発表制度」上の報告値(募集を行う日の前日付で発表された値)の平均値(注))-(類似の債券と償還日が最も近い国債の日本証券業協会発表の公社債売買参考統計値の平均値単利(募集を行う日の同日付で発表された値))
- Y=(当該債券(新発債)の応募者利回り(単利))-(当該債券(新発債)と償還日が最も近い国債の公社債売買参考統計値の平均値単利(条件決定日の翌日付で発表された値))
- (注)「類似の債券に係る「個人向け社債等の店頭気配情報発表制度」上の報告値の平均値」は、「個人向け社債等の店頭気配情報発表制度」に基づき日本証券業協会に報告・発表される、当該類似の債券に係る各報告会員の報告値(単利)を単純平均したものとする。
- ハ.仲介業者等府令第118条第1項第5号に規定する説明については、委託契約において、「取得させようとする行為」を証券会社等が行うこととされている場合には、証券会社等が説明を行うこととなる。
- イ.有価証券等仲介業者が、金融サービス提供法第11条第4項第3号(私募の取扱いを除く。)の行為により債券(仲介業者等府令第118条第1項第5号に規定する有価証券をいう。本において同じ。)を個人である顧客(特定投資家を除く。)に取得させ又は売り付けようとする際に、次に掲げる事象について説明を行っていないと認められる場合は、仲介業者等府令第118条第1項第5号に規定する「これらの有価証券の取得又は買付けの申込みの期間中に生じた投資判断に影響を及ぼす重要な事象について、個人である顧客(特定投資家を除く。)に対して説明を行っていない状況」に該当するものとする。
- 少額投資非課税制度を利用する取引の勧誘に係る留意事項
- 家計の安定的な資産形成を支援する仕組みとして、平成26年1月より、成人を対象とした少額投資非課税制度(以下「一般NISA」という。)が導入されている。以降、平成28年4月より、未成年者を対象とした少額投資非課税制度(以下「ジュニアNISA」という。)が導入され、また、平成30年1月より、成人を対象としつつ、積立投資に特化した少額投資非課税制度(以下「つみたてNISA」といい、一般NISA、ジュニアNISA及びつみたてNISAを総称して以下「NISA制度」という。)が導入されている。
NISA制度は、年間の投資上限額の範囲内で購入した金融商品について、所定の非課税期間を通じて、その収益を非課税とする制度であり、これまで金融商品に対する投資を通じた資産形成を行ってこなかった者を中心に、当該方法による資産形成を促すことを目的としたものである。
こうした点を踏まえ、NISA制度が、その趣旨に則り適切に利用されるよう、NISA制度を利用する取引の勧誘等に関し、「NISA制度の口座開設及び勧誘並びに販売時等における留意事項について(ガイドライン)」(NISA推進・連絡協議会)(以下本において「ガイドライン」という。)を踏まえつつ、以下のような点に留意して監督するものとする。- イ.顧客に対する説明態勢の整備
- a.顧客の金融リテラシー向上への取組み
- NISA制度は、初めて投資を行う者や若年層など、投資知識・経験の浅い顧客による利用が想定されるところ、こうした顧客に対しては、単に法令上の適合性原則を遵守することだけではなく、顧客の金融(投資)リテラシーの向上を図り、自らの資産形成に取り組んでもらうことが顧客・有価証券等仲介業者相互の利益につながるとの観点に立って、中長期投資や分散投資の効果等の説明といった投資に関する基礎的な情報を、適切に提供するよう努めているか。
- b.NISA制度に関する説明
- 一般NISA及びつみたてNISAに係る非課税口座並びにジュニアNISAに係る未成年者口座(以下これらを総称して「NISA口座」という。)開設の勧誘・申込みの受付時等に、適合性原則等を踏まえた説明がされているか。例えば、ガイドラインで説明すべきとされている事項を、必要に応じて、顧客に誤解を与えることのないよう正確に、分かりやすく説明しているか。
- ロ.制度設計・趣旨等を踏まえた金融商品の提供
- NISA制度が家計の安定的な資産形成を後押しする制度として導入された趣旨やNISA制度を利用する顧客の目的等を考慮しつつ、適合性原則等を踏まえて真に顧客の安定的な資産形成に資するような金融商品を中心とした商品提供を行っているか。
なお、顧客の安定的な資産形成に資するかどうかの判断に当たっては、個別の商品の特性だけでなく、顧客のポートフォリオ全体のバランスに十分留意する必要がある。 - ハ.ジュニアNISAについて留意すべき事項
- ジュニアNISAが未成年者向けの制度であることを踏まえ、ジュニアNISA口座が、親権者等によって仮名口座として利用されるといったことのないよう留意する必要がある。
こうした観点から、例えば、ジュニアNISA口座開設時に、当該口座内の資金が口座開設者本人の資金であり、本人のために利用される旨の確認を行うことといった、適切な口座管理がなされているか。
- イ.顧客に対する説明態勢の整備
- 特定資産以外の資産を投資対象の一部とする投資信託等の販売に係る留意事項
- 投資信託及び投資法人に関する法律において、投資信託や投資法人は、主として特定資産に対する投資として運用することを目的とするとされており、国民の長期・安定的な資産形成手段として特別の制度的位置付けを与えられたものである。こうした投資信託・投資法人制度の趣旨に照らすと、以下のような商品を販売することは適切ではないことから、当該商品の販売が行われていないかについて留意して監督を行うものとする。
- イ.特定資産以外の資産(以下本において「非特定資産」という。)や非特定資産を投資対象とするファンド出資持分等、実質的に非特定資産と同等の性格を有する特定資産(以下本において「非特定資産等」という。)が投資目的となっているような商品(ただし、非特定資産等が、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律に規定する「公共施設等」等、公共的な性質を有するものである場合には、この限りではない。)
- ロ.ファンドの投資目的以外の資産への投資に当たり、本来の投資目的である特定資産のリスクに比べて、価格変動や流動性等のリスクが高い非特定資産等に投資するような商品
- なお、ファンドの投資目的以外の資産への投資に当たり、価格変動や流動性等のリスクの低い非特定資産等に投資するような商品であっても、投資信託・投資法人制度の趣旨に照らして、以下のような販売が行われていないか、特に留意するものとする。
- a.非特定資産を連想させるような名称が付された商品を販売すること。
- b.非特定資産への投資を強調した勧誘を行い販売すること。
- c.投資家が非特定資産等の保有リスクを負うにもかかわらず、十分なリスク説明や顧客の理解度を確認しないまま、理解度が不十分な顧客に対し販売すること。
- 営業員の業務上の評価に係る留意事項
- 顧客の中長期的な資産形成を支援する勧誘・販売態勢を構築する観点から、営業員に対する業務上の評価が投資信託の販売手数料等の収入面に偏重するものとなっているか留意して監督するものとする。
- 日常の監督事務や、事故等届出等を通じて把握された、有価証券等仲介業者の顧客に対する勧誘・説明態勢等に係る課題については、上記の着眼点に基づきながら、必要に応じて金融サービス提供法第35条第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、有価証券等仲介業者における自主的な改善状況を把握することとする。また、金融サービス仲介業の健全かつ適切な運営の確保又は顧客保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金融サービス提供法第37条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。さらに、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金融サービス提供法第38条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
VII-1-5 顧客による不公正取引の防止
(1)顧客による不公正取引の防止に係る留意事項- 有価証券等仲介業者は、実勢を反映しない作為的相場が形成されることとなることを知りながら有価証券の売買取引等の受託等をする行為や、インサイダー取引のおそれがあることを知りながら顧客の有価証券の売買等の受託をする行為などを適切に防止することで、投資者に対するチェック機能を発揮する必要がある。そのため、顧客の不公正取引を防止するために、以下のような点に留意する必要がある。(特に、インターネット取引については、その非対面性に鑑みて細心の注意を払うこと。)
- 顧客の売買商品、取引手法・形態等の売買動向を把握するための具体的な取扱方法を策定し、当該取扱方法に基づき、適時、モニタリング等を行うなどにより顧客の売買動機等の的確な把握を行っているか。
- 内部管理部門においては、当該取扱方法について、役職員に周知・徹底を図るとともに、必要に応じ見直しを行う等、その実効性を確保しているか。
- 相場操縦的行為やインサイダー取引等を未然に防止する観点から、投資事業組合等との取引や海外からの注文の媒介について、原始委託者や最終投資家を特定するよう努めているか。
- 有価証券等仲介業者が、顧客がインサイダー取引を行っていると疑われる場合や仮名口座を利用しているおそれがあると認識した場合には、証券会社等に報告しているか。
- 検査結果や日常の監督事務等を通じて把握された顧客の不公正取引防止に関する課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金融サービス提供法第35条第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、有価証券等仲介業者における自主的な業務改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金融サービス提供法第37条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。さらに、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金融サービス提供法第38条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
VII-1-6 電子記録移転有価証券表示権利等を取り扱う有価証券等仲介業者に係る業務の適切性
電子記録移転有価証券表示権利等(仲介業者等府令第87条第5号へに規定する電子記録移転有価証券表示権利等をいう。以下同じ。)を取り扱う有価証券等仲介業者については、電子記録移転有価証券表示権利等の設計の自由度の高さやその流通性に鑑みて、投資者保護の観点から適切に態勢整備を行うことが求められる。当該業者に対しては、VII-1-1からVII-1-5までの項目に加え、以下で示す留意点を踏まえて監督するものとする。VII-1-6-1 法令等遵守態勢
電子記録移転有価証券表示権利等を取り扱う有価証券等仲介業者の法令等遵守態勢については、基本的にはIII-2-1における態勢整備の着眼点及び監督手法をもって対応することとするが、それ以外にも、自主規制機関の策定する自主規制ルールの遵守状況も含め幅広い検証を行うこととする。VII-1-6-2 勧誘・説明態勢
(1)適合性原則- 電子記録移転有価証券表示権利等は、社債、株式等の振替に関する法律の定める振替機関によらずに、その権利が電子情報処理組織を用いて移転し、電子的方法により記録されるという特徴を有している。かかる仕組みは、上場されていない有価証券にも流通性を付与することが可能となる一方で、その権利等の保有、移転や決済等に関して、通常の有価証券とは異なるリスクが存在し得る。このため、有価証券等仲介業者において、適合性の観点から、次に掲げる事項について留意して電子記録移転有価証券表示権利等の取扱いがなされているか、検証を行うものとする。
- 有価証券等仲介業者が取り扱う電子記録移転有価証券表示権利等に用いられるブロックチェーン等のネットワークに係るリスクについて、その重要性に鑑みて、必要に応じて専門家による検証を経る等、適切な審査が継続的に実施されているか。
- 顧客と電子記録移転有価証券表示権利等に関して有価証券等仲介業務に係る取引を行うにあたっては、取引開始基準を適切に定めているか。また、当該基準は、顧客の投資経験や財産の状況のみならず、電子記録移転有価証券表示権利等に係る保有や移転の仕組み、これに起因するリスクに関する理解度、同様の仕組みを用いた商品の取引経験等についても考慮した基準となっているか。
- 電子記録移転有価証券表示権利等に関する有価証券等仲介業務について広告等をする場合にあっては、仲介業者等府令第87条第5号に規定する事項について、不適切な表示を行うことが禁止されるが、「著しく事実に相違する表示」又は「著しく人を誤認させるような表示」としては、例えば、以下のような表示が考えられる。
- 電子記録移転有価証券表示権利等の取引数量若しくは価格の推移に関して、損失が発生するおそれがあるにも関わらず、これを誤認させるような表示
- 電子記録移転有価証券表示権利等の仕組み上、一定の期間、移転が制限されるにもかかわらず、これを誤認させるような表示
- 電子記録移転有価証券表示権利等の発行者の財務状況や発行者の行う事業の進捗状況等に関して、投資者を誤認させるような表示
- 電子記録移転有価証券表示権利等に関する有価証券等仲介業務に係る契約締結前交付書面においては、仲介業者等府令第95条第1項第2号に基づき、電子記録移転有価証券表示権利等の概要や顧客の注意を喚起すべき事項を記載することが求められている。
例えば、電子記録移転有価証券表示権利等の概要の説明に関しては、技術的な説明を伴う場合には図を用いる等して投資者に分かりやすく記載することが望まれる。また、電子記録移転有価証券表示権利等の仕組みに関し、権利の保有及び移転の方法等(権利移転に係る合意の成立、決済、対抗要件の具備の方法等を含むがこれらに限られない。)について、通常の有価証券とは異なるリスク等が存在する場合にはこれを適切に説明することが求められる点に留意する。
VII-1-6-3 組織犯罪等への対応
電子記録移転有価証券表示権利等に関する有価証券等仲介業務に係る取引は、一般的に取引が非対面により行われる点や、振替機関によらずにその権利を電子的に移転できる点等に特徴を有する。かかる取引の性質等を踏まえれば、マネー・ローンダリングやテロ資金供与を防止する観点からは特に留意すべきであって、上記III-2-1-3に記載の点に加えて、取り扱う電子記録移転有価証券表示権利等の範囲については、当該電子記録移転有価証券表示権利等がマネー・ローンダリング及びテロ資金供与に利用されるおそれ等を踏まえ、慎重に判断することとしているか、検証を行うものとする。例えば、移転記録の追跡が著しく困難である電子記録移転有価証券表示権利等については、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に利用されるおそれが特に高いことから、有価証券等仲介業務に係る取引をすることがないよう留意する。VII-2 諸手続(有価証券等仲介業務)
VII-2-1 登録
(1)登録の要否の判断に当たっての留意点- 登録の要否については、金融サービス仲介業に係る一連の行為における当該行為の位置付けを踏まえた上で総合的に判断する必要があり、一連の行為の一部のみを取り出して、直ちに登録が不要であると判断することは適切でないことに留意するものとする。
例えば、以下の行為のみを行う場合には、上記の要件に照らして、基本的に金融サービス仲介業の登録を得る必要はないと考えられる。- イ.以下aからdまでに掲げる行為の事務処理の一部のみを金融商品取引業者や登録金融機関から受託して行うに過ぎない者は、金融サービス仲介業の登録が不要である場合もあると考えられる。
- a.商品案内チラシ・パンフレット・契約申込書等の単なる配布又は交付若しくは提供
- (注)このとき、単に金融商品取引業者や登録金融機関の商号や連絡先等を伝えることは差し支えないが、配布又は交付若しくは提供する資料の記載方法等の説明をする場合には、媒介に当たることがあり得ることに留意する。
また、比較サイト等の商品情報の提供を主たる目的としたサービスにおいて金融商品取引業者や登録金融機関から提供を受けた商品案内等のコンテンツを単にホームページ上に転載することは差し支えないが、加工したコンテンツを掲載したり、例えば、自らが推奨する商品のコンテンツを上位に表示されるようなデザインやアルゴリズムの仕組みを設けること等をしたりする場合には、媒介に当たることがあり得ることに留意する。
- (注)このとき、単に金融商品取引業者や登録金融機関の商号や連絡先等を伝えることは差し支えないが、配布又は交付若しくは提供する資料の記載方法等の説明をする場合には、媒介に当たることがあり得ることに留意する。
- b.契約申込書及びその添付書類等の受領・回収(記載内容の確認等をする場合を除く。)
- (注)このとき、単なる契約申込書の受領・回収又は契約申込書の誤記・記載漏れ・必要資料の添付漏れの指摘を超えて、契約申込書の記載内容の確認等まで行う場合は、媒介に当たることがあり得ることに留意する。
- c.金融商品説明会等における金融商品の仕組み・活用法等についての一般的な説明
- d.勧誘行為をせず、単に顧客を金融商品取引業者に紹介する業務
- a.商品案内チラシ・パンフレット・契約申込書等の単なる配布又は交付若しくは提供
- ロ.上記イdの「紹介」には、以下の行為を含む。
- a.当該業者の店舗に、金融商品取引業者が自らを紹介する宣伝媒体を据え置くこと又は掲示すること。
- b.当該業者と金融商品取引業者の関係又は当該金融商品取引業者の業務内容について説明を行うこと。
- c.金融機関のサイトへの単なるリンクの設定のみを行い、金融サービス契約締結に至る交渉や手続は当該金融機関と顧客との間で行い、契約締結に当たり当該業者は関与をもたないこと。
- イ.以下aからdまでに掲げる行為の事務処理の一部のみを金融商品取引業者や登録金融機関から受託して行うに過ぎない者は、金融サービス仲介業の登録が不要である場合もあると考えられる。
- 金融サービス提供法第15条第1号タに規定する登録拒否事由である「金融サービス仲介業を適確に遂行するに足りる能力を有しない者」に当たるか否かの審査に当たっては、登録申請書及び同添付書類等を参考としつつ、次の点を確認するものとする。なお、III-3-1-3(7)も参照する。
- イ.金融サービス仲介業務を行う者(金融サービス仲介業務を行う役員、内部管理等の責任者等)が、その行なう業務に関する外務員資格試験に合格した者であり、法令、諸規則等につき一定以上の知識を有しているか。
- ロ.申請者が法人又は金融サービス仲介業務を行う使用人のある個人である場合、その行う業務の内容及び規模に応じて、行おうとする業務の適確な遂行に必要な人員が配置され、内部管理等の責任者が適正に配置される組織体制、人員構成となっているか。
- ハ.申請者が法人又は金融サービス仲介業務を行う使用人のある個人である場合、その行う業務の内容及び規模に応じて、次に掲げる体制整備が図られているか(下記a及びbについては、金融サービス提供法第11条第4項第1号イ又はロに掲げる金融商品取引業者又は登録金融機関(当該有価証券等仲介業者が有価証券等仲介業務の委託を受けている者に限る。)に帳票作成事務等を依頼し、有価証券等仲介業者が管理することも可能とする。)。
- a.帳簿書類・報告書等の作成、管理
- b.顧客管理
- c.電算システム管理
- d.苦情・トラブル処理
- e.内部監査
VII-2-2 外務員登録
(1)登録対象となる外務員の範囲- 有価証券等仲介業者の店内業務(店頭業務を含む。)に従事する役員又は使用人のうち、金融サービス提供法第75条第1項に規定する外務員登録原簿に登録を必要とする者は、以下のいずれかの業務を行う者とする。
- 勧誘を目的とした金融サービス契約の内容説明
- 金融サービス契約の勧誘
- 勧誘を目的とした情報の提供等(バックオフィス業務に関すること及び顧客の依頼に基づく客観的情報の提供を除く。)
- 金融サービス提供法第75条第1項各号に掲げる行為を行う者
- 有価証券等仲介業者内の人事異動に伴い一時的に外務員としての業務を行わなくなった場合は、準用金融商品取引法第64条の4第4号には該当しないことに留意するものとする。